意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編9

「でも食勁はまたの機会にしとこ。マスター!」

 

「コーヒーのお代わりでしょうか?」

 

「実家の『ロッテルバルト』のマスターに伝言頼むわ。10月30日の件や!」

 

こちらが、本題だ。情報屋を通じて横浜有事の日時が拡散される。我軍が、治安出動して実際に戦闘する前に民間の防衛行動がこれである程度格好がつく。本来なら、速やかに軍の防衛出動が行われるべきだが、敵は子飼いの政治家等を利用して軍の防衛出動を遅らせてくる筈だ。なので、実質総理の独断で発令出来る軍の治安出動にたまたま軍が重装備で出動し、敵攻撃力が予想以上だった為にそのまま防衛出動に移行したとする流れにしたい。

 

『治安出動(ちあんしゅつどう)とは、一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合に、内閣総理大臣の命令または都道府県知事の要請により行われる自衛隊の行動』

 

おそらく、県知事の要請は敵妨害工作でかなり遅れると予想される。そこで総理の命令による軍の治安出動になるだろう。

 

ちなみに『防衛出動(ぼうえいしゅつどう)とは、日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態、もしくは、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して、日本を防衛するため必要があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、我軍の一部または全部が出動すること。一種の軍事行動と解される。ただし、戦時国際法上の宣戦布告には該当せず、自衛権を行使することはできても、交戦権は認められない。

 

防衛出動は、自衛権行使の一態様であり、現行法で最もハイレベルの防衛行動とされる。防衛出動には「国会の承認」が求められるなど、様々な制約がある反面、武力攻撃を排除するため、自衛権に基づき必要な「武力の行使」が認められ、多くの権限が定められるなど、内閣総理大臣の指揮監督の下、我軍の幅広い活動を可能にする』

 

防衛出動は、敷居が高く過去にも我国が敵の攻撃に後手を踏んだ苦い経験がある。上記の「国会の承認」が厄介なのだ。

 

決断した総理が、後から責任を追及されて辞任に追い込まれるのは避けたい。悪しき前例があると今後、総理の決断が鈍るからだ。

 

「師匠。それらも『実家』からの指令なのか?」

 

「風間さんや佐伯さんの指令ではないな」

 

実は、この件とは違うことで多少腹を立てている。風間さんは、司波くんの警護をわざと薄くしている。どこの誰が彼を襲うかあるいは尾行するかを見張って情報収集しているからだ。しかし、今はどこが攻めてくるかよりもどの様に完全勝利するかが重要なのだ。

 

「それくらいわかっている」

 

どうやら、司波くんが僕の感情を読んだらしい。僕が彼の心を読むのを彼の目の前で実演しただけで彼はほぼ同じ事をして見せた。

 

「大人なんやな」

 

「そうでもない」

 

もう少し本音を書くと、敵は本気で司波くんを狙って来た。しかも彼の弱点を突いて来た。一回目は本当に危なかった。今回も彼一人を殺す為にミサイル飽和攻撃をすれば目的は達成された。敵は、軍そのものを利用せずに彼に個人的に恨みを持つ組織を利用して暗殺を試みた。

 

だから、僕も彼もこうして無事にいるだけだ。しかし、それはたまたまそうであっただけだ。風間さん達は、確実にそうであると確証があって彼の護衛をルーズにしているわけではない。

 

お陰で、敵である大亜も作戦立案力がないとわかった。戦争に勝ちたければ、敵の切り札を抑えなければならない。それが適わないなら戦争は避けた方がいい。

 

今の時点で、大亜の勝ちは完全になくなった。本格的な武力衝突が起きる前に必ず勝てる環境を整えなければ負ける確率が高くなる。中国の兵法にも書かれているはずなのだが。

 

僕の『実家』と『山』の親書はそれなりに効いた。中国の中枢は、今回の大亜の横浜上陸作戦を見放している。そうであるから、このようにツメの甘い作戦を継続している。

 

ならば、こちらは、殲滅作戦を展開出来る。上陸した敵は全てテロリストあるいはゲリラとして全員殺せる!否‼︎全員殺さなければならない。テロリストとテロリストに加担する者は容赦なく殺すとアピールしなければ日本はテロリストとテロリスト支援者に優しい緩い国とみなされてしまう。

 

前回と前々回そうしなかったので敵は懲りずにやって来たのだ。

 

多少、話がずれてきたようだがこの完全なテロリストの『殲滅』には司波くんの魔法が是が非でも必要なのだ。なので、司波くんにもしもの事があればかなりマズイ事になる。意外なことに佐伯さんも風間さんも、そして司波くん自身もそれに気づいてない。しかし、間違いなく、司波くんがこの戦いの『核』なのだ!

