意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
「『フリチン打法』もそうやけど…」
身体を回転させるとき、太極拳歩きでは身体の向きを変える時に身体の中(丹田と敢えて言わない)をまっすぐに動かす。絵で描くと
①↓
②→
③↑
④←
となる。④で元の位置、つまり①のスタート位置に帰って来る。
『フリチン打法』で説明すると①でボールに向かってステップする。(ステップをしない打法でも構わない。)②でバットをボールに向かって振り始める。③でバットとボールが衝突する。④でバットを振り切る。ちなみに②の終わりにチン◯が内腿に当たるから『フリチン打法』と呼ばれる。
結論から言うと丹田がわからないとできないのだが、出来てしまうと丹田がわかっているとも言える。また、上半身のバットを振る動きは上記と少しずれていても構わない。
僕は、かなり詳しく説明したつもりだったが、野球経験者がこの場にいないのでみんなの心に映らない。特別ゲストの桐原さんも頭を抱えている。野球の経験もチン◯もない長岡さんはできた。さすがだ。
で再び太極拳歩きで説明する。①で踏み出す方向に身体を回転させながら踏み出す方向に足を出す。②で着地した足に身体が向かう。③で後足を引きつける。④後足が前足を追い越して今度は前足として踏み出す。この時に身体の向きを変える。
太極拳歩きは、すでに有名な練習法になっているので興味がある方はネットで閲覧すると良いだろう。
なので、桐原さんをはじめ全員がわかると思ったのだが、再び長岡さん以外は全滅だった。桐原さんは明らかに動揺している。「可愛い一年生でもできているのに俺は…」とでも考えているようだ。ご安心ください。桐原さん。長岡さんは特別ですから。極一部で「毒手京」と恐れられているくらいだ。
では、最後の説明。これでわかるはず。
「おんなじ方法で次は『太極拳腕回し』」
これで、大丈夫。
①で腕を下に動かす。ただし腕は円運動する。
②腕を横に動かす。ただし腕は円運動で。
③腕を上に動かす。ただし腕は円運動で。
④腕を横に動かす。ただし腕は円運動で。
丹田は□に動かす。腕は◯に動かす、だけだ。この練習法もネットにアップされているから興味がある人は閲覧してみよう!(陳氏太極拳では纏絲勁訓練として有名みたいだ。)
「出来た様な気がする…」
桐原さんが溜息をつく。少し安心したのだろう。長岡さんは、よゆーで腕をぐるぐる回してながら下丹田を□に動かしていた。両腕も動かして雲手までやっている。完全に掴んだのだろう。
僕は、長岡さんに姿勢を高くして立ってもらい、彼女の背中に僕の腕を回して(エロい事考えるなよ!技の説明をしているだけだ。)少し押した。もちろん、この程度では長岡さんはビクともしない。そこで背中を押しながら、①↓②→③↑とした。
「おッ!」
彼女が少し驚いた。③で踵が浮き思わず一歩前に足を出してしまったからだ。
「わかった?」
僕が尋ねると彼女はサムアップして見せた。武術の最中は彼女の少女漫画的天真爛漫的スマイルは出ない。
同じ事が出来るか試してもらう。桐原さんに軽く踏ん張ってもらった。真顔な長岡さんが桐原さんの背中に掌を引っ付けた途端に①②③④!
「ゴッはぁ?!」
言葉にならない声を上げて桐原さんは前方に吹っ飛んだ。
「なんだ!今の?重力系魔法か?」
桐原さんは、頭をひねった。あれだけ前方に景気良く吹っ飛ばされたのにタフな人だ。
「ちょっと良い?」
長岡さんが、手招きしている。
「師匠。もしかしてタイチの掌門?」
「掌門ちゃうよ。それレベルに習ろたけど」
「わかった」
僕達が真顔で密談するのを部員達は、極自然に聞かないようにしてくれる。しかし、桐原さんはそういうのに慣れてない。
「長岡姉さん、もう一回やってくれ!」
長岡姉さん?そう言えば、桐原さんは司波くんを司波兄と呼んでいた。司波兄妹の区別をわかりやすくする為にそのように呼んでいるのだと思っていたが、そうではなかった。彼は根っからの実力主義者だった。
何回か、吹っ飛ばされた桐原さんに休憩を勧めた。心身を休めたほうが新しい技術は習得しやすいからだ。
「師匠。これを見て欲しい」
休憩中のはずの長岡さんは、馬歩の状態から何かを掲げてる感じで左右に上半身の向きを左右に変えてその何かを置く動作を繰り返した。
微妙に□に丹田を動かしている。
「それは?」
「眼鏡屋が、仕事中にしてた練習」
眼鏡屋?程廷華のことか!
