意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
「ヤァ、相変わらずのモテっぷりだね」
河村さんが、去って行ったのとほぼ同時に吉田くんが声をかけて来た。どうやら、今のやり取りを見ていたらしい。
「幹比古。いつもの友達とは別行動なのか?」
「僕は、コーヒーを飲みに来ただけですよ。摩耶さんも、相変わらずおしゃれですね。いつの時代の制服ですか?」
「平成時代よ。似合う?」
「とても似合ってますよ!じゃあ、僕は行きます。それと師匠くん。君の太極拳は、僕も興味があるよ。今度は、ちゃんと教えてもらうよ」
吉田くんは、レストランから出て行った。
あんなに明るい性格だったけ?
「幹比古は、元は自信家で大胆な性格だったの」
むしろ、少し前までの思い詰めた状態が異常だったようだ。まあ、あのまま思い詰め続けばそのうち自殺しかねない。
「あいつと私は、身内みたいなものだけど、それを差し引いてもあんなに元気な幹比古は久しぶりよ」
新吉田家の次期当主よりも実力があると言われてたくらいだから、あんなものかも知れない。しかし、夏真っ盛りにホットコーヒーを飲みに来たのは感心だ。白湯を飲むのが良いが、目立ってしまう。彼の友達は目ざといからすぐに彼の変化に気付くだろう。
たとえば、千葉さんとか千葉さんとか千葉さんとか…
◇◇◇
新人戦女子バトルボード、予選第六レースのスタートが切られた。その、直後。観客は反射的に、ほぼ揃って、水路から目を背けた。まるでフラッシュでも焚いた様に、水面が眩く発光したのだ。
少佐は、瞬き一つせずにその光景を凝視している。網膜は大丈夫なのだろうか?水晶眼は単なる閃光に強いのかも知れない。ちなみに僕も観ていた。光井さんの閃光魔法だ。
選手が一人、落水した。他の選手がバランスを崩し加速を中断する中、一人ダッシュを決めた選手が先頭へ躍り出た。この事態を予期していたかの如く──と言うかこの状況を作り出した張本人なのだが ──濃い色のゴーグルを着けた選手、つまり光井ほのかその人だ。
照度は、距離の二乗に反比例する。観客スタンド上段でこの眩しさなら閃光を放つ水面に浮かんでいる他の選手はたまったものではないはずだ。かろうじて落水を免れたとしても、目が眩んだ状態では水面走行は不可能だ。
「よし 」してやったりの表情をしている司波くんの横顔を、中条さんは呆気に取られて見上げていた。
僕と少佐はお互いに顔を見合わせた。この作戦(?)は司波くんが考えたものに違いない。これってルール違反ではないの?
イエローフラッグが出ない。という事は、大会役員側は光井さんの光学系魔法をルールに抵触しないと判断したようだ。
光井さんはぶっちぎりで1位になった。
「優勝は、光井さんになりそうだ」
「でも、次は他の選手も対策を講じて来るよ」
「おそらく、司波くんはその対策の弱点を突いて来るよ」
「対閃光魔法の簡単な防御は、眼を閉じるか眼を保護するゴーグルを着用するしかない。眼を閉じるのはたとえ一瞬でも危険を伴うから採用できない」
「どうして?」
「光井さんは、今度はスタート地点だけでなくコースの途中で閃光魔法を使うから」
「確かにカーブで目を閉じたりしたら危ないわね」
「特に、七高の選手と渡辺選手の事故の記憶が生々しい間は必要以上にカーブの前で閃光魔法を警戒するよ」
僕は、ここで話を終わらせた。この会話を聞いている他校の学生がいるからだ。これで、光井さんの次の対戦相手の閃光魔法対策は、ゴーグル着用のみとなる。魔法では防げない。閃光を確認後に発動しても間に合わないのは言うまでもない。
それにしても光井さんの喜びようは異常だった。まだ予選なのに司波くんに抱き付く勢いで迫って行ったし嬉し涙まで流していた。彼女は、一高の成績で3位4位争いをしているのだから、小中では1番とか1位とか優勝なんて何回も経験しているはずだと思うのだが。
もしかして光井さん、運痴だったのか?
