TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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フィオ側のシーンになります。


「親友。」

 バーディが前世の親友だった。

 

 なぜオレは気付かなかったのか、言われてみて思い返せば、納得できることが多々あった。前世からコイツは空気を読むのが上手かったし、その反面デリカシーが全くない奴だった。一度死んでもソレは治らなかったらしい。

 

 歩きながらバーディは、前世でオレが死んだ後のことを簡単に纏め話してくれた。ヒキニートだったオレなんかの死でも、両親は凄く悲しんだらしい。ゴメンよ父さん、母さん。

 

 そしてオレの死後数年たって、事故で親を失った孤児を養子に引き取ったのだとか。よほど寂しかったのだろう。

 

 一方前世のバーディは、オレが死んでからも普通に生きサラリーマンになったらしい。そしてオレの死後10年ほど経った頃には、コイツにも可愛い恋人が出来たのだと言う。

 

 だが、その恋人と婚約まで済ませまさに幸せの絶頂と言うタイミングで、以前から付きまとわれていたバーディのストーカーに3人がかりで襲われ、結婚式の前日に刺し殺されたと無念そうに語った。

 

 今世でも、子供の頃は故郷の村の貧乳ちゃんにストーカーされていたんだっけ? ストーカーを惹き付ける、そう言う厄介な星の下にでも生まれているのだろうか。

 

 これでバーディがストーカーを過剰に怖がる理由もわかった。本来のコイツの実力と性格なら、ストーカー程度自分でとっ掴めてお巡りの前に叩きつける筈だ。未だに前世の苦手意識が消えないのだろう。

 

 そんな懐かしい前世の話をしながらオレ達は歩き続け、気付けばオレ達は深夜のデートスポット”王都架橋”へと到着していた。 

 

「・・・着いた、ココだ。」

「ふーん、橋の上ね。」

 

 そう。ついに到着してしまった。

 

 自分の命が終わる場所へ。自分が存在していられる、最期の場所へ。

 

「ああ、流星が近い。」

「だな、フィオ。もうすぐ終わりだ。」

 

 夜空に大きく輝くこの国を滅ぼす絶望を見上げて、バーディと短く言葉を交わす。

 

 ────ゾクリ。

 

 この時オレははっきりと死を意識したからか、急に身体がガクガクと震えだし止まらなくなった。必死で目を背けていた恐怖心が溢れ出し、凍り付くような孤独感に苛まれドサリと地べたに崩れ落ちる。

 

「・・・会いたい。」

「どうした?」

「嫌だ、やっぱり、アルトに会いたい。」

 

 我慢して口を瞑ろうとして、やっぱりダメだった。オレの口から、どうしようもなく情けない泣き言が零れてしまった。

 

 部屋を抜け出す時の、オレのあの覚悟はどこへ行ったのか。自分で望んだ最期の場所にたどり着いて、今から命を燃やそうとするこの場面で、オレは情けなくもビビっていた。

 

「なぁ、なんでここにアルトは居ないんだ?」

「そりゃあお前が黙って抜けてきたからだろ。」

「だよな、何やってるんだオレは。死ぬ時くらい、人目を気にせず思いっきり甘えても良かったのに。アイツに甘える最後のチャンスだったかもしれないのに。」

「泣くな泣くな、自業自得だ、親友。お前さんは変に自分を蔑ろにする悪癖がある、それも前世からだ。その結果がコレだよ。」

 

 バーディは呆れた顔で、そんなオレを罵った。死ぬ間際くらい優しくしろや、このブサイクが。

 

「なぁ、バーディ。今から戻れば、少しくらいアルトに抱きつく時間あるかなぁ?」

「うーん、見た感じ流星が地上に激突するまで10分くらいじゃね? 俺がお前を背負って全力でダッシュしても厳しいかな。」 

「・・・だよな。もう、間に合わんよな。」

 

 ・・・当然、実際にバーディに背負って走ってもらうつもりはない。さっきの言葉は半分本気だが、残り半分くらいは言ってみただけだ。死ぬ間際にそんな見苦しい真似をする気は無い。

 

「ああ。そうだな、じゃあそろそろ始めるかぁ。」

「お、いよいよやるのか。」

 

 そもそも、既にオレに残された時間はない。激突する直前に流星を操っても恐らく間に合わないだろう。今すぐ秘術を使って進路を変えても、ギリギリくらいだ。

 

