TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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4人娘掘り下げ回。


「スラム?」

「バーディ、頼みがある。少しフィオを連れ出してくれないか。」

「あん? 何だいきなり。」

「・・・俺は、フィオに傷ついて欲しくないだけなんだ・・・!!」

「本当に何なんだよいきなり。」

 

 シャワーを浴びるルートから、俺の浮気の情報を得た後の、俺の行動は早かった。

 

 昨日、ミクアルの里から帰ってきたオレとフィオはずっと一緒だったから、俺とマーミャとの不貞の噂を聞いている可能性は低い。

 

 ならば今夜はフィオをバーディに連れ出しておいてもらい、その間に手早く誤解を解いてしまえば良い。そんな事をしなくともフィオはきっと俺を信じてくれると思うけど、少しでも彼女の心に負担をかける真似はしたくない。

 

 彼女の涙は、俺にとって純金よりも重いから。それに、あの老人に誓った、決してフィオを泣かさないと言う約束もある。絶対に、俺は彼女の笑顔を守って見せる。

 

「後で俺も行くと言ってフィオを飲みに誘っておいてくれ、店も任せる。ああ、会計は俺が出そう。だから、頼むバーディ・・・っ!!」

「お、おう分かった、何か事情があるんだな? つってもな、俺達が行く店でお前が場所分かりそうなのは・・・、ああゼア・グロッセがあったな。ジェニファーちゃんの店だ、そこで良いか?」

「構わん、遅くなるかもしれないが後で絶対に合流する。それと、フィオをなるべく早く誘い出しておいて欲しい。任せたぞ!」

「ああ、了解。」

 

 俺はバ-ディに愛する恋人を託し、噂の詳細を聞くべくマーミャを探して話を聞くことにした。彼女なら、何か知っているかもしれない。知らなかったとして、噂の火消しに協力して貰えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マーミャを探すなら、この時間なら彼女の私室か道場を訪ねるべきだろう。

 

 まずは私室へ向かおうと足早に歩く最中、アジトの居間から、金切り声が鳴り響いているのが聞こえ俺は足を止める。誰か数人で騒いでいるようだ、中にはマーミャも居る気配。彼女は私室ではなく、居間に居たか。

 

 出来ればマーミャとだけ話がしたかったのだが致し方ない。こっそりと連れ出すしかないか。

 

 そう判断し、カタリと扉を開くと、散らかった居間には凄まじい罵声、甲高い叫びで溢れかえっていた。頭がキーンとなり、思わず耳を塞ぐ。

 

 ・・・何事だ?

 

「間違いない、そんな気がしてきたぞ! わた、私告白された気がする!」

「嘘です!! だってさっきまで“そんな嬉しい事、有ったっけ・・・?”って呟いてたじゃ無いですか!」

「わー聞こえない、聞こえない! 気が付いたらそうなってたんだ、もうどうしようもない事だ諦めろ! どうだ、悔しいかぁ!?」

「頭沸いてるのかこの駄剣士は!! 事実と妄想の区別もつかなくなったのか!」

 

 喧々諤々とは、まさのこの様を表す言葉である。髪を纏い何時もの胴着姿で、やや困惑しながらも全力のドヤ顔を披露する俺の推定浮気相手、マーミャ。彼女に掴み掛りガクガクと肩を揺さぶっているユリィに、遠目から腹立たしそうにその様を眺めるリンとレイ。

 

 ・・・また喧嘩しているのか。タイミングが悪い、マーミャに話を聞きたかったのに。

 

「あ、アルト様!! な、なんですかあの噂! 嘘ですよね、事実無根ですよね、私は無実ですよね!!」

「ユリィ、落ち着いてくれ。何だ、皆もあの噂を聞いていたのか。」

「今聞いたところですよ!! 私はぜんっぜん信じてませんけど! アルト様が、アルト様が・・・!!」

 

 目に涙を浮かべながら、俺の肩を揺さぶってくるユリィ。何やら随分と混乱しているなぁ。俺が誰かと付き合ったくらいで、何故そんなに動揺しているのだろうか。

 

「アルト様がマーミャさん一家の女性全員を合意なく孕ませて、責任取って婿養子入りだなんて!!」

「俺は一体何をやってるんだ!?」

 

 そりゃ、ユリィも動揺する。何だその意味不明なデマは?

