意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
少佐は、好きなタイプに声を掛けているのだろうか?それとも読者が関心を寄せる選手に声をかけているのだろうか?僕としては、一年なら司波深雪さん、北山雫さんを取材したほうがたくさんの人に記事を読んでもらえると思う。三年なら、七草会長、渡辺委員長だろう。
森崎くん、服部副会長も人気があるので良しとしよう。(服部半蔵ではなく服部刑部小丞範蔵だそうだ。)意外なのは、少佐が司波くんに声を掛けないことだ。彼も人気があるし少佐の好みだと思ったのだが。
と言う事で、少佐に頼ってばかりでは申し訳ないので今度は僕が司波くんに取材を申し込もうとした。
「あっち」
少佐が僕の手を引っ張る。少佐が見ている方向には、甘いマスク、というより凛々しい顔立ち。若武者風の美男子、という古風な形容が違和感なく当てはまる容貌で180センチ弱の身長に広い肩幅と引き締まった腰、長い脚の第三高の学生が立っている。
やはり、自分の好みで取材していたな〜!でも、残念!彼は司波さんに熱視線を送っている最中だ。
仕方ない。司波くんの取材は後回しにしよう。その時、
「九島烈」
壇上の司会者が、その名を告げた。少佐は立ち止まった。そして、ゆっくり壇上に身体を壇上に向ける。しかし、その表情は険しい。
九島さんより、少佐の反応の方が気になったが、僕は会場の皆さんと同じ様に壇上に注目した。
しかし、眩しさを和らげたライトの下に現れたのは、パーティドレスを纏い髪を金色に染めた、若い女性だった。
会場全体の光の屈折がわずかに不自然になった。手品でもするつもりだろうか?後ろの九島さんは。
ざわめきが広がった。
「フン」
少佐が、小さく吐き捨てた。
意外すぎる事態に、無数の囁きが交わされていた。
ドレス姿の女性はスッと脇へどいた。ライトが九島さんを照らし、大きなどよめきが起こる。ほとんどの人には、九島さんが突如空中から現れたように見えたことだろう。
でも、彼女をシェルにするには、もう一歩彼女に近づいて彼女に隠れるか、もう二歩下がって暗所に隠れるほうが良かったと思うよ。
それにしても、さっきから九島さんは誰とアイコンタクトしているのだろう。えーと、誰かな?
げっ、司波くんだ。
九島の目は、上機嫌そうに笑っている。
キモ。
「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する」
謝る気がないのなら謝らない方が良いと思うよ。九島さん。
「ごめんで済んだら警察いらん」
少佐も怒っている。彼女は水晶眼の持ち主だから最初から手品を見破っていたのだろう。
「今のはチョッとした余興だ。魔法というより手品の類いだ。だが、手品のタネに気づいた者は、私のみたところ五人だけだった。つまり、もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こすことができたのは五人だけだ」
じゃあ、パームの練習でもしようかな。手品がうまくなるように。
「魔法を学ぶ若人諸君。・・・(長いので省略)・・・・私は諸君の工夫を楽しみにしている」
聴衆の全員が手を叩いた。
「老害」
少佐は憤慨。
僕は冷笑。
司波くんは、笑っていた。声を出さずに。
◇◇◇
「皆殺しを謀れば、殺意が出るからすぐに悟られる。準備の段階でも出てしまうので決行前に抑えられる」
九島さんは、もしかしたら実戦経験があまりなくて大半を安全な後方任務にでも就ていたのだろうか?素晴らしきかな!後方任務と言っていいのは銀翼突撃章を授与された者くらいだ。
「どす黒い、変な色の光が体中から漏れるから絶対にわかるわ!大量殺人なんて」
少佐、自ら水晶眼であるとばらしているようなものですよ。
二人の毒舌は続く。もう部屋に戻っているから盗聴している人以外には聞かれないから大丈夫だ。
しかし、九島くんには参った。質的な実力差をちょっとした工夫や努力や根性で埋められるなどと考えるのは本当に凄い人に出会った経験がないと告白しているようなものだ。特に戦争ではその類いの精神論を絶対に頼りにしてはいけない。部下をたくさん死なせるだけだ。
彼は、若い魔法師をたくさん殺したいのか?
