意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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サブタイトル変更しました。


九校戦編33

 僕は、司波くんを追い掛けた。彼は一見いつもの司波くんだ。しかし、僕には彼からノーヘッドドラゴンに対する殺気がヒシヒシと感じられる。他の人が、何故感じないのか不思議なくらいだ。

 

彼は、重苦しい雰囲気の一高テントを出で大会役員のテントに向かう。CADのチェックの為だ。

 

少し迷う。僕達報道関係者は、選手と同じ様に「関係者以外立入禁止」区画に立ち入るのを許可されている。しかし、デバイスチェックの取材なんて意味のない取材は有り得ない。テントに入れば目立つことこの上ない。

 

ええい!迷っている時間はない。司波くんが本気になった時、離れたままでは彼を止める自信はない。ならば彼の近くに位置するしかない!

 

司波くんは、ちょうどデバイスチェックを受けていた。

 

彼は、チェックをしている大会役員の胸ぐらをいきなり掴み、足元に叩きつけた。悲鳴が上がる。警備員が怒号をあげる。

 

僕は、安心した。司波くんは、武術の腕は大したことなかったからだ。

 

下手に功夫がある人物が、怒気や殺気で動いてしまうと相手を誤って殺してしまう。彼はそのレベルではなかった。彼から発せられる殺気は、地べたに這いつくばらされている工作員や周りを囲んでいる警備員の動きを制にする程度にあからさまだったにもかかわらず、工作員はまだ死んでなかったのだ。

 

僕は、九島さんが近付く気配を感じその場を離れた。あとは、あの老人が何とか取り繕うだろう。

 

少佐に藤林さん、素早い対応ありがとう。

 

◇◇◇

 

ある程度は予想していたが、実際にリードされている司波さんを見ることになるとは驚いた。ミラージバット本戦は新人戦とはレベルが違った。二高の選手、渡辺委員長と並んで優勝候補であったので強敵だとは思っていたが、まさかこれほどとは予想外だ。まさに箱根駅伝の山の神、ツールドフランス山岳ステージのクライマーだ。

 

司波さんは、広範囲の事象改変が得意であり、それはすでにA級魔法師レベルと言って良い。しかし、自分の身体を持ち上げるだけなら読みや反応速度や作戦でA級魔法師レベルでなくとも司波さんに対抗できる。

 

二高の選手は、光井さんレベルの反応はないがとにかく早い。CADを経由してないのでは?と邪推するレベルだ。司波くんの指パッチン攻撃と同じレベルの早さなのだ。ミラージバットに特化したBS魔法師と言ってもあながち外れてない。

 

また、彼女が知っているのかどうかわからないが司波さんの跳躍はフィードフォワード制御をメインにしており外乱を受けると速度の遅い(それでも普通の速度の)フィードバック制御となるのを逆手にとって反則を取られないよう司波さんに行路妨害を仕掛けているのだ。

 

 優秀なサイドアタッカーが、サイドをドリブルで駆け上がっている時に、サイドバックは、ボールを追いかけてもサイドアタッカーに追いつけないと判断すれば、目標をボールからサイドアタッカーに変える。サイドバックは身体をサイドアタッカーに反則にならない程度にぶつけ、あるいは寄せてサイドアタッカーの走行速度を落とす。そのまま並走しスライディングでボールをタッチに出す。

 

サッカーの試合で見られる優秀なサイドアタッカーと優秀なサイドバックの攻防だ。二高の選手はそれをミラージバットで実行している。司波さんには、このような熟練技に対抗できる熟練技はない!

 

もし渡辺風紀委員長なら、規模の小さい魔法を複数組み合わせてほぼ同時に使用するのが得意なので、二高の特化型に挑まれても良い勝負をした上で勝てるのだろうが。

 

司波さんには、焦りの色がうかがえる。第2ピリオドでは、明らかにオーバーペースの力押しでリードを奪い返した。一方、二高のエアクライマーは、ペースを落として休みながら競技していた。最終ピリオドの勝負に備えているのだろう。もしかしたら、まだ奥の手を持っているかも知れない。それを最終ピリオドで出されたら、司波さんは負ける可能性が極めて高い!

