意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
色々あった夏休みも終わった。久しぶりに教室に入ってみると人だかりが出来ていた。『3人のビースト』こと司波・吉田・西城トリオが学生に囲まれていた。Eクラスではない学生まで(特に女子!)集まって来ている。僕は、司波くんに夏休みの終わりに街で半グレをブチのめしていたか尋ねるつもりだったが、この人だかりだ。後にしよう。
「師匠。久しぶりだな」
司波くんから、声をかけて来た。取り巻き女子達が僕に視線を移す。が、彼女達はすぐに僕に興味を無くす。僕は、簡単に朝の挨拶してそのまま通り過ぎようとした。
「師匠。模擬戦を申し込まれているが、モブ男に何かしたのか?」
司波くんは、表情を変えずに言った。
なな何ですと———?!
ちなみに「モブ男くん」とは本人のプライバシー保護を目的とした仮名だ。決して本名ではないので要注意だ。
◇◇◇
「師匠、原因は多分これですぜ」
白石くんは、イケメンに似合わない三下的なセリフを言った。芝居掛かっているがあまり上手だとは思えない。
彼は、スクリーンを開いて見せてくれた。一年生の「格付け」だった。もちろん、非公式だ。白石くんが読み上げてくれる。
「一位 司波達也 その魔工技術はトーラス・シルバーを彷彿させる。身のこなしはすでにプロ級!(何のプロかは敢えて言及しない)戦略・戦術においても…」
「ベタ褒めだね。さすがは『みんなのお兄様』といったところかな」
と僕が言うと、白石くんが僕の方をチラ見した。何か気になることでもあるのだろうか?
「師匠。司波の紹介の最後は『さすがはみんなのお兄様!』ですぜ」
へ〜、そうなんだ〜。で、二位は誰?
「二位 吉田幹比彦 冴え渡る古式魔法…」
「もしかして最後に『まさに蘇る神童!』と書いてある?」
白石くんは頷いた。
「三位の西城くんは『インテリジェント・モンスター』?」
再び頷く白石くん。
「それは、僕が書いた煽り文句だ」
「「「やっぱり〜」」」
どさくさ紛れに千葉さんも一緒に頭を抱えている。こいつは、面白がっているだけだな。口許は笑っているぞ!
「でも、これは魔法スポーツ・ノンフィクション 九校戦を読めば誰だって書けるし、これでモブくんが怒り心頭になるかなぁ?」
白石くんが、続きを読む。
「四位 河原真知 通称『師匠』。今だにその魔法力は誰にも知られていない。がしかし、必殺の「外患誘致罪刑事告訴死刑!」をはじめとした「共謀罪」「名誉毀損」「業務妨害」等の告訴、内外公的機関への通報など合法的手段で敵を追い詰める。刃向かえば、社会的に葬られるゾ」
ずっこけた。ただ、これだけで模擬戦を申し込まれるかなぁ?
ちなみに五位 森崎駿で、六位が模擬戦を申し込んだモブ男くんだった。
これで、モブ男くんは怒り心頭に発し小学生みたいな行動に出たようだ。今時の小学生は、喧嘩もしないか?
そういえば、モブくんは森崎くんと組んでモノリスコードに出場していた。こんなどうでもいい「格付け」で怒って模擬戦だ!なんて言い出す程度だからあっさり予選で棄権に追い込まれたんじゃあないかな。
「どうする?師匠、受けるか?」
司波くんが、尋ねて来た。僕は、彼はこんな事には消極的だと思っていたから彼の言動を意外に感じた。
◇◇◇
夏休み特別編は、本来もう少し長くなるはずだった。カラオケで魔法を迂闊に使ってしまいすぐに退散しなければならなくなったこと、みんなで逃亡している最中に司波兄妹が半グレに囲まれているのを目撃したこと、その日の夜に遊びに来る予定だった河村美波ちゃんが早目に来たので合流してもらい、彼女が魔法力を強化する方法をしつこく訊くので(断食ができそうか判断する為に)ウ◯コの状態を質問したら彼女がみんなの前でマジギレしたこと、夏休み最終日は軍事訓練に参加したことなど盛りだくさんだった。
極め付けは、この私小説に書いた替歌等の歌詞が著作権切れではなく関係各所に手間をかけさせてしまったことだ。その節は皆様ご迷惑をおかけしました。
しかし、この模擬戦で全部棚上げとなった。これは真剣に対処しなければならない。なぜなら、僕の魔法力を知りたい連中が仕掛けたものと思われるからだ。まだ、僕はCADをまともに使っての現代魔法は真面目に発動した事はない。公の場では。
そこで、司波くんに中条副会長を立会人に加えるのと、模擬戦競技者は一人で演習場に来るのを条件にして僕は模擬戦を受けた。その時、司波くんがわずかに口元だけで笑ったように見えた。彼も僕の魔法力を知りたいのかも知れない。風間少佐は、独立魔装大隊所属ではないのを理由に僕の入隊を彼に知らせてないのだろうか?
