意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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九校戦前夜19

一門や一流派や一家を背負う者のプレッシャーは相当なものだろう。自分の成長を止めたり、無理な降霊をして自律神経系失調症になったりとなかなか大変だ。とはいえ、死ななければ逆転の可能性は必ずある。自暴自棄になったり、自虐的になるのは時間の無駄なのだ。

 

少佐は、名家のお嬢様だし吉田くんは名家のお坊ちゃんだ。彼等の御両親に教育方法をアレコレと注文をつける気は無いが大切な御子息をもっと丁寧に育てる努力をしてもらいたい。自分達の手に余るのなら外部に頼むのもの真剣に考えるべきだ。

 

僕は、お役に立ちますよ。光を取り入れて超健康になる方法以外にもたくさんのお役立ち法を取り揃えております。ご入用でしたらいつでも声をお掛け下さい。

 

「あなたの部屋に連れて行って」

朝食をどうしようかと考えていたら、少佐が言った。

 

◇◇◇

 

「私達の顧問になって欲しいの」

部屋に戻ると少佐は、真剣な表情で言った。

 

「いいですよ」

いいとも〜!と軽口を叩くのは控えた。彼女は、真面目に頼んでいるのだから。顧問になって何をするのかよくわからないが、とにかく承諾した。彼方の世界の彼女も喜んでいるだろうから。

 

とは言ったものの、旧吉田家の顧問なのか少佐の公安9課モドキの顧問なのかで事情は違ってくるが霊が請けろと催促しているのだから請ければいいのだ。でも、少し気になるな。

 

「少佐は、もしかして旧吉田家の次期当主?」

 

「これは内緒だけど、次期当主ではなく今◯◯」

これを聞いた光学迷彩の中の人の動揺は、激しかった。部屋の隅の景色が揺れに揺れている。

 

「そうなんだ!じゃあ、僕も頑張らないと行けないね」

 

「ええ、私を八段階に連れてってね。師匠」

 

さすが、旧吉田家の◯主は大志を抱かれている。

 

「それと、これはお礼」

 

彼女が、僕のタブレットを指差した。入金された金額を確認するとちょっとびっくりする金額だった。

 

さすが、旧吉田家の当◯は太っ腹だ。

 

「最後に、一言だけ」

前置きして彼女は、僕も耳元で囁いた。

 

『四葉に、お気をつけ下さい。殿下』

 

一歩下がって少佐はうやうやしくカーテシーをして部屋から出て行った。部屋の外には馬頭が控えていた。ドアの隙間から丁寧にお辞儀をするのが見えた。

 

さすが、旧吉田家の◯◯であられる吉田摩耶は品が違う。思わず、感心してしまった。あの年齢で◯◯とは、大したものだ。

 

感心したのは、僕だけではなかった。光学迷彩の中の人もそうだった。それは結構なことだが少佐と一緒に退出するタイミングを中の人は逃してしまった。随分おっちょこちょいだ。仕方ないので、僕は外に出ようかと思ったが、少し試したくなった。

 

「FLTの飛行魔法のデバイスは、もう出回っているのかなぁ」

等と独り言を言いながら窓を開けようとした。露骨にここから脱出しろと指し示したのだ。部屋の隅にいる光学迷彩の中の人は、首を横に振っているようだ。景色が横に揺れる。

 

おっちょこちょいなところや姿が消せるからオバケのQ太郎と同じ能力があるのかと思ったが空は飛べないらしい。

 

「ぐ〜〜〜」

腹の虫が鳴いている。光学迷彩の中の人のお腹だ。こういう間抜けたところはオバケのQ太郎とソックリだ。

 

ただ、こんなことを続けてもQ太郎に恥をかかすだけなので僕は部屋を出て食堂に向かった。Qちゃんは、頃合いを見計らって部屋を出て行くだろう。

 

◇◇◇

 

ホテルの食堂に入ろうとすると声を掛けられた。

 

「おはよう!師匠」

「おはようございます。師匠さん」

千葉さんと柴田さんだった。

 

「師匠さんは、応援ですか?とても早い到着ですね?」

柴田さんが尋ねてきた。成り行きで同じテーブルに座っている。

 

「応援ではないんです。『有志』として九校戦スタッフに参加しているんです」

 

