意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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九校戦前夜9

「千葉さん、ちょっといいかな」

僕と名無しくんはイベントを起こす為のキーパーソンである千葉さんに声をかけた。僕も彼も彼女とほとんど交流はないが、何とか彼女の協力を得たい。

 

「まだ、発表されてないけど司波くんが九校戦のメンバーに選ばれたそうなんだ」

白石情報が役に立った。それと、名無しくんが喋れるのが助かる。彼が使えない時は、僕が喋るつもりだった。

 

千葉さんは、普段は大人しい。彼女は、自分の興味のない人物には意外にも非社交的なのだ。弱い奴とは友達にならないタイプだ。なので、僕や名無しくんは全く彼女に相手にされない。つまり、これが彼女の本当の実力だ。

 

「それ本当?」

彼女の目が見開いたのが、わかった。いきなり、自分が興味がある人物達に見せる表情に豹変する。

 

「本当だ。そこで、1-Eのみんなで司波くんのために何かしようと考えているんだ」

 

「詳しく話して」

 

千葉さんが、司波くんに好意を寄せているのは勘付ていた。なので、うまく誘導すれば必ずこの『僕たちの司波くん壮行イベント』に彼女を巻き込むのに成功すると僕は確信していた。

 

しかし、僕の予想は外れた。

 

誘導どころか千葉さんが、思った以上に前のめりなのだ。(どんだけ、司波くんに惚れているんだ!)

 

釣り針につけたエサに食い付いたを通り越して、竿まで、いや釣り人ごと持って行かれた感じだ。

 

千葉さんは、九校戦発足式で1-Eのクラスメイトが司波くんを盛大に送り出してあげよう(しかも講堂最前列で!)作戦が痛く気に入ったらしく僕らが説得することもなく自ら進んで根回しを始めた。協力してくれそうな1-Aの知り合いに声を掛けたりするものだから、僕と名無しくんはむしろ千葉さんのフォローに追いやられた。

 

 実は、最初から勝算があった。

 

魔法科高校は進学高でもある。なので、どうしても学業の成績順位に重きを置きすぎる傾向が教員にも学生にもある。

 

 試験の上位20名は、公表されている。成績上位者の中に1-Aと1-Eのメンバーが多数名を連ねているのも広く学生の間に知れ渡っている。

 

 その上、1-Aと1-Eの成績優秀者が妙に仲がいいのも周知の事実だ。理論も実技も、そして実戦も1-Aと1-Eは、一目置かれているのだ。(ついでにルックスも。千葉さんが美人だとして人気があるのは涼野さん達から聞いている。ただし、司波くんのルックスの評価は芳しくないようだ。)

 

実際には、司波達也くんと深雪さん中心の仲良しグループが異常に目立っているだけなのだが、面白いことに1-Aと1-Eの他のクラスメイトも引っ張られてそれぞれ目立った活躍(?)をしている。

 

魔法科高校に来る学生は、中学時代は少なくとも勉強ではトップクラス、魔法力も必要とされているから勉強以外の分野でも一つ二つは全国レベルの特技を持っているのも珍しくない。しかし、ほとんどの学生がそうなので今まで自然にトップクラスにいた自分が魔法科高校に入った途端にセカンドクラスになってしまう。そこで、自信を失ったり本来の力を出せなくなったりする者が出て来るのだ。特に二科生はその傾向にある。

 

例の剣道小町こと壬生沙耶香さんもその類だ。

 

こんな時に、自分と同じクラスの女子が、あるいは男子が学校創立以来の大活躍をしたらどうなるか?

 

身近な誰かが成果を上げると、人間不思議なもので自分もできるような気がして来るのだ。前者は、司波深雪さん。後者は司波達也くんだ。

 

いわゆる、司波深雪さん凄い!→司波深雪さん1-A、あたし1-A→あたし凄い!

 

あるいは、司波達也くん凄い!→司波達也くん1-E、おれ1-E→おれ凄い!

