意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編8

予想外の事態だ。とはいえこれは僕にとって都合がとても良い。

 

最初は、気のせいかと思った。ほとんど喋った事がない市原さんが核融合について語っている夢を見たのが最初だ。

 

次は、座禅中に狙撃される雑念だ。バイクの運転中と感じた。そこでおかしいと思った。これは、自分自身の記憶でも体験でもないと。前世にも心当たりがない。司波くんが狙撃されたと後から聞いて、もしかしてと思った。

 

その次に座禅中に出てきた雑念は、狭い部屋で七草さんと一緒だった。そこで、この記憶は司波くんのものだと確信した。しかし、必要に迫られて観ているわけでもないのに急に彼の体験が何故見えるようになったのだろうか?

 

その次の座禅中に出てきた雑念は、小野さんに違法なお願いをしているものだった。

 

以前、司波くんを観たときに彼は脳の情動を司る箇所に魔法的(?)な処理をされていて情動がほとんどないとはわかっていた。しかし、彼の心はそうではなく健康な男子だとこれらの雑念でわかってしまった。彼は、自分の目の前にいる女子をくまなく観察していたのだった。

 

おそらく、これが彼に関わる女性を舞い上がれせてしまう原因の一つだ。自分の隅々まで見透されてその感覚を『愛情』によるものだと勘違いしてしまうと思える。

 

あとこれは全くの蛇足だが、五十里さん(♂)を意外にも司波くんが意識しているのは驚いた。五十里さんは、所謂男の娘ではないが、同性の友達が少ないのが悩みらしいくらいに同性から敬遠されているレベルに中性的だそうだ。白石くんから教えてもらった。

 

◇◇◇

 

「師匠は、行かないのか?」

司波くんを尾行している不届き者を捉えんとして全員アイネブリーゼから出てしまった。

 

「もし、俺が大亜やったら達也が一人になったところでミサイルを打ち込む」

 

「俺を狙っているのが大亜と断言できる理由は問わない。だが、師匠はミサイルを防げるのか?」

 

「今はできへん。そやけど、迎撃してもらうんはできる」

 

司波くんが、僕の「今は、できへん」に突っ込んで来るかと思ったが、彼は話題を変えた。

 

「最近、何か変わった事はないか?」

 

「頭良さげな美人さんから、壮大な夢を聞かされたり、いけすかん女から、無茶な仕事を押し付けられたり、可愛いお姉さんから言い寄られたり、巨乳姉ちゃんを言葉攻めしたりするよう分からん記憶が出でくるんや!」

 

婚約者がいる男の娘とか、ロケットスクーターに乗ったストーカーの話は省いた。彼の周りは本当に個性的な人達が集まる。

 

司波くんの眉間に皺が寄った。情動もリビドーもなくても多少ギクリとしたようだ。

 

「達也も、何か変わった事あるんやろ?」

 

「時折、光が見える」

 

「そんで?」

 

彼は答えを渋った。しかし、

 

「参ったな。正確に言うと光り輝く天照大神や仏やキリストが見える」

 

司波くんの心に移る『本当の僕』はそういう風に見える。

 

「そりゃ、天の本当の『俺』やな」

 

司波くんが溜息を吐く。どこまで本気なんだコイツは?と思っている。全くの本気で正気です!我は救世主見習い也!

 

「そんなんは、どうでも良い事や。それより、何で急に見えるようになったかや!」

 

「心当たりがあるのか?」

 

この現象は、僕が司波くんに『再生』してもらってから起きている。彼が『再生』魔法を起動する際に対象となる人物の肉体情報をほぼ把握してから事象改変、つまり『再生』する。何回もこの魔法を行うのだから彼が一々『再生』した人物の情報を覚えているわけがない。しかし、特に印象深い場合はどうだろう?

