意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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誤字脱字を修正しました。2017/07/18 22:18


九校戦前夜6

吉田幹比古くんは、見れば見る程世界中の不幸を一身に背負っているような挙動をしていた。神童から普通の凄い人に転落したのがそんなにショックだったのだろうか?僕は、留年が半分確実になってこの妄想ブログ小説を来年から『魔法科高校の留年生』にしなければならないと悩んでいるのだが、彼と僕とではどちらが不幸なのだろうか?

 

結論から言えば、吉田くんの悩みは二時間で解決出来る。気を入れる方法を習得すればいいだけなのだ。同様に僕の悩みは手段を選ばなければ二秒で解決する。解決方法は、内緒。

 

さて、悩み多き少年吉田くんとシヴァじゃなかった司波くんと同じチームでフットサルとラケットボールとバスケットボールを組み合わせたようなレッグボールを体育の授業中にすることになった。

 

良い機会を得た。これで、2人を『観』放題だ。

 

「じゃあ、僕等はディフェンスするから、攻撃は任せたよ」

「おう!任せとけ!」

西条くんは好青年だ。ドイツ系だからサッカー的なスポーツには血がたぎるのかも知れない。

 

僕と白石くんは、簡単な打ち合わせをした。

 

試合開始直後にFチームがロングシュートを放って来た。挨拶代りの。僕は華麗なトラップを披露する代わりにシュートボールをスルーした。ボールは、壁に当たって跳ね返り白石くんの足元へ。

 

「何、あれ」

EクラスとFクラスの女子が失笑している。Fチームも足を止めて笑いをこらえている。

 

ゴールを知らせる電子音がなった。

 

白石くんから、司波くん、吉田くんとパスを回して吉田くんがシュートしたのだ。

 

「ナイスプレー!」

西条くんが、白石くんに声をかけている。西条くんは、意外にキャプテンシーがあるようだ。司波くんと吉田くんは、僕の方をチラっと見た。大丈夫なのか?と言いたげな表情だった。

 

「結果良ければ、全て良し!」

と声をかけておいた。彼等が納得したかは未知数だ。

 

Fチームが猛攻を仕掛けて来た。穴は僕だと思ったのだろう。それでも西条くんが相手選手を追い回しパスミスを誘いボールは僕に転がって来た。

 

 いかにもサッカー経験者風のFチームFWがプレッシャーをかけて来た。コースを切りながら距離を詰める。うまい!と感心している場合ではない。とりあえずバックパス。

 

サッカーではないので、ゴールキーパーはいない。なので、バックパスは自殺点につながりかねない。僕のバックパスは壁に当たって跳ね返り白石くんの足元に収まった。

 

「あいつ、バカじゃあないの!」

千葉エリカ。聞こえてんぞ。そのうち、お前の本当に好きな男子を暴露してやるからな。こっちは、フィールド内から観客を『観』ているんだからな!

 

白石くんから、西条くん、司波くんとパスはつながり司波くんが相手DFをかわしてシュート!(はい、今、司波くんシュートにトキメキましたね。ほぼ確定。)

 

追加点が入った。

 

Fチームは、今後は僕と白石くんに同時にプレスをかけて来た。(それにしても、すぐにロングシュートをするのはこちらにボールを渡すだけと何故Fチームは気づかないのだろう。)FWを一枚増やしたのだ。やはり、穴は僕と見ている。僕は、コースを切られて苦し紛れのパスを天井に向かって蹴った。高反発ボールは何回も跳ね返って相手DFが一枚欠けたスペースに転がった。

 

「オラオラオラー!どきやがれ!」

西条くんはボールに突進する。まるで、主人が投げたボールを追いかける犬のようだ。角度のないところでボールに追いつきそのままクロス。走る勢いそのままに脚を振り出した彼の技術に驚く。しかも、直後に壁に衝突したにも関わらずすぐにプレーを続行した。ゲルマン魂?

 

そのマイナスのクロスを華麗なボレーで司波くんは決めて見せた。(はい、またトキメキました。確定です。)

 

黄色い歓声が上がる。

 

Fクラスの女子。お前らまで、歓声をあげてどないすんねん。Fチームを応援せんか!