それと、この機会を利用して新しい魔法を試してみたかったのも模擬戦を受けた理由だ。
◇◇◇
「逃げなかったのは、褒めてやる!」
モブくんがいきなり言い放った。第三演習場に僕が入った途端に。
「あ、どーも、どーも、皆さん。もしかして僕待ちでした?失礼しました」
僕はいつもの調子で七草会長、中条副会長、司波くんに挨拶した。渡邊風紀委員長や十文字会頭の姿はなかった。どうやらあまり興味がないようだ。
「モブくん。この勝負、君が勝っても君の評価が上がりはしないし、反対に僕が勝ったりしたら君の評価はだだ下がりになるけどそれでもやる?」
念の為に、彼の意志の最終確認をした。
「河原!貴様、土壇場で怖気づいたか?」
モブくんは、頭に血が昇っている。説得は難しいか。では、次の手で。
「二科生の僕は、一科生の君との魔法の撃ち合いでは最初から不利だよ。だから、相手を死傷させた方が負けとするルールを止めてくれないか?これなら、手加減なしで殺し合え、じゃなかった模擬戦ができるよ」
こう言って、僕は少し殺気を出した。
「脅しのつもりか?いいだろう!」
わずかに動揺するモブくん。僕の殺気を少しは感じたようだ。
中条副会長が慌てる。七草会長は面白がる。司波くんは、淡々と承認を会長に求めた。
会長の承諾を得たので僕は、黒いアタッシュケースからCADを取り出し副会長に手渡した。驚く副会長。
「これは、拳銃型CADですよね」
ずっしりと重い拳銃型CADを手にしながら副会長が言った。
「あのー、このデバイスはどうやって起動するのでしょうか?」
わずかに涙目になっている副会長。
「この『ア・タ・レ・C』の文字のCに合わせると起動します」
ちなみにアは安全、タは単発、レは連射だ。
「このデバイスには、銃口らしきものがあります」
今にも泣き出しそうな中条副会長。
「はい!さすがは副会長です。これは、汎用型ではなく特化型、しかも武装一体型CADです」
「これは、拳銃です〜」
中条副会長は、一杯一杯になった。彼女の一言で演習場の雰囲気が凍りついた。
「おっしゃる通りです。拳銃としても使えます。では、チェック終了ですね。早速、始めましょう!」
僕は、副会長の手から拳銃型CADを一瞬で奪い取りモブくんに銃口を向けた。
モブくんは、口をパクパクさせている。なんとか「ひ、ひ、卑怯者」と言葉を捻り出した。
バン!
凄まじい発砲音。モブくんはその場にへたり込んだ。
僕は、殺気バリバリで凄む。
「タイマン張ったの自分やろ!チャカ出したくらいで何ビビッとんねん!なめとんのか?ワレ。はよ立たんか!ボケ」
モブくんは、その場にへたり込んだ。
「会長、模擬戦は中止でよろしいでしょうか?」
司波くんが尋ねる。
「う〜ん、どうしようかなぁ」
七草会長は、小首を傾げる。
「会長〜」
副会長がすがりつく。
「じゃあ、中止❤️」
中止となったので、僕はそそくさと帰ろうとした。
「師匠。反則負けにならなくて良かったな!」
司波くんが、余計な一言を放つ。さらに、彼は付け加えた。
「種明かしは、しなくていいのか?」