意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編19

術式補助演算機(英名:Casting Assistant Device、略称:CAD)は、CAD(シー・エー・ディー)、デバイス、アシスタンス、法機(ホウキ)などと呼称される魔法工学製品である。

魔法を発動する為の起動式を魔法師に提供する補助装置で、「感応石」と呼ばれるサイオン信号と電気信号を相互変換する合成物質によって魔法師と疎通する。

 

「そこで、鉄沙に『感応石』を混ぜて長岡さんに鉄沙掌を練功してもらったんや」

 

十三くんの「レンジゼロ」モドキの完成だ。あるいは偽「グラムデモリッション」の出来上がりだ。

サイオンを直接ぶつけて起動式と魔法式を散じてしまえるし相手の身体に流れるサイオン流も寸断できる。本当はこんな事をしなくても彼女なら勝てたが速習(バッタ物?)鉄沙掌でサイオン粉砕が可能か検証したかった。

 

長岡さんの手をジッと見る司波くん。その横で少し拗ねたようすの七草さん。(司波くんが自分と違う女の子に人並み以上の興味を持つのがそんなに嫌なのだろうか?)その七草さんに冷たい視線を向ける渡辺さん。

 

武装警察と警備員がルーナントカを回収しているのを横目で見ながら僕は司波くんの疑問に答える。

 

「即席『レンジゼロ」はわかった。ただ呂に長岡さんが普通に近付けた理由がわからない。魔法を使った様子もない」

 

彼女が此の世にいないから、ルーナントカには見えても何をしたらいいかわからなくて彼は思わず防御を固めたのだ。

 

この「この世にいない」の説明は今しても仕方ないので、

 

「それは、まさに八卦掌のショウデイホや!」

 

と回答しておいた。漢字は足へんに尚、泥、歩である。

 

◇◇◇

 

10月26日水曜日。横浜有事まであと4日。早朝クラスルームにて。

 

「発勁はわかったが、もっと早く動けなければ攻撃が当たらなくないか?」

珍しく司波くんが質問して来た。彼は「縮地法」ができるらしいからすでに早く動けるのではなかろうか?相手が服部さん程度なら司波くんの縮地法で十分なのだろうが昨日の長岡さんの動きを見て今の自分では十分ではないと感じたのだろう。

 

その通り!

 

膝抜きから始まる「縮地法」は敵が刃物や銃の扱いに習熟していればまず通用しない。事象改変が始まるのに時間がかかる魔法師には通用するが。

 

したがって、十師族レベルには通用しない。事象改変が早いからだ。

 

「そうや。骨から動かんと遅い」

僕はそう言って骨から動く練習法の見本を示した。

 

「これは、スワイショウの一種で腰椎○番が左右に動くようになる。そんでコツは手の○指を緩めるてやるんや」

 

「こうか?」

 

「そうや。自分凄いな。普通一回では出来へんで」

 

側で二人の会話を聞いている司波さんが照れる。司波くんが評価されると司波さんは身悶えするように喜ぶ。若干変態?

 

「これで重心が上がった」

 

司波くん?な顔をした。

 

「日本人は重心が若干低いから居着きやすい。これで大陸系と同じ高さにできるんや」

 

司波くんはノートに書き込むように今の教えを脳に記憶させた。凄い特技だ。

 

「そんでこれが、沈む運動。これは地心に連動して行く。腰椎○番につながっとる」

 

次に、僕は天心に連なる上への運動や、前進、捻りの運動であるスワイショウとそれぞれに対応する腰椎を説明した。一回で彼は記憶できるとわかったので快調に伝えられる。

 

「なんかわからん事ある?」

 

「師匠。それは野口整体*と関連しているのか?」

 

*野口整体(のぐちせいたい)とは、昭和20年代に野口晴哉が提唱した整体法。活元運動、愉気法、体癖論から構成される。

 

体癖(たいへき)とは、野口整体の創始者である野口晴哉がまとめ上げた、人間の感受性の癖を表す概念。身体の重心の偏り・腰椎のゆがみと個人の生理的・心理的感受性(体質、体型、性格、行動規範、価値観など)が相互に作用していることを野口は診療から見出し、その傾向を12種類(10+2種類)に分類した。

 

腰椎1番は、上下運動、腰椎2番は左右運動、腰椎3番は捻れ運動、腰椎4番は開閉運動、腰椎5番は前後運動。あいうえおとも関連し、5指、前頭葉、右脳、左脳、後頭葉、脳幹とも関連している…

 

