意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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入学編 8

一回ちゃんと彼女達に言い聞かせておかなければならない。

 

30億円欲しさにテロリストの居どころを推測してCIAにメールしたり、(当然なのだが一円ももらえなかった。)5万円欲しさに入国管理局に不法入国者を通報したり、(これも、何故かダメだった。おそらく、仲間内の裏切りや近所のタレコミが対象だった思われる。)怪しい宗教団体やNPOを公安に共謀罪で通報していたのは小学生の頃からだが、僕はCIAでもないし、麻薬Gメンでもないし、公安でもない。

 

ただ、ネットで調子に乗って国の軍事機密を言い当ててしまったりして一時情報局にマークされていたかも知れないが。(公安には今も見張られているであろう事は言わなかった。)

 

これだけ喋って僕は彼女達にわかってもらえたと思った。穏やかならぬ話の内容なので食堂内の他の学生に気を遣いながら身振り手振りを加えて説明した。

 

今までじっと僕の話に聞き入ってた長岡さんが、一言。

「師匠は、今でも監視されている」

一瞬、その場が凍った。そんなことを言えば、彼女たちがドン引きしてしまう。

 

「長岡さん、それ誰?」

涼野さんが、身を乗り出してきた。好奇心丸出しで瞳をキラキラと輝かせながら。僕の予想とは違う反応だ。

 

長岡さんが、僕のほうをチラッと見る。言って良いか?の合図だと思う。白石くんがスパイの真似ごとをしていると皆に知られると今後色々と面倒くさいので「止めて」と目で合図を送った。通じたと思った。

 

「小野先生」

通じてなかった。長岡さんはアイコンタクトが苦手のようだ。

 

「なんだ~」

涼野さんは、拍子抜けしたような返答をした。まるで、そんなことならとっくに知っていたとでも言いたそうだ。

 

朝田さんによると、魔法科高校のスクールカウンセラーは、たいがい公安の回し者だそうだ。将来の日本を背負って行く魔法師を反日思想に取り込まんとする外国勢力の動きや連中に狙われやすそうな学生を監視する役目を与えられているらしい。

ちなみに公安は警察と同じ身分だが、その身分は周囲にも明かされない。なので、警察も誰が公安なのかわからない。つまり、公安は元々警察を見張るお仕事なのだ。

 

というか、朝田さんあなた何者?

ただものではないと昨日のノンアンティナイト魔法無効化実験で明らかになってはいたがここまでくると彼女の正体が気になる。私、気になります!と僕は言わないけど。

 

 彼女達は、僕の正体について納得できなかったようだ。それを言うなら、彼女達こそその正体が怪しいと思う。だいたい、なぜ長岡さんと二人がつるんでいるのか?もともと接点はなかったはずだ。長岡さんは中学まで福岡に居たのだから。

 

「小野先生は、公安協力者だと思う。公安は、警察の中でもエリートなので普段は警察として働いているはず」

長岡さん、ありがとう貴重な情報を教えてくれて。でも、僕の疑問とはあまり関係ありません。

 

「長岡さんは、教官なの」

と涼野さん。

 

「正確に言うと、教官に武術指導をしているの」

と朝田さんが、補足してくれた。

 

長岡さんが、若干ドヤ顔になっている。ちょっと意地悪したくなり僕は尋ねた。

「凄い!もう『弟子』を育てているんだ?」

 

何故、これが意地悪な質問か説明すると弟子を育てるのと学生を教えるのは大きく意味が違うからだ。習う方からすれば、学生の立場で習い続けても実力向上は途中で止まる。本当の基礎を教えてもらえないからだ。

長岡さんも、おそらく本気で教えてはないだろう。つまり、弟子ではなく学生として教官に武術指導をしているはずだ。

 

「使える様に教えている」

長岡さんは、意外に大きい胸を張り出してさらなるドヤ顔で答えた。彼女は質問を巧くかわした。学生とも弟子とも答えなかった。しかし、どこの教官に武術指導しているのだろう?

 

「皇宮警察」

あっさりと答える長岡さん。言っちゃていいの?陛下を御守りする特別警察が中国武術を取り入れていたとバラしたりすると不味いのではなかろうか。

 

100年前から、台湾武術の名人を招いて形意拳や八卦掌を皇宮警察が学んでいたのはある程度知られていた事ではあるが。

ちなみに、その名人はその技術はとても危険なので民間では教えてくれるなと言われたにも関わらず、民間でその技術を教えていたのもそこそこ知られている。

 

それにしても、長岡さん、公安や警察でもないのにそれらに詳しいのはお世話になったのを自らバラしている様なものだぞと僕は思ったが面白い話が聞けそうなので黙っていた。

 