 

例えば、その人物が一生かけて守るべき対象となっているとか、普通の人間とは明らかに違う場合だ。このようなレアケースでは『再生』した者と『再生』された者に何らかのチャンネルが開かれてしまう可能性がある。興味ある情報は、無意識に覚えてしまうだろうから。

 

司波さんの極端なブラザーコンプレックスは、これが原因ではないだろうか?座禅中に浮かぶ雑念に司波くんの記憶が出てくるのもこのチャンネルの所為だろう。

 

司波くんは、僕が彼の妹を『再生』したのを言い当てたのを聞いて警戒心MAXとなった。でも、そんなことはお構いなしだ。

 

「すまんが、今のところすぐに治す方法は思い当たらん。出来るだけ見んように努力はする」

と、言ったところで司波くんの態度は頑なままだった。僕が彼のプライベートを見れるのに彼は僕のプライベートを見れない。そこで、切り札を一枚。

 

「このままやと不公平や。俺の実家を伝えとく。手貸してくれ」

 

僕は、司波くんの手のひらに平仮名で文字を書いた。

 

「…」

司波くんは、無反応を貫いた。さすがだ。もしかしたら、調査済みだったのかも知れない。これでお互いの実家をお互いに知った事になった。僕も司波くんも家の事情に縛られて生活している。しかし、これでも足りない。僕は、出来るだけ見ないようにするが見えた情報は活用するつもりなのだから。

 

「それと、これはサービスや。よう視とき!」

 

僕は、イスから立ち上がった。

 

姿勢を正してから肩幅の二倍弱程度に両足を開いた。その時に両拳を上向きにして両ウエストに添えた。左足を前に出す。真上から見たとしたら僕の足は正方形の頂点に位置している。頭は対角線の交わった点にある。

 

「極端に背筋を真っ直ぐにするわけではなく、かと言って背中が曲がっているわけでもなく、体重は左右均等に配分して、骨盤が捻れないようにして、両肩と骨盤を水平にして…」

 

「師匠。それは何だ?空手の構えに似ているが」

 

「少林拳の暗勁」

 

「!」

 

「身体を中庸に、極をなくして…。ほんのわずかな『意』で」

 

ズン!左足が一瞬前方にスライドして元の位置に戻る。

 

続いて、ズンズンズン。

 

「わかった?」

 

「ああ」

 

発勁。特に暗勁は、男のロマン(?)だからもうちょっと大袈裟に喜んでくれるかと思ったが、司波くんは相変わらずのポーカーフェイスだった。しかし、振動系魔法をフラッシュキャストで運用しているのではないとハッキリわかってくれたようだ。彼の心が良くわかるのはこういう時には便利だ。

 

「想像していたのとは、違った」

 

司波くんは、独り言のように呟いた。彼がイメージしたのは、陸奥圓明流だった。

 

「それは、漫画!(`・ω・´)」

 

百年前の漫画だが、今だに武術武道系の漫画はあのレベルを超えられない。漫画家が武術を習うか武術家が漫画を描けば良いだけの話なのだが、武術を習った人は何故かあまりその技術を語りたがらない。

 

なので、今でも暗勁の練習は陸奥九十九が作品の中でやっていたようなぶら下げた布(布団でも構わない?)を大きく動かさないで何とか威力を伝える練習を何年もする荒唐無稽な都市伝説が一部で信じられている。

 

ただ、困った事に外見上は全く同じ練習法があるので誤解が解かれる事はこれからもないだろう。

 

「質問があるのだが」

 

「何でも聞いてや!」

 

「どうやって使うんだ?まさかその格好のまま敵に突っ込むわけはないだろう?」

 

「そうや。勁がわかった後は、こんなのもある」

 

僕は、空手の正拳突きを繰り返すような動きをしたり、敵に攻撃を跳ね上げて落とす動きをしたり、横に反らせたりする動きをしてみせた。

 

「言っとくけど、こんなん最初の勁が出来へんかったら使い物にならん」

 

「だろうな。それと軽くで構わないから打ってくれないか?」

 

さすがは、司波くん。百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。技は実際に掛けてもらうのが習得の為には、一番の近道となるのだ。良くわかっておられる。

 

 

 

 

 

 

 

 


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