 

「挙句、王様に呼び出され、王の面前でマーミャに告白したのだと私は聞いたぞ。」

「アレ? 私の一族の女性が皆孕まされたのであれば、私にも子供が出来ているのか!? うわぁ、どんな名前にしよう。」

「何を悩んでるんだこの馬鹿は。マーミャ、貴様は事実無根だって知ってる立場だろ。お前が噂流した事くらい、見え見えなんだよ。」

「そんな遠回りな事、私がする訳ないだろう! きっと事実に違いないぞ!!」

「事実なら”きっと”って使わないと思います・・・、くすん。この、泥棒猫!!」

「・・・はぁ。馬鹿ばっかりだし。」

 

 これは、どういう事だ? パーティの間で、俺の信用を落とさせる離間策あたりだろうか。噂の出所が分からない事には、事実を突き止められない。リンに情報収集を頼むべきか。

 

「・・・それより先に、確認する。アルト、噂は事実?」

 

 他の3人と違い1人冷静な盗賊少女、リンが疲れた目で俺に噂の真偽を聞いてきた。当然そんなもの、答えは決まってる。

 

「いや、真実ではない。俺はマーミャの一家に関わったこと自体殆ど無いし、マーミャに告白なんてしていない。」

「・・・だよね。うん、馬鹿ども早く落ち着け。」

「ほら、ほら!! 良かった、やっぱりアルトさんは女の子に無理やり行為を迫るような人間じゃないですから!!」

「・・・うん、アルトが嫌がる女の子相手に孕むまで何度も襲う様な真似する訳ないし。」

「当然だな。私もアルトの女性関係は清廉だと信じていたぞ。」

 

 ・・・3人の言葉で、すっごく俺の耳が痛い。

 

「そんな・・・。噂は噂でしかなかったというのか。」

「お前はそれを知ってるはずだろ、馬鹿か。くだらない真似をするなよ、正直失望したぞお前には。」

 

 がっくりと膝をつくマ-ミャと、彼女を冷たい目で見下すレイ。どうやらレイは、この一連の騒動はマーミャの起こしたものと考えているらしい。だが、だとしたら一体何が目的だったんだ?

 

 ・・・まさか、俺はマーミャに嫌われていたのだろうか。だとしたらショックだ、彼女とは良好な関係を気付けていると思っていたのに。

 

「その、マーミャ。何だ、あの噂は君が流したのか?」

「・・・え? いや、その、私は知らないぞアルト。本当なんだ、気付いたらそんな噂が流れていたんだ。」

「それは不思議だな。で? そんな戯言を信じる人間が、この場に居ると思うか?」

 

 レイが、顔を険しくしたままマーミャに詰め寄る。ユリィも、リンも怖い顔をしたままだ。

 

 何だろう、急に底冷えがしてきたぞ? 誰も冷却魔法を使っていないのに、部屋の温度が氷点下に下がってしまっている。

 

「え? え? 私は、ち、違うぞ!! 私はそんな噂流していない!!」

「・・・。」

「マーミャさん、ごめんなさい信じられません。その、それはズルいと言うか、しちゃダメだと思いますよ。」

「なぁマーミャ、ハッキリ言おうか。私はさ、最初から噂が嘘だと知ってたんだ。だってさ、その噂を離してるメイドの大半が・・・。」

 

 ────お前の実家の息がかかった、メイド達だったんだから。

 

 レイは、心底侮蔑した目でそう言い放った。

 

 

 マーミャの実家は、確か武で身を立てる大貴族だったな。当然、武官としての重要な護衛対象である王宮においても、彼女の家は大きな影響力を持っている。

 

 そんな大貴族の権力があれば、王宮で噂を流すことくらい造作もないだろう。逆に、彼女以外に王宮に噂を流せる人間は限られてしまう。

 

 裏工作の達人、侵入扇動破壊調略なんでもござれ、盗賊少女リンか。王宮に勤める、冷徹な殺人者、警戒対象クリハ。この二人以外に王宮で噂を広めるのは不可能だ。

 

 だが、この中で一番手軽に噂を流せるのは間違いなくマーミャに他ならない。

 

 そもそもクリハの、俺に対する離間策の線は薄い。犯人がクリハならば、フィオの名前を出した方が効果的だからだ。リンも彼女の能力上で犯行は可能と言うだけで、状況証拠的には非常に弱い。

 

「・・・え。知らない、私は、本当に・・・。」

「もういい、これ以上は見苦しいぞマーミャ。」

「・・・。」

「マーミャさん。素直になられた方が、その。」

 

 つまり、普通に考えれば犯人はマーミャ以外にあり得ない。だが、何だろうこの感じは。

 

 俺には、今にも泣きだしそうなマーミャの顔に、嘘があるようには思えないのだ。そもそも、彼女がそんな噂を流して何の得があるというのだ? 

