意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

78 / 115
夏休み特別編+1(2)

七草会長もニヤニヤワクワクしている。中条副会長は、司波くんと会長に視線を往復させながらオロオロしている。モブくんは、半ベソをかいている。

 

僕は、いつもの調子で語り始める。

「では、種明かしをします。まず、この拳銃型CADのスライド(撃発装置や弾の装填及び薬莢の脱砲を行うパーツ全体を指す)ですが、動きません。次にマズル(弾の出口)ですが、中で塞がっています。なので、これは拳銃型CADです」

 

中条副会長が、混乱している。

 

「発砲音は、これです」

僕は、手にパームしていた小型の振動系特化型CADを見せた。カラオケで声を高く大きくするのに使ったCADをさらに小型にしたものだ。

 

「魔法を使った空砲だったのですね!」

副会長は、ため息を吐く。その通りです。なので弾痕がどこにもありません。

 

お後がよろしいようでこれにて失礼。

 

「師匠。まだ説明が終わってないぞ!」

司波が、すぐに突っ込んで来た。ナイスなタイミングだ。彼はセンスがあるな。

 

「このCADには、魔法力を強化する刻印をされているので、中条副会長が『拳銃だ!』と思った瞬間に精神干渉系の魔法力が発揮され、その影響を受けたものはこのCADを拳銃と信じてしまったのです」

 

驚愕の表情を浮かべる中条副会長。一方、笑いを堪えている七草会長。司波くんは、押し黙ったままだ。会長と司波くんは、精神干渉を受けてなかったのだ。

 

「ふざけるな!」

自分が騙されたとわかりモブくんは、怒りに任せてCADを起動する。

 

ドサッ。

 

頭部に衝撃を受けたモブくんは気絶した。クロムモリブデン鋼は、重くて硬い。当たれば痛いぞ。

 

「師匠。俺は、CADを投げて敵を倒すヤツを始めて見たぞ」

司波が、呆れていた。中条副会長は、絶賛茫然自失中。七草会長は、爆笑寸前だった。笑っても構わないが、早く治療してあげて欲しい。

 

◇◇◇

 

僕は、誰にも模擬戦の詳細を誰にも語ってないのになぜか僕が圧勝している事になっていた。いや、そもそも模擬戦は中止になったし魔法での勝負はしてない。この学校の学生が自分のランクを気にし過ぎなのだ。学校裏ランキングでは、6位のモブくんが10位から漏れてランク外にされて代わりに十三束くんが6位にランクされていた。

 

それと、モブくんが僕に怒りを抑えられなくなった直接の原因もわかった。

 

「あっ!Qちゃん、元気〜?」

光学迷彩を纏っていないQちゃんは1ーBの高橋久子さんだった。少佐(吉田摩耶嬢)から面倒を見て欲しいと言われていたのでこうして軽く挨拶していたのが、いけなかった。モブくんは、密かに彼女に好意を寄せていたらしいのだ。それならそうと言ってくれれば仲を取り持ってあげたのに!

 

模擬戦で、成績上位者に勝ってしまった(?)ことで校内の僕の評判が変に上がってしまった。その上がり方が何かおかしい。九校戦で活躍した吉田くんと西城くんは、女子の憧れの人となった。司波くんは、男女問わず尊敬されるようになった。

 

「師匠。じつは…」

よく知らない学生から何故か悩み相談をされるようになった!どうも、インスタントに問題を解決する方法を教えてくれると評判になっているらしいのだ。僕の成績をマイナスにした教官が、飛ばされたのもその評判を一層説得力のあるものにしていた。

 

今日は、涼野さんが頼まれて一人連れて来た。我々は『奉仕部』では、ないのだが…

 

「もっと、速く魔法を起動させたいんだ」

 

「どれくらい早くしたい?」

 

「司波兄妹くらい」

 

森崎くん。そりゃ、無茶な相談だ。特に司波くんのはフラッシュキャストだ。CADを使ってさえいない。

 

だが、しかし!手はある。

 

だいたい彼がどうしてこんな悩みを抱いているのかもわかっている。一夏の経験からだ。(念の為言っておくが『青い体験』ではないよ。)森崎くんは、魔法の撃ち合いではなく本物の銃の撃ち合いで苦労したらしいのだ。噂によると。

 

しかも、最近の「軽妙小説部」の部員の魔法発動時間(CADの操作開始から事象改変が完了するまでの時間)はドンドン短縮されて単純振動系や閃光系だけなら司波さんの魔法発動時間に迫っているのを森崎くんが目にしているのも理由になっていた。

 

こいつら、なんか裏技的な何かを知っているに違いない!と森崎くんが思うのは当然なのだ。

 

では、とっておきのを教えましょう!