(警察と公安の皆様ありがとうございます。皆様の不断の努力のおかげで僕は今日も無事に過ごせておれます。と定期的にお礼をしなければならない羽目になるのだ。)

 

「で、四葉が何が怪しいの?」

と、頃合いを見計らって突っ込んだ質問を涼野さんに振ってみた。皇宮警察関係者は、四葉の関係者がその正体を隠して魔法科高校に入学しただけでわざわざ調査に乗り出しはしない。何かの理由があるはずだ。何かはわからないが、皇宮警察場合によっては天皇家が四葉に何やら不穏な動きありと見ているのかも知れない。

 

涼野さんはキョトンとした。彼女の表情から、意味がわからないのかとぼけているのか判断が難しい。朝田さんが何かフォローするかと待っていたが彼女も何も言わなかった。

この二人、思ったよりもやるぞ。ただ、こういうときは、こちらから話を転がす。

 

「四葉には、僕も個人的に興味があるから何かわかったら教えるよ。十師族の次期当主は、大体公にされているのに四葉だけはわからないから気になるよね」

 

「そう、そう」

朝田さんが、相槌を打つ。

 

「もしかしたら、次期当主候補でも入学したのかい?」

二人の顔が一瞬引き攣ったのだ。やってしまった。

 僕は、たまに人の心を読んでしまうことがある。まぐれ当たりなので、実用的ではない。しかし、今回久しぶりに大当たりしたようだ。

 

すぐに元の天真爛漫な外見に戻して、涼野さんが言う。

「あまり大した意味はないけど。少し興味あるのよ」

 

僕は、その答えに納得した風体を装う。

 

長岡さんは、僕と二人のきわどい攻防を楽しんでいるのかとても機嫌が良さそうに見える。予想以上に変わった性格のようだ。

 

スパイについてに知っておくべき知識がある。100年以上人気を保っている007シリーズのジェームズボンドは「女王陛下の007」だ。身分は、イギリス政府の小役人(海軍中佐?)なのかも知れないが本人は女王陛下と国を守る為に命をかける。

だから、彼のモチベーションは高いという設定であるから途方も無い話でも今だに人気があるのだ。

 

最新作は魔法力は劣るボンドが、知恵と勇気と御都合主義で強力な魔法力を発揮する敵工作員を倒すどうしようもないストーリーなのだがそこそこヒットしている。

 

僕は、単なる公務員ではスパイは続けられないと信じている。何か本人にとって大きなモチベーションが必要なのだ。意外な事だが、日本にはイギリス王室よりもバチカン市国よりも権威がある天皇陛下と天皇家が存在する。諜報員が仕えるには最高のモチベーションになる。

 

政府は選挙の結果で変わってしまうが、陛下と天皇家はそうはならない。豪族、武士、政府と国の仕切りは変わっても陛下と天皇は変わらず我国の中心におられる!

つまり、組織論から語れば我国の諜報はレベルが低いとされるのだが、個人を見ればそのモチベーションは山の様に高いと断言して良い!

 

という様な内容を、三人に面白おかしく話してみた。二人は、感動してくれたらしい。一人は静かに聞き入っていた。

 

実際は、他人を騙すという行為がとても好きな人がいるのがもう半分の事実だろう。人間も動物の一種なので生き残る為に擬態をしたり死んだフリをしたりする本能が多少は残っていると考えられる。なので、人間も一部の者は騙すのが楽しいのだろう。

しかも大義名分があり犯罪にはならない。敵に見つかれば、犯罪者どころかその場で死刑だろうが。

 

ミッションインポッシブルのイーサンハントはCIAの局員ではなくアウトソース先の契約社員だった(と思う)。彼は諜報員が天職なのだろう。もし、諜報員でなければ彼は詐欺師になっていたかも知れない。

 

スパイは騙し好きのクソ野郎であるのは、黙っていた。僕は、和をもって尊しとなすタイプなのだ。

 

では何故今もスパイ映画は製作されるのか?それは、優秀な人材をリクルートする為だ。ボンドガールとイチャイチャできるし素敵な女性と家庭を築けると錯覚させる為だ。イギリスは、スパイを公募したこともある。アメリカはスパイコースを作って一応軍人中心にとりあえず受講できるようにしている。錯覚させた上で門戸を開いているのだ。

 

しかし、まともに考えれば、普通に出世した方が金も名誉も手に入る。実際は結婚さえ困るくらいだ。結局、CIAの局員同士で結婚するのがオチだ。スパイでは、やり甲斐はあるかも知れないが金も名誉も限られる。というか名誉はない。なので、常に人材不足なのだ。

なので、スパイ映画には何故か今でも製作資金が集まる。映画を作りたい人は、スパイ映画を検討してはどうだろう?

 

これらの話は、彼女達にウケた。笑いを取る為の話をしたのでウケないとガッカリだが。


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