意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
五つの術式の連続使用だった。吉田くんの選択は。吉祥寺くんが冷静なら足に草が絡み付いたのを魔法力でなく人力で退ければ良かった筈だった。所詮、ただの草なのだから。
吉祥寺くんが初見の魔法に弱いと吉田くんにもバレたのかどうかは吉田くんに訊いてみないとわからないが、とにかく、吉祥寺くんは予想外の展開に対する反応が悪い。空中に必要以上に飛び上がり吉田くんの電撃系の餌食になってしまった。ただ、これは吉田くんの方が吉祥寺くんよりも一枚上手だっただけとも言える。
ここで、三高の名無しくん登場!余力のない吉田くんに攻撃を仕掛ける。そこに、西城くんが復活。首を振って状況を確認しすぐに黒マントを脱いで投げ付ける。対応が早い。しかも、小通練と同じ要領だ。得意の系統の魔法だけあって起動もメチャクチャに早い。名前が良くわからないまま三高の名無しくんは撃沈された。
一高の勝利だ。
こうしてみると、一高メンバーは三高メンバーより根性があったのが勝因と言える。各人が一回は攻撃魔法の直撃を受けても何とか復活して攻撃参加している。それと、状況判断が一高メンバーの方が早かった。事前に策をしっかり練っていたので各人の判断や決断が早かったのだろう。
魔法師同士の戦いは、早く魔法を当てた方が大概勝つ。しかし、それは大概であって絶対ではない。一条くんも吉祥寺くんも名無しくんも一回は根性で立ち上がるべきだった。そうすれば、三高の勝ちだったろう。
とはいえ、根性を絞り出せるのも男を見せられるのも実力のうちなのだ。一高の三人は三高の三人よりも実力が上だった。だから、勝った。ただ、それだけだ。
悲鳴を上げていた柴田さんがスタンドにいないのに僕は気付いた。千葉さんは1人取り残された形となっている。要らぬお節介かも知れないが、僕は席を立った。
「千葉さん」
僕が声をかけると彼女は、戸惑った表情を見せた。
「勝負は、終わってない」
「?」
「いや、新たな勝負の始まりだ。遅れを取るな」
彼女は、僕を一瞬睨んだがすぐにフィールドに視線を移し「そうね」と小さく呟いて観客席を立った。
「ありがと」
彼女は、僕と視線を合わさずにそう言って柴田さんの後を追いかけた。
「師匠。優しい〜」
後ろから少佐の声がした。
「僕は、女の子にすご〜く優しいよ」
少佐は、首をすくめて見せる。
しかし、千葉さん。どちらを選ぶつもりなのか?決めないまま選手控室に向かって行ったようだが。二兎追うものは一兎も得ずだぞ。
◇◇◇
「身体を鍛える方法?」
単刀直入な質問だが、柴田さんから訊かれるとは予想外だった。僕が泊まって部屋に吉田くんと柴田さんが一緒に訪ねて来たのはもっと意外だったが。
吉田くんが丈夫な身体の必要性を痛感したのはわかる。新人戦モノリスコードで一高が決勝で三高に勝った決め手は一高選手の粘りだったからだ。要は根性。もっと言えば魔法の直撃を食らっても耐える精神と肉体の強さだった。
確かに、西城くんと吉田くんの場合はそうだった。司波くんのは…。吉田くんは司波くんの身体の強さも武術や忍術のトレーニングの賜物と解釈したようだ。
「師匠さんなら、何か凄い訓練法を知っていると思いました!」
誰かの為だと、覚悟を決めたら柴田さんは猪突猛進だ。吉田くんを引きずってここに来たのだろう。惚れた男の為に奮闘する柴田さんはエライ!という事で真面目に座禅教えます。
「あるよ!」
「本当ですか‼」
「うん。じゃあ、吉田くんうつぶせになって、その上に柴田さんが乗って」
僕は、床にタオルをしいて吉田くんを促した。吉田くんは顔を真っ赤にして狼狽した。柴田さんはやる気満々だった。
