意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
僕は、太極拳の腰股の使い方、特に動かし方を説明した。ギャラリーには聞こえないように柳さんの耳にだけ情報が入るように喋った。聞かれても何を言っているのか意味がわからないと思うが。
「ただし、これが使えるようになるまでそれなりの時間がかかりますよ」
「それは、覚悟している」
「それよりも、早く強くなる八卦掌を勧めます」
「八卦掌を教えてくれるのかい?」
「良い先生を紹介します」
柳さんは異常に喜んでいた。長岡京子さんを紹介するだけなんだけどね。それにしても八卦掌幻想は、本当に根強い。確かに八卦掌は、最初から丹を鍛えるから、練功を積めば比較的早く摩訶不思議な技を出せるようになる可能性が高い。でも、結局他の武術をやっても丹を鍛えないと手足が動く前に勝負を決してしまう段階に到達できない。
ちなみにこれが、長岡さんや僕が現代魔法を知らない時に魔法師を倒す事が出来た理由の一つだ。現代魔法の発動は速いとされ、特に魔法式を暗記して一瞬で呼び出して使える技術、所謂フラッシュキャストならば一瞬だとされているが、魔法を使用するのを意識した時点より後の時間をどんなに短くしても、魔法を使用するのを意識するまでの時間を短縮できなければ時間短縮に限界が生じる。「意識」は、すでに遅い。
さらに言うと「意」でも遅い。「意」よりも早くなければ絶対的な勝利は保証されない。
そんな高度なレベルでなくても、そこそこできる格闘家や武術家に魔法師は早さで勝てない。千葉さんの体術や西城くんの体力レベルで充分勝ててしまえるのだ。
「河原くん。君の配属先だが」
風間さんが会話に割り込んで来た。柳さんは、すぐに直立不動になった。アレッ?事態が予想外の方向に進んでいるような気がする。
「お家の方の許可も頂いているので、安心してくれたまえ。もちろん、本当の親御さんの方だよ」
♪嫌じゃあーりませんか、軍隊は〜
◇◇◇
予備兵の歌や訓練を予習したのは、無駄になった。万が一予備兵補になれれば、武力攻撃事態になればすぐに国民の模範になるようにさっさと逃げるつもりだった。国民の皆様と一緒に。その為の避難経路も予め調べておこうとも思っていた。
目指せ!伊丹 耀司(いたみ ようじ)!だったのに…どうして。どうしてこうなった?むーりだ。むーりだ。よし、退役しよう。まてよ…実家の許可を得ていると風間少佐が言ってた。実家が僕の従軍に賛成したのか…うーん。どこかに児童相談所はないものか?
などと悩んでいるフリをしていたが、心はワクワクしている。これは、面白い事になった。僕の未来予知で確定的なのは、仮想敵国がハイブリッド戦争を10月30日に仕掛けてくるのを我国が撃退することだ。なので、まだ、我国が圧勝しその後敵国に屈辱的な平和条約を押し付けられるかはわからない。練度や装備や個人技や組織力のどれを取っても我国の方が大亜連合より上である。不安要素は、物量とソーサリーブースターとアンティナイトだ。大亜が違法物資の投入で戦力補強をすれば、我国の圧勝が危うくなる。こちらも違法物資を使えば良いのだが、まあしないだろうなぁ。
僕の実家も、我国の圧勝に不安を観たのだろう。実家には、凄いのがいるから。
さて、お国の為に頑張ると決意したついでに一つ書いておこう。
柳さんと魔法なしの試合をこなした後に、藤林さんが納得行かない顔になった。僕は、気を利かして「では次は魔法ありでやってみます?」と彼女に言ったらすぐに「やりましょう」となった。柳さんは止めようとしたが、風間さんは許可した。
僕は、彼女から10メートル以上距離を置いた。彼女が得意魔法を使いやすく、体術では一瞬で移動しづらい距離だ。
「はじめ!」
風間さんの合図があった途端に、閃光と爆発音がして藤林さんがその場にうずくまった。僕はトドメを刺しに行かなかった。
「今のは、遠当てなのか?」
柳さんが、驚いている。
「いいえ、光学系魔法『ほのか』と振動系魔法『たつや』です」
「フラッシュキャストで発動したのか?」
「はい、大体そうですが魔法式は本物より簡略化してます」
「『フラッシュキャスト』は、記憶領域に起動式をイメージ記憶として刻み付け、記憶領域から起動式を読み出し、起動式の展開、読み込み時間を省略する技術である」とされている。
特に司波くんの場合は、記憶領域に魔法式をイメージ記憶として蓄えることで魔法式構築の時間すら省略している。しかし、つまり、すごく脳に負荷がかかる。そこで、僕はフラッシュキャストを実行している魔法師の心と身体を立体的に記憶して必要に応じて呼び出した。
「そんな事が可能なのか?!」
「『黙念師容』を現代魔法に応用しただけです。名人に技を何回もかけてもらっていると何故だかその技ができる様になるのと同じ理屈です」
