意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
ゴールデンウィークに地元に帰って来たのは、ホームシックにかかった訳ではない。それにしても適当な理由を付けると交通費を出してくれる出版社の気前の良さに呆れる。単なる里帰りを経費と認めるのはやめた方がいいぞ。
家族の話は、割愛させて頂く。今回は、我が処女作のモデルとなった河村美波さんの話だ。一高でテロが起きた後に二高ではどうなのかと彼女に聞いたらそんなことは起きてないと返事が帰って来たエピソードは紹介した。その後、彼女から連絡があった。「あなたに会いたい」と言うセリフは彼女の口から出て来なかったがどうも彼女が僕に会いたがっているのはわかった。多分、調子が悪いのだろう。色々と訳ありなので他の用事のついでに「美波ちゃん」に会おうと思った。
珈琲店「タレーラン」は、いつも女性用のカラフルな傘が一本傘立てに立て掛けているとか(今どきそれはない。)ヤンデレの彼女に投げ飛ばされるとか、(それは立派な傷害罪。)一目惚れした人とは結ばれないとか根拠のない都市伝説が売りになっているバリスタのいる喫茶店だ。
約束の時間よりも10分は早く来たのに彼女はすでに店内で座っていた。
「一瞬誰かわからないくらい綺麗になったね〜」
「あんた、相変わらず軽口叩いてるの?」
「何言ってんの!めっちゃ可愛いやん。マジで誰かわからんかったって!」
「もう、ええわ!」
女の子は、褒めて褒めて褒めて褒め続ければ機嫌が良くなる確率が高い。たまにこれが通用しない女の子がいるので使う時は注意しよう。
では、本題に行ってみよう!
「好きな人が出来たの?」
彼女は、真っ赤になった。河村美波さんから美波ちゃんに戻った。わかりやすいね〜。
「ななななに言うてんの!」
はい。図星でした。彼女は、素直な良い子です。中学の時好きだった男の子に遠慮して高校で新たに好きになった男の子に恋愛感情を露わにするのを躊躇っているってところか?
「