意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編10

「よろしくお願いします!」

僕は、現場の関係者に丁寧に挨拶した。

 

「無料見学の「河原さん」ですね。こちらこそよろしくお願いします」

挨拶を返した人が僕をじろじろと見ている。

 

「『学生』とあったけどまさか高校生とは思わなかったよ!」

 

本日、横浜国際会議場では電気精密点検が行われる。僕は、電気保安組合の無料点検見学に参加している。

 

「高校で電気主任技術者か!凄いね。ところでどこの高校?有名進学校?」

この人は、お喋り好きのようだ。

 

「八王子の高校です。進学校と言っても東大に一人合格するのがやっとのレベルです」

 

「大したものじゃないか!ところで、どうしてここに?学校は大丈夫なのかい?」

にこやかに喋りながら探りを入れてくる。

 

「横浜国際会議場は、特別高圧受電設備なので見学したかったんです。今度二種を受験しようと考えていますので」

 

こう答えておけば、怪しまれはしない。受電設備や単線結線図や作業員をじろじろ見ていても不自然だと思われない。

 

点検自体は、無事に終了した。特に異常個所もなかった。怪しい人物も僕以外いなかった。

 

「復電します!」

作業員が大声を張り上げて停復電復帰を実行した。

 

反応がない。

 

「警報リセットしたか?した?仕方ない。手動で復帰しろ!手順確認!」

現場責任者が、テキパキと部下に指示をしている。その後、無事復電した。点検全行程終了だ。

 

自動停復電しなかった。シーケンサーの電源が落とされたのだろう。何者かが、侵入し操作した可能性が高い。しかも、あまりここの設備に詳しくない。

 

撤収準備が完了した時、現場責任者が僕に質問した。

「河原くん。どうして自動的に復電しなかったと思う?」

 

僕は、何者かが侵入し誤操作した事は省いて考えを述べた。責任者は、聞きながら頷いている。

 

「河原くん。八王子の高校って、もしかして…」

 

「はい。そうです」

 

責任者は、押し黙った。

 

◇◇◇

 

仕事が終わり横浜国際会議場から、急いで戻って来た。部活のためだ。

 

通称「一高前駅」でキャビネットから降りようとしたら西城くんと千葉さんに出会した。

 

(やっぱりお前らできてたんやな!)

 

(違う!違う!)

 

(照れるな。お似合いや!)

 

(うるさい!バカ。黙れ!)

 

とお互いに以心伝心したと思う。間違えているかも知れないけど。

 

◇◇◇

 

「師匠!できているか?」

部員達が見守る中、マイ『カウンタースイング』で素振りをして見せた桐原さんが問うた。この人、警護の仕事はどうしたのだろう?まあ、それは置いといてスイング自体は短期間に凄く上達している。何しろ、桐原さんが素振りに使ったのは上級者用のカウンタースイングだ。ゴマの部分が心棒から抜けるタイプなのだ。

 

「ええですよ。抜けたゴマが回転しないでその場に落ちたんが証拠です」

 

僕が答えると桐原さんは上機嫌になった。僕は、桐原さんから上級者用カウンタースイングを貸してもらって上段に構えた。

 

「ほんまは鞘に入った刀でやった方がええんですが」と前置きして僕は上段からカウンタースイングを振り下ろした。

 

ぼとりとゴマが、一歩踏み出した僕の背後に落下した。

 

桐原さんが目を見張る。

 

「次の課題は、これだな」

彼は呟いた。

 

「師匠。これで勝てるか?」

 

「魔法無しなら、負けはしません!」

 

上級者用カウンタースイングを僕の手から引ったくり、桐原さんは「よし!」と気合いを入れた。そして、部室から出て行こうとした。扉の前でこちらを振り返り、深々と一礼して部室を後にした。

 

「師匠、本当にこれで司波くんに体術で勝てるようになるんですか?」

白石くんが、疑問を投げかけて来た。

 

「勝てるとは言ってへん。負けんやろと言うただけや」

 

「「「えッーーーーー!」」」

 

僕は、司波くんに少林拳の暗勁を教えた。しかし、太極拳の□の動きを教えてない。一方、桐原さんには太極拳の□の動きを教えて、少林拳の暗勁は教えてない。

 

「でも、それでは九重寺から習っている司波くんの方が断然有利だと思いますが?」

 

「それは、大丈夫。あそこは、偽物とは言わんけど亜流や。別に止観や忍術をやらんと片手落ちや」

 

元々、九重寺は天台宗の分家だ。しかも、天台宗自体が解脱を目標としている。(ただし、天台の密教は今は即身成仏を実践していると聞いている。)それでは小成止まりだ。武術をやるからには大成(即身成仏)を曲がりなりにも目指すべきなのだ。