「へ〜、そうなんですか〜」

柴田さんは、『有志』での九校戦参加について知らなかったようだがとりあえず感心して見せた。良い人だ。

 

「で、師匠は何のスタッフ?」

 

「報道だよ」

 

「フーン。ところでさぁ、昨日一緒にいたのはもしかして彼女?」

千葉さんは、いたずらっ子の笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、師匠さんに失礼だよ」

 

「彼女ではないよ」

 

「へ〜、彼女じゃあないんだぁ!師匠って、じつはモテる?いつも違う女の子と歩いてる気がするんだけど」

朝から饒舌な千葉さんだ。何か良いことでもあったのかいお嬢ちゃん?と訊いてやろうか。

 

「いやいや、千葉さんほどではありませんよ。いつも素敵な男子と親しくされて」

と言ってやったら、千葉さんは顔色を変えた。

 

「チョッとエリカちゃん」

水晶眼の柴田さんには、千葉さんが激怒したのが見えているのだろう。

 

「そういえば、素敵ですが今長期スランプ中の吉田くん。彼はもうすぐ復活しますよ。神童の復活です」

千葉さんの怒りは無視して言った。

 

気まずい間が出来た。

 

「あんた。もしかして『預言者』?」

怒りが薄まった千葉さんが、訊いた。

 

「じつは、昨晩、賊が侵入しようとしたんだ」

千葉さんの問いをスルーして僕は昨晩の話を掻い摘んでした。ただし、オフレコにしておいてもらった。特に吉田くんと司波くんはこの話が広まって欲しくなさそうなので特に言っては行けないと念押ししておいた。

 

「でも、どうしてそんな事を知っているの?」

好きな男子の武勇伝に心を躍らせた千葉さんは怒りが完全に収まったようだ。

 

「『報道』だから」

 

◇◇◇

 

僕は、自分だけが世界中の不幸を背負っている等と勘違いしている千葉さんのような女の子は見ていて時にイラっと来る。自分で勝手に不幸になるのは一向に構わないが周りを巻き込んだり振り回すのは止めてもらいたい。

吉田幹比古くんを「ミキ」と呼んでからかっても彼のスランプは治りはしない。彼に必要なのは叱咤激励ではなく適切なアドバイスなのだ。

 

ただ、今回は彼女に感謝したい。僕がここに来た一番の目的は九校戦の密着取材だった。それを少佐との一件で完全に失念していた。取材のようなものが出来たのは、少佐好みのイケメン男子学生だけだ。しかも話を聞いていたのは主に少佐だった。

 

僕が密着出来たのは、旧吉田家の今の◯◯であらせられる少佐こと吉田摩耶さんだけだ。

 

う〜ん、困った。明日から本戦が始まってしまう。今から、声をかけまくろうにも競技前日の選手はピリピリしている。

 

新人戦まではあと4日あるけど…

 

おお!そうだ‼︎以前読んだ古典的迷著「スローカーブをもう一度」(「江夏の21球」が収録されている)の中の「背番号94」と同じような話を書くことにしよう。

 

一回の失敗で実力を発揮できなくなった元神童が九校戦の選手ではなく裏方として活躍する話にすればいい。九校戦の選手でも本気のテロリストを殺さないで無力化できる人はほとんどいないはずだ。吉田くんにはある程度詳しい話を聞けるくらいの知り合いになれた事だし。これは書けそうだ。

 

これなら、司波くんにも混み入った話が聞けそうだ。実戦に近い競技なら司波くんは出場できそうだし優勝も狙えると思う等と言えば彼も悪い気はしないだろう。

 

おお!そうだ。「新しい才能」を発掘したとする記事を書いてみよう。吉田くんや司波くんだけでなく、キャプテンシーのある西条くんもいるじゃあないか!

 

どうせなら、サイオンを過剰に消費できる学生を増やして次回の九校戦で一高を圧勝させるのはどうだろう?これは痛快だ。天と地を繋ぎっぱなしにすればできるので一年かければできるだろうか?いいや。せっかく思いついたのだからやるべきだ。

 

一年で暗勁を修得できるレベルを目指す。うむ。なかなか面白そうな挑戦だ。

 

 

        「意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 九校戦前夜」 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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