意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
(……まるで、「トーラス・シルバー」みたい?)
誰かが心の中で叫んでいる。
(あの起動式の完全マニュアルアレンジ……汎用型のメインシステムと特化型のサブシステムをつなぐ最新研究成果の利用……汎用型CADにループ・キャストを組み込んだ技術力……『インフェルノ』……『フォノンメーザー』……『ニブルヘイム』……どれも起動式が公開されていない高等魔法のプログラム……)
精神干渉系魔法か?このレベルなら『サトラレ』*と言っていい。
*『サトラレ』は、佐藤マコトによる漫画作品。「サトラレ」とは、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す架空の病名またはその患者をさす。正式名称は「先天性R型脳梁変成症」。サトラレは、例外なく国益に関わるほどの天才であるが、本人に告知すれば全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊を招いてしまうため、日本ではサトラレ対策委員会なる組織が保護している、というのが物語の基本構造となっている。
(まるで?トーラス・シルバーみたい?ううん、これって……トーラス・シルバー本人じゃなきゃ不可能なんじゃ……)
見つけた!あの前方のちびっ子だ。
(まさか?まさかまさか?まさかまさかまさか?)
「どうしたの?」
空中を躍動する選手ではなく、前方で突然立ち上がったちびっ子を見ている僕を少佐は不思議に思った。
(-俺たちと同じ日本の青少年かも知れませんね。-)
あちゃー、言っちまった。ちびっ子が。
「中条副会長がどうかしたの?」
「少佐は、聞こえなかった?」
「何が?」
少佐には、聞こえなかった。
「でも、司波くんって本当に凄いよね」
少佐は、聞こえてはいないが、精神を思い切り干渉されていた。中条あずさおそるべし。
副会長は自覚していないだろうが、この力はある意味戦略核よりも破壊力を持つと言って良い。彼女が心から尊敬する人物を魔法師の大半に尊敬させるのもその逆も可能なのだ。
これはひょっとすると…等と考えながらミラージバットを観戦していたら、
競技が終了してしまった。優勝は光井さん準優勝は里美さんだ。二人が他を圧倒して完勝した。
◇◇◇
「光井さん、北山さん、少し時間いいかな?」
僕は、一年女子達に囲まれて身動きが取れなくてなっている二人に声を掛けた。僕が、二人に声を掛けて時に一年女子達の雰囲気が急に変わったのが多少気になったが、それはこの際無視しておく。後からその理由を調べよう。
僕は、今書いている魔法スポーツノンフィクションについて手短かに説明した。北山さんは、ノーリアクションで話を聞いていたが光井さんは姿勢を正して緊張して聞いている。取材と僕が言った影響か?いよいよ、本題に入る。
「スターターの指の動きや、投光器の変化を視るのは、司波くんのアイデア?それとも光井さんのアイデア?」
「え━━━━っ?!どうしてわかってしまったのですか?」
同学年なのになぜ敬語?光井さん。北山さんは光井さんを驚愕の表情で見ている。(彼女は表情の変化が乏しいので僕の読みが間違っていたらごめんなさい。)
「スタートで勝てない理由がやっとわかった」
独り言のように呟く北山さん。確か二人は同じ部活だった。きっと部活の事だ。
「あれは、光井さんのオリジナルだったんだ」
僕も感心した。
「違います!達也さんと一緒に練習して完成させたんです!」
いやいや、光井さんが考えて司波くんが磨きをかけて完成させた技術であれば光井さんのオリジナルだ。しかし、それは口にしない。
僕は、司波くんを大いに褒め上げて光井さんのご機嫌を良くした。そして、質問した。
「ところで、後夜祭合同パーティのダンスに司波くんを誘わないのですか?」
「$!%#!>;|」@&¥+[\」
光井さんが、意味不明な返答をした。こんなに動揺するとは予想外だ。
「是非お誘い下さい。光井・司波ペア奮闘記のラストを二人のダンスで締めくくれば最高の作品になると思います!」