黙って頷く長岡さん。
「ずっと、上手くできなかったの。師匠ありがとう!」
彼女が微笑んだ。屈託のない笑顔だ。部員達の緊張が解ける。無口の長岡さんは怖い。狼や虎が静かに佇んでいる雰囲気なのだ。
あれッ?長岡さんは、程派も習っているのか?宋派だけでなく。
「程派を習ったんなら太極拳も習ったんちゃうの?」
「うん。習った。太極拳は、友達が出来ると言われたし」
太極拳は本来、天の気が入って御天道様みたいになって行く。なので、周りに人が集まって来るようになる。ただ、天の気を入れる感覚がつかめないので地の気を入れて太極拳を練習する傾向が強くなる。そうなると練習しても太極拳が上達しない。太極拳を練習する人はこのことを留意した方がいいだろう。
「前から、気になっていたんだけど」
涼野さんが、珍しく質問してきた。
ネット情報などでは八卦掌の歴史は、だいたい以下のごとくだ。
『武術の中でも歴史は浅いほうであり成立年代は19世紀の前半(清朝後期のころ)と言われており、創始者は紫禁城の宦官であった董海川とされる。当時、董海川自身が「八卦掌」という名称を用いていたかどうかは定かでなく、その名称自体は後世になってから定着したものと考えられる。董海川は後に粛親王府の護院の長となったと伝えられているが、確かな記録はまだ見つかっていない。』
「宦官になったら、武術は無理だと思うの」
「その通りです!」
思わず標準語で明言してしまった。隣で長岡さんが頷いている。
では、なぜこんな話がまことしやかに語られているのか?
それは、八卦掌が門に入っている者とそうでない者とを区別しているからだ。そうでない者には、董海川の逸話を師が語ってくれない。そこで、他門派で特に八卦掌が嫌いな者が流した捏造話が流布している。八卦掌の門に入っている者はその捏造話を放置しているのだ。事実を知っているかどうかで八卦門の内か外か容易に区別出来るからだ。
「八卦掌って、嫌われているの?」
驚く涼野さん。
はい、そうです。その証拠の一つは、流布している情報からもうかがわれる。
『八卦掌の門派は甚だ多い。 その理由としては、董海川の元に集まった各地の達人たちに対して、董海川は各達人がそれまで学んできた武術にあわせて教授した点が挙げられる。よって、投げ技が主体の門派や打撃が主体の門派など、門派によって動作に大きな違いが見られる。
開祖の董海川の門生は(以下、董海川の墓碑に記載のある順に)
尹福(大弟子、呼称『痩尹』)、馬維祺(呼称『煤馬』)、史計棟(呼称『賊腿史六』)、程廷華(呼称『眼鏡程』)』
☝︎大名人の通り名が「痩」とか「煤」とか「賊腿」とか「眼鏡」とかあり得ない。「エルフィン・スナイパー」とか「クリムゾン・プリンス」とか「カーディナル・ジョージ」とかと比べたり「神槍李」(八極拳)とか「楊無敵」(太極拳)と比べてみれば一目瞭然だ。
「でも、どうして尊敬されてないのかなぁ?」
至極当然の疑問を抱く涼野さん。
「八卦掌は、地の気をぎょうさん入れるし、黒社会で使われとるし」
「師匠!その話、詳しく教えてくれ」
休憩中の桐原さんが食いついてきた。
八卦掌は、比較的早く使えるようになる武術の一つなので要人警護や黒社会で重宝されているのだ。ただし、長岡さんのように全部習っている人の方が部分的に習っている人よりも優位に立てる。なので、本気で取り組みたいなら全部習った人に習うほうが良い。
黒社会の方が実は貴重な技術を大切に継承していると信じている人が意外に多いが、八卦掌を全部習えば人殺しに興味が失せてしまう。なので、彼等は最後まで習っていないのだ。毒入鉄沙掌は、最後のほうに習う。その点だけでも、最後まで習った者にそうでない者は不利になる。
ただ、八卦掌は地の気が優勢になりやすいので天の気を入れる対策をした方が良いだろう。ボッチが好きなら気にする必要はないが。ちなみに、定式八掌や64掌には天の気が入りやすい動きがある。
「姉さん。お願いします!」
早速、桐原さんが長岡さんに頭を下げている。
司波くんに遅れを取った人は、心のモヤモヤに悩まされる。司波くんが十師族と公言すれば諦めもつくだろう。しかし、司波くんはただの魔法科一年しかも二科生だ。さらに多くを語らない。森崎くん、服部さん、桐原さんは今後の人生が大変になりそうだ。司波達也の亡霊に常に悩まされるのだから。司波くんよりも強くなりたければ、いくらでも相談に乗りますよ!
アカン、肝心な事忘れとった。
「桐原さんの父さんは、確か海軍の…」
アマゾンのキンドルを検索してて驚いた。中国語版の「劣等生」が販売されていたからだ。正式に許可を取って販売しているのだろうか?
魔法科高中的劣等生. 2 Kindle版
佐岛勤 (著)
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