 空を見上げ、いつか村長(ボス)に習った通りオレは両手を広げ片足を上げ、それぞれに魔力を集中させる。

 

「・・・グリコ?」

「ちげーよ。グリコのポーズに見えるけど、これちゃんとした秘術の型だから。魔術的にも意味があるし。」

「なんかソレ、色々諦めて匙を投げてるようにしか見えねー。超ウケる。」

「ぶっ飛ばすぞ。」

 

 最期まで、コイツは人を小馬鹿にしたような態度でオレを見送るつもりか。まぁ、その方がガン泣きされるよりマシだが。

 

 前世でオレが死ぬ時はコイツ、ガン泣きだったからなぁ。思い出すと超ウケる。 

 

「なあフィオ、聞いていいか?」

「何だよ、もうあんま時間ねーんだ。手短に頼むぞ。」

「おう、2つだけだ。お前はこの世界に生まれて良かったと思えるか?」

 

 そう言ってバーディは、グリコポーズで魔力を高めているオレの髪を、乱暴にくしゃくしゃと撫でた。瞑想の邪魔だ、地味に痛ぇし。何するんだこの野郎。

 

「また随分と妙な事を聞くなぁ。そうだな、前世通して初めて恋人が出来たってのは楽しかったかな。最期の、ほんの一瞬だけだけど。」

「そっか。じゃあ、もうちょっと生きられるなら何したい?」

「・・・そりゃあ、色々。ヤメろよ、そういう残酷なこと聞くなよ。未練が湧いてくるじゃねぇか。」

「罰だよ。勝手にアジトを抜け出して、一人で寂しく死んじまおうなんて考えた罰。こりゃ仲間に対する裏切りだぞ? お前を助けるために散々に手を尽くしたってのに、別れの挨拶もなしに消えるって馬鹿にしてんのか。」

「う、まぁ。でもよ、死に際の顔をどうしても見られたくなくて、それで。」

「本当にお前は、追い詰められると視野が狭くなるな。もうちょっとアルトを信じてやれよ。アイツは言ったじゃねぇか、流星魔法は俺に任せろって。」

 

 バーディは呆れ顔で、オレの髪を撫でるのを止めようとしない。集中できねぇ、邪魔すんな本当に。

 

「・・・でも、失敗したじゃん。」

「してねぇぞ? 今のところかなり上手くいってる。アルトが気絶したのは少し計算外だったけど、すぐ意識戻ったみたいだし許容範囲内だろ。」

「・・・は?」

 

 上手くいってる、てそんな訳あるか。あんな大魔法ぶつけておいて、空には未だデカイ流星が輝いてる時点でもう終わってるだろ。

 

「フィオ。お前アレだろ、さては昼に撃ったあの魔法が本命と勘違いしてるな?」

「え、は、はぁ? だって、あんな大魔法使ったらアルトの魔力もカラになるし、もう2発目を撃つ余力なんて無い筈だし、違うのか!?」

「お前、あの王様の話聞いてた? 何も考えずただ流星を砕いたりしたら、尋常じゃない量の星の破片が降り注いで国が滅ぶわ。だから、アルトはあの魔法で星を砕くつもりなんか無かったんだよ。あの魔法はあくまで流星の勢いを殺して、星の真ん中に切れ込みを入れる狙いのただの下準備にすぎない。」

「き、切れ込み? 下準備?」

「そう。ほら、空に浮かぶ流星を見ろよ。真ん中に1本、うっすら線が入ってるだろ。フィオ、あの線の意味は流石に分かるよな?」

 

 バーディにそう言われ、空に浮かぶ流星を注視する。

 

 本当だ。よくよくみれば1本、流星のど真ん中に小さな線が走っている。バーディの言う切れ込みとは、アレの事なのだろう。

 

「・・・待って。まさか、アルト、あの馬鹿!」

「ホントあいつの考える事ってスケールが違うよな。流星を砕いたら破片が降り注ぐ。だったら────」

 

 呆れたようにバーディが笑ったその時。突如湧き上がった凄まじい剣気が、王都の風を揺らした。

 

 それはアジトの方向から吹き出ている、オレにとって慣れ親しんだ、安心感のあるアルトの剣気。それに加え、マーミャやリンの気も乗っている。アルトに気を譲渡したのだろう。

 

 そういえばアルトの奴、オレが部屋に閉じ込められたその日に山に修行に行くとか言ってたけど。まさか、まさか、1日修行しただけで身につけやがったのか? 

