意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

55 / 115
サブタイトル変更しました。


九校戦編20

「あっ!もしかして、優越感や自己憐憫とか、何かに依存するのは不安や恐れを少し抑えられるんじゃない?!」

 

「それは、ある。問題を表面化させない効果は特にあると思うよ」

 

 司波くんが実績を一年生女子のエンジニアで出した途端に、一年女子の人気を集めてしまった。

 

中には自分もCADを司波くんに調整してもらったらもっと良い成績を残せたかもしれないと言い出す学生までいたそうだ。(その学生は注意されたそうだが、実際に司波くんにアシストしてもらえれば彼女はもっと良い成績を残せただろう。)

 

彼女達は、頼り甲斐のある司波くんに急に頼り始めたらしい。精神的にそれは楽だ。九校戦での戦いを自分で反省して問題点を探し問題点を無くす為に自分でトレーニングを工夫し等とアレコレ考えるよりも、

 

「司波くんに、面倒を見てもらおう!」と結論付けた方が早い。

 

根拠のないプライドにすがるよりはナンボかマシかも知れないが、依存する対象がなくなってしまった時、彼女達はどうするつもりなのだろう?

 

彼女達には、A級魔法師や戦略級魔法師になる等の大いなる野望はないだろうから依存する対象は何でも良いのかも知れない。ましてや、本質的に自分を変えて行こうと考えてもないのだから彼女達には『司波達也教祖様』で十分なのだろう。

 

◇◇◇

 

自分の依存性を最大限に利用して、A級魔法師への道を突き進んでいる光井さんの出場するバトルボードの会場に戻って来た。

 

すぐに彼女の勝利を確信した。他の選手がゴーグルを着用していたからだ。決勝のライバル達は光井さんの光学系魔法への有効な対策を思い付かなかったのだろう。

 

答えから言ってしまうと…やっぱりこの試合が終わってからにしよう。他校の情報収集員がいるようだから。

 

「On your mark!」

 

光井さんが、構える。他の選手は身構える。

 

「bang!」

 

光井さんが、良いスタートダッシュをみせた。

 

 彼女は、スターターの指を見て引き金を引く瞬間にサイオンを起動式に流している。他の選手は破裂音に神経を集中して音を認識したあとで起動式にサイオンを流している。光速と音速は、断然光速の方が速い。光学系の魔法が得意な彼女の裏技だ。濃いゴーグルは、自分の目線を隠すためのカモフラージュでもあったのだ。

 

光井さんは、スタートは誰よりも早く反応出来るのだ。他校の情報収集要員は、彼女の閃光魔法と遮光魔法に目を奪われて彼女の競技力そのものを侮っている。準決勝でスタートで出遅れたのは、彼女本来の実力を隠すためでもあった。彼女の出した記録を調べれば実力はかなりあると警戒すべきだったのだ。他校は、ものの見事に司波・光井ペアに騙された。

 

 バトルボードの競技コースは、曲がりくねった全長三キロメートルの人工水路サーキット。

 

とは言え、実力が伯仲してくれば三キロあっても追い抜くのは難しい。

 

 最初のカーブだ。

 

光井さんは、ほとんど減速無しに突っ込んで行く。彼女の身体からサイオンの流れが感じられる。

 

 閃光魔法?遮光魔法?

 

後ろから追い上げて来た選手が光井さんの光学系魔法を警戒し減速する。

 

カーブを抜けると、光井さんと二番手の距離が開いた。

 

 光井さんは、典型的な受験型秀才タイプでもある。要は「試験にでる○×」とか「◇△一問一答式」を暗記するのに何の苦労もない。しかも、光学系魔法が得意とあってテキストデータだけでなく画像や立体も暗記できてしまう。

 

既に二回走行したバトルボードのコースを彼女は既に暗記しているのだろう。とにかく、直線だろうがカーブだろうが迷いなしにコース取りをしてぶっとばして行く。

 

 そのまま、一着でゴール。あっけなかった。結局、閃光魔法も遮光魔法も使われなかった。

 

二着の選手が、ゴールした途端に泣き崩れた。自分達が騙されていたのに気付いてしまったのだろう。

 

光井さんは、確かに速かった。しかし、それは競い合う選手がいなかったからだ。例え、スタートで先行したとしても、コースの細部を全て暗記していたとしても、後ろからプレッシャーを掛け続ければ光井さんの経験の浅さが必ず露呈し、追い抜く機会はあったはずなのだ。