 

 違う、きっと犯人は彼女じゃない。マーミャは、シロだ。だが、その根拠は俺の勘でしかない。どう言えば信じて貰える? そもそも、誰が流した噂かを突き止めないと────

 

 ・・・俺が、足りない頭を絞ってマーミャを救おうと考え込んでいる、その時。

 

 ────リンが動いた。

 

「・・・元気出すし、マーミャ。私は、信じるよ。」

「リ、リン?」

「うん、うん。辛かったねマーミャ、言われもない罪を押し付けられるのは。」

「お、お前は信じてくれるのか?」

「・・・信じるよ。だって。」

 

 幼い少女は、普段の眠そうな瞳を釣り上げ、紅く光らせてマーミャの前で庇うように立ち上がった。隠せぬ怒りを目線に込めて、ジロリと黒い服の魔導士を睨む。

 

「・・・レイ。流石にこのやり口は、酷過ぎるし。」

「いきなりお前は、何を言い出す?」

「頭の弱いマーミャを狙い撃ちで貶めにかかる、そのやり口。ウチが最も嫌いなやり方の一つ。」

「・・・ハッ! 意味が分からんぞリン、いきなり何を────」

「────3日前、王都西通りのバー。マーミャの家の執事に、お前がその噂を吹き込んだ。いや、正確には”その噂を流す事”の依頼をしたと言うべき? ご令嬢マーミャの為に、なんて耳触りの良い事を吹かしてね。」

 

 リンは、ポツリポツリと話し出す。しゃがみ込んでしまったマーミャを撫でながら、レイから庇うように立ちふさがって。

 

「裏、取れてるよ。バーのマスター、従業員、その場にいた客。全員、連絡取れるし。」

「ああ、成る程。そういう事か、つまりリン、貴様はこの噂は私が仕組んだ”マーミャを陥れる謀略”だと、そう言いたいのか?」

「・・・違うか? この外道。」

「見損なったよ、リン。貴様はそんな訳の分からない嘘をついてまで、私を貶めたいんだな。アルト、こんなデマ信じないでくれよ?」

「・・・違う、事実。なんなら、証人を全員呼んでやろうか?」

「そんなもの、金払えば何でも言わせられるよなぁ。いくら払ったんだ、その偽の協力者に。」

「・・・レイ、いい加減にしろ。」

 

 ゴゴゴ、重苦しい音が聞こえた気がした。

 

 さっきまで氷点下だったこの部屋の空気が、遂に絶対零度にまで凍り付く。怖い、今の彼女たちは魔王より怖い。

 

「え、えっと? マーミャさんがあの噂を流したって言うのは、デマなんですか?」

「・・・いや、それで合ってるよユリィ。この駄盗賊は、どうせ貶めるなら頭の弱いマーミャより私の方が効果的だと考えたんだ。リン、薄汚い暗殺者の貴様が考えそうなことだ。」

「レイィィィ!! お前か、この妙な噂の黒幕は!! クソったれ、私を嵌めてまで蹴落としたいのか!?」

「・・・レイ、最近のお前の行動は目に余る。仲間としても、信用出来なくなる・・・。」

 

 4人がその場で睨み合いを始め、再び場は膠着する。・・・どうしよう、こうなるとどう仲裁しても大概止まらないんだよな。だがいつも以上に4人の間の空気が悪い、やはり此処は俺が何とかしないと。

 

「アルト、こんな奴の戯言を信じないでくれよ? コイツらは自分の欲望に走った、汚い女だ。そもそもリン、貴様がもしそれを事実だと知ってたと仮定して、なぜ最初から口に出さない? その場で考え付いたんだろう? 私を嵌める手段としてさ。」

「・・・お前がマーミャとアルトの噂を流す意味が分からなかったから、あの場で言っても誰も信じなかったから黙ってた。まぁでも、さっきハッキリとお前の狙いが分かったから口に出した。」

「レイ、いい加減にしろ! こんな腐った真似をして、私の実家を敵に回して本当に良いんだな?」

「あらら、とうとう実家の権力頼みか。けっ、私は今までさんざん権力持った人間を潰してきたんだよ、今さら私がビビるとでも思ってるのか?」

「え、えっと。アレ? どっちが言ってることが正しいんですかぁ!? アルト様、これは、どうしたら。」

 

 場が混沌として、口汚く言い争う、俺の大切な仲間たち。その表情は険悪で、きっとここで何もしなければ、パーティに大きな亀裂が走るだろう。

 

 ・・・嫌だ、俺はこんな状態を望んでなんかいない。大丈夫、俺ならきっと出来る。素直に、俺の気持ちを皆に伝えれば。

 

「待ってくれ、皆。落ち着いてくれ、つまりはこういう事だろう?」

 

 皆が、俺に視線を集めた。よし、此処だ。此処で説得する!