 

「ノウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ・オン・アリ・キャ、マリ・ボリ・ソワカ」

 

「それ何だ?」

 

「弘法大師が、唐に渡る前に行った求聞持法の真言です。これを100日で100万回唱えるとあらゆる経典を読んで理解し記憶できる超人的な能力が身につくと言われています」

 

「弘法大師って空海のことか?」

 

「はい、そうです」

 

「3ヶ月で良いんだな!」

 

森崎くんは、やるのを前提で話している。よほど精神的に追い込まれているらしい。

 

「ただ、それがなぜ、速く魔法が使えるようになるのかだけは教えてくれ!」

森崎くんは、物を人に頼む時も上から目線だ。社長自慢の一人息子だから仕方ない。

 

「CADは、本来なが〜い詠唱を短縮する為の装置です。先の真言は、音読すると最初は15秒程度です。速くなっても6秒程度です。これでは、24時間で1万回唱えるのは困難です。なので、単なる早口ではなく音声ではない詠唱でなければ達成できません。日頃の生活をしながら『舌も動かさず、心のみ念ずる』とか、光速で連続で唱える『口から光明を発しながら唱える』ようになれば達成できます」

 

普通は、これであきらめる。しかし、成績優秀者である森崎くんは違った。

 

「それなら、CADが要らな…わかった!やる。詳しく教えてくれ‼︎」

 

◇◇◇

「師匠。森崎に何を吹き込んだんだ?」

 

吹き込んだなんて人聞きの悪い。それより、最近司波が僕に対して妙にフレンドリーだ。少佐(吉田ではなく風間)が何か言ったのだろうか?

 

司波くんは、風紀委員会で森崎くんと一緒に活動しているから、森崎くんの変化に気づくのは当然ではあるが。

 

「光速詠唱の練習法を教えたよ」

 

無表情の司波くんが、表情を変えないままギョッとしたのがわかった。

 

「ほう。それは興味深い話だな」

しかし、動揺を表に出さないで冷静な反応をする司波くん。さすがはみんなのお兄様。

 

「ねえ、何の話?」

千葉さんが話に加わろうとした。秘密にする必要はないので、僕は、真言について説明を始めた。

 

「どうして、力を得るためにその霊の名前を連呼するだけでその霊が降りてくるんだい?」

最初は、図々しい千葉さんを制する役だった吉田くんが、逆に質問する方に回っている。

 

「理屈は簡単で、元々人間にそのような力はあったけど使い方を思い出せなくなっただけだよ。神祇魔法も思い出す手段の一つだね」

 

「でもよ。意味もわからないまま真言を唱え続けても効果があるってのはどうもな」

それは、誰しも感じる事です。西城くん。

 

「読書百遍義自ずから見ると言われるように百万回唱えると意味もわかりますし、その仏の力も得ます」

 

「師匠さんは、何でも知ってますね」

柴田さんが感心している。

 

「何でもではありません。実際にやってみた事だけです」

 

みんなの雰囲気が変わった。こんな話に慣れている部員は、いつもの事だと平然としていた。

 

「ところで、司波くん。森崎くんは何と言ったの?」

 

「『今は、勝てない。しかしいつか必ず勝ってみせる!』だ」

そう言った司波くんは、しまった!言い過ぎたと心に思い浮かべた。ただ、誰もそれに気づかなかった。

 

「へ〜、あきらめの悪いヤツ。だからモテないのよ〜」

千葉さんは、茶化した。

 

「エリカちゃん、互いに競い合って高め合うのはとても良い事だと思いますよ!」

最近、柴田さんはますますお母さん的になっている。子供でもできたの?産んだの?育てたの?

 

「森崎には、彼女がいますぜ」

白石くんは、司波組の前でもイケメン三下のポジションをキープしている。彼はそのポジションが居心地良いのかも知れない。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。