意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編4

大黒特尉暗殺を阻止した日の夜、風間少佐から連絡があった。僕は、陸軍技術准尉に昇進したそうだ。戦死したのだから二階級特進は当然なのかも知れないが、随分と褒められた。魔装大隊は司波くんの護衛を本格化するそうだ。引き続き僕も参加要請された。ただし、今まで通り単独行動で良いとの事だ。

 

司波くんの護衛も大切なのだが、佐伯さん達の本音は、司波くんを使えない時の保険が欲しいのだ。もっとはっきり言ってしまえば、司波くん独自の魔法をコピーするか同じ効果を持つ魔法を開発したい。僕の単独行動が許されているのはそういうことだ。

 

司波くんと僕はアプローチの仕方は違うが、一回体験すれば完璧とは言えないまでもコピーはできる。今回の暗殺未遂事件で僕は彼の「再生魔法」をコピーできる目処が立った。一方で、司波くんは時空を超えて意識体を移動させられるようになるだろう。

 

前者については、佐伯さん達は喜ぶ。しかし、後者については司波くん達は喜ぶが佐伯さん達は彼がこれ以上強くなるのを嫌がる可能性がある。ただ、僕は彼から彼の技術を学んだのだから、僕の技術を彼に学びやすい形で提供しなければ仁義に悖る。そういうルールなのだ。

 

暗殺者はどうせ旧人民解放軍のその筋のトップクラスあたりだろう。殺気の全くない状態から銃器を隠したままでの正確なヘッドショットだ。敵は、凄腕の魔法師を凄腕の非魔法師の命をかけて潰すつもりだったのだろう。

 

あれ以上の技量は、存在し得ない。一方、司波くんは一回経験すれば二度と遅れを取る事はない。単独犯で実現可能な残りの手段は超長距離の狙撃位しか残ってないし頭以外なら撃ち抜かれても司波くんは即座に復活出来るのだから頭部のガードに気をつけてさえいれば今後問題ない。

 

巻き添え覚悟のミサイル攻撃や爆弾テロも考えられるが、軍がしっかりと情報収集してくれれば暗殺を未然に防げる可能性が高い。一応、この対策も考えておこう。これらの攻撃は司波くんの振動系の魔法の応用で充分対応出来ると思われるが。ファランクス等を使わなくても。

 

◇◇◇

 

「司波くん、師匠くん、チョッと良いかしら?」

元会長の七草さんに声をかけられた。暗殺未遂事件の翌朝だ。チョッとも良くないと答えたらこの人はどんな顔をするのか気になったが、そんな意地悪をしても仕方ないので止めておいた。

 

「良い?二人とも隠し事は出来るだけしないでね!」

 

「可能な限り情報開示に努めます」

司波くんが、いつもの様に感情の起伏なしに答える。

 

「前向きに検討させて頂きます!」

僕は政治家の模範的な回答をハキハキとした。「じゃかましいわ!ボケ‼︎」などと粗野なことは言わないのだ。

 

元会長は、膨れっ面を作り、

「もお」

と少し怒って見せた。しかし、しっかりと自分を可愛く見せている。この人は自分が司波くんに惚れている自覚がないままこんな振る舞いをしているのだろうか?ムダアピール?

 

昨日の暗殺未遂事件をどの程度元会長が把握しているのかわからないが、僕を「河原」ではなく「師匠」と呼んだところからかなり詳しく把握していると思われる。七草家の情報収集力はそこそこある。

 

教室に戻ると吉田くんが、深刻な顔をしている。

 

「どないしたん?」

 

「師匠。質問があるんだけど…」

 

司波くんは、気を利かせて僕達から離れた。

 

「で?なんや」

 

吉田くんがなかなか切り出せない。

 

「セックスフラッシュのことか?」

 

吉田くんが、赤面し口をパクパクさせている。

 

「で、どうやった?」

 

多分、凄い事になったのだろう。「幹比古様、私はあなたのものです」などと水晶眼オッパイーヌが口走ったかも知れないし、彼女が豹変して超積極的なったかも知れない。寝室で…

 

…わかった。今、吉田くんの心に彼女の豹変した姿が生々しく映った。こりゃ、凄い!リアルエロ漫画?この私小説をR指定にしたくないので細かい描写は省略させて頂きます。

 

「自分、チン◯でかいんやな」

 

吉田くんは、真っ赤になったまま口をパクパクさせ手足をバタバタさせている。

 

「多分、子宮口を刺激したんやろ」

 

「アンタ達、何してんの?」

僕らの助平な会話を盗み聞きしていたかはわからないが、千葉さんが唐突に絡んで来た。吉田くんは、驚いた。顔は血の気が引いて真っ青になっている。ついでに、僕も驚いた。

 

