意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

85 / 115
10月31日を10月30日に訂正。


横浜騒乱編6

「師匠は、『エメラルド・タブレット』*について何か知っているのか?」

司波くんが、尋ねた。

 

「錬金術でもやるんか?この前、『賢者の石』を気にしとったな」

僕は、説明する。そもそも、錬金術はメタファーだ。鉛を金に変える技術と称して人を神に変える密儀を保存しているだけだ。(卑金属から貴金属を生成するのは現代化学で可能だがコストがかかりすきる。古代の錬金術でそれも可能ではあるが、その話はここではしない。)しかもその内容はすでに公開されている。解釈は一般化してないが。

 

「どこに?」

表情は変わらないが、少し驚く司波くん。

 

「仏教経典には露骨に書いとる。般若心経もそうや」

 

司波くんは、今一つ納得出来ない様子だった。この前、『空』についてあるいは賢者の石について彼に説明したが本当は納得出来なかったのだろう。というか、彼は、物資的な賢者の石やエメラルド・タブレットが存在して欲しいのだろうか?

 

「エメラルド・タブレットでなんかしたいんか?」

 

司波くんは、少し考えてから説明し始めた。

 

「重力制御型熱核融合の可能性を考えている」

 

「加重系魔法の三大難問の一つやな」

 

確かに、重力制御魔法で核融合を維持する方法についてはトーラス・シルバーが飛行魔法を実用化したのでその応用で重力制御をすれば目処がついたと言える 。

 

変数をわずかずつ変更しながら重力制御魔法を連続発動するノウハウは飛行魔法の実現によって安全確実となったからだ。

 

「その通りだ。だが魔法師がずっとついていて魔法を掛け続けなければならないのでは意味が無い。それでは魔法師が核融合炉のパーツになってしまう」

 

「話に水を差して悪いんやけど、電力は余っとるし、資源も余っとる。そんで核融合発電まで開発する必要あんの?」

 

僕は、日負荷曲線を見せた。日中の電力需要は大きいが夜間は激減する。夜間に電力が余り送電端より受電端の方が電圧が高くなってしまうフェランチ現象があるくらいだ。ちなみにこの対策は発電所の発電機の界磁電流を小さくして進相運転させたり需要家の力率改善用のコンデンサを解列…やばっ!危うく思考が脱線するところだった。若干の軌道修正。

 

昔はベースロード発電所に原子力発電や石炭火力発電を使い、日中の重負荷時に揚水発電や汽力発電を起動していた。当時は、このベースロード発電を出来るだけ安くする需要があった。しかし、原発のコストが意外に大きく国防(核兵器開発等)の為なら原子力発電所をたくさん作る必要はないと明らかになった。

 

 その上、電力保存技術の進歩に伴って不安定とされる再生可能エネルギーによる発電、太陽光や風力などの発電でも電力安定供給可能となった。しかも、シェールガス革命から始まったガスやオイルの価格破壊で巨大電力会社による発電、送配電の拡大は需要家(コージェネレーションがその発端)や新電力会社による自家発電に取って変わってしまった。

 

「師匠は、電力供給に詳しいのだな」

 

しまった!余計なこと言い過ぎだ。司波くんを不機嫌にした。

 

「と言うても、宇宙開発とか核融合発電は開発者の夢やな!達也のことやからほんまは核融合の可能性やなくて実用化を考えとるんやろ?」

強引に話題を元に戻して司波くんに迎合する意見を述べた。

 

「優秀な魔法師の代わりをしてくれるハードの可能性を考えている」

機嫌を直した司波くんは、重力制御をする魔法師の代行をする機械を作りたいようだ。

 

「それなら、ぎょうさんおる『優秀でない魔法師達』に代わりをさせたらええやん?アダム・スミスが国富論を書く前から日本は分業しとったし」

しまった!また司波くんの機嫌を損ねた。すぐに訂正せねば。

 

「まあ、これは少数の魔法師からたくさんの魔法師の部品化になっただけやから根本的な解決ちゃうな」

 

「俺は、ハードによる魔法式の保存を考えている」

司波くんの機嫌は戻った。

 