 

他校の選手は、光井さんの閃光・遮光魔法と渡辺風紀委員長の事故のこともあってカーブを攻められなかった。自分の実力を出せないまま、勝負をしないまま二位以下に甘んじてしまった。

 

 他校の情報収集要員が、僕に怒りを向けている。視線を会場に向けたまま。

 

 僕は、その場を静かに去った。

 

              ◇◇◇

 

 一高は、バトルボードで優勝しただけではなく、アイスピラーズブレイクでも優勝していた。特にアイスピラーズブレイクは1・2・3位を独占してしまった。

 

 それだけでも凄いことだが、司波・北山ペアは『改良型共振破壊』まで使っていた。

 

本来の『共振破壊』は、対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を直接掛けて、固有振動数に一致した時点、「振動させる」という事象改変に対する抵抗が最も小さくなった時点で振動数を固定し、対象物を振動破壊するという二段階の魔法だ。

 

対象物に直接振動魔法を掛ける場合は、魔法式の干渉に対するエイドスの抵抗で感覚的に共鳴点を探ることができるが、間接的に仕掛ける場合は対象物の共振状態を別に観測しなければならない。それを観測機械に頼るのではなく、魔法の工程として起動式に組み込んだらしい。(と少佐が言ってたが、この分析は少佐の部下がしたのでは?)

 

 さらに、北山さんは試合中に二つ目のCADを起動させて振動系魔法『フォノンメーザー』(超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法)を発動させたそうだ。(音波の振動数を上げて量子化するとはどういう意味なのだろう?少佐の部下は何か誤解しているのかも知れない。)

 

 そんな高度な魔法を北山さんに繰り出されても司波さんは冷静に広域冷却魔法『ニブルヘイム』で対抗した。この術式は本来、領域内の物質を比熱、相に関わらず均質に冷却する魔法。だが、応用的な使い方として、ダイヤモンドダスト(細氷)、ドライアイス粒子、そして時に液体窒素の霧すらも含む大規模冷気塊を作り出し攻撃対象にぶつけるという使用法もあるそうだ。(今回司波さんは、液体窒素の霧を攻撃に使った。)

 

 ところが、その『ニブルヘイム』を司波さんは解除して再び『インフェルノ』を発動させる。

 

中規模エリア用振動系魔法『インフェルノ(氷炎地獄)』。対象とするエリアを二分し、一方の空間内にある全ての物質の振動エネルギー、運動エネルギーを減速、その余剰エネルギーをもう一方のエリアへ逃がし加熱することでエネルギー収支の辻褄を合わせる、熱エントロピーの逆転魔法。時折、魔法師ライセンス試験でA級受験者用の課題として出題され、多くの受験者に涙を吞ませている高難度魔法。(だから、少佐はニブルヘイムやインフェルノができるようになるかを僕に尋ねたんだ!なんだ、資格試験対策だったのか。)

 

北山さんの『情報強化』は、元々そこにあった氷柱に作用しており、新たな付着物には作用していない。

(『ニブルヘイム』の)気化熱による冷却効果を上回る(『インフェルノ』の)急激な加熱によって、液体窒素は一気に気化した。

 

その膨張率は、七百倍。  

 

轟音を立てて、北山さんの氷柱が一斉に倒れた。その轟音は凄まじく、氷柱が倒れた音だったのか、根元を掘り崩された音だったのか、はたまた蒸気爆発そのものの音だったのかわからなかったらしい。とにかく、氷柱はその表面が粉々に弾けて、激しく爆発したのだ。

 

 さらっと北山さんの『情報強化』を紹介した。対象物の現在の状態を記録する情報体であるエイドスの一部又は全部を、魔法式としてコピーし投射することにより、対象物の持つエイドスの可変性を抑制する対抗魔法。属性の一部をコピーした情報強化は、その属性に対する魔法による改変を阻止する機能を持つ。

 

つまり!『情報強化』だけでもかなり難易度の高いとされる魔法なのだ。

 

というか、A級ライセンス持ちの魔法師の試合ならいざ知らず、魔法科高校の学生(しかも一年生!)同士の試合とは思えないレベルの魔法が使用されていた。

 

 しかも、双方の選手をサポートしているのは司波くんなのだ。

 

 僕が大金持ちなら、司波くんをお抱えの魔法工学技士として雇うね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。