アフターひだしん越後屋大戦(凍結) 作:越後屋大輔
最近、越後屋2号店に切間紗路という24才のバイトが入った。この娘は接客も厨房の仕事も手際よくこなせるのでいっそ正式な店員になってほしいと伊達夫婦も密かに願っている。
あの世界的財閥の会長、破嵐万丈が夫人のゆのと産まれて間もない長女を連れてこの店に来店した。
「ここへ来るのは初代ギャリソンに紹介されて以来だな、覚えているかい?僕がガトーショコラを持っていった日の事を」
「そんな事あったね、当時の店主さんのお子さんにケーキ作り教わったって」
「ああ。それにここはお義父さんとお義母さんにもゆかりがあるお店だそうだね」
「うん、私が生まれる前らしいけど。何度か離婚を考えてもその人を思い出す度踏み留まって今でも夫婦続けられているそうだよ」年若いのとセンスはいいがシンプルな服装の為か実はセレブである事に誰も気付いていない、たった2人を除いて。
今は亡き越後屋熊実の頃に常連だった吉田晴彦は部下の加藤からある情報を得た。
「部長、○○区のアーケード街に旨い店があるらしいです。越後屋2号店っていうそうですが」その名前にピンときた吉田は次の日の夜、加藤を連れて来店した。
「店の内装は昔のままだな、おやあのラジカセも現役か。いや懐かしい」
「この店ご存じなんですか?」
「先代店主の頃によく通ってたよ、もう故人だが」確か跡継ぎの青年がいたハズだが、と辺りを見渡すとかつての部下とその夫がいた。
「部長?、それに加藤君も」
「ご無沙汰しております」破嵐夫妻と意外な場所で再会した吉田と加藤、せっかくなので同席させてもらう。
「ほう、お2人もこの店とご縁がおありでしたか」この店に関わるお互いのエピソードを語り合う。
「部長も常連さんだったんですか、偶然ってあるんですね」加藤は話に入れず取り残されていたがゆのが抱いている赤ちゃんに目を移す。
「お子さん産まれたんですね、女の子ですか?」
「ウン、レイカって名付けたの」可愛らしさに顔が緩むと万丈に恐ろしい視線を向けられてビビる加藤。
「まさか、娘に邪な思いを持ってないだろうな?」刹那、ゆのに後頭部を小突かれる。
「あなた!今からそんな心配してどうするの?少なくても15年は先の話でしょ!」妻に叱られシュンとなる万丈、さしもの破嵐財閥会長も女房殿には敵わんようだ。
4人はおでん人数分と日本酒を3人分注文する、ゆのは酒が呑めないのでお茶にした。
「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」紗路が鍋を運んできた、ゆのはがんもどきから手を伸ばす。
「出汁が染みてる~、あっ銀杏入ってる。空豆もいい食感だしてるなぁ」
「さつま揚げの甘味も砂糖によるモノじゃなく混ぜてある玉ねぎからでているのか、歯応えも残っている。酒と相性がいいな」
(なんか、食レポしているみたいだな。この夫婦)卵やじゃがいもをつつき出汁で胃へ流しながらやや冷めた目でこの夫婦を見ている加藤。
「懐かしいな、昔は上司とこうして鍋をつついたモノだ」出汁の染みた大根を肴に呑みながらノスタルジックな気持ちになっている吉田部長だが1つ気になる事があったのを思い出した、自分と同年代くらいの女性店員に問うてみる。
「先代の跡取りですか?外国で本店を切り盛りしてます、ここのオーナーでもあるので不定期に訪れますね」名前は知らないが跡取りとは面識のあった吉田は会えないのが残念と思ったが
「またいつか機会はあるだろう。どちらにせよ、ここにはまた来るしな」と気持ちを切り替えた。
「万丈様、ゆの様、お迎えに上がりました」聞き覚えのある声に振り向く吉田、昔から取り引きしている双葉商事の元社員、野原ひろしがそこにいた。
「野原さんじゃありませんか。お久し振りですなぁ、今はどちらに?」
「私は今、万丈様専属執事を務めております。いずれまたお会いしましょう」にこやかに挨拶して万丈達を先導していった。
帰り道、ひろしこと2代目ギャリソンは高級車を運転しながら珍しく主にこんな質問をした。
「万丈様、あの店のメニューにまだハヤシライスは載ってましたかな?」
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