 

Fチームの動きが鈍くなった。立て続けに点を訳もわからない取られ方をしたので仕方ない。Fチームのゲームキャプテンらしき人物が、手を叩いて声をチームメイトに掛けている。

 

「諦めたらそこで試合終了だぞ!」

 

いやはや、全くその通りです。

 

Fチームはさらに一人上がって僕等にプレスして来た。2対3の数的不利だ。司波くんが下がって来ようとした。

 

「達也!下がるな!上がれ!」

西条くんは、僕等の意図を見抜いたようだ。司波くんは、首を傾げながら上がって行った。

 

やれやれ才能があり過ぎるのも問題だな。吉田くんも司波くんも。ついでに千葉さんも。いつも、自分と同等か劣る者からしか学んでいない弊害が出ている。

 

Fチームは数的優位を保ったままボールをキープしゆっくりと攻め上がってきた。最終ラインをがら空きにして。速攻から遅攻に変えたらしい。しかし、相変わらず穴は僕だと見てこちらサイドに攻めてきた。

 

 僕は、普通に歩いて相手に近付く。相手は距離感がつかめずに、焦ってすぐにシュートを放つ。当然枠にとばない。

 

 ルーズボールは白石くんが奪い、プレスをかけられる前に僕にパス。コロコロコロ。相手がそれを見てボールを追いかける。僕は予め白石くんに近付くように歩いていたので、先にボールに追いつき思い切り蹴る。宇宙開発!

 

天井、壁、床とボールは跳ね返って相手DFの足元に転がった。すかさず、背後から西条くんは近づいてボールを奪い返した。相手の股下に足をいれる技術を駆使して。彼は本当にうまいな。

 

おいおい、トキメキはなしかよ。なんてあからさま女だ。西条くんは、惚れてくれてもいない女からパコパコ叩かれているのだ。やはり、彼はマゾなのだろうか?これは、一種のボケですからみんな本気にしないで下さい。変態性欲はその人の眼を観るとわかります。眼の周りに白い小さな星が飛んでいますので。

 

 その時、違和感があった。僕に何かを伝えようとしている想いだ。視野の端に彼女の姿が一瞬映る。

 

 こんな調子で最終ラインはダラダラしながらEチームは得点を重ねて行った。前の三人の大活躍で。

 

 ボールを持っている僕に相手は三人でプレスして来た。白石くんにもマークが付いている。せっかく、司波くんが相手チームから奪ったボールを失うわけには行かない。でも、走るの面倒臭い。

 

なんて、チンタラやっていると完全に三人に囲まれた。そこで、発勁してボールを壁に向かって蹴った。完全にノーモーションで蹴ったので相手は全員固まっている。

 

僕は同時に逆方向に歩き出して小さい円を描く。跳ね返って来たボールを白石くんにパス。マークされているので白石くんはトラップなしでサイドに張った司波くんにパス。ゴール前に詰めている西条くんにパス。西条くんシュート。

 

最後に自分の見せ場を作ったのだが、誰も見てなかったようだ。

 

 

「お前ら、経験者か?だったら先に言ってくれよ」

西条くんが試合終了後に僕等に声をかけて来た。爽やかスポーツマンだ。それに僕等の意図をすぐに見抜いた眼力にも畏れ入った。酒井高徳くらいなら今からでもなれるんじゃね〜と褒めてあげたかったが、僕はそれどころではなくなった。

 

「ありがとう!西条くん。また後で」

早々に僕はその場を立ち去った。

 

               ◇◇◇

 

今朝、部室の端末の検索履歴をなんとなく気になって調べた。僕の名前、試験科目、得点などが検索されていた。それらをたどると採点官の名前がわかる。そして、僕の魔法理論の得点が0点にされていたのも、その採点官が以前、同じように生徒に極端な評価をして問題になったのも検索した人物にはわかっただろう。

 

誰が、調べたか想像はついたが確信は持てなかった。しかし、試合を見学していた女子達の中に彼女が居た。彼女をまだ僕は感じることができた。バカな真似をする前に止めなければならない。

 

僕は、体操着のまま部室のドアを開けた。

 

端末の前に朝田さんが座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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