意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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九校戦前夜17

「少佐、吉田くんとは知り合い?」

ユニットバスから出てきた少佐に僕が尋ねた。彼女は僕の後にシャワーを使った。僕が使っている間に体力的に限界になっていた光学迷彩の中の人が部屋から脱出していた。

 

「知り合いと言えば、そうね。吉田家はうちの分家よ。でも今はあちらの方が有名かな」

少佐が、少々自虐的に笑った。通りで少佐が吉田くんを幹比古と呼んだりするわけだ。

 

「少佐も神祇魔法をしたの?」

 

「うちは、分家と違って大掛かりな儀式は廃している。無駄だとわかったから。でも高次の存在を降ろすノウハウを完全に蓄積しているとは言えないの」

 

「出来たり、出来なかったり?」

 

「そうね。個人の能力に頼りきりね」

 

期待に応えた少佐は、自分の成長を犠牲にし期待に応えようとした吉田くんはスランプになったわけだ。

 

「でも本当のことを言ってしまうと肉体を持ったまま到達出来る最高の境地、第八段階には理論上はみんな到達可能なんだ」

 

これを聞いて少佐は納得出来なさそうな顔をした。

 

「高次の意識に見合う肉体にする方法がいまだに公けになってないのが原因だ。根気よく練習すれば誰でも習得出来る。でも、ほとんどの人はそんな事をしない。しなければならない必要に迫られないからだ」

 

「それは、わかる。私より才能がありそうな人はあまり熱心に修行しないの」

少佐は、溜息を吐く。

 

「前世でどこまで到達して、今世でどこまで行きたいかで大体決まってしまうからそれは仕方ないよ」

 

「師匠は、自分が前世でどこまで到達したか知っているの?」

 

「あまり、興味がないからハッキリは見てないけど七段階はクリアしていた」

 

いずれ、少佐が到達する境地についてあれこれ語っても意味がないので、話題を変える。

 

「ところで、少佐は悪意や殺気をどれくらい察知出来る?」

 

「私は、自分に向けられたものなら大体わかる。ただ、私以外に向けられたものはあんまりわからないの」

 

「わかった。今、この宿泊施設にテロリストが攻撃しようといている」

 

「本当?!」

 

「ああ、彼等の選手達に対する殺気は相当なものだ」

 

「場所を教えて!」

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

 

「ちょっと待って!」

 

「心配ない。魔法師がすでに察知している。おそらく軍の魔法師だ」

それを聞いて少佐が安堵した。

 

「これから、観に行こう」

 

「?」

 

◇◇◇

 

ベットに横たわろうとすると少佐は何も言わずに僕の隣に横になった。目が合うと彼女は少し照れくさそうに笑ったが、しばらくすると寝息が聞こえて来た。僕も眼を瞑った。

 

彼方の自分になっていた。ラフな格好でホテルの周りをブラブラしている司波くんがいる時空だった。

 

司波は、程なく異様な気配に気付く。彼は、感覚を開放し、抽象の核に迫った。しかし、それに一体にはならない。彼はそこから知りたい情報を読み込んだ。賊の居処や人数や装備等を映像ではなく概念で読み終えて彼は足音を決して駆け出した。

 

ほぼ同時刻に吉田が賊の侵入に気付く。

彼は、ホテルの庭の奥まった部分、人気のない場所で精霊魔法の修行をしていた。彼は族と認識する前に精霊の囁きからホテルの敷地外に人がいると知った。精霊の囁きが続く為、彼は同調を強めその者の悪意を察知した。彼は逡巡した後、対応すべく駆け出した。

 

吉田は、賊と接近しその殺気を感じた。彼はすぐに攻撃を開始した。

 

司波は、吉田の攻撃魔法が間に合わないと抽象から読み込み、援護の魔法を発動した。三人の賊の携帯していた銃が分解し、その直後に吉田の攻撃魔法が発動し電撃が賊を襲った。賊は気絶した。

 

彼方の自分は、他に警戒する敵が居ないのを確認しその時空を去った。

 

目が覚めた。2時前だった。僕は隣で寝ている少佐を起こさないようにベットを抜け出しトイレに行った。記憶想起の為に先程の体験を簡単にまとめたりしてベットに戻った。

 

◇◇◇

 

目が覚めると、「おはよう」と声をかけられた。

 

「少佐?!」

 

「驚いた?」

 

少佐が女になっていた。今、えっちぃ誤解をした方がいただろう。僕が少佐を女にしたとは書いてないのに留意して頂きたい。それと、もっと正確に描写すると彼女は幼女から少女に変身していた。

 

「私も驚いたわ」

 

「成長ホルモンが分泌し始めたかな」

 

「そこは、愛の奇跡と言って欲しいわね」

少佐が、微笑んだ。

 

「睡眠中の事、どれくらい覚えている?」

 

「たくさん、夢を見たけど、あなたと幹比古と司波達也が出て来たと思う」

 

「それだけ覚えていれば上出来だ」

 

「先に今夜は寝かせないと言って欲しかったわ」

 