北山さんが、僕の方にサムズアップしている。
こうして、無事に光井さんの承諾を得られた。途中から光井さんは僕の話を聞かないで「ダンス、ダンス」とうわ言のように呟いていたのだが。
二人の取材を終えた後、里美さんに取材をした。
「なるほど!それで彼女にスタートでは、全く勝てなかったわけだ。教えてくれてありがとう」
里美さんの実名を出す事にも快く承諾してくれた。切符の良い性格だ。
「それにしても、司波くんは本当に凄いんだね」
いやいや、光学ロケットスタートは光井さんのオリジナルだよ?里美さんも中条副会長に精神干渉されているのだろうか?司波くんが凄いのは事実だけど優勝したのも準優勝したのも選手なんだ。
司波くんに対する学生の依存は、副会長の無自覚の精神干渉魔法で更に強まったようだ。これはひょっとするとひょっとするぞ。
◇◇◇
「師匠、幹比古が相談したい事があるそうなの。話を聞いてあげてくれる?」
真夜中近くになって少佐から連絡があった。僕が快諾するとすぐに部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
見るからに動揺し切った吉田くんが部屋に入って来た。彼は、立ったままで自分の置かれている状況を話し始めた。
「とりあえず、座ったら」
「ああ、ごめん」
「災難だったね。いや、大チャンスと言った方が良いのかな?」
吉田くんは、一通り話を終えて落ち着きを取り戻した。
「一回、召喚魔法に成功したらその影響は特に召喚魔法をしなくても続くよ。自分自身が不調になった感じるのは降りた霊と自分の差があっただけだ。でも、最近慣れて来たはずだからもう大丈夫だと思う」
「師匠は、不調に悩まされたりしないのかい?」
「質的な進歩や改善の前には好転反応と言われる不調がくるよ」
吉田くんと話していてわかったのは、彼は司波くんに完全に依存できてないことだ。吉田くんは古式魔法出なので現代魔法にどっぷり浸かってない為だろう。それが、今悪い方に働いている。
「吉田くん、困った時は神頼みなんだ。特に召喚魔法で一回でも現れてくれた神は自分自身が頼りにならない時にこそ頼りになるよ」
「そんなものなのかな?」
「僕は、これでも伝人なんでウソは言わない。ただ、神頼みにもコツはあるよ。『ピンチから目を逸らさない』と『毎日神に心向けよ』だ」
吉田くんが、静かに頷く。
「それと、神に頼る前に人に頼るべきだ」
僕は、彼の心に映っている女性の名を告げた。
◇◇◇
新人戦五日目は、困惑の空気と共に幕を開けた。前日のモノリスコードで、前例の無い悪質なルール違反を四校がおかしてしまい四校の失格と一高の棄権となってしまいそうだった。しかし、もしそのような前例を作ってしまえば激しい得点争いを繰り広げる学校が得点を期待できない選手を使ってライバル校の有力選手を反則で棄権に追い込む戦法を大会役員が容認したと捉えられかねない。
と、主張して一高の意見を丸呑みさせて悪しき前例を作らせないあるいは、大会はそのような反則攻撃を決して容認しない姿勢を示すべきなのだ!(等と押せば一高の要求が通るはずだと事故後に僕から少佐に伝えておいた。)
と、十文字会頭や七草会長が大会役員と交渉したかは知る由もないが棄権した森崎くん達の代わりに完全無欠(情動以外)の最強お兄様、司波達也と蘇る神童、古式魔法の貴公子、吉田幹比古とフィジカルモンスター、キャプテン、西城レオンハルトが新人戦モノリスコードに出場する大変ドラマチックな展開になった。
僕のテンションも上がりっぱなしだ。これで、魔法スポーツノンフィクションで三つの原稿を作れる。
基本コードの知識がなければ吉田くんの非公開古式魔法を現代魔法に書き換えるのは不可能だ。無系統魔法が無系統なのは、事象改変後のエイドスの情報まで記述しないケースが多々あり系統にうまくあてはまらないからだ。吉田くんの感覚同調もそれにあたる。
吉田くんによると司波くんはその非公開古式魔法の術式を一時間で現代魔法の術式に変換し、その上、発動速度を上げる為に偽装など不要な要素を取り除いたそうだ。
まるでトーラス・シルバー!まさかトーラス・シルバー‼きっとトーラス・シルバー!!!