意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編2

横浜の某所。

 

と言っても懸命なる読者様方にはバレバレかも知れない。我国は、表向き大亜と国交がない。なので在日大亜大使館なるものはない。なので、東京都港区ではなく、華僑の大物の一人が経営していると噂されているこの場所に僕は来た。

 

店内に入ろうとすると、

「お客様、ご予約はございますか?」

テーブル案内係に静止された。

 

「大人に、届け物を持参した河原という者だ。取り次いで頂きたい」

 

「そのようなサービスは当店では行っておりません」

彼の言葉は丁寧だが、警戒心MAXになっている。

 

「わかった。大人に端末をつないで欲しい。河原真知が大陸への手紙を持参していると伝えてくれ」

 

厨房から、料理人にして妙に体躯の良い男達がわらわらと出て来た。

 

「河原様、失礼ですが、身分を証明するものを見せて頂けますか?」

 

僕は学生証を取り出そうとした。男達が身構えた。僕は、ゆっくりと内ポケットに手を入れ学生証を取り出した。男達の緊張が緩んだ。

 

表情の険しくなったテーブル案内は、学生証をスキャンして本物と確認した。すぐにスタッフ控室に駆け込んだ。

 

「失礼しました!河原様。親書をお預かり致します」

スタッフ控室から、飛び出して来た。テーブル案内係の態度が変わっていた。

 

「お食事は、お済でしょうか?河原様。本日は、最高級の」

 

僕は、テーブル案内係のセリフが終わらないうちに踵を返した。

 

◇◇◇

 

「伝統的な属性、「地」「水」「火」「風」「光」「雷」といった分類に基づくアプローチが有効と考えられていた時期にはエレメンツの開発も、このコンセプトに従って進められていたんやけど、それがそもそもの間違いや」

 

「それは、興味深いな。で、どこが間違いなんだ?」

 

「魔法的に有効にしたいなら、五大(ごだい、サンスクリット:panca-dhatavah、英: five elements)。宇宙(あらゆる世界)を構成しているとする地(ち)・水(すい)・火(か)・風(ふう)・空(くう)の五つの要素やな」

 

「あんた達、いつの間に仲良くなったの?」

 

僕と司波くんが、魔法オタクな会話をしていたら千葉さんが驚いている。

 

「はぁ?何寝ぼけとんねん!元から仲良しや」

 

「議論の最中にすまない」

 

「なんや、森崎くんかいな。雷にでも打たれたんか?」

 

森崎くんが、ひるんだ。図星だったようだ。

 

「四摂、じつはそうなんだ。雷に打たれたように見えてから体の中と外が燃えているように見えるんだ」

森崎くんは僕を師匠(ししょう)と言いたくないらしい。しかし四摂(ししょう)をどこで聞いたのだろう?知り合いに密教関係者がいるのだろうか?

 

「地や水や風らしきものは観えた?」

 

「ああ、落雷したと感じたときは土砂降りで、その時に地響きがした。竜巻も観えた」

 

「五大全部観えたようやな。その雷が、「空」や。「光」にも観えるな。虚空蔵菩薩真言を唱えたんで「虚空」、つまり「空」が、観えたんやろ。森崎くんは、凄いな!」

 

「確かに、それは凄いな」

司波くんが頷く。

 

「さすがは、森崎くんですね」

今まで相槌を打っていただけの白石くんが、口を開く。

 

「すげーな」「すごくない?!」と藤岡くんや長岡さんまで感心し始めるとその場にいたクラスメイトが集まり始めた。

 

「じゃ、司波!放課後な!」

森崎くんは、照れ隠しの為に話を中座して教室から出て行った。

 

「何これ?」

千葉さんがドン引きしている。

 

「森崎くんは、新しく風紀委員長になった千代田はんの元で頑張ろうとしとんや。応援するのは当たり前や!」

 

「エリカちゃん!これこそ美しい男子同士の絆です」

眼をキラキラさせながら柴田さんが千葉さんをたしなめた。よく言うぜ!オッパイーヌ美月め。自分が一番最初に森崎くんに噛み付いたやろ!二つの胸の膨らみは耽美で邪な妄想がいっぱい溜まっているようだな。吉田くんは、よーく揉んでオッパイーヌの煩悩を滅してあげるべきだ。◯ックス・フラッシュ!

