意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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入学編 6

昼休みに校内の食堂で一科生と二科生が一緒に食事をするのは以前、たいそう珍しい光景だったそうだ。ところが、最近はそうでもなくなったらしい。どうしてそうなったのか明らかなのだが、一応書いておこう。

 

司波兄のおかげだ。司波兄が、入学以来無敗の副会長に土を付けたりクイックドロウで有名な警備会社の息子をやり込めたり剣術部の次期エースを制圧したり会長や風紀委員会長から好意を持たれたり1-A、1-Eの綺麗どころを侍らせたりとやりたい放題好き放題した報復に悪質かつ卑怯な攻撃を受けたにも関わらず全て跳ね返したので、食堂で一科生と二科生が席を並べる程度は許される雰囲気が発生したと多くの生徒が考えている。

 

個人的には、それに加えてあの「氷の微笑」「雪の女王」と囁かれ始めている一年生総代で答辞を行った司波兄の妹司波深雪嬢の存在も大きいと考えている。所謂「ブラコン」かつ「ヤンデレ」なのだが、一科生と二科生の垣根どころか兄妹の垣根も飛び越える勢いだ。

 

僕は、渋る白石を連れて1-Aの仲良し二人組と食事を始めようとしている八卦さんに声をかけた。

「大事な話がある。隣いい?」

「いいよ」

八卦さんは即答した。相席している1-Aの二人組の意志を確認しなかった。三人の力関係がわかる。僕は、二人に断って八卦さんの隣に座った。

「ねえねえ、大事な話って何?私達も聞いて良い?」

涼何とかさんは、好奇心旺盛のようだ。僕らの失礼な割り込みも気にしてない。いい人だ。涼野さんか。名前を覚えておこう。

「涼ちゃん、ダメだよ」

朝何とかさん、いい人だ。割り込んだ僕らが悪いのに気を利かせてくれようとしている。朝田さんか。名前を覚えておこう。

「構わないよ。むしろ一緒に聞いて、興味が有れば力を貸して欲しい」

僕は、真剣で深刻な表情を作って言った。テーブルの中央に四人の頭が集まる。司波兄派閥とまでは行かないが十分目立っている気がした。

 

              ◇◇◇

 

 涼野さんは、見た目が快活で積極的なのだが実際に決断も行動も速かった。自宅でノンアンティナイト魔法発動妨害実験をしようと言い出し、放課後三人で彼女の自宅にお邪魔する話を家の人に付けた。

 

「ところで、どうして師匠なの?」

段取りを終えた涼宮さんが僕に尋ねた。涼野さんだった?女の子にモテようと思うなら名前をしっかり覚えるべきだ。

「健康の為なら死ねるから」

と僕は答えて、飲みかけの白湯を見せた。

「えっ、何それ?!」

僕が飲んでいたのはコーヒーでもお茶でもなくただのお湯だと知って涼野さんは驚いた。

「じゃあ、あたし達も師匠とこれから呼ぶね」

「それ、健康にいいんですか?」

朝比さんだったかな?女の子にモテようと思うなら名前をしっかり覚えるべきだ。

「身体が冷えにくくなるし、ダイエットにも良い」

その後、時間まで話込んだ。

涼野さんと朝田さんは、アイスコーヒーとジュースを何故か残した。

 

◇◇◇

 

 

西暦2000年頃には、世界は反米か親米のどちらかになっていた。米国は核兵器に対する防御を完備しつつありレールガンや無人機等の新世代兵器で世界を圧倒していた。実際米国は借金だらけだったが同盟国の日本が核配備と再軍備を条件に米国に資金的あるいは技術的な協力をしたので実現したのだ。このまま行けば100年もしない内に米国が世界帝国となると当時の専門家は予想していた。

 

しかし、魔法の実用化つまり現代魔法の登場によって米国の世界帝国化の流れは途絶えた。現代魔法師はある意味米国が他国を圧倒していた新世代兵器と並ぶあるいはそれ以上の兵器だったからだ。いかにお金と技術があっても魔法師の量産は未だ不可能。こうして米国の圧倒的有利は無くなった。

 

日本は核兵器にも匹敵するかも知れない魔法師の育成を比較的早くから取り組んできた。一億人程度の国民しかいない我国では自然発生に任せているだけでは実用性を持つ魔法師は多く出現しない。幸い、マイナンバー制度等の国民一人一人に目が届きやすい体制を早くから実現していた日本は魔法力のある人物を早期に発見可能ではあった。ただ、そんな我国でさえ魔法師の量産にはその目処すらたってない。

 

講義中についつい講義と関係ないこと考えるにはそれなりの理由がある。僕は、中学生の頃熱心に学校に通わなかったと書いた。空いた時間は自分の興味のあることを知る為考える為に費やした。ひょんなことから現代魔法にも詳しくならねばならなくなり中学三年生の時は現代魔法の解説書や教科書もかなり読んだ。それで今受けている講義の内容はほとんど知っている。

ただ、そうは言ってもテストで高得点を取れる程努力精進もしないし、見たものを画像のごとく記憶出来るIQ200レベルの知能もないので成績は大したことない。(中学では上位だったが魔法科高校では平均程度だと思う。)よくよく考えるとなぜ合格出来たのか不思議なくらいだ。

 

『そんな我国でさえ魔法師の量産にはその目処すらたってない。』これは当時考えていたことだが、今の僕の中では魔法師の量産化は成功している。あとは、それを自分で証明しなければならない。この高校生活を使って。

