意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編1

(アカン!コイツら素人や)

始めて参加した風間少佐主催の円卓会議で僕は思った。この時、正式に大黒特尉が司波くんだと知らされた。夏休みの最後の演習の時だ。

 

藤林さんが、柳さんがハニートラップに引っかかったかもと真田さんが心配したのを暴露して真田さんは赤面した。

 

「僕が柳さんに紹介した八卦掌の名人は一高の一年女子です。同じクラスの子です。ちなみに彼女は、中学生の時に魔法師8人を殺しています」

僕の発言で空気が変わった。

 

風間さんと柳さんは、目の色が変わる。スカウトしたいのだろう。

 

「皇宮警察にすでに取られてしまっています」

心を読まれて二人は、ギョッとした。ついでにメンバーが気にしている10月末の有事について釘を刺した。

 

「大黒特尉は、常識外の戦力ですが無限のスタミナが有るとは思えません。作戦の浮沈を彼に頼り切るのはどうかと思います。それと敵はなりふり構わず政治的圧力をかけて作戦行動を圧迫すると思われます」

 

◇◇◇

 

杞憂は的中した。

 

敵は馬鹿ではない。それなりの対策を取って来た。魔装大隊の作戦の『核』になる司波達也を狙い撃ちして来たのだ。

 

「師匠は、俺が狙われると予想していたのか?」

人気のない公園に着くと司波が問うた。部室では込み入った話はできないので場所を変えたのだ。

 

「一高テロ、九校戦テロを潰したんは自分やろ」

僕がこう言っても司波くんは肯定も否定もしなかった。司波くんが僕の入隊を知らないとは思えないが、彼は極めて慎重だ。僕は構わず話を続ける。

 

「両方とも、バックは大亜やろ。アイツらが今度やらかす前に一番邪魔な奴を潰しに来るんは当たり前や」

これでも、司波くんは肯定も否定もしない。手堅いな。司波くんは。

 

「まあ、ええわ。自分の頭痛の話やったな」

 

司波くんがわずかに顔をしかめた。司波くんが頭痛だと一言も触れてないのに僕がそれに言及したからだ。

 

「とりあえず、それの対策や。チョッと視とき」

僕は、二人に餌を期待して集まって来た鳩に視線を向けた。鳩達は各々の好きな方に向いていた。

 

司波くんが、目を見開いた。全部の鳩が司波くんの方を向いたからだ。

 

次に、僕は右手を肩まで上げて掌を天に向けた。すぐに一羽の鳩が飛んで来て僕の掌に止まった。

 

「畏れ入ったよ」

司波くんがため息を吐く。

 

「呪いを相手に返すから視とき」

 

僕は、司波を呪い続けているドアホを観た。そして、呪いが本人に返るようにしてやった。

 

「倒さないのか?」

司波くんがどの様に視たのかはわからないが、とにかく視えたようだ。

 

「こんでええねん。自分の呪いでやられるから。多分、気狂うてしまいや」

 

「精神干渉ではなく意志そのものを創り出すのだな」

 

「そやな。自分やったらできるやろ。魔法式を組めるかはわからんけど。それと、妹さんを心配させんのやめとき」

 

僕と司波くんは、同時に振り向いた。木陰でこちらを密かにうかがっていた司波さんを。

 

「申し訳ありません!」

血相を変えて木陰から司波さんが現れた。一応、気配を消していたようだ。

 

「申し訳ありません!お兄様!師匠様!」

 

お兄様は、いつものことだが、師匠様って…深雪お嬢さん、上品過ぎる。

 

「勝手に、のぞいたりして本当に申し訳ございません!でも深雪は、お兄様のことが心配で…」

 

わかった。わかった。二人でやってくれ。

 

「今日はこのくらいにしといたろ。ほな、帰らせてもらうわ」

 

「師匠様!このご恩は、忘れません!必ず…」

 

(大袈裟なやっちゃ)

 

僕は、イチャつく二人に目もくれず手だけ振ってその場を離脱した。

 

その晩、風間さんから連絡があった。個人的な依頼だと前置きがあったが、司波達也を守って欲しいと頼まれた。同時に僕が軍曹に昇進したのを知らされた。ケロロとか相良とかと同じになった。

 

遅過ぎるぞ!風間さん。佐伯さん。この調子だと政治的圧力で独立魔装大隊の動きが抑えられる恐れも残る。

 

