意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
選手40名、作戦スタッフ4名、技術スタッフ8名。九校戦の裏方は12名の他にも用意されている。会場外でのアシスト要員として有志20名が組織されている。アシスト要員は、選手達とは別ルートで現地に向かう予定だ。
僕は、なぜか「有志」らしい。志願したわけでもないのに不思議なことだ。
出発予定場所には、4人の「有志」達が揃っていた。
「君が噂の師匠くんか。私の事は『少佐』と呼んでくれ」
そう言って、彼女はちっちゃなおててを差し出した。高校生の手どころか中学生、いや、小学生のものと言える。高三ならぬ『小三』だ。
「『少佐』、1-Eと言えば司波達也か吉田幹比古じゃないんですか?あとは千葉エリカくらいか」
『少佐』のお父さんと思われるくらいの恰幅の良い男子学生が、口を開いた。自分に正直な人物だ。
「『馬頭』、師匠くんはエガリテのテロ決行日時を当てた凄腕だぞ」
お父さん学生は、『馬頭』と呼ばれている。いい年して『公安9課』ごっことは恥ずかしい奴らだと思ったが僕等とエガリテの悶着を知っているとはなかなかの情報収集力だ。
しかし、『少佐』の外見はシャアでも素子でもなく、ターニャに近い。魔法の使い過ぎで成長が止まっている?
「それだけじゃない。エガリテの本当の狙いも当てていたんだ」
こちらは、真面目で堅実そうな学生だ。その情報は、どこで手に入れたのだろうか?単に僕の妄想ブログ風私小説の読者だったら笑ってしまうが。
「『戸枝』!それは、本当か?」
『馬頭』は、わかりやすい人だ。もしこれが演技なら大したものだが。
「俺は、それよりも師匠くんが『精神干渉系魔法』を使わないでエガリテにヤジを飛ばして奴等を劣勢に立たせたり、発足会で1-Eを先導して最前列に陣取らせた手腕を評価するね」
「『石川』、それを事前に教えてくれよ」
『馬頭』は、恐縮した。
「まぁ、そういうことだ。我々は師匠くんを歓迎するよ」
少佐は、ニッコリ笑った。
お互いに本名を呼び合わない『デスノート』ごっこかと思ったが情報収集能力はそれなりにある。学生のうちにこれだけの能力を磨いていればそのうち本物から声がかかる事もあるだろう。
いわば、学生同盟→エガリテ→ブランシュのテロリスト育成プログラムとは、真逆の流れだ。
諜報員は向き不向きがあるから、その適性を学生の頃から見定めるのは良い事だ。おそらく彼等の活動は本物に観察されているだろうから。
とはいえ、諜報員は割に合わない職業なのでお薦めしない。華々しく活躍して金と名誉を得る方が良いと思うぞ。
なんちゃって「公安9課」は、日頃、表向きは「新聞部」として活動している。この大会で新聞部は選手が利用する施設を選手とほぼ同じように出入りして良いそうだ。僕は、時間通りに出発したマイクロバスの中でこのように説明を受けた。
「そこで、本題だ」
少佐が急に真剣な顔になった。
「エガリテのテロ計画の真の目的と決行日時をどうやって探ったんだい?」
「カンです」
僕は正直に答えた。少佐は納得できない様子だ。
「無系統魔法や古式魔法の一種と考えても良いかい?」
少佐は食い下がる。簡単にはあきらめない。
「その様に表現されても構いません。もっと言えば仙道や武術や占星術や召喚魔法や密教の類です」
「君は召喚魔法を習得しているのか?」
「神祇魔法と言った方が良いかも知れませんね」
少佐の目が泳いだ。彼女が、さっき吉田くんの名前を聞いた時にわずかに反応したので何かあると思ったが、やはりそうだった。吉田くんの味方?敵?
普通だったら、クラスメイトのために余り多くを語るべきではないのだが、僕は吉田くんと仲良くする為にこの学校に入った訳ではない。なので、少佐がどちら側でも構わずサービス!サービス!!