 

イったフリを見破る方法はさて置いて、今日の生徒会選挙は大丈夫なのだろうか?中条さんが生徒会長になりたくはないと駄々こねていたと聞いたのだが。

 

「ああ、大丈夫だ。師匠のアドバイスを参考にさせてもらった」

僕と視線が合った司波くんは、僕が質問する前に答えた。いつの間にか、司波くんは心を読めるようになっている!

 

それより、僕は何かアドバイスしたっけ?

 

そーいえば、トーラス・シルバーのサインをあげると言ったら中条副会長のヤル気スイッチが入ると答えた気がする。

 

◇◇◇

 

本日西暦2095年9月30日の生徒総会・選挙演説・信任投票は、荒れ模様となった。七草会長が、「 ……以上の理由を以て、私は生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃を提案します」と発言してからだ。

 

質問に立った浅野という人(一科生ではあるが九校戦に出場していなかったので見覚えがない)が、「会長は、生徒会に入れたい二科生がいるから、資格制限を撤廃したいんでしょう!本当の動機は依怙贔屓なんじゃないんですか!」とヒステリックになってしまい挙句「知ってるのよ!昨日の帰りもそいつと駅まで一緒だったでしょう! 」とわめき散らした。

 

浅野、ズーレー?

 

『そいつ』とはもちろん司波くんだ。今も壇上のソデに控えている。万が一に備えて。

 

結局、冷たくキレた司波さんが浅野さんをやり込めて事態は収束した、かに見えた。

 

「あずさちゃんに謝れ!」

会場の真ん中で小競り合いが始まった。中条さんが演説を終わろうとしていた時だった。彼女のファンが反対派の野次に反応したのだ。

 

司波くんと中条さんの仲を邪推する、極めて下品な野次が反対派の口から放たれた瞬間、再びキレた司波さんの叱声が騒擾を制した。「静まりなさい!」

 

声の大きさではなく、声の強さが、取っ組み合っていた生徒の意識を圧倒した。

 

舞台の上では、想子光の吹雪が荒れ狂っていた。激しい怒りが、世界を侵食しようとしている。

 

これはまずい!僕は、自分で彼女を気絶させるか他人の攻撃魔法発動を見守るかの決断をしなければならなくなった。

 

司波くんと目が合った。任せてくれと主張している。彼は壇上を歩いて臨界に達している妹へ寄り添った。彼女の肩に優しく手を添えて、しばらく見つめ合う二人…

 

そして、事態は速やかに収拾した。ちなみに熱い接吻は無しだった。兄妹ですから!

 

            ◇◇◇

 

部活では、生徒会選挙の話題で盛り上がった。大魔神司波嬢の怒りを鎮めた司波くんのやったことの解説を求められた。

 

 おそらくは「術式解体」の応用。瞬間的に展開した想子構造体──エイドスに働きかける情報体では無く、想子自体を造形した無系統魔法の産物──の網で、無秩序に荒れ狂っていた大量の想子を包み込み、圧倒的なパワーで圧縮して司波さんの身体の中へ注ぎ戻したのだ。

 

などと解釈しているのだろうなぁ。

 

「「ええっ!?それ、違うの」」

 

朝田さんと涼野さんが驚いている。この解釈では、司波さん本人の意思を無視している。

 

想子は肉体から生じるものではないが、肉体は想子を放出・吸収する媒体となると現代魔法理論では信じられている。CADを使った起動式展開はその典型的事例だ。

 

そうなると、司波くんは司波さんがバラ撒いた想子を、司波さん本人の意思によらず、司波さんの「中」に押し込めたとなる。いくら無系統魔法が得意だからといって、いくら肉親だからといって、他人の想子をあんなに簡単に操れるものなのか?たとえ司波さんが自分の想子を全くコントロールしていない状態だった、という事情も加味しなければならないとしても。

 

「司波くんは、司波さんの意思を作った?」

 

おお!さすがは長岡さん。その通りです。

 

ちなみに、精神干渉系魔法ではない。公園で僕が鳩を司波くんに向かせたあの技術だ。司波くんは一回見ただけで修得したのだ。恐るべし!司波達也。

 

「ところで、皆さん誰に投票しました?」

と白石くん。

 

『深雪女王様』

と朝田さん。

 

『司波深雪女王陛下』

と涼野さん。

 

『スノークイーン深雪様』

と長岡さん。

 

なんや?自分ら、おもろいやんけ!!

 

 

 

 

 

 

 

 


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