◇◇◇
男子のスピードシューティングは、森崎くんが準優勝だった。観戦はできなかったが競技の様子は動画で確認した。クイックドローの異名を取るだけあって「早撃ち」には相当の自信があるし実際にかなり早い。相手がいない状態なら無双だろう。
ただ、魔法力のある対戦相手がいると魔法が干渉した時に彼の狙いが外れてしまう。七草会長の「魔弾の射手」や北山さんの「北山・司波スペシャル(?)」のように対戦相手の魔法とは無関係な射撃の方法を編み出さないと勝つのは運任せ、魔法力任せになってしまう。
果たして、森崎くんはその事に気付いているのだろうか?
七草会長、司波くんの違いと森崎くんの違いは魔法力の差というより、空間把握能力なのだ。極端な話、前と後ろ、右と左を彼等は同時に見ている。それが、ある程度の大きさを持つ空間全体に擬似的にほぼ同時に魔法を発動させる芸当を可能にしている。実際に、同時に発動しているわけではない。
一方、森崎くんをはじめとするかなり優秀な魔法師ではあるがA級魔法師とは言えない魔法師は、把握できるある程度の大きさを持つ空間自体が小さいのだ。彼等は把握している空間内での魔法力ならば、A級魔法師と遜色はない。
「で、師匠。これが把握する空間を広げる訓練?」
少佐が首を傾げている。
右手で二拍子、左手で三拍子を同時に行う簡単な練習だ。しかし、少佐はさっきから苦戦している。
「それができたら、すぐにその逆、つまり左手で二拍子、右手で三拍子をやってみるんだ」
少佐は、お手上げになった。
「こんなのもあるよ」
僕は、ジャイケンをしてみせた。右手でグーチョキパー、グーチョキパー、グーチョキ、グーチョキ、グーチョキパーだ。
「左手で、右手でに勝つ手を出すんだ」
少佐はギブアップした。
「七草や司波は、こんなトレーニングをしているの?」
少佐は、疑惑の眼を僕に向けた。
「してないよ。彼女達は物心ついた時には、すでに大きい空間把握能力があったと思うから。少佐の水晶眼と同じで後天的に獲得しようとすると少し苦労するよ」
「これも、できるようになる方法があるの?」
少佐が、自分の眼を指差した。
「自律訓練法でも少し紹介したけど」
少佐は、忘れているようだ。すでに出来てしまうことをくどくど説明されても興味がわかないのは当然だ。
話を森崎くんやスピードシューティングに戻そう。
「優勝は、ジョージ・マッケンジーじゃなくて、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎くんだったね」
「ジョージ・マッケンジーって誰?」
少佐はクスッと笑った。
「城島健司を米国人が正しく発音出来なくて、ジョージ・マッケンジーと呼んでいたのと吉祥寺真紅郎を言いにくいからジョージと縮めた話がよく混ざっちゃうんだ」
「何、それ?!」
少佐は、今度は口を開けて笑った。
「城島健司は、昔のプロ野球だよ。一応、メジャーリーグでも活躍しているし釣り師としても有名だったね」
「何、それ?!」
少佐は、今度は腹を抱えて笑った。
*城島健司
釣り師として
幼少の頃から父親とよく釣りにいっており、成人した現在でも海釣り(特に磯釣り)好きであり、現役時代からシーズン中も暇を見つけては釣りに出かけるほどで、釣り関連でのエピソードも数多い。
•地元紙・長崎新聞の釣りコーナーや釣り雑誌に「ホークスの城島選手」ではなく「佐世保市の城島さん」として掲載された。
•九州・中国地方のローカル釣り雑誌『釣ファン』で、過去数回雑誌の表紙を飾っている。
•福岡ローカルのテレビ局で城島(とその他プロ野球選手数人)の釣りがメインテーマの正月特番(テレビ西日本『城島健司のメジャーフィッシング』、福岡放送『城島&馬原の釣り一番!』)が放送されたことがあるほか、他にも『フィッシングライフ』(サンテレビ他)など多くの釣り番組への出演経験がある。
•マリンレジャーに関心が高いことから日本水難救済会による『青い羽根募金』のアドバイザーに2009年度から就任した。
•2011年には福岡市の釣具メーカー「AURA」の商品カタログに登場した。
•長崎県の五島列島などを管轄している丸銀釣りセンターの釣り大会で優勝しているなど、釣り人としての評価も高い。