「召喚魔法も神祇魔法も自分より高次の何か、呼び名は精霊でも守護霊でもハイヤーセルフでも構いませんがとにかくその類のものを降ろす試みです。究極的には神を降ろすのを目的としている様ですね」
「その通りだ。呼び名は、神でも存在Xでも構わないだろうが」
少佐は神を存在Xと呼んでいるそうだ。しかも、あまり良い関係を築けていないみたいだ。
「ただ、たいていの儀式では、神を降ろすのも未来を見るのも成功しないでしょう」
僕がこういうと少佐は少し考えた。
「やはり、水晶眼を持つ巫女の協力が必要なのだろうか?」
「いいえ、そもそも考えが間違っているだけです。神を降ろすのではなく真我に到達するだけでです。もちろん、真我ですから元から自分と不可分です」
「あれが、自分自身?」
少佐は、声を出すつもりはなかったのだろうが思わず声が出てしまっていた。
「アブラハムは、神と格闘して足が不自由になっていますし、キリストは『どうして見捨てたのですか?』と十字架上で嘆いてます。真我と自我の関係が上手く行かないケースは珍しくないと思います」
少佐は黙ってしまった。自我≪真我とする考えが受け入れにくいのだろう。僕は構わず語り続ける。
「自我が真我を受け付けないだけです。受け入れるようになれば儀式の類は必要ありません。もちろん水晶眼を持つ巫女も」
「では、どうすれば受け入れられるようになる?それと真我になれば未来が見えるのか?」
「方法はたくさんあります。要は『慣れ』です。肉体や精神が高いエネルギーの状態に慣れるように練習するだけです。しかし、たとえ慣れたとしても、真我と自我の思惑が違う事があるので自我で見たい未来を真我が見たいとは限りません。思惑が一致すれば見えます」
「君は、見えるのか?」
「真我との思惑が一致する時は見えます」
「自分を高いエネルギーを保ったままにするコツはあるの?」
「はい。それこそが、それぞれの門派の教えの特徴になっています」
「差し支えない範囲で教えて欲しいのだけど」
少佐は真剣なだけだが、部下(?)は動揺した。そんなこと教えるはずがないのに少佐はなんてこと訊くのだなんて思ったのだろう。しかし、僕は答える。
「リラックスする事です」
「たったそれだけ?」
と、少佐は口に出さなかったが、そう言いたそうだった。
「ただし、骨までリラックスしなければなりません」
「それは、もしかして『易骨』を指しているのか?」
魔法科高では、珍しい髭ボウボウの石川が口を開いた。彼は多少中国関連の古式魔法に通じているようだ。
「そうです。正しくは、骨の中までリラックスするのが『易骨』です…」
「どうかしたかい?師匠くん」
僕のわずかな異変に少佐は気付いた。
「少佐。もうすぐ、我々は到着しますがどこかで休憩を入れますか?」
戸枝が気を使ってくれている。
「選手達は、今どこにいますか?」
「予定では、選手達も…待てよ。随分、予定より遅れているな」
石川は、ほんの数秒で選手達を乗せたバスの現在地を調べ上げた。凄い技術だ。
「選手達を、軍が護衛していますよね?」
「国軍は、そんなサービスをしてないぜ」
馬頭が、呆れた。
「師匠!何かわかったのか?!」
少佐も、何か嫌な予感がしたらしい。ゴーストが囁いたのか?それともそれともクソッタレ存在Xの仕業か?
「やられた!殺意がほとんど出てないから全く気付かなかった。少佐。すぐに選手に連絡を。敵が仕掛けてくる」
公安9課(新聞部)の行動は早かった。
「七草!どうして出ない?寝てるのか?!」
少佐が、苛立つ。少佐が七草会長のプライベートナンバーを知っているのに驚いた。
「司波達也につながりませんか?」
僕は、一番即応能力の高い人物を示した。
「ダメだ。誰にもつながらない」
石川が吐き捨てた。
どうやら、敵は通信のしづらい場所を狙ったか、つながらないようにわざわざ細工してテロを仕掛けるようだ。