 

「奥の手」?今、光井さんもそう言ってたのを思い出した。ミラージバット新人戦優勝インタビューで、僕が光井さんに「ミラージバットなら、光井さんの光学系ロケットスタートを駆使すれば司波さんにも勝てるのでは?」と尋ねた時に彼女が答えたのだ。

 

「司波さんには、『奥の手』があるの」と。

 

「奥の手」が何か僕には知る由もないが、ここで出さないと二高の特化型を調子づかせてしまう。

 

最終ピリオドが始まった。司波さんのCADが変わっている。「奥の手」を出してきたようだ。

 

司波さんが、飛び上がる。二高のエアクライマーがすぐに飛び上がり遮蔽体勢になる。司波さん、加速。光球ゲット。空中静止。そして、

 

「「水平移動?!」」

少佐と僕はハモってしまった。

 

司波さんは、そのまま水平飛行を続けて次々に得点をあげる。観客も「飛行魔法?!」「トーラスシルバーが、先月発表したばかりだぞ!」と騒ぎ始めた。

 

おいおい。これでは『まるでトーラスシルバー!まさかトーラスシルバー‼︎きっとトーラスシルバー!!!』だ。大丈夫なのか?司波くん。

 

ちなみに肝心の試合は司波さんの圧勝で終わった。熟練技で挑んできた二高の「跳躍の神」も、相手が「跳躍」から「飛行」に飛躍した瞬間になす術が無くなったのだ。

 

観客スタンドは、大変な騒ぎとなった。観客のほぼ全てが、生まれて初めて「飛行魔法」を見た。所謂歴史的瞬間に立ち会ってしまったのだ。携帯端末に向かって怒鳴りつけるようにまくし立てている人、一心不乱に端末に入力している人、呆然としている人、感動で泣いている人までいる。

 

さて、僕はお国のためにもう一働きしよう!テロリストを然るべき機関に通報するのは国民の義務だから。知っているのに黙っていたら共謀罪に問われかねないし。感動に浸るのは後回しだ。

 

「少佐。あそこにヘッドマウントディスプレイをした体格の良い人物が見えるだろう?そうそうあの人。昨日もいたね。藤林さんに教えてあげて」

 

少佐が、携帯端末から連絡する。

 

殺気が薄くても、その他の感情がほとんどない特徴を予め掴んでさえいれば簡単に殺気のないテロリストを探知出来る。特に全ての観客が興奮している中でそのような素振りが全くない人物は、奇妙に目立つ。特殊な能力がない一般人でも近くにその様な人物がおれば違和感を覚えるだろう。

 

通報したので後の処理は専門の人達に任せよう。

 

殺気に関して付け加えると、マークする人物が最初から決まっている場合は殺気の質の変化がわかる。誰とは言わないが、可愛い妹を奈落の底に突き落とそうとした不届き者達を皆殺しにすると今、彼の殺気がより先鋭化した。これは他人任せではなく自分自身で見学しなければならない。

 

◇◇◇

 

 ミラージバットの決勝戦には、驚かされた。他校の選手も「飛行魔法」を使ってきたからだ。それにしても、大会役員達の勝負を面白くしようとする恣意的な運営は鼻につく。司波兄妹の「奥の手」は、彼等のもののままでいいではないか!今大会くらい。

 

さて、その大会役員達の姑息な努力にも関わらず司波さんが優勝した。少し考えれば当然なのだ。司波さんは、この「奥の手」を習熟するまでトレーニングを積んでいる。他の選手は、今回初めて「飛行魔法」を使用している。これでは勝負にならない。しかも、司波さんのサイオン量は十師族並みだ。なので、魔法力のスタミナ勝負で彼女が他に後れを取ることはまずない。

 

終わった。終わった。九校戦の総合優勝は、最終日を待たずに一高に確定した。テロリストも然るべき機関が適切に処理したようだし、あとは「必殺‼仕事人」の仕事ぶりを見学するとしよう。

 

と、思ったのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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