それにしても、司波くんはなかなかしたたかだった。本気を出せば、あの程度の呪いはどうにでも出来たはずだ。それを愛する妹にも黙って(騙して)僕の能力を測る機会を作ってみせた。あの技術を魔法式に書き出すのは、司波くんでも無理だと思うが同じようなことは次回から彼一人で出来るだろう。

 

まさに、「さすがは、お兄様!」だった。

 

◇◇◇

 

気分は、山岡鉄舟だ。

 

慶応4年(1868年)、山岡鉄舟は新たに設立された精鋭隊歩兵頭格となる。江戸無血開城を決した勝海舟と西郷隆盛の会談に先立ち、3月9日官軍の駐留する駿府(現静岡市葵区)に辿り着き、伝馬町の松崎屋源兵衛宅で西郷と面会する。

 

2月11日の江戸城重臣会議において、徳川慶喜は恭順の意を表し、勝海舟に全権を委ねて自身は上野寛永寺に籠り謹慎していた。海舟はこのような状況を伝えるため、征討大総督府参謀の西郷隆盛に書を送ろうとし、高橋精三(泥舟)を使者にしようとしたが、彼は慶喜警護から離れることができなかった。そこで、鉄舟に白羽の矢が立った。

 

このとき、刀がないほど困窮していた鉄舟は親友の関口艮輔に大小を借りて官軍の陣営に向かった。また、官軍が警備する中を「朝敵徳川慶喜家来、山岡鉄太郎まかり通る」と大音声で堂々と歩行していったという。

 

3月9日、益満休之助に案内され、駿府で西郷に会った鉄舟は、海舟の手紙を渡し、徳川慶喜の意向を述べ、朝廷に取り計らうよう頼む。この際、西郷から5つの条件を提示される。それは、

 

一、江戸城を明け渡す。

一、城中の兵を向島に移す。

一、兵器をすべて差し出す。

一、軍艦をすべて引き渡す。

一、将軍慶喜は備前藩にあずける。

 

というものであった。このうち最後の条件を鉄舟は拒んだ。西郷はこれは朝命であると凄んだ。これに対し、鉄舟は、もし島津侯が(将軍慶喜と)同じ立場であったなら、あなたはこの条件を受け入れないはずであると反論した。

 

西郷は、江戸百万の民と主君の命を守るため、死を覚悟して単身敵陣に乗り込み、最後まで主君への忠義を貫かんとする鉄舟の赤誠に触れて心を動かされ、その主張をもっともだとして認め、将軍慶喜の身の安全を保証した。これによって奇跡的な江戸無血開城への道が開かれることとなった。

 

こんな劇的な行動ではないが、先ずは「密書」を日本で一番霊力がある所に取りに行く。平日なので学校は、予告なしで休んだ。部員にさえ休むのを知らせていない。

 

和歌山県にあるその場所は、千年以上前から日本で一番霊力があることになった。その為か、交通アクセスは百年前からあまり進歩していない。幸い、雪が降る時期ではないのでケーブルカーで山に登れる。

 

「遠路遥々よくいらっしゃて下さいました」

その人物は、深々とお辞儀をした。

 

「御用は、うかがっております」

僕は、屋敷の奥に通された。

 

◇◇◇

 

急に嫌な予感がした。「密書」を携えて屋敷から出てすぐだ。

 

急がなければ間に合わない!

 

僕は、一旦京都に戻る予定を急遽変更して横浜に行き先を変えた。ケーブルカーとキャビネットで新大阪に四時前には着く。それからリニアに乗れば1時間で新横浜だ。夜には目的地に着ける。

 

新大阪でリニアに乗り込むと森崎くんの気を感じた。シートに座った途端に携帯が着信する。

 

「何か進展があった?」

挨拶もそこそこに、僕はすぐ本題に入る。森崎くんは、ここら辺はとても常識人なので、僕がいきなり欠席したので心配して連絡を取ったと前置きして要件を語り出した。

 

『魔法式をディスプレイに映し出した途端に何の魔法かわかった』

森崎くんの声のトーンは抑え気味だったが凄く興奮しているのが伝わってくる。

 

「フラッシュキャストを目指しているのかい?」

森崎くんは、核心を突かれて一瞬言葉に窮した。がしかし、

 

「そうだ。可能か?」

 

「他に何か変わった事は?」

 

『昨日、帰宅したら部屋に白い粉が床に点々と落ちていた』

 

「そうか。新しい出会いを大切にしてくれ。今はこれしか言えない」

 

『わかった。手間を取らした。すまない。ありがとう』

 

最初に道を得るのは、森崎くんかも知れないな。

 

 

 

 

 


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