「他に道はない」と面接でも言った。現代の1番大きく1番見通しが立たない問題は、普通の人が魔法師になれることでほぼ全て解決する。面接官に単なる妄言と思われても仕方ない事を熱く語ったがここに合格出来たのだから、単なる妄言ではないと信じられたのだろう。

 

本当は、人類が全員『神』になればすべての問題は解決すると主張したかったがそこまでやってしまうとさすがに呆れ返られると思い自重した。人類は皆神になれる、況んや魔法師!である。

 

◇◇◇

 

備え付けのCADにも魔法を作用させる対象にも視線も身体の正面も向けずに八卦さんが魔法実習を始めた。

ほんの一週間前は課題をこなすのに四苦八苦していたのが嘘の様だ。早く速く、早さも速さもE組のトップだと思うのだが、正確さには大きく欠けるが。

彼女には、現代魔法を習得しようとせずに自分の得意な八卦掌や太極拳に現代魔法を近付けるようにと助言をした。

 

円の中心にCADや対象を置いているので彼女は明後日の方向を向いて魔法を発動している。側から見るとCADの前で奇妙なポーズをしているだけなので目立つ事この上ない。しかし、魔法発動まで0.1秒を切るのには驚いた。ただ、台車は吹っ飛ぶ様にレールを走り規定の停止位置を余裕で超えて壁に激突した方が皆には驚かれていた。

 

僕は、最低限の課題をクリアして履修完了し実習を自主終了した。放課後のノンアンティナイト妨害魔法実験を成功する為に八卦さんに確認して起きたい事があったからだ。用事がなくても自主終了するつもりだったが。

 

「八卦さん、天の気を取り入れて地の気につなげて行くのはできる?」

彼女は少し考えて「どんな感じ?やって見せて」と言った。

僕は、立ったまま実演して見せた。地を透して備え付けのCADに気を通した。

「武器法と同じね」

楽勝でできるらしかった。掌門なら当然だろう。本当は尋ねるだけ失礼だった。

僕は、彼女と放課後の実験の打ち合わせを簡単にした。

 

◇◇◇

 

涼野宅は、屋敷だった。大金持ちではないのかも知れないが、お父さんやお爺さんは何の仕事をしてこれだけの財産を積み上げたのだろうかと気になってしまう程度の邸宅だった。それと迎えの車が来たのも驚いた。涼野さんはお嬢様だったらしい。ただ、一般人の方が魔法科高校では少ないと言われている。特に一科生は。

 

そんな、涼野宅訪問だったのだが来賓用の部屋(?)でくつろいでいると涼野さんのお爺さんが登場したので驚いた。しかも、我々の実験を見学したいとおっしゃるのだ。

「良いですか?老師」

「良いですよ」

八卦さんが、また気前よく承諾している。おきまりの金粉現象を起こしながら。この人は、皆さんの意見を良く聞いて判断する習慣がもしかしたらないのかも知れない。それはそうと老師?この爺さんは八卦さんの弟子なのだろうか?僕用に出された白湯を飲みながら思った。

 

「ところで、どのようにしてアンティナイトを使わずに魔法の発動を抑えるのでしょうか?」

涼爺は、かなり気になるようだ。

「それなら、師匠くんがよ〜く知っているよ!これを考えたのは師匠くんだもの」

涼野さんは、明るく答えた。

 

サイオン波を不規則に多量に浴びせればCADから発生した魔法式が魔法師の身体に流れるのを阻害し結果的に魔法は発動しない。しかし、これを魔法師が行うと自分自身もサイオン波を出すのに精一杯になるのと自分自身の魔法も発動できなくなってしまう。司波兄は体術が優れているので妨害魔法だけ発動させて敵を体術で制した。これは彼にしかできない芸当だ。

なのでアンティナイトを使ってサイオン波を乱すのが一般的な魔法妨害策だ。

もちろん生徒会長のようにサイオン波を敵にぶち当てて起動式ごと乱してしまう方法もあるが、これも彼女だけしか出来ない無系統魔法の一つと考えて良い。

 

なので、訓練次第で誰でも出来る妨害魔法を考えてみた。天の気を取り入れながら先天の気を増やしてサイオンの量を増やし、自由に使えるサイオンを空間を経由して無理に敵に伝達させるのではなく地の気を経由して敵の身体とCADにサイオン波を伝達させるのだ。

 

漏電が発生して大地を電流が流れて、元の漏電箇所とは違う場所で地絡継電器を誤作動させる現象と似ている。

 

理屈は簡単なので先天の気を意図的に一時的に増やせる能力が有れば誰でも実行可能だ。新しい魔法理論を考えて無系統魔法を開発するよりは随分と実現しやすいだろう。

 

「師匠さんは、日本語がとても上手ですね」

「え?日本人ですが」

と言うか涼爺まで師匠と呼び始めた。

「どこの道場で教えられているのですか?」

どこでも教えてませんと言うと涼爺はあからさまにガッカリした。真面目に考えれば思い付くようなものだし、一回聞けば中学生でも理解出来るだろう。実際に司波兄や会長は自分で編み出したのだから。

 




司波達也の魔法無効化は、敵の起動式を読み取ってそれに応じた干渉波を浴びせるものですが、主人公は情報がないので達也の方法を誤解しています。

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