 

「おっ。アルトの奴、いよいよ始める気だな。」

「・・・っ。」

 

 バーディの言葉が終わると同時に、何かが星に向かって地上から飛び出した。小さすぎて見えないその矮小な存在は、凄まじい剣気をまとい一直線に空を駆け上がっていく。

 

「ははは、奴はすげぇよ。アイツに任せておけば何とかしてくれる、アイツならやってくれる。そう思わせるだけの成果を今までずっと積み重ねてきただろ?」

「アル、ト。」

「だからよ、今回も信じようぜ。俺達の頼れるリーダーを。お前が大好きだっていう恋人を。」

 

 

 ────オレは夢を見ているのだろうか。だって星だぞ、相手は自分の何十何百何千万倍の質量を持った、その墜落だけで国を滅ぼす流星だぞ。

 

 アルトの奴は、そんな相対することすら馬鹿らしい巨大な存在を相手取って正面から突っ込んで、そして。

 

 一筋の光を纏った剣戟が、夜空ごと流星を真っ二つに引き裂いたのだった。

 

「斬り、やがった。」

「本当にアイツ、人類なのかね。」

 

 なんて、馬鹿らしい。夜空に君臨していた流星は、地上から飛び出した小さな一人の人間によって綺麗に両断されてしまったのだ。

 

 その結果、流星の軌道が大きく変わる。両断された星のそれぞれの断片は、左右へと進行方向を分ち、墜落先が王都からズレていく。そのあまりに非現実的な光景に呆然としている間に、流星は王都の東西へと別れ激突し、轟音を上げ地響きとともに大きなクレーターを形成した。

 

 だが。その被害は、ギリギリ王都の城壁の外に留まった。街の中に、被害は一切及んでいない。王都の東西に大きな大きな穴が開いたものの、そのクレーターが国を巻き込むことはなかった。

 

 流星魔法(メテオ)は古来よりいくつもの国を滅ぼし、初代流星の巫女様がその身を捧げて秘術を使うまで、決して破れる事が無かった伝説の大魔法。

 

 だというのにアルトはたった1日修行しただけで、流星を斬る技を編み出しやがったのだ。

 

「おうおう、やっぱりアイツはやる時はやる男だぜ。さぁて、満足したか家出娘。」

「・・・は、ははは。何だよコレ。まるでバカみたいじゃねぇか、オレ。」

「何だ、今気付いたのか自己陶酔野郎。良いからとっとと帰るぞ、俺達のアジトへ。こんな日はいくら酒を飲んでも飲み足りん、宴の準備だ。」

 

 ぽかん、と雲一つない満面の夜空を眺めているオレの腹を掴み上げ、米俵でも担ぐようにバーディは自分の肩に乗せた。

 

 ゴツゴツとした肩が腹を圧迫し、オレは思わず小さな呻き声を上げる。

 

「ぐぇ、いきなり何しやがる。」

「よぉし急いで帰るぞ。今頃、アルトの奴は大喜びでお前の部屋に報告に行ってる筈だ。だと言うのに、部屋にお前さんがいないともなれば、目の色変えて大騒ぎするだろ。早く帰って顔見せてやらなきゃな。」

「それと、このオレの体勢に何の関係がある。え、マジで? このまま運ぶ気?」

「さぁ、しっかり掴んでろよ親友。」

「待て、ならせめて背負ってくれ、こんな不安定な体勢・・・おわあああぁ!?」

 

 そして。

 

 大笑いしながら、女を抱えた男は疾走する。生き延びた喜びで所々で歓声が沸き上がり、陽気な笑い声が木霊する夜のメインストリートを、彼らの帰るべき場所を目指して一直線に。

 

 

 

 

 

 

 かくして。王都に迫る流星は両断され、迫り来る魔王軍は壊滅し、王国に平和が訪れた。

 

 長きにわたる魔族と人族の戦争は、これにて終結となる。そして、選ばれた勇者達はその功績を称えられ永く語り継がれる事となるだろう。




次回、感動の最終回(バッドエンド)「挽肉。」
更新は11月3日の17時です。

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