「それなら、サイオンを貯めるアキュムレータとか式神を使うとかなら吉田くんに頼んですぐに実用化…」

再び司波くんの機嫌を損ねた。司波くんの情動はほとんどないのだが心の反応は妹の深雪さんと同じように目まぐるしく変化する。そっくりな兄妹だ。お似合いと言える。

 

愚痴ってる時間はない。すぐに達也坊ちゃまのご機嫌を取らなければならない。

 

「まあ、これらも形を変えた魔法師の部品化やな。あかん。万策尽きた。ギブアップや!」

 

「動かすには魔法師が不可欠、しかし同時に、魔法師を縛り付けるシステムであってはならない。その為には魔法の持続時間を日数単位に引き伸ばすか、魔法式を一時的に保存して魔法師がいなくても魔法を発動できる仕組を作り上げるかだと思う。俺は、安全性を考慮して後者を選んでいたが、師匠のように前者を選ぶのもありだと思う」

 

司波くん、大人!自分と異なる意見にもしっかりと耳を傾けているね。

 

ただ、『エメラルド・タブレット』や『賢者の石』はこの世にはないぞ。

 

「あの世にあるんや」

 

「?」

 

「『空』を観ずるようになって、あの世が観えるようになったらわかる。達也ならすぐや!」

 

「俺は、師匠みたいな生き方はできないよ」

司波くんが、苦笑いをしている。

 

おお!さすがはお兄様。僕が意外にに利他的な菩薩行的に生きているのに感づいている。ならば、愛する妹の為に生きている司波くんの為にサービス!サービス↗︎

 

「ええ事教えといたる」

 

般若心経を読むと観自在出来た人物は、『空』を観ずると菩薩行に邁進し如来になると思ってしまう。しかし、実際は観自在が出来てもすぐに利他的な生き方が徹底されて行くわけではない。むしろ、『空』を観る能力を自分本位に使う人物は多い。山にこもって修行を始める人物は極少数なのだ。

 

「では、どうすれば『空』が観えるようになる?」

 

「現代魔法理論をいったん全て忘れて観ることや」

 

抽象的な物や現象は、予め先入観(この場合は「現代魔法理論」)を持って見るとそのように見えてしまう。先入観無しで観るのが良いのだ。

 

おっと、司波さんが近づいて来た。

 

「ほんなら、10月30日の件。よろしく!」

僕は、伝えたいことを言い終えて図書館の地下二階資料庫を出た。二人のラブラブな時間を邪魔するつもりは毛頭ない。僕は利他的なのだ。

 

「お兄様 、いらっしゃいますか?」

 

背後で司波さんの声がした。

 

*エメラルド・タブレット

 

 

エメラルド・タブレット(英: Emerald Tablet, Emerald Table, 羅: Tabula Smaragdina)は、錬金術の基本思想(あるいは奥義)が記された板のこと。エメラルド板、エメラルド碑文とも。 ただし、現存するのはいずれもその翻訳(と称する文章)だけで、実物は確認されていない。

 

概要

 

伝説によると、この碑文はヘルメース自身がエメラルドの板に刻んだもので、ギザの大ピラミッドの内部にあったヘルメス・トリスメギストスの墓から、アブラハムの妻サラあるいはテュアナのアポロニオス(英語版)によって発見されたものであるという。あるいは、洞窟の中でエメラルドの板に彫りこまれたのをアレクサンダー大王が発見したともいう。

 

12世紀にアラビア語からラテン語に翻訳されて中世ヨーロッパにもたらされた。最初期のラテン語訳には、セビリャのフアン(en:John of Seville)によって翻訳された偽アリストテレスの『秘中の秘』(1140年頃 en:Secretum Secretorum)に含まれるものや、サンタリャのウゴ(en:Hugo of Santalla)によるものがある。17世紀のイエズス会士アタナシウス・キルヒャーによる訳が広く知られている。パラケルススは、シュポンハイムの僧院長ヨハネス・トリテミウスが父ヴィルヘルムに贈ったエメラルド・タブレット(診療室に貼ってあった)を見て育ったという。

 

これに記されたうちで最も有名な言葉は、錬金術の基本原理である「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」であろう。これはマクロコスモスとミクロコスモス(大宇宙と小宇宙)の相似ないし照応について述べたものである。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。