僕は、嫌がる吉田くんを無視して寝転がさせ背骨を、手の掌を右回転して摩り陽気を入れやすくする方法を実演してみせた。柴田さんは、早速僕の真似をした。
「太陽光に当たるのは、午前中の方がいいけど午後なら当たり過ぎに注意して下さい」
僕は、掌心や尺沢を上に向けて太陽光に当たる恰好をした。二人は、すぐに起き上がって僕と同じポーズをした。
「師匠。足が外側に向いているのは重要なのかい?」
観念した吉田くんはさっそく真面目な質問をした。
「そうです。体の陽気が増えると足まで暖かくなったり、元気になるのを自覚できます」
今は夜なので、その感覚は極めて薄いが。
「吉田くん。座禅を組んで見せて」
彼は、神祇魔法の為に座禅も練習させられていると僕は思ったのだ。案の定、まず成功しない座り方を彼はした。
「結跏趺坐に無理にしなくていいですよ。胡坐でも半結跏趺坐でも、とにかく楽に座って下さい」
僕にこう言われて吉田は納得が行かない表情だ。
「昔、空海みたいな天才達が大陸に渡って座禅を習うと教えるほうもいきなり上級者用の座り方を教えていたみたいです。普通の人でも頑張れば出来るようになるけど下半身が緊張するから逆効果です」
吉田くんは半結跏趺坐に足を組み替えた。プライドが高い。
「柴田さん、手の印の組み方は、男女で手が逆になるんだ」
胡坐で座っている柴田さんは両手を入れ替えた。
「それと、必ずタオルなんかを掛けて身体を冷やさないで座禅して下さい。最初は陽気が少ないので冷えてきますので」
一通り、座禅の基礎を伝えた。しかし、吉田くんは、不服そうな顔をした。柴田さんもすぐにそれに気付いた。水晶眼恐るべし。本気で活用すれば、ほとんど事が視えてしまう。
「吉田くん」
柴田さんが小声で吉田くんをせっつく。柴田さんに免じて、僕の方から言い出そう。
「ここまでで、何か質問はありますか?」
ようやく、吉田くんが口を開く。
「硬気功や鉄砂掌とこれは関係があるのかなぁ?」
随分遠慮がちだ。
「あります。座禅は陽気を増やします。排打功や鉄砂掌は陽気をあまり増やしません。しかし、神経や血を鍛えるには適しています」
「陽気は、サイオンと考えていいのかい?」
「陽気を増やせば、使えるサイオンは増えますが、その逆はまだわかりません。というか?サイオンを増やす方法は、今だに開発されてないはずです」
「さっきの血や神経を鍛えるとはどういう事なの?」
「鉄砂掌の功を積む時に漢方を使います。その中に少し毒が入ってます。元々鉄もほとんどの場合体に良くありません。しかし、負荷を適当に調整すれば鍛えられるのは筋肉トレーニングと同じです。毒で身体を鍛える資料*を紹介しておきます」
「これは、危険過ぎると思う」
「そうです。なので、練習している人はほとんどいません。うちのクラスなら長岡さんくらいだと思います」
「僕には無理かい?」
「もっと陽気を増やせば可能です。しかし、龍神を降ろす方を優先した方が良いのではないでしょうか?」
「神祇魔法に耐えられる身体を作る方法もあるのかい?」
「はい、長く座れれば可能になります。長い鼻呼吸をするのがコツです。特に呼気で身体の悪いものを出して行くのを覚えておいて下さい」
おそらく、これらの知識はすでに断片的に吉田くんは知っているし練習もしている。なので、今一つ釈然としない表情になる。僕は、太陽光に当たるポーズを二人に見せて尋ねた。
「手のひらに何が見えますか?」
「ボールかな?」
吉田くんは、あまり自信がなさそうだ。
一方、柴田さんは、「光る玉です。凄く動いている」
「ひゃっ!」
「どうしたの?柴田さん!」
吉田くんが、すぐに柴田に寄り添う。
「蛇がとぐろを巻いています。いえ、龍です!」
毒で身体を鍛える資料*
