アフターひだしん越後屋大戦(凍結) 作:越後屋大輔
香風タカヒロは旧友越後屋熊実の養子の大輔に電話した。熊実の死後、彼がヤミ金からの執拗かつ理不尽な取立てに困っていたのは知っている。しかしその業者も警察のガサ入れで倒産したハズ、ならば今からでも法事を行わないかと切り出すつもりだった。確か今は海外で店を
「法事なら先代のご兄弟が取り仕切ってます、僕は来ないでほしいと言われてるのでお盆などに墓参りにいくだけです」そう返されタカヒロはいつかの熊実と交わした約束を思い出した。
~回想シーン~
「カプちゃん、アタシ遺言で大輔に越後屋を残そうと思ってるの。でもあの親不孝な兄弟達は反対するに決まってるから証人として一筆書いてくれない?」
「別に構わんが、俺でいいのか?まさかお前近い内に死ぬんじゃないだろうな?」
「あくまで防衛戦よ、この場合遺産分与と無関係な人が証人として法的に有効なのよ、アタシには他に頼める人もいないしね。あいつらアタシが死んだら父さんが築いた店を潰して駐車場にでもするつもりでいるのよ」
「そりゃ酷い話だな、分かった。俺でよければ引き受けよう」
「助かるわ」その5年後熊実は還らぬ人となった。
~回想シーン終わり~
(あれから3年か…俺もあれからくまの兄弟に随分恨み言を言われたモンだ、葬式にも門前払いを食らったしな)過去に想いを馳せるタカヒロ、電話の相手をつい放ったらかしにしていた。
「香風さん?モシモシ?」大輔の声にハッとする。
「ああスマン、少し考え事をしていた。それならせめて奴を偲んで2人で呑まないか?明日の晩はどうだね?」
「伺わせていただきます。22時くらいになりますがよろしいですか?」
「勿論さ、待ってるよ」
翌日、大輔はラビットハウスを訪れた。今日は通常の営業日らしい、バーカウンターに立つタカヒロに一礼して席についた。
「大輔君、久し振りだね。最後に会ったのはいつだったかな?」
「もう8年くらい経ってるでしょう、香風さんはお変わりないですね」
「イヤ、俺も老けたさ。くまがあの世で笑ってるだろうな、ウィスキーソーダにするか?あいつは焼酎が好きだったが」
「僕もそっちでお願いします。後、肴にこれを」百均ショップなどで売られている紙パックを取りだし蓋を外す。
「飛竜頭か、あいつもよく作ってたな」飛竜頭とはがんもどきの別名である、大輔は先代の見よう見まねで豆腐から自分で作っている、
「ウン、出汁もあいつと殆ど同じ味だ。君を跡取りにしたのは正解だったな」
「ありがとうございます」素直にお礼を述べる大輔、普段常連に料理を喜ばれるのも嬉しいが熊実の味を知っている人に褒められるのはまた別の感動がある。
「残りは貰っても構わんかな?」
「勿論です、あまり日持ちしないのでお早めにお召し上がり下さい」それからタカヒロもチーズと刺身を提供してしばし昔話に花を咲かせる。タカヒロの娘、智乃が住居スペースから店内に入る。
「お父さん、後は私がやります。お2人はどうぞごゆっくり」
「チノさん?ああ、もう成人したんですよね。随分見違えました、この前先代のお墓にきていただきましたか?」
「あ、はい」チノは首を傾げる、お墓参りに行ったのは事実だがそこで彼に会ってもいないし見かけてもいない。こっちだけが気付かなかったにしてもそれなら今、見違えたというのは矛盾している。訝しげな顔をした智乃に大輔は答える。
「あちらのご住職も先代とは古いお友達なんです、あちらの親族に内緒でこっそり教えて下さいました。ありがとうございます」お互いに頭を下げると智乃は他のお客を迎える準備を始めてるとドアベルが鳴り客の来店を告げた。
さて、誰がやってきたのか?