意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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サブタイトル変更しました。


九校戦編7

試合もアッサリと終わった。TKOだ。別に七草会長が相手選手を殴り倒した訳でもなければ、魔弾で相手選手を蜂の巣にした訳でもない。相手選手がガス欠を起こし、主審が試合続行不可能と断じたのだ。

 

試合は、相手が会長のコートに打ち込む低反発ボール全てを会長が打ち返すという展開だった。これは比喩ではなく文字通り「全てを打ち返した」のだ。

 

相手選手は、会長同様に魔法力だけで挑んできた。1セット3分の間中ずっと相手選手は打ち続け、会長は打ち返し続ける展開だ。これでは、魔法力のスタミナ、つまり使えるサイオン量の勝負になってしまう。高校生にしてすでにA級魔法師レベルの会長とサイオン量勝負をさせられた相手選手は気の毒だった。特に、最後の1分は立っているのもやっとだったに違いない。冗談抜きで試合の途中で主審はやめさせるべきだったかも知れない。

 

こんな試合なら、会長はさぞかし余裕のよっちゃん七草真由美ちゃんのはずなのだが、試合中彼女は落ち着きがなかった。当初、試合直前に司波くんと他のスタッフの関係が良くないのが表面化した為かと思った。

 

しかし、そうではなく原因は司波くんそのものだった。彼は、試合中会長を『視』ていた。僕のやる『観』るは、とある対象を見るというより対象と一体化するのに近い。一体化した上で自分の感覚として捉えている。なので、『観』ている間、『僕』は希薄になる。というよりほとんどない。

 

一方、司波くんは情動や感情は薄いのだが自我の存在感が凄い。

 

『「西遊記」は、中国で16世紀の明の時代に大成した伝奇小説で、唐僧・三蔵法師が白馬・玉龍に乗って三神仙(神通力を持った仙人)、孫悟空、猪八戒、沙悟浄を供に従え、幾多の苦難を乗り越え天竺へ取経を目指す物語』

 

『空』を視ても、八戒を実践しても、浄化しても、神になるには三蔵が必要であると言いたかったのだろう。自我が主体のままでも、悟空八戒悟浄は出来てしまうのだ。

 

特に、脳に細工すれば情動をほとんどなくせるので悟空八戒悟浄の実践は簡単だろう。そのため、司波くんは神に近い能力を発揮している。試合中の七草会長を『視』て、彼女の全てを把握出来ただろう。『視』られた会長は、かなり嫌がっていたようだが。

 

彼には内緒だが、視られたとバレるようでは本当はまだまだ見えてない。

 

◇◇◇

 

会長の第1試合が終わって、司波くんと会長はいったんテントに引き返した。僕は、選手のテントには入れないことはないが、面倒臭いのでスタンドに居残った。第一試合の圧勝からすれば、次の第2試合も楽勝だろう。取材の必要性さえ感じられない。

 

二人が、戻って来た。程なく、会長の第2試合が始まった。

 

第1試合を1セットで終わらせた為か、会長は第2試合も余裕だ。というか、調子が上がっている。

 

しかし、それはあり得ない。たとえ、七草会長のサイオンのスタミナがA級魔法師レベルでも疲労は蓄積されるからだ。

 

もしかして、司波くんがCADを調整したのか?いや、そんな時間はなかったはずだ。それに、選手用のテントには、測定器などの本格的な設備はなかったと記憶している。

 

「司波は、測定器なしでCADの調整をしてたぞ」

少佐が、僕の横にいつの間にか立っていた。まるで、僕の思考を読んだかのごとくの返事だった。

 

「魔法の起動がうまく行ってるくらいは、測定器なしでもわかると本人が言ったのよ」

 

「少佐、選手・スタッフテントにおられたのですか?」

 

「……」

 

返事がなかった。おそらく、テントの外からテントの中の司波くんと会長の会話が何故か少佐達に聞こえてしまったのだろう。

 

「七草は、好調みたいね」

テントの中の話は、スルーされた。

 

「むしろ、調子が上がったようです。司波くんは凄腕のようです」

 

「司波は、プログラムはいじってないと言ってた」

 

「……」

少佐は、隠すつもりがないようだ。むしろ、二人に気づかれないで会話を聞ける自分達の技術を誇っている様だ。

 

第2試合も無失点で第1セットを取った。しかし、何を思ったか七草会長はすぐにコートを飛び出した。トラブル?

 

『達也くん、プログラムは、いじらないんじゃなかったの?』

『プログラムはいじってませんよ。動作上の不都合はなかったはずですが、何か気になる点がありましたか?』

『嘘!』

 

少佐は、会長と司波くんの会話を再現してみせてくれた。吉田の本家はなかなかやる。どうやっているか知る由も無いが多分米国諜報関係筋からの盗聴技術だろう。光学迷彩がそうだから。

 

ちなみに光学迷彩は高額迷彩と揶揄されている。魔法師が姿を消して諜報活動したほうが安上がりなのだ。

 

世界で、魔法師がいなくても科学力で同じパフォーマンスを発揮しようと意地を張っているのは最近米国だけだ。これは、意外に重要な事なので頭に入れておくと良い。

 

それにしても、少佐達の資金力には驚かされる。無職になったらお世話になろうかな?

 

少佐の科学口寄せで、司波くんがCADの「ごみ取り」をしたおかげで魔法の発動効率が良くなり七草会長の調子が上がったと明らかになった。司波くんによるとアップデートの度に、不要なデータファイルがわずかにCADに残り、そのシステムファイルを消すと効率が少し良くなるらしい。

 

好調の謎が解けて、晴れやかになった会長はその後も無双を続けて無失点で優勝した。

 

「次は、どれを見に行くつもり?」

 

「司波くんが行く試合」

 

「師匠、何か気になる事があるの?彼に」

 

「少佐、もしかしたら僕達は歴史の証人になるかも知れない」

 

◇◇◇

 

司波くんが、アイス・ピラーズ・ブレイクの試合会場に移動したので僕達もそこに行った。千代田・五十里ペアだ。アイス・ピラーズ・ブレイクは、個人競技でペアではないのだが息ピッタリのおしどり夫婦(まだ結婚してなかった。)という感じなので千代田さんが1人で試合をしているように見えないのだ。

 

しかし、今後司波くんが面倒を見た選手は「ごみ取り」してもらっただけの会長が好調になったように調子を上げるはずだ。何しろ、司波くんは、選手を「視」て彼女のほぼ全てを把握した上でCADを調整するのだから。いわば、即席に千代田・五十里ペアのような息ピッタリコンビになれるという事だ。

 

話は変わるが、同性愛者を顔面認証で見破る研究は米国で盛んである。本当は、犯罪者、特に犯罪者を顔面認証で見つけようとする研究が非常に盛んで同性愛者云々はオマケであるが。

 

 『』

 

随分前から、米国はユニークな研究をし続けている。彼等は基本的に他人を信用していない。異常とも言える能力を持つ魔法師は特に信用されていない。上記のようなおバカな研究も当時頭角を現し始めた魔法師の犯罪予備軍を早期発見する為の研究の一環だと僕は邪推している。

 

何故、こんな古い記事を持ち出したかというとAIの描いた男性同性愛者の似顔絵と女性同性愛者の似顔絵が五十里さんと千代田さんに似ていたからだ。美少女系男子とハンサム系美人女子は、まさにお似合いだったのだ。

 

すでに蛇足になりそうだが、試合結果は、千代田さんが漢らしい大胆な肉を切らせて骨を断つ試合運びで相手を圧倒して勝利し予選を通過した。

 

 

 

 




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