場合によっては死にも至ることがあるヘビの毒を、なんと25年間にもわたって自分の体に注射しつづけることで、毒に対する抗体を体の中で作ってきた人物がいます。そしてこの度、この男性の体から骨髄が取り出され、35種類以上の抗体が取り出されています。
まさに常軌を逸した行動を続けてきたのは、アメリカに住むスティーブ・ラドウィン氏です。49歳の男性であるラドウィン氏は、パンクロックバンドでシンガーをつとめているとのこと。
25年前に毒の注射を始めたというラドウィン氏は少年の頃からヘビが大好きだったそうですが、9歳の時に訪れたフロリダのヘビ園で、ある人物にであったことがきっかけでヘビの毒を自分に注射することに関心を持ちました。
その人物とは、西洋人で初めてヘビの毒を自分に注射し、抗体を作る試みを行ったとされるビル・ハースト氏です。無謀すぎるハースト氏の試みでしたが、あろうことかラドウィン氏も同じように毒を注射して抗体を作ることに憧れに近い感情を抱いたそうです。
やがてラドウィン氏は実際にヘビの毒の注射を開始し、それ以来25年間にもわたって週に一度の注射を続けてきました。自宅でヘビを飼い、定期的に採取した毒を最初は水で薄めたものを注射しはじめましたが、徐々に濃度を高くして体を毒に慣らし続けることで、体内で毒への抗体を作ってきたとのこと。ラドウィン氏の自宅では何種類ものヘビが飼われており、餌やりなどの世話をしながらラドウィン氏は毒を小さな容器で採取。その様子は、VICEが公開した以下のムービーに収められています。
このムービーを目にした一人が、コペンハーゲン大学のブライアン・ローゼ博士でした。世界でもほとんど類を見ない試みに学術的な価値を見いだしたローゼ氏は、ラドウィン氏に接触。その後、ラドウィン氏をコペンハーゲンへと招き、まずは血液の採取を行いました。
血液を採取したローゼ氏は、そこに含まれる抗体を取り出すことを試みました。しかし、抗体が作られる際に必要なB細胞が含まれていないことを確認したローゼ氏と研究チームは次の一手として、ラドウィン氏の体から骨髄の一部を取り出すことを提案しました。
ラドウィン氏もこの提案には及び腰だったようで、答えを出すまでに数日かかったそうです。しかしラドウィン氏の勇気ある決断により、提案どおりに骨髄が採取され、B細胞の取り出しとDNAおよびRNAの分離に成功しました。そしてその後、2年に及ぶ作業の結果、ラドウィン氏が持っていた抗体のコレクション「ラドウィン・ライブラリー」が完成したというわけです。
通常は、ヘビの毒に対する抗体を作るためには倫理的な理由でヒトではなくウマに毒を注射するという方法が採られます。しかし、そのようにして作られた抗体または血清に対し、人体が拒絶反応を示すことがあり、解毒のために注射した血清によって命を落とすケースも発生しているとのこと。しかし、同じヒトの体でつくられた抗体ならば悪影響は非常に少ないとのことで、実際にそのようにして作られた血清で命が救われた例もあるとラドウィン氏は語っています。
ローゼ氏はラドウィン氏の行為について「彼がやったこと、そして死なずに済んだことはほとんど奇跡的なことです。コペンハーゲン大学は完全に、このようなことを他の人が行うことを推奨しません」と語り、その価値は認めつつも、ラドウィン氏の行為が並外れて無謀なものだったことを指摘して人々に注意を促しています。
今後はまず、採取された抗体をもとに即死性の強い毒に対する血清を作り、その後はより一般的な用途に用いられる解毒剤の開発が進められる予定とのこと。ちなみにラドウィン氏は「体は至って健康で、年齢よりも10歳以上若く見られることもある」とのことです。 ☜ここに注意!