僕がここまで言って、藤林さんと柳さんは気が付いた。僕がどんな魔法でも、何回か見る機会があればそれをコピーできると。(ただし、コードが比較的短い魔法に限る。今のところ。)
このエピソードは、僕がプライドの高い女性のプライドをズタズタにするのが好きな奇特な性格であると公言する為に書いたのではない。魔法をコピーできる人物を国防陸軍第101旅団に入隊させ、メンバーにそれとなく伝えた風間少佐の意図を汲み取って欲しいが為だ。
国防陸軍第101旅団は、元々十師族を頂点とする民間の魔法戦力に対抗する戦力の確立の為に設立された。国防軍がPMC*に勝てないならその国は国家とは言えないからだ。四葉から司波くんをスカウトしたのも、仮に国軍が十師族と対立した際に魔法戦力で劣らないのを確実にするためだ。そこに、魔法をコピーできるかも知れない人物を加えてとなれば、魔法戦力で十師族に勝る可能性が出てくるのだ。
司波くんは、起動中の起動式と展開中の魔法式を読み取れるから、魔法をコピーするだけなら彼だけで充分なはずだ。しかし、コピーした起動式を他人が使って魔法を発動しようとしても、おそらく事象改変が生じないか生じてもあまりにも遅くて実用レベルに達しないのだろう。
戦略級やA級魔法師の魔法式は、戦略級やA級魔法師にしか使いこなせないのだ。
◇◇◇
柳さんが気にしてた『転』の説明をネットで拾ってきた。もしかして、それは『転(てん)』?と質問されたが、どう違うのかはわからない。柳さんはもろぼし(まろぼし?)とてんを明確に区別されていた。
>柳生新陰流の、蘊奥(うんおう)に、”転(まろばし)”という極意がある。それは、刀法でもあり、又、心の技法、タントラでもある。
転(まろばし)は、剣法として、敵と対峙したり、その折、”陽だまりの猫”の如く、安らかな心を保ち、敵の動きや状況に応じ、自在に変化、転化、対応することを大事とした。したがって、形や外見にとらわれず、昔風に言うと、常形を持たず、構えもない。
「転(まろばし)」とは、”己を、平らな盤の上に置いた丸い玉と見立て、自在に転がり、自在に転がす事”と言う技法のことである。盤が大きすぎても、修行にならないし、さりとて、小さすぎても、現実離れしてしまう。自分の存在を見極めて、それに応じたサイズにするのがよい。しかも、盤から玉が落ちないようにするには、それなりの技もコツもいる。集中力もバランス感覚も、育ってくる。昔の、剣術、忍術といった、戦いの技法の多くは、猫から学ぶところ、少なからずのようである。
☝この様な説明では、柳さんが天才でも修得は不可能だろう。僕にもサッパリだ。
昭和時代のプロ野球のスーパースターだった長島茂雄選手のフルチン打法の概要も見つけた。フリチン打法だった。
>「・・ペニスの先が円を描くことなく、そのまま投手にむかって突き刺さるように伸びることである・・最後にペニスの先が左内股を鋭く叩く。それも「パシッ」という、短く乾いた音をさせなければならない・・」長島は自分のみならずチンコをみてやるといって同室の若手選手にフリチン打撃をさせていたらしい。天才のやることって・・。
☝︎これは、多少わかりやすくなっているがやはりこれだけでは無理だ。そこで、長島茂雄の実際にスイングしている動画を探して観察した。(もちろん、彼はユニフォームを着用しておりフルチンではない。)
本当に太極拳の腰股の使い方と同じだった!これには、「来たかチョーさん待ってたドン!」と驚いた。
*PMC
民間軍事会社(みんかんぐんじがいしゃ)とは、直接戦闘、要人警護や施設、車列などの警備、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業であり、新しい形態の傭兵組織である。
PMC(private military company または private military contractor)、PMF(private military firm)、PSC(private security company または private security contractor)などと様々な略称で呼ばれるが、2008年9月17日にスイス・モントルーで採択されたモントルー文書で規定されたPMSC(private military and security company、複数形はPMSCs) が公的な略称である。
概要
1980年代末期から1990年代にかけて誕生し、2000年代の「対テロ戦争」で急成長した。国家を顧客とし、人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする企業であることから、新手の軍需産業と定義されつつある。