 

「師匠、何かかなり複雑な思考をしていないか?」

 

司波くんは、僕の心を読もうとしたようだ。それでは、逆に読みづらくなる。

 

「達也。外患誘致罪って知っとる?」

 

『(外患誘致)

 

第81条

外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。』

 

司波くんは知っていた!

 

『解説

 

外患誘致罪は要するに、日本国を裏切る行為である。法定刑は死刑のみである。』

 

それも、かなり詳しく。

 

「今だに、外患誘致罪で死刑になった者はいないがな」

 

「その通りや。そやけど、敵工作員や売国奴への脅しにはなる。それと炙り出しや」

 

司波くんは、僕が言わんとしている事がわかっていても迂闊な言葉を口にしない。おそらく、彼の「実家」はこれらの活動に関与している。

 

「炙り出された者は、『民間』が処理する。知っとるやろ?」

 

司波くんは、小さく頷く。彼の武術の師を思い浮かべながら。司波くんの武術の師は『必殺!仕事人』の一味らしい。僕も彼等の系統は知ってはいるが、まあ何というか、忍びの技術は大したものだが…武術は…良く練習しているなと言っておこう。

 

「ところで、誰が告発するんだ?まさか、全部師匠がするつもりなのか?」

 

「知り合いにやってもらう」

 

獲物を取り逃がして落胆した千葉さん達が『アイネブリーゼ』に戻って来た。

◇◇◇

 

『あんた!何送ったの?』

 

「貴重な金属」

 

端末の向こう側にいる美波ちゃんの友達が笑い転げている。「美波の元カレサイコー!」「マジ、ヤバイって!」等と盛り上がっている。美波ちゃんは、ギャル系の友達が多いようだ。スクールカースト上位に入れた?

 

「アンティナイトは、貴重や。今からその金属のキャストジャミングに慣れといてくれ!」

 

『何があるの?』

 

「美波が心配なだけや」

 

彼女の友達が、はやし立てる。「美波、モテる〜!」「今彼どうするの?」言いたい放題だ。

 

『ありがたく頂戴しておくわ!』

 

「美波。10月30日の件頼んだぞ」

 

『わかった。横にいる彼女にもよろしく伝えといて!』

 

美波ちゃんは、そう言って回線を切った。

 

「彼女。凄いね」

言葉を発しないどころか、気配も消していたのに気づかれた『少佐』こと、吉田摩耶嬢は感心した。

 

「さすがはあなたの開門弟子ね」

 

『少佐』は、師弟関係が濃密な程、弟子の進歩が早まり易いのをわかっていた。なので、夏休みの後もこうして時間を空けて僕の住処に尋ねてくる。その甲斐あって、九校戦が始まった時は幼児体型(というかより幼女そのもの、お陰でカーディナル・ジョージと仲良くなれた。)が、今は少女体型になっている。

 

誤解のないように書いておくが不純異性行為をして彼女が女になったのではないと改めて強調しておく。

 

少佐、キルドレ脱出までもう少しだ!ジョージは、成長した彼女の姿に落胆するかもしれないが。

 

「大丈夫なの?こんな情報だけで外患罪の刑事告発をして」

 

「かまへん!80年前にも同じことやった集団がある」

 

少女隊じゃなかった少女体型の少佐は、釈然としない。

 

『告発する権利がある者

 

何人でも、犯罪があると思うときは、告発をすることができる(刑訴法239条1項)。』

 

「犯罪があると思ったら告発出来るんや!捜査するんは検察や警察や憲兵の仕事や」

 

売国利敵行為をしている敵工作員は、告発されたところでその反日行為を止めはしない。しかし、軽い気持ちでそれに加担している馬鹿者は外患罪で告発されたと知れば行動を自粛するようになるし反日工作員を関係を断ち、場合によれば当局にチクってくれる。己が身を守らんために。

 

少なくとも、総理の軍への出動要請にごちゃごちゃ文句をタレる売国奴への抑止力にはなる。

 

80年前の朝鮮半島有事前後に起こったことだが、今回もそれを再現したい。その為に、ネットに外患誘致罪や共謀罪での刑事告発の仕方を丁寧に解説したサイトを立ち上げてもらった。少佐達にも協力してもらっている。

 

ネットに転がっている膨大な情報から、売国利敵行為と思えるものを丁寧に拾い出した。官報や国会答弁まで引っ張ってきた。『少佐』の部下は良い仕事をしている。

 

 

 


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