意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
込み入った話は、女同士で解決するのが良い。男が口を挟むとロクなことにならない。とは言え、身体接触ありの伝授の話題となると河村さんは心中穏やかでなくなった。
「ちょっと、あんた。どう言うつもり?」
矛先が再び僕に向けられた。
「最短コースを選択した。すでに少佐は神と対話できるレベルだったから」
僕は正直に答えた。河村さんは、釈然としないようだ。その横で、河村さんの新しい彼氏はオロオロしている。
河村さんのイライラの原因は、わかっている。彼女が習ってない事を僕が違う女の子に教えたのが気に入らないのだ。しかもその方法が少しエッチぃらしいのが更に彼女を刺激している。
だんだん、面倒臭くなって来た。それと、河村さんの彼氏にも誤解を早く解いておかなければならない。
彼は、河村さんが元彼に新しい彼女ができて怒っている。つまり、今も河村さんは元彼に未練があると誤解している。まんざら、誤解ではないかも知れないが。
「美波。お前は、代表選手なんだろう?精神のコンディションを整えなくても良いのか?今の状態は競技に集中しているとは思えないぞ」
僕は、真顔で正論を語り聞かせた。更に、
「身体接触型の伝え方に興味があるなら、今のお前の大事なパートナー込みで施術してやろうか?」
と念押しした。
河村さんは、トンデモない事を心に浮かべ顔色を変えて黙ってしまった。隠れ腐女子の彼女が誤解をするようにわざと言った効果が出た。
「今度、取材に行くよ」
「もう、ええわ‼︎」
河村さんと新彼氏は、二高の友人達の方に戻って行った。
僕は、重要な事を思い出した。僕は、ここに「報道」として、あるいは「スポーツノンフィクションライター」として派遣されていた。取材をしなければならない。取材しないで空想で記事を書く新聞社は潰されたし試合を見ないで書かれた記事を載せていた週刊スポーツ紙は廃刊となっている。
当たり前だ。
なので、僕は取材しなければならない。朝日や週プロの真似はできない。
今さらながら反省する。僕は友達が少ない。司波くんがかろうじて取材に協力してくれるかも知れないかな。うーん、困った。このままでは、「衝撃!二高期待の新人、爛れた関係か?!暴かれた黒い過去」しか書けない。
「師匠、どうしたの」
少佐が僕のわずかな異変を察知した。隠しても仕方ないので正直に事情を話した。
「ならば、私を利用すれば良い」
少佐は、僕を学生たちが集まっている所に連れて行った。
「元気か?森崎」
少佐が森崎くんに気安く声を掛けた。森崎くんは、僕と目が合った瞬間に嫌な顔をしたが少佐を見て急に姿勢をただした。
「はい。元気です。少佐」
『少佐』が、公安9課ごっこ内だけでなく外でも通じているのには驚いた。
「師匠が、お前に取材をしたいそうだ。構わないか?」
「はい。問題ありません」
僕は、森崎くんに九校戦とはあまり関係なさそうなこと(1-Eの女子が知りたそうなこと)と当たり障りのないこと(九校戦に向けての決意やコンディション)を質問した。
森崎くんは、姿勢を正したまま質問に答えてくれていたが、時折、僕と少佐の方にわずかに視線を向ける。何か気になることがあるようだ。
「最後に、僕達に質問はありますか?」
と、僕から森崎くんに先に言ってあげた。
「お二人は、どういった間柄なのでしょうか?」
「爛れた関係」
少佐が即答した。
森崎くんは絶句した。僕は、感心した。少佐は心が読めるようだ。
「ではないぞ。森崎。私は師匠から、魔術を習っているだけだ」
安心した森崎くんは、すぐに僕に挑戦的な視線を向けてきた。
「それは、どのようなものですか?」
言い方は丁寧だったが、尊大な態度だ。
「なあに、魔術と言ってもちょっとした性魔術の類で房中術やカーマスートラにある様な本格的なものではありませんよ!」
と、からかってやった。
調子を合わせて、少佐が頬を赤らめていた。森崎くんは、真っ赤になっている。根は純粋な人のようだ。ハニートラップに引っかかり易い典型的な性格だな。
すかさず、森崎くんに取材のお礼をしてその場を離れた。
「師匠の元カノは、なかなかやるが、森崎はまだまだだな」
少佐は、ボソボソと呟いた。特に返事を期待して言ったのではなかろう。これにも驚いた。
河村さんも、森崎くんも僕と少佐のおふざけに顔色を変えて過剰に反応した。表面的にはどちらも同じだった。
しかし、内実は違っていた。森崎くんは、予期せぬアクシデントに遭うと何もできなくなる可能性が高い。一方、河村さんは、何らかのアクションを取り敢えず起こせるだろう。
どうして、そんな事がわかるのか?
要は、本人にどのような霊がどのように本人を助けてくれているのかと、本人がそれにどれくらいつながりを感じているかだ。森崎くんは、下から進化しているように見える。まだまだ、自分頼みが楽しいのだろう。
逆に言えば、予期せぬ事態が起こらなければ彼は結果を出し続けられる。
誤解のないように書いておくが、僕は森崎くんをけなしているのではない。むしろ、頑張って欲しいと思っている。(もちろん、僕の保身の為もある。)ちなみに、森崎くんは上記の理由からモテる。精一杯頑張っている感が出ているから普通の女の子には魅力的に見えるのだ。
「刑部!」
少佐が今後は、服部副会長に声をかけている。服部半蔵が名前ではなかったみたいだ。影の軍団とは、何の関係もなかったみたいだ。
「取材してもいい?」
「手短にお願いしますね」
服部副会長は、意外に女性慣れ、ではなく幼女慣れしているようだ。ただ、僕が挨拶をすると彼はわずかに表情を固くした。
僕は、副会長に九校戦に向けての意気込みや1ーE女子が知りたそうな質問をした。彼は、誠実に答えた。
「刑部、1ーEの司波達也のスタッフ入りに賛成したそうじゃあないか?それは、何故だ」
少佐が切り込んだ。というか、少佐はそれをどこで知ったのだろう。
「我々が三連覇する為に必要な人材と判断したからです」
副会長が胸を張った。
「司波達也に対して、個人的な感情はなかったのか?」
少佐は、更に嫌な質問を続けた。非公式の模擬戦で副会長が司波くんに負けたのも少佐は知っているようだ。
「全くないと言えば嘘になりますが、司波達也の実力は誰しも認めています。彼はエンジニアのスキルも一流です。私は生徒会副会長として冷静に判断しました。きっと、彼は我々の三連覇に貢献してくれると信じています」
「刑部は、やれそうだ」
服部副会長へのインタビューを終えて、少佐が呟いた。
「半年前とは別人だ」
少佐は、不思議がった。
「 服部副会長には、そこそこ高い霊がついてます。だから、敗北から建設的に教訓を得られるのです」
「師匠は、見えるのか?」
「内緒ですけど」
「もしかして、将来どのくらいものになるかもわかるのか?」
「もし、『明日、お前は死ぬ運命にある』と言われたら今日はやる気がなくなってしまいます。同じ様に、『どんなに頑張ってもここで進歩しなくなる』と言われたら頑張る気力がなくなります」
「だから、見えていても言わないのだな」
「言う時は、寿命を延ばしたり才能を改善する方法を教えるつもりがある時です」
少佐は、考え込んでしまった。それから、
『占師は、ロクな死に方をしない』
と言った。
「誰かに言われたのですか?」
「いや。単なる独り言だ」
「では、寿命を延ばしたり才能を増やしたりしましょうか!」
「随分と簡単に言うな」
「実際に、簡単ですから」
僕は、笑った。