少佐は、饒舌だ。機嫌が良いのだろう。幼女のままの姿は、彼女に本当はストレスだったのかも知れない。

 

僕らは、部屋を出た。昨晩の事件現場を見る為だ。歩きながら昨晩の説明をした。

 

『司波は、程なく異様な気配に気付く。彼は、感覚を開放し、抽象の核に迫った。しかし、一体にはならない。そこから知りたい情報を読み込んだ。賊の居処や人数や装備等を映像ではなく概念で読み終えて彼は足音を決して駆け出した。』

 

司波くんの解析能力はすごかったけど、あの方法は限界がある。おそらく、エイドスと抽象を規定してそこから情報を得る技術を磨いたのだろう。

死刑前のキリストが天の父からアドバイスを受けていた技術と同じだ。しかし、本当の情報を得るにはエイドスそのものになる必要がある。

キリストの死刑後に教会関係者が主張した三位一体説がそれにあたる。天の父と子なるイエスと聖霊はみな同じとしたものだ。

自律訓練法なら、事物心像視の特にBの抽象心像視がこれの基礎訓練になる。エイドスそのものと一体になってないのでテキストデータのように情報を引き出す。特に抽象心像視の練習はこれに役立つ。

 

「エイドスを抽象と言ったりしているけどそれって何?」

少佐が、尋ねてきた。

 

「エイドスは、丹田でもチャクラでもセフィロトでもいいよ。それを外から眺めるのではなく、一体化するのが重要なんだ。しかも、その感覚は人それぞれに違っていることも知っておいた方が良い」

少佐には、まだ理解できないかも知れないが本気で伝えるには多少前倒しでも構わない。

 

『ほぼ同時刻に吉田が賊の侵入に気付く。

彼は、ホテルの庭の奥まった部分、人気のない場所で精霊魔法の修行をしていた。彼は族と認識する前に精霊の囁きからホテルの敷地外に人がいると知った。精霊の囁きが続く為、彼は同調を強めその者の悪意を察知した。彼は逡巡した後、対応すべく駆け出した。』

 

精霊も、実は自分なのだが別の何かと捉えた方が情報を得易い事もある。

色彩心像視は、精霊を捉えるのに役立つ練習だ。特にAの自然色心像視は他人のオーラが見えるようになるだけではなく、精霊を見やすい眼になって行く。

Bの特定色心像視は、精霊を見て選択的にそれに焦点を当てる練習にもなるし精霊から情報を引き出す為の基礎訓練になる。

 

僕は、昨晩紹介した自律訓練法で司波くんのエレメンタルサイトや吉田くんの神祇魔法を習熟する為の解説を歩きながら少佐にした。少佐は、古風で大掛かりな芝居掛かった儀式魔法は実践していない門派に属していると言っていたので、僕は公開されている自律訓練法を利用して、個人に頼る高度(?)な無系統魔法の理屈を彼女に解説してみたのだ。

 

『吉田は、賊と接近しその殺気を感じた。彼はすぐに攻撃を開始した。

司波は、吉田の攻撃魔法が間に合わないと抽象から読み込み援護の魔法を発動した。三人の賊の携帯していた銃が分解し、その直後に吉田の攻撃魔法が発動し電撃が賊を襲った。賊は気絶した。』

 

吉田くんは、自分に向けられた殺気を瞬時に捉えている。それ自体は大したものだ。

でも同じ理屈で他人に向けられた殺気を捉えたほうが方法が複雑にならなくて良いだろう。精霊から情報を引き出したり、自分自身で感じてたり一々方法を選択するのは時間の無駄なのだ。

そこは、司波くんの何でもエイドスに訊いてしまう方が優れている。ただ、エイドスそのものになればさらに自由度が大きくなる。

例えば、『彼方の自分は、他に警戒する敵が居ないのを確認しその時空を去った。』みたいな事も出来る。

 

「おはよう!吉田くん」

早朝から、昨晩と同じ場所で練習している吉田くんに僕は声をかけた。

 

彼は、誰も居ないと思っていたらしく少し驚いた様子で、

「おはよう。師匠くん」

と言いかけて、

「ごめん。すぐに移動するよ!」

と慌てた。

 

彼は、僕と少佐を見て早合点している。カップルが、早朝から公園の中に入ってえっちぃことでもし始めると思ったのだろうか?恋人同士の様に、手を繋いでいた僕らの行動も誤解を招き易いものではあったが。

 

「おはよう、幹比古。私だ」

 

吉田くんは、少佐を見てさらに驚いた。少女に変身した少佐を彼は最初、認識できなかったのだろう。

 

「昨晩は、大活躍だったな」

少佐がこう言った瞬間に、吉田くんの顔色が変わった。

 

「誰に聞いた?!」

目が釣り上がって恐いぞ。吉田くん。

 

「だって、昨晩私達ここで…」

少佐は頬を赤らめた。

 

「ごごごめん!」

吉田くんは、また勘違いしたようだ。意外に彼は助平なのかも知れない。すぐに色事を想像する。

 

 

 

 

 

 

 

 


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