 

「オレとマーミャが付き合ってる、なんて噂を流す悪戯を誰かがやった。その被害者は俺とマーミャだけ。俺達二人が王宮でデマだと説明して回れば、万事解決だろう。」

「・・・アルト。でも、レイは・・。コイツ、かなり信用出来ない事をやった。」

「違うね。リン、お前が大噓つきだ。」

 

 やはりこれだけでは納得しないか、だがそれも想定内だ。まずは、この水掛け論を終わらせる。

 

「・・・悪いがレイ、俺はお前が疑わしいと思ってる。」

「・・・、そうかアルト。」

 

 犯人はどちらか何だから、キッチリ特定してやればいい。マーミャは嘘を吐いて無さそうで、リンの言葉も真実に聞こえたがレイは違った。こういった勘は今世では何故か外れない。

 

 レイが冤罪ならば申し訳ないが、きっと犯人を特定しないとこの言い争いは終わらない。

 

「信じてやれなくてすまない、レイ。だが、何だ。俺は・・・」

「────いや、そうか。アルト、お前の目を誤魔化すなんて最初から無理だったか。私は、馬鹿だ。」

 

 俺の言葉に、小さく俯いたレイは。少し震えた声で、ゆっくりと自白を始めた。

 

「・・・だって。もう、約束の期限も近いし。私は見ての通り、虚弱で貧相で穢れてて。普通にやっても、私じゃ勝てないじゃないか。」

「レイさん、やっぱり貴女が。」

「お前らは良いよな。体も綺麗なまま、親が居て、まっとうなお日様の下を歩いていればそれだけで生きていけたんだからさ。何時襲われるかと恐怖に怯え、何時殴られるか分からないボロボロの娼館で、泥水すすって過ごした私にはコレしかないんだよ。」

 

 レイは何かを諦めた表情で、俺の方をすがるように見ながら、話を続ける。

 

「そんなに悪い事か? ボンクラを蹴落とす事はさ。蹴落とされる方が悪いだろ。」

「・・・悪いに決まってる。ウチ達は、背を預け共に闘う仲間。信頼関係が最も大事だし。ここはスラムじゃない。」

「信頼関係、ねぇ。それ守るために指咥えて、アルトが取られるのを黙ってみてろってか!? 絶対に嫌だね、私はそんなの。」

「でしたら、正々堂々と戦えばいいではないですか!! そんな卑劣な手を使わないで、正面から・・・。」

「正々堂々って、何だ!? 私の生きていた世界では、流言も窃盗も強姦も殺人も、全て正々堂々さ! 幸せな世界で生きて来たお前の価値観を押し付けるなよユリィ・・・!! 私にはコレしかないんだよ!!」

 

 叫ぶ。あの日、スラム街でボロキレみたいな姿で俺と出会ったこの黒魔導士は、吠えるように絶叫した。

 

「私にはアルトしかないんだ!! こんな穢れきった私を気にせず抱きとめてくれたのはアルトだけなんだ!!」

「黙れ!! そんなの全部、お前の自分勝手な欲望だ!」

「何が悪い! 欲望に生きて何が悪い! それが人間の生きる活力だろう!?」

「・・・見苦しいし、レイ。それ以上は、止めた方がいい。お前自身が、傷つくだけだし。」

「だって、だって。私には、こんな方法しか、勝ち方を知らないんだ。普通に恋をした事なんて無い。私には、コレしかないんだ・・・。」

 

 黒い服を着た青髪少女は、そう言うとドサリとその場に崩れ落ちた。目に涙を浮かべ、そして怯えるようにチラチラと、俺を見ている。

 

 俺は、そんな彼女に声を掛けねばならない。そう思い。一歩彼女の方に進む。ビクッ、とレイの体が震えたが俺は歩みを止めない。

 

 皆が、俺の動向を見守っている。そのまま俺はレイの正面に立ち、彼女を見下ろして。

 

 

 ────軽く、レイの頭を小突いたのだった。

 

 

「子供じゃないんだから、人の恋ネタのデマを流すなんて悪戯は止めなさい。」

「・・・ん?」

 

 つまり、全ては彼女の壮大な悪戯だったという事だろう。まったく、恋愛ネタが苦手そうなマーミャをからかうなんて、確かに性質が悪い。

 

 確かに、こんな悪戯をしても許してくれそうな人間なんて、”俺しかいない”のだろうけど。マーミャを巻き込んだのはやり過ぎだな。

 

