意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
10/26 誤字修正
困ったことになった。一高に向かって出ている薄い殺気を再び感じるようになったからだ。おそらく、一高の新人戦の得点が予想以上に伸びてしまい、ノミ屋(ノーヘッドドラゴン)が得点調整をしようとしているのだろう。
皮肉なことに予想以上に一高の得点が伸びたのは司波くんとその選手達の頑張りによるものなのだ。
こうなると、新人戦の目玉でなる最も得点の高いモノリスコードが狙われやすくなる。しかも、一高出場選手にナンバーズはいない。復讐が怖いノミ屋も安心して狙って来るだろう。
さて、どうしよう。未来予知はあの世の自分次第なので自分の都合では出来ない。無理すればできないことはないのだけれど、自分の生命が危うくなる。
一番困った事は、僕が森崎くん達にあまり関心がない事だ。彼等に死が迫っていたらもう少しアレコレと考えたり行動したりするのだが…
まあ、しょうがないか。ただ、モヤモヤした何かが残る。
あ〜、そうか。どうしてノミ屋が九校戦で上手に事故を起こせるのか気になって、それが引っかかっていたんだ!
競技中の事故に見せかけた事にしても、一高選手団を乗せたバスのルートを綿密に調べ上げて事故を装った事にしても、警備の薄くなる九校戦前日にテロを仕掛け事にしても、内部に密通者がいるから実行できた。大会関係者だけでなく一高関係者にも内通した者が要るのだ。
『刑事訴訟法第239条
条文
(告発)
第239条
何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。』
刑事訴訟法によると「犯罪があると思料するときは、告発できる」そうだ。つまり、犯人が誰か等を調べあげなくても「犯罪がある!」と思っただけで告発できるのだ。誰でも。この場合、ノミ屋だけでなく大会関係者の誰か一高関係者の誰かなどは特定する必要がない。
次に何の罪で刑事告発するかだ。
『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(そしきてきなはんざいのしょばつおよびはんざいしゅうえきのきせいとうにかんするほうりつ、平成11年法律第136号)は、日本の法律である。』
☝︎何の法律かわからないと思う。所謂、『共謀罪』だ。
しかし、裏切った大会関係者や一高関係者は情報を提供した等、犯罪と言えなくもない行為をしているかも知れない。その場合、果たして罪を問えるのか?
『組織的犯罪の加重処罰(3条以下)等
団体の活動として、下記の罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、通常の刑罰よりも重い刑罰が科される。また、団体に不正権益を得させ、又は団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で、下記の罪を犯した者も、同様に加重処罰される。
「団体の活動」とは、団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。また、「不正権益」とは、団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力であって、当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体又はその構成員が継続的に利益を得ることを容易にすべきものをいう。』
行為そのものが軽微でも、『加重処罰』されるのだ!
例えば、以下の様に3年以下の懲役が共謀罪では6年以下の懲役に加重されている。ん?信用毀損や業務妨害は別の案件で使えるな。
『刑法233条(信用毀損及び業務妨害)の罪 6年以下の懲役又は50万円以下の罰金(同、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。)
刑法234条(威力業務妨害)の罪 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(同、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。)
刑法246条(詐欺)の罪 1年以上の有期懲役(同、10年以下の懲役。)
刑法249条(恐喝)の罪 1年以上の有期懲役(同、10年以下の懲役。)』
刑事告発状を作成して、東京地検と神奈川地検に送りつけてやった。
携帯端末が着信した。もしかして、もう反応があった?
『あたし。今いい?』
河村美波ちゃんだった。
『優勝したあの子についてだけど』
優勝したあの子は複数いるのだが。誰だろう?
『氷倒し、早撃ちじゃなくて、波乗りの子』
「一番胸の大きい子だね!」
『……』
ウケなかったようだ。関東にいるから腕が落ちたのかなぁ。
『あの子、玉取りにも出るよね?』
「ミラージバット?うん、出るよ」
『あの子に勝てるかな?』
「100パーセント無理」
『……』
彼女は僕にうそでも勝てるよと言って欲しかったのかも知れない。
ここから、延々と優勝した司波さん北山さん光井さんだけでなく準優勝した子や三位になった子のエンジニアである司波達也くんの凄さを滔々と話した。
『わかった。その司波くんは結局どれ位凄いの?』
「カーディナルジョージとかトーラスシルバーくらいだね」
『……』
これで、明日から他校は一高選手ではなく司波達也エンジニアを警戒するようになるだろう。彼の技術だけでなく策略に対しても。新人戦モノリスコードはおそらく棄権に追い込まれるだろうが、新人戦でもギリギリ優勝できると思う。森崎くん達には、申し訳ないが、種を蒔いておいたから死にはしないだろう。
それと、美波ちゃんが選手だけでなく情報収集員を兼務しているのは意外だった。でも、それとすぐにバレてしまうから彼女にはあまり向いてないと思う。大会が済んだら伝えてあげよう。
いつもと同じように「何でやねん!」「んな、アホな!」と受け答えしないと何か表沙汰にできない動機で喋っているとすぐにバレてしまうと。
◇◇◇
「師匠!何かしたの?」
少佐は僕の顔を見るなり開口一番にこう言った。大会七日目、新人戦四日目の朝だ。
今日は、九校戦のメイン競技とも言えるモノリスコードの新人戦予選リーグが行われる日だが、観客の関心は花形競技ミラージバットに集まっていた。女子のみを対象とするミラージバットのコスチュームは、カラフルなユニタードにひらひらのミニスカート、袖なしジャケット又はベスト。ファッションショー(コスプレ大会?)と化している女子ピラーズブレイクとはまた、一味違った華やかさがある。
「そんなことよりも!何をしたのか教えて‼︎」
昨日、共謀罪で九校戦大会役員と一高関係者を刑事告発しました。
「え━━━━━━っ!」
少佐は、何を驚いているのだろう?今大会における一高に対する綿密なテロはどう考えても大会関係者と一高関係者がテロ組織と共謀している。しかも大会や一高の責任者達はその怪しい人物を知っていて放置している可能性が極めて高い。
「ついでに、九島烈も記入しておいた」
少佐が真っ青になっている。
「大丈夫なの?」
「これで、今大会のセキュリティレベルが上がるから森崎くん達は大丈夫だと思うよ」
「そうじゃなくて、あなたの」
僕は、携帯端末を見せた。
「送信エラー?」
しかも、送信エラーの通知が届いたのが何故か、今朝。要は何者が告発状が送信される前後でハッキングして地検に届かないように仕組んだのだ。あるいは、東京地検と横浜地検をハッキングしたのだろうか?
「そんなこと可能なの?」
エレクトなんとかさんとか、なんとかファットとか?
「『エレクトロン・ソーサリス』と『ミズ・ファントム』!(^_^メ)」
少し少佐の機嫌を損ねた。下品なお笑いはお気に召さないようだ。さすがは、旧吉田家のお嬢様。
「師匠は、『電子の魔女』と知り合いなの?」
「全然知らないよ。でも今わかった。あの人?」