アフターひだしん越後屋大戦(凍結) 作:越後屋大輔
「加藤く~ん、自動車出して~」
「加藤君、お茶」
「加藤君、外回り行ってきて~」ここは芳文株式会社の営業二課、一番の新人である加藤健太郎は今日も先輩らにコキ使われていた。
「いい加減にして下さい!だいいち今日の外回りは檜山先輩の仕事でしょう?」
「えぇ?だって今日外暑っいしぃ」
「全く。それでも会社員ですか?そりゃ社畜になれとは言いませんけど、もっと社会人の自覚を…行ってきます」
「チョ,チョッ!ちょっと加藤君。今の間は何かしら?」強ばった顔で山本が聞いてきた。
「何の事ですか~?」加藤がわざと惚けると途端に山本と境野が青い顔になる。
「檜山、今日の営業先ってどこ?」
「双葉商事だけどそれがどうかしたの?」
「今すぐ自分で行ってきな!」
「さもなくばヤバいよ!アンタ」?顔で首をかしげる檜山と同じ部所にいるその彼氏の矢部、以前総務課にいたこの2人は営業二課の暗黙の掟を知らない。
「部長に許可とって私がついてく、行きながら説明するよ」境野は檜山の背を押してオフィスを出発する。
「双葉商事が破嵐財閥の傘下にあるのは知ってるよね?」
「それで?」
「前にウチの課にいた木村さんってのが会長の奥さんなのよ。しかも加藤君に目をかけててさ」
「つー事は…!」
「もし双葉商事で加藤君がウチの現状口にしたら私達全員クビよ、下手すりゃ日本中の企業に圧力かけられて再就職もできなくなる!」震えながら説明する境野、檜山も恐怖で息が詰まりそうになった。
「矢部君、明日休日出勤してくれないか?」部長に肩を叩かれた矢部、即行で断ろうとしたがそこに境野と檜山が帰ってきた。
「矢部君、引き受けよ。明日は私もくるからさ」ひきつった笑顔で矢部を説得する檜山。
翌週の休日、家に持ち込んだ仕事を2時過ぎまでかけて終わらせた加藤は遅めの昼食を摂ろうと久し振りに『そば屋鉄平』にやってきた。店の中に入ると
「いらっしゃい、アラ加藤君?」カウンターを拭いていたのは佐藤加世子だった。
「さ、佐藤さん?何でこんなトコで働いてるんですか?」
「オウ健坊、こんなトコとはご挨拶だな」主人の鉄平が顔を見せた。
「イヤ、そういう意味じゃなくて。あのその…」しどろもどろになる加藤に笑ってしまう鉄平と加世子、その穏やかな微笑みには以前の嫌みったらしい姿は見られずうっかりトキメキそうになってしまう。
「そうですか、それがここで働くきっかけになったんですね」今は暇な時間帯なので加藤はそばを食べながら加世子の体験談を聞いていた、空腹だったのでご飯付きである。
「私もバカよね、でもそのおかげでこうして働き口も見つかってよかったわ」芳文にいた頃とは話し方まで違う気がする。
「人間誰でも一度や二度間違う事もあるだろう、要は立ち直ろうって気持ちが大切なんだ」フォローをいれる鉄平。
「そういやオヤジって一人者だよな、もういい
「それがどうかしたか?それよりさっさと食っちまえ、そばノビちまうぞ」耳まで赤くなる鉄平に吹き出しそうになる。
「ごっそさん、オヤジ頑張れよ!」
「バカヤロー!ガキが知った風な口きくな!」ニヤニヤしながら店を出る加藤を怒鳴り付ける鉄平、戸が閉まり加世子と2人きりになると
「あいつの言う事は気にしないでくれ、俺ぁアンタが幸せなら、イヤ何言ってんだ俺は?」今度は鉄平がしどろもどろになる。
「私なら構いません、むしろ…」俯いたまま返事をする加世子。
加藤は自室のソファーに寝転んでスマホを手にして加世子の転職と鉄平の恋を知らせようとゆの宛にSMSを送信する。メッセージを読んだゆのが数年ぶりにこんな顔(○□○)になったのは想像に固くないだろう。
ところで鉄平は独身でしたっけ?まあこちらとそちらはパラレルワールドってことでご勘弁を。
檜山と矢部、最初は下の名前つけようとしたけど何も浮かびませんでした。