千葉さんが長岡さんと一緒にいたからだ。一体いつの間に仲良くなった?長岡さんはともかく千葉さんは絶対長岡さんを疎んじていたはずだ。

 

この学校には、腕に覚えがある連中がゴロゴロいる。しかし、門派の技術を最後まで習ったとなれば話は別だ。千葉さんは千葉流、長岡さんは宋派で最後まで習っているともっぱらの噂だ。そんなのが同じクラスにいると当人が意識しなくても周りはどっちが強いのかなどと下衆の勘繰りをしてしまうのだ。

 

「アンタが驚くなんて珍しいわね」

千葉さんがニヤリとした。一本取ってやった!などと感じたらしい。

 

「京子は、朝練で走っているからたまに会うのよ!」

京子は、長岡さんの名前だ。千葉さんは、自分だけが長岡さんの影の努力を知っているとでも言いたげな態度だ。千葉さんも朝稽古や体力作りに走ったりしているのだろう。しかし、長岡さんが走るのは体力作りではない。

 

「そりゃ、八卦掌の練習だ」

しまった!余計なことを言ってしまった。この一言で千葉さんだけでなく長岡さんが「なぜそれを知っているの?」という表情になった。八卦掌が走る(と言っても特殊な走り方をする)練習をするのは、一般には知られてない。僕は八卦掌についてはあまり知らないと以前言ってた。部員にも。

 

千葉さんは、僕の一言で長岡さんの雰囲気が変わったのをすぐに気づいた。これは面白いものが見れそうだと言いたげな表情になった。

 

「師匠。もしかして北京系?」

長岡さんがトーンを落として訊いた。彼女が真剣な眼差しになった為、周りの人は押し黙った。彼女の真剣な顔ははっきり言って怖い。

 

「ああ。そうだ」

僕は誤魔化さずに応えた。似非関西弁は、自重せざるを得ない。

 

「そう。わかった♡」

長岡さんは、いつもの古い少女漫画的なヒロインみたいな屈託のない笑顔に復帰した。

 

「?」

千葉さんをはじめその場にいる者全員が疑問に思った。仕方のない事だ。

 

仏教に密教があるようにキリスト教にもイスラム教にも道教にも儒教にも日本神道にも「密教」はあるのだ。長岡さんはその存在を知っていた。他の人は知らなかった。ただそれだけだ。

 

ちなみにキリスト教の密教ではイエズス会とフリーメーソンが有名である。密教≒秘密結社と考えて差し支えない。

 

千葉さんは、きっと長岡さんに長岡さんの質問と僕の答えの意味を尋ねるだろう。しかし、「師匠は、三派弊習の門派」などと教えられるだけだ。しかも、その答えはあながち嘘ではない。

 

「ところでミキ。なんとかフラッシュって何の事?」

千葉さんは、僕と吉田くんの破廉恥密談を盗み聞きしていたらしい。千葉さんの思わぬ追求を受け吉田くんは、パニックに陥った。

 

「僕は名前は幹比古だぁ〜!」

といつもの返しをして教室から走り去った。

 

「話は変わるけどな。自分の兄さん、桜田門の偉いさんやった?」

僕は、遁走した吉田くんに呆れている千葉さんに尋ねた。

 

「偉くはないけど、そうよ」

ぶっきらぼうに彼女は答えた。

 

◇◇◇

 

「それでは、太極拳歩きを説明します」

改まった物言いをしているのは、部室に部員以外の人、しかも上級生がいるからだ。これにはちょっとした理由がある。

 

「師匠!お前、スゲ〜らしいな?」

二年生男子No.2の実力者と噂される桐原さんから声を掛けられたのは、放課後だ。

 

「おだてても、何も出ませんよ〜」

 

「ハハハハハ」

桐原さんは、腹を抱えて笑った。しかし、すぐに真顔になった。

 

「マジな話なんだが…」

 

要は、武術を教えて欲しいとの事だった。剣術を練習してれば良いだろ!と突き放すわけにも行かない。司波くんの体術で剣を持っていてもやられたのが尾を引いているのは明らかだった。その上、自分が模擬戦で負けた服部さんまで司波くんに負けているとなれば何もしないわけには行かなくなる。彼女が出来ても心のその渇きは癒せない。

 

それにしても、昨日の暗殺未遂事件の詳細は誰も知らないはずなのに何故か僕の評価が上がっている。特に上級生からの。もしかして、七草さん?

 

僕は太極拳歩きの見本を見せた。手を中途半端に上げて左右ジグザグに一歩一歩慎重に歩くだけだ。

 

 

 

 

 


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