 

とする考え方だ。ややキモいと思われるかも知れないが、実はこの勘違いは重要であり、根拠のない自信は実力発揮する為の必須アイテムの一つなのだ。

 

話を元に戻そう。

 

『僕たちの司波くん壮行イベント』までの時間は短い。いくら千葉さんが、頑張っても月曜日の学校の発足式に間に合わせるのは難しい。もうひと押しする必要がある。

 

◇◇◇

 

「おはよう。聞いたぜ、司波。凄いじゃないか」

「おはよう、司波君。頑張ってね」

「おはようございます、司馬くん。応援しています」

「オッス。頑張れよ、司波」

 

 

 

作戦は順調に開始された。司波くんは、少し驚いているようだ。普段それほど親しくない相手でも、挨拶のついでに激励してくれたのだから。

 

僕は、白石くんに後を任せて名無し(藤岡くん)と1-Eの女子(綺麗どころ)を連れてクラスルームを出た。

 

気配を消したまま、僕は前から、1-E女子達は後から教室に入った。

 

僕は、気配を消した状態からいきなり存在感を異常に高めて(長岡さんの少女漫画のヒロイン登場ごとく金粉と花をまき散らしたようなレベルには達しなかったが)1-Aの皆さんに○○の正式の挨拶をした。この作法を知っている学生は、数人程度いるはずだ。両手の組み方に少し特徴がある。

 

「おはようございます。『氷室雪絵』です。【魔女っ子メグミちゃん 第3巻 九校戦編】をよろしくお願いします」

 

 教室の後にいた森崎くんは、血相を変えて僕を制止しようとした。しかし、彼の背後からいきなり現れた長岡さんに手を肩に置かれて彼は動けなくなった。点穴の一種だ。毎度ながら、彼女の功夫に驚かされる。この場合、一番驚かされているのは森崎くんだろう。

 

「森崎くん。おめでとうございます!」

「森崎くん。私達も応援します!」

「森崎くん。頑張ってね」

1-E女子達が森崎くんを囲んだ。森崎くんは人気者だった。ストイックな感じが母性をくすぐるのだろうか?

 

「北山さん。おめでとうございます!」

「光井さん。おめでとうございます!」

「お二人のご健闘、期待しています!」

「僕達も、応援します!」

名無しくん(藤岡くん)達が、目当ての北山さんと光井さんを囲んでいる。北山さんは、無表情のままだったがうれしそうだった。光井さんは、顔を赤らめていた。

 

この間に、僕は今度は存在をなくして教室を出て行った。1-Aの皆さんには、僕が消えた様に見えただろう。教室の中から、「今の何?」、「誰?」と言い合う声が聞こえてる。

 

あとは、簡単だ。発足式の講堂最前列に1-Eのクラスメイトが1-Aのクラスメイトが集まっている場所に集まって行き、はたから見ると1-Aと1-Eが意図的に集まっているように周りの学生に勘違いさせればいいだけだ。

 

千葉さんが司波さんに協力を取り付けたおかげで1-Aの半分近くは、協力的に行動してくれる。残り半分は、九校戦にそれほど興味がなかったり、司波兄妹を良く思ってないメンバーだ。

 

彼等の意志を僕らが絡め取った。反司波兄のリーダー的存在の森崎くんは長岡さんが、精神的に物理的に抑えたし森崎くん自身は壇上にいる。どうしようもないのだ。

 

リーダーを失った集団は烏合の衆だ。個人的な興味や1-Aの主流に合わせようとする。

 

◇◇◇

 

1-Eを千葉グループ(桜田門千葉さん、キャプテン西条くん、眼鏡っ娘柴田さん、昔神童今しんどい吉田くん)を先頭に僕、白石くん、長岡さんを後方に配置して1-Aに紛れ込ませて講堂に前列に陣取った。

 

「河原さんですね。自分は、…」

涼野さんが、連れてきた学生が自己紹介を始めた。僕は、彼に某龍門派の伝人だと名乗った。

 

「私は、…」

朝田さんが連れてきた学生が自己紹介を始めた。僕はさっきと同じ様に名乗った。

 

1-Aに二人いた。座禅を普通の人以上に知っている、あるいは、興味を持っている学生だ。

 

「氷室先生。サイン下さい!」

快くサインをしておいた。『氷室雪絵』を普通の人以上に知っている、あるいは、興味を持っている学生は三人いた。

 

長岡さんも、挨拶されているようだ。彼女の場合名乗ってしまうと挑戦状を叩き付けられる立場に置かれてしまう。それでも、構わないのだろうか?まぁ、彼女のことは心配いらないだろう。最近、どうして彼女が現代魔法師に圧勝したのか理由がわかったからだ。この理屈が正しければ遠くから広範囲での破壊が可能な魔法師しか彼女を倒せないことになるのだ。

 

おっ。

 

発足式が始まった。これから『僕たちの司波くん壮行イベント』の本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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