「なんや、野口整体知っとるんなら話は早い。大体同じや」

 

非魔法師は、背骨がどこか歪んで生まれてくる。一方、魔法師は背骨の歪みがほとんどない。魔法師は生まれた時から超健康体なのだ。なので多少寿命を削っても問題にならない。しかし、魔法を使い過ぎると身体がそれ以上の酷使を拒否する様になる。これが、魔法師が恐れる突然魔法が使えなくなる『燃え尽き症候群』の原因だ。

 

極論になるが、魔法を使い過ぎた魔法師は背骨に普通の人並み歪みが生じる。ただ、かなり微妙なので整体すればすぐに魔法力が回復するとまでは行かない。

 

「そういえば、達也も深雪さんも綺麗な背骨をしとる。さすが兄妹やな!」

 

司波くんは平然と聞いていたが、司波さんは顔を赤らめて照れていた。

◇◇◇

 

本日、多量の外患誘致罪等と共謀罪等と懲戒請求が未成年中心に地検と各士業に送付された。

 

僕等の仲間は、その送り付けられた告発状等に対する反応を観察していた。外患に関する刑事告発状は現場レベルでの扱いは禁じられており、受理あるいは不受理さえも主務大臣までおうかがいを立てなければならない。それをしない検事正等は全部マークキングされた。

 

同様に、懲戒請求は相応の事由が認められれば速やかに受理され綱紀委員会等にまわされて調査を開始しなければならない。あるいは監督官庁は速やかに対処しなければならない。不受理や綱紀委員会に懲戒請求をまわすのをいたづらに遅らせたりした弁護士会等はマーキングされた。

 

これらの情報は、僕等のお互いに面識のないメンバーにも共有された。誰が潜在的あるいは顕在的敵工作員であるかの情報だ。

 

我国には今だにCIAや新KGBに相当する巨大諜報機関はない。しかし、日本の諜報は世界一だ。なぜなら諜報員が誰なのか誰にもわからないのだ。互いはもちろん本人も含んでいる。

 

巨大組織があれば組織を乗っ取れば戦力を簡単に削られる。だからCIAは常に防御に忙しい。それだけ要職を乗っ取られ易いのだ。

 

さて話を戻そう。同じ手法での「炙り出し」は、70年前にも実施された。興味のある方は『民間防衛の歴史』の昭和・平成編を参照すると良いだろう。

 

前回と違い今回は、未成年、小学生中学生高校が主体となって告発状を送付したのだ。

 

主なメンバーは、この『余命3年時事日記(ただし会員登録版)』を読んで、告発状や懲戒請求申立書の書き方や告発の仕方などを理解できた頭の良い子達だ。

 

明日には、ちょっとした事件となっているだろう。ただ、藤林さんが中心となった産業スパイの大量逮捕、拘束のほうが巷の話題になるかも知れない。

 

いづれにせよ、10月30日には世界はひっくり返える。

 

◇◇◇

 

「タッグネームは、何がいいかなぁ?」

『運転席』の主任がいきなり訊く。

 

「ダーティペア」

僕は、後ろの『座席』から即答した。

 

「違う〜!TACネーム*!」

 

*TACネーム(たっくねーむ)

航空自衛隊やアメリカ軍等において、航空機のパイロット(エビエーター)が持つ非公式の愛称。

通信時の便宜上のもので、短いほど良く、概ねアルファベット6文字以下が望ましいとされる。

 

正式なコールサインではないので、AWACSや管制塔との交信では使用されない。

命名も新人歓迎会などで適当に行われる事が多く、特に複雑な命名法則があるわけでもない。

実態は子供が友達同士で呼び合うあだ名と大差なく、ふざけた命名もしばしば為される。

一方で上官や先任による「添削」も行われるため、呼ばれる本人の希望が通る事はほとんどない。

 

俗に「格好良いTACネームはベテランパイロットの特権」とも言われる。

 

 

「セクシージャガー」

 

「もう。真面目に考えて!」

 

こっちこそ、主任に真面目に操縦して欲しい。一応、最新のリブートF35の飛行訓練中なのだ。それにしても飛行中の主任は自由奔放さが増す。まるで、『社会人になりたてのOL』(☜100年前にはそういうのが存在していたそうだ。)みたいだ。見たことないけど。

 

「師匠くんの考えておいたよ!」

 

師匠でいいんじゃないのか?一応は聞いておきますよ。

 

「『殿下』」

 

一高の元生徒会長で大量破壊兵器に応用できる理論を完成させた彼女はあなどれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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