アフターひだしん越後屋大戦(凍結) 作:越後屋大輔
「佐吉…佐吉、オイ!」
「えっ?あっ!瑠華兄さん?」
「お前も遂に結婚か、まずはおめでとう。それと俺が死んじまったせいで長い間初美の夫代わりさせちまってすまなかった」
「いいんだよ、兄さん。義姉さんも故郷に戻らずに済んだし」
「後は親父とお袋の事、よろしくな。それじゃあな」
「兄さん?オーイ!」ガバッ、手を伸ばした格好で目覚める長岡佐吉。
「夢か…」
翌日、待ち合わせていた和喫茶『甘兎庵』でその話を婚約者に話すと
「お兄さん、今日まで成仏できてなかったのかもしれないわね」
「そうだね。でもこれで思い残した事はないんじゃないかな、義姉さんに多大な隠し財産も渡ったし」
「隠し財産?」
「うん、友人に数千万円相当の金塊を預けてたんだ。彼にも分からないように本にカモフラージュまでしてね」この話をこっそり聞いていた者がいた、服役を終えて娑婆へ戻った佐藤加世子である。
「多大な金塊ね、いい事聞いたわ。まずは出どころを調べてからね」元犯罪者では前の会社には戻れないし再就職もままならない今、彼女にはまとまった金が必要だった。
ある日の越後屋2号店、いつも通り紗路が出勤すると伊達夫婦が縄で縛られて拘束されていた。
「冴子さん、淳次さん何があったんですか?!」
「動くんじゃないわよ」サングラスとマスクで顔を隠して服役中に知り合った暴力団関係者から手に入れた拳銃を手にした佐藤加世子が紗路に銃口を向ける、抵抗するのは得策ではないと理解した紗路は両手を上げる。
「オーナーはどこ?海外で暮らしてるっていっても現住所くらい聞いてるんでしょ?」
「分かったわ、すぐ連絡するから」紗路はスマホをとりだし大輔に電話をかける。拳銃で脅されているので真実は話さず、とにかくこっちに来てほしいとだけ伝える。加世子は電話を切った紗路も拘束して勝手に冷蔵庫の中身を食い荒らす、大輔がくるまで店内に立て籠るつもりだ。
一方、異世界本店の越後屋大輔は紗路からの電話を受けて裏口から2号店を覗き異常事態に気付いた。彼らを助ける為ルカに貰った金の輪っかと常連のエルフ魔術師がくれた魔法の指輪を持って扉を開ける、店内に入ると加世子が銃口を向けて話しかけてきた。
「あなたが長岡家に金塊を渡したのね、さあ白状なさい。どこで手に入れたの?」
「あれは元々僕のモノじゃなくて初美さんのご主人から預かってたんだが…」
「惚けないで!教えないとどうなるか分かってるの?!」大輔は呆れながら
「思い止まるなら今の内ですよ」自首するか逃亡するかを薦める。あまりに落ち着いた大輔の態度にイラッとした加世子は銃弾を放つが大輔には届かずフッと消えてしまった。もう一度撃つが結果は同じ、とうとう最後の銃弾も撃ち尽くして成す術がなくなった。
「もう辞めませんか?」落胆する加世子の前で大輔はあくまで穏やかさを崩さない。パトカーのサイレンが聞こえる、銃声を聞いた誰かが警察に通報したのだろう。
大輔と紗路は警察官が駆けつける前に冴子達の縄をほどいて店の奥に加世子を隠す、彼女が持っていた拳銃は大輔が手に触れた瞬間砂となって風もないのに何処へともなく舞い散っていった。
越後屋2号店にやってきた伍代警察官は冴子らに事情聴取をしたが結局通報した人の勘違いだったのだろうという事で引き上げていった。パトカーが走り去ったところで加世子は紗路に思いっきり平手打ちを食らう。
「強盗なんてしちゃダメでしょ?世の中にはアンタや私よりも辛い目に遭ってる人なんて幾らでもいるのよ!」自分も恵まれない環境で育ち異世界で奴隷出身のラティファや生物兵器として生まれたパックスに出会った紗路の激昂には重みがある。
「だって私は前科があるし、どこも雇ってくれないし…」加世子はさめざめと泣くが
「それが甘いっていうの!」紗路は尚も厳しい態度をとる。
「また罪を犯したら本末転倒ですよ。冴子さん、今ここは人手足りてますか?」
「そうだね、3人で回していけるね。そうだ、磯田さんトコが人手欲しいそうだよ」
「じゃあ連絡入れてもらえますか?」
「ここは『そば屋鉄平』ってお店ぇー」ナゼか伝説のUMAうめてんてーが屋根の上に現れた、しかし相変わらず誰にも気付かれる様子はない。
「越後屋さんから話は聞いたぜ、俺も実は前科持ちだ。とにかく今日からウチで働いてくんな」こうして鉄平のそば屋で働く事になった佐藤加世子、はたして今度こそまともな道を進めるのか?それは'あの'神様にしか分からない。
そういやルカから貰った輪っか大輔は結局最後まで使わなかったなぁ(しみじみ)。