意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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サブタイトル変更しました。


九校戦編22

少佐の心に映った女性がいた方向を僕は指さした。あれっ?いない。さっきまで向こうに座っていたのに。まあ、いいか。

 

昨夜、告発状を作っている最中から誰かに覗かれている感じがしていた。(もっと正確に書けば刑事告発状に「九島烈」の名前を記入してしばらくしてからだ。)その姿を何となく認識出来ていたのだが、少佐が『電子の魔女』を思い浮かべてくれたので確定出来た。

 

「久しぶりね。摩耶さん」

『電子の魔女』が、僕等の後ろに立っていた。少佐はその声にギョッとした。『電子の魔女』の気配を感じられなかったらしい。少し、少佐は緊張して彼女に挨拶を返した。

 

「摩耶さん。そちらの男性は初めてお目にかかる方だと思うけど、紹介して下さらないの」

少佐が、気圧されている。

 

「『河原真知』さん。はじめまして、『藤林響子』です。二高のOGです」

 

僕は、席を立って彼女に隣の席を勧めた。失礼のないように右手で彼女の右腕をそっと握り、左手で後ろから彼女のウエストに軽く触れて席に誘導した。彼女は驚愕の表情を浮かべたが、無視して隣の席に座って頂いた。僕は、左手を彼女の右膝の上に軽く添えて丁寧に自己紹介を始めた。「河原真知です。一高の一年生です」と。

 

彼女は、恐怖に引き攣ったまま僕の自己紹介を聞いていた。僕が、左手を彼女の膝から離すと彼女はすぐに立ち上がり「失礼します」と言うが早いか立ち去った。やれやれ、気の早いご婦人だ。幸せもつかみ損なうよ。

 

「師匠!今の何?」

 

「今のは太極拳だよ」

 

「どうしたら、できるようになるの?」

 

「今、自動運動の練習をしてるでしょう?あの延長上だよ」

 

「本当に?」

 

「うん。ただ、腰椎5番目を相手の方に向けたまま4番目を動かせるようになるのが当面の目標」

 

 少佐は「うんしょうんしょ」とウエストだけを動かそうとしている。微笑ましい。

 

 先程の藤林響子と名乗られたご婦人は、職業は軍人で現代魔法の使い手なのだろう。おそらく、現代魔法以外の方法で身体の自由を奪われる経験は初めてだったようだ。随分と驚かれていた様子からすると。

 

 軍隊では、習得に時間がかかる技術は取り入れられない。そんなことを練習している間に兵役や戦争が終わってしまう。なので、名人達も軍人に武術を教えない。(ただし、教官や教官の先生には教える。)さっきのは軍ではお目にかかれない技術だ。

 

「少佐は、『電子の魔女』と知り合いだったの?」

 

少佐によると吉田家と藤林家は古式魔法の世界ではかなり有名らしく、それなりの交流があるそうだ。ただ、藤林家は『伝統派』に属するので、古式魔法の普通の名家とは一線を画しているそうだ。

 

「というか、京都なんだから師匠の方が藤林家や伝統派に詳しいと思うけど」

 

「僕は、伝統派や古式魔法よりも古い門派だから、新しい門派のことを知らないんだ」

 

今は古式魔法と言われるが1900年頃から世界的に有名になった魔法理論、いわゆる〈神智学〉に影響されて発達してたかなり新しい門派群だ。なので現代魔法に対して古式であるだけだ。「伝統派」でさえ江戸時代に成立したとされる。どちらも比較的新しいと言える。(ちなみに、僕は紀元前から続いている門派に属している。)

 

『〈神智学〉は、ロシア出身のヘレナ・P・ブラヴァツキー(通称ブラヴァツキー夫人、1831年 – 1891年)に始まる思想・実践で、現代で神智学と言えば、こちらを指すことが多い。アメリカ人のヘンリー・スティール・オルコット(通称オルコット大佐、1832年 - 1907年)とブラヴァツキーらが1875年に組織した神智学協会(神智協会)によって広められた。神智学協会は「真理以上に高尚な宗教はない」をモットーに掲げ、歴史上存在したすべての宗教を超えて、すべての宗教的、哲学的体の源となった人類の「本源的な宗教」を明らかにすることを望んでいた。その〈神智学〉は、西洋伝統思想が基礎にあり、西洋と東洋の智の融合・統一を目指すものであるとされる。』