「聞いてるか? こういう悪戯は案外に人を傷つけるもんだ。マーミャだって、俺と変な噂を立てられて迷惑だっただろう?」

「・・・あ、そうだな。」

「ちゃんと、噂の火消しには付き合ってもらうからな、レイ。悪いが、マーミャも付き合ってくれないか? 俺一人で誤解を解いて回るより、二人で回った方が説得力が出るだろう。」

「・・・お、おう。」

 

 あれ? 何だろう、急に皆の目が死んだぞ? 俺は何か、外してしまっただろうか。

 

 

 

 

「・・・どうしたんだい、大騒ぎして。」

 

 皆が急に静かになったその瞬間。風呂上がりで薄着になったルートが、居間へと入ってきた。

 

「おお、ルートか。何、レイがくだらない悪戯をしたんでな、少し説教しただけさ。さっき水場で話していたマーミャの件なんだが、アレはレイが悪戯で流したデマなんだ。」

「ふぅん? ・・・ああ、そういう事。よし、大体全部分かった、何か重い罰則を考えておくよ。」

「そうか、やはりルートは頼りになるな。」

 

 だが、彼は俺の話を聞いてすべてを把握してしまっているらしい。流石は俺達の頭脳、実に頼りになる男だ。

 

「ルート、どうやら皆の反応を見るに俺は少し状況が読めていないみたいなんだ。また、任せて良いか?」

「うん、任せて。むしろ君が今の状況を理解していたら、偽物じゃないかと疑ってしまう所だ。」

「よく分からんが、助かる。なぁ、ル-ト。」

 

 いつもこの男には助けられっぱなしだな。

 

「ありがとう、俺はお前無しで生きていける気がしないよルート。」

「・・・ん? え、ああ、ありがとう。でも、その言葉に他意は無いんだよね?」

 

 他意? 何を言っているんだろうかルートは。

 

「アアアアルト様。その、まさかアルト様の本命は・・・!?」

「その、アルト、率直に応えて欲しい。その、ルートの事をどう思ってる!? どんな印象なんだ!?」

 

 汗をダラダラと垂らしながら、女性陣が俺に問う。

 

 

「そうだな、(男にしては)妙にセクシーな、(仲間として)大切な人かな。」

「・・・アルト? ワザとじゃ無いんだよね? 君は僕を破滅させたいわけじゃないんだよね? 君の言葉の省略した部分は、僕は理解できるけどこの4人は・・・!!」

 

 

 ブチッ。その時、何かが切れる音がした。

 

 

「アルトォォォ!! 僕の事を、取り合えず何でもいいから貶せ!! 良い、何を言ってもいいから早く!!」

「え、ええ? わ、分かった。ルート、随分と女っぽくなったよな最近。」

「あああああ違うそうじゃない!! 皆落ち着いて、これはアルトが良くやる・・・ギャアアアア!!」

「少しルートを借りるぞ、アルト。」

「水場? まさか抜け抜けとシャワー浴びていたんじゃないだろうな。アルトと二人で。」

「レイと同じくらい質が悪い・・・。無害そうに装って、その実は誰よりも淫乱。男を弄ぶ生粋の遊女・・・。」

 

 おお。ルートが4人にズルズルと引きずられていく。ふむ、ちょうどいいか。予定通り、女性陣への対応は彼に任せよう。俺は早くフィオ達に合流しないと。

 

 

「たす、助けてアルトォォォ・・・。」

 

 

 ・・・ん? 何か聞こえたような。

 

 ルートの声に振り返ると、既に居間には誰も居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「・・・でさぁ? アルトがな、ぎゅーってしてくれたんだ! ぎゅーって!!」

「・・・そうか。良かったな。」

「エクセレントデース!!」

 

 巨乳パブ「ゼア・グロッセ・ブラスタ」のカウンターには、酔っ払いが一人、盛大に惚気ていて。

 

「アルトがさ、もう一刀両断にオークを切り倒してさ!」

「・・・そうか、良かったな。」

「ビューティフォー!!」

 

 その隣の席には満面の笑みの巨乳美女と、疲れ果てた目で機械の様に同意を繰り返す悪人面の男が居たそうな。

 




次回更新日は10月1日17時です。

・おさらい
リン→盗賊
レイ→黒魔道士
マーミャ→剣士
ユリィ→修道士

正直そんなに覚えなくて良いです。一応設定は作ってたのですが・・・、投げるタイミング無かった。
本編終わってから、個別で過去回投げる形にしますので興味の有る方だけどうぞ。

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