 

「小成(悟りを開く)と大成(仏になる)のは違うのですか?」

 

「あたり前田のクラッカー*!」

 

全然、ウケなかった。当然ではあるが。

 

「師匠。我々も大成できますか?」

僕のしょうもないギャクを無視して白石くんが真顔で尋ねた。

 

「小成は、間違いなし!」

 

「「「「おおーーー」」」」

 

部員は、盛り上がった。

 

「大成は、人による」

 

「「「「おおっ⤵︎」」」」

 

部員は、盛り下がった。

 

「小成した時に、自分がどこまで行けるかもわかる」

 

「「「「おお!?」」」」

 

部員の反応がマチマチとなった。

 

「次は、エア・ケイ*や」

 

今までは、丹田の□の動かし方を練習していた。今度は上・下の動かし方だ。特に↑の動きの練習だ。

 

僕は、部費で買った上級者用カウンタースイングをテニスラケットのように持って構えた。そして、飛んでくるテニスボールを打ち返すように移動してジャンプした。空中でフォアハンドした。カウンタースイングのゴマが心棒から抜けてその場に落ちた。

 

「□の動かし方で、②→と③←を省略した動きや!」

 

「こう?」

長岡さんが、カウンタースイングを手にした。予告なくその場で跳躍。空中で抜刀。そのまま静かに着地。

 

「「「「おお」」」」

 

「どう?」

 

「完璧!でも…」

 

「でも?」

 

「今のは、バックハンド」

 

「バックハンドって何?」

 

部員全員がその場でコケた。

 

*あたり前田のクラッカー

 

・1960年代のギャグ

調べてみてわかったが、平たく言うと「あたり前田のクラッカー」は1960年代のギャグ。ただ『クラッカー』が、食べ物を指すのか、パーティーの時鳴らすアレを指すのか、それともカチカチさせて遊ぶアメリカンクラッカーなのか、イマイチよくわからずに生きてきたのだ。

 

・スーパーで発見

偶然スーパーで「前田製菓のクラッカー」を発見したときはハッとした。なぜそれが「あたり前田のクラッカー」なのかわかったかといえば理由は簡単。詳しくは画像を確認してほしいが、パッケージに「あたり前田の」としっかり書いてあったのだ。マジか!『クラッカー』は食べ物だったんや!!

 

・「前田のランチクラッカー」を購入

さっそく購入して食べてみることに。正式な商品名は『前田のランチクラッカー』といい、当時まさに「あたり前田のクラッカー」としてCMでバリバリ放送されていたという伝説の商品である。見た目はいわゆるクラッカー。クラッカー以外の何物でもない、ド直球のクラッカーである。一口食べてみると……!

 

・シンプルなクラッカー

うむ、これもクラッカーである! クラッカー以上でも以下でもないクラッカー!! でもそれがシンプルでウマい! 派手な味を求める若者にはウケないかもしれないが、素朴な味を好み始める30代以上の人は高確率で好きな味! 

 

・素朴な味でウマい!

小麦の味が優しく、あれよあれよという間に気付けば何枚も食べてしまうような飽きの来なさ。シンプルな味だから、アイスクリームやハチミツ、ジャムなどと食べるのもオススメだ。初めて食べたけど気に入った! さすが半世紀続くロングセラー商品やで!!

 

私は120円くらいで購入したが、調べてみるともっと安く買えるお店もあるようだ。おそらく人生で100回以上は「あたり前田のクラッカー」と聞いてきたが、これでスッキリした!『クラッカー』は食べ物のことだぞ!! しかもウマいッ!! ここテストに出るから覚えておくように!

 

*エア・ケイ

 

錦織圭選手が打つ、滞空時間の長いフォアハンドのジャックナイフショットのことです。

 

テニスのジャンピングショットは、普通、後足でジャンプしますが、ジャックナイフは、逆の前足で飛んで打つことをいいます。

 

エア・ケイは、フォアのジャックナイフを打つとき、錦織選手の飛んでいる滞空時間が他の選手より異様に長く、飛ぶ距離も長いことから、空中に浮かんでいるようと言う意味の「エア」と名前「ケイ」で、「エア・ケイ」と呼ばれています。

 

 

 

 

 

 




YouTubeのクーニンTV「今年はアウトコースを流してホームランを打つ!そのための特訓なり!」でクーニン氏が、ロングティーに置いたボールを打ってホームランするのには驚いた。カウンタースイングの成果が現れている。

YouTubeで錦織圭選手のエアケイを解析した動画を見るとテニスラケットを彼が小さな予備動作で「抜刀」しているのが確認できる。テニスラケット版『カウンタースイング』の開発は可能だと思う。

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