 

〈神智学〉たくさん書いてあるので全部は紹介できない。ただ、言えることは現代魔法も古式魔法もその魔法理論の元ネタは〈神智学〉なのだ。興味のある方は『神智学大要』を読めば納得されると思う。

 

古式魔法の元ネタに関する話はこれくらいにして、『電子の魔女』の『藤林響子』がどの様なレベルか掴めたのは大きかった。試してはないが、あれなら司波くんの方が余裕で強いと感じた。

 

「真理を明らかにする」心構えでは行きたい場所さえもわからない。当然ながら、目的地に着くはずもない。西洋の科学教を信奉すれば必ずそうなる。「客観的な真理」なるものは存在しないからだ。このことが、質的な人間の向上を妨げる。よって、生まれ持った才能で勝負がほぼ決まってしまう。なので、優秀な魔法師を文字通り産み出そうと試みる。〈神智学〉の弱点をそのまま継承している現代魔法がそうなるのは仕方のないことなのだ。

 

さて、一高期待の森崎チームは順調に勝っている。無事で良かった。ミラージバットの光井さんと里見さんも勝ち上がった。こちらは、司波くんが担当しているから当然だと言える。司波チームにアシストは必要ないかも知れないが、一応、光学系魔法で偽ボールを空中に投影できるらしいと喋っておいた。実際に、光井さんがそれらしい練習を密かにしているそうだ。これで、ミラージバットも他の選手に迷いが生じるだろう。

 

 

ミラージバットは、九校戦で試合数が最も少ない競技だが、それは、選手にとって負担が小さいということを意味しない。まず十五分一ピリオドの三ピリオドという試合時間が、九校戦中で最長だ。ピリオド間の休憩時間五分を加えた総試合時間は約一時間にも達し、時間制限の無いピラーズブレイクやモノリスコードに比べても格段に長い。

 

しかも、その試合時間中、選手は絶え間なく空中に飛び上がり空中を移動する魔法を発動し続けなければならず、選手に掛かる負担はフルマラソンに匹敵するとも言われている。(☜これは、盛り過ぎ)それが一日に二試合。スタミナ面では、クラウドボールやモノリスコード以上に苛酷な競技と言われているらしい。

 

 結局、体力勝負的な側面の強い競技であると言うことだ。だから、余計なことをしたり考えたりしていれば途中でスタミナ切れを起こしてしまう。その点、司波くんの仕上げた術式なら工程数が他の選手のものより少ないはずなので光井さんも里美さんもスタミナ切れを起こす心配はまずない。

 

            ◇◇◇

 

 森崎くん達の次の対戦相手は最下位の四校だった。しかし、嫌な予感は当たってしまった。刑事告発まで作って間接的に警備を強化するように大会関係者を脅したにもかかわらず、事故(?)が起きてしまった。

 

だいたいどうして市街地フィールドで廃ビルの中をスタート地点にして試合を組んだのか?危ないに決まってるだろう。さらに、その廃ビルの中で『破城槌』を受けて森崎くん達は瓦礫の下敷きになったそうだ。屋内に人がいる状況で使用した場合、『破城槌』は殺傷性ランクAに格上げされるのに事前のCADのチェックは何をしていたのだろう?

 

「四高は、『破城槌』を用意してなかったそうよ」

少佐が教えてくれた。ここまで来たら隠していても意味がないと彼女も思ったらしく、最新の情報、しかも普通は知り得ない情報を教えてくれる。少佐達は大会関係者からも情報を得ているらしい。ただ、この調子ならテロリストノミ屋達も大会関係者から情報を得ていると察しがつく。頭の痛い状況だ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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