だいたい、第三次世界大戦で日本が勝ったのは九島さんが頑張ってからではなく日米で立てた作戦が優れていたから勝てたのだ。戦略の失敗は戦術で取り返せない。ヤン・ウェンリーも言ってた。
逆に言えば、戦略が良ければ戦術で多少の失敗をしても負けはしないのだ。
米国おける国体護持はユダヤ人と中流階級が担っている。彼らに認められない個人や組織は合法、非合法関係なく、あらゆる手段をもって排除、抹殺される。日本においては、1に官僚機構、2に国軍、3に天皇である。日本が国難に対し、国軍(自衛隊)、国民を一致団結させる最後の砦は天皇である。
こうであるから、米国の魔法師は米国から排除されることはない。米国魔法師はユダヤ人と中産階級にしっかりと溶け込んでいるからだ。一方、我国では、魔法師で固まってしまっている。十師族の制度がわかりやすい例だ。
本来なら、日本の国体護持に「魔法師」と言われるようでなければならない。魔法師の指導的立場にある人物は、猛反省して頂きたい。もし、それがかなわないなら官僚機構や国軍や天皇と一枚岩になる必要がある。
「(小野)はるかちゃん」は、その点では模範的な行動をしている。公安協力者としてお国の為に働いている。決して、公安そのものに興味を持ったり、公安をどうこうしようと野心を抱いたりもしていない。
「師匠。小野さんが公安だとどうしてわかったの?」
少佐に突っ込まれた。
「職業当てクイズは、得意なんだ」
話を続けよう。
魔法師で徒党を組んで、国体護持にその影響力を及ぼそうとしたり、国体護持と断言できない組織と一枚岩になってはならない。
例えば、日本政府は、外敵に乗っ取られる可能性が高い組織だ。有権者を、正しい判断をさせないような状況にすれば売国奴や反日工作員を選挙で勝たせられるからだ。
市議などは簡単に当選させられるし、国会議員でもそれは可能だ。また、議員を抑えれば地元の警察はその影響を受けてしまう。
国体護持に、日本政府と警察が入ってないのはこの為だ。だから、警察を見張る公安が必要なのだ。公安は、諜報員だ。諜報員は、誰に命を捧げているのか?(もちろん、全員ではないと予め断っておく。)女王陛下の007のたとえのごとく、我国においては天皇と天皇家がスパイの仕える、否、命をかける対象である。ここに国体護持装置が効いているのだ。
「ところで、師匠。今までの話はどこまで本気?」
「全部、本気です」
「はるかちゃんはさて置いてヤン・ウェンリーとか銀翼突撃章とか聞いたことないんだけど? 」
「そこ、笑うところ」
話を元に戻そう。
魔法師業界はリーダーの境地が6段階でないのが構造的な欠陥である。魔法を使えなくても他の業界には、真の指導的立場の中に一人くらいは境地が6段階の人物が存在している。
なので、その業界はまず滅びない。「君子危うきに近寄らず」のたとえのごとく6段階の人物は、その業界が一大決心を迫られた時に滅びの危機を察知して対策を講じる事が出来る。
そういう面では、この魔法師業界は他の業界に大きく劣っている。「魔法師界、百年の計」を立案出来る人物が居ないし、今のままでは、そのような人物は現れて来ないからだ。
魔法師の多くは5段階の境地に達している。しかし、サイオンの使い過ぎによって先天の気が枯渇して行く。5段階ならかなり先天の気を補充したり循環させたり出来るのだが適宜これが可能な魔法師は皆無だ。
その為、次の境地に達するエネルギーが足りなくなる。魔法師育成が機能すればするほど魔法師界は真の指導者を得難くなり、やがては滅んで行く。
こんな簡単な理屈を実戦を潜り抜け九十まで生き抜いた人物がわからないのは、怠慢以外の何者でもない!
「ところで、少佐。もうそろそろ自分の部屋に戻った方が良い時間だと思うけど」
「今夜は、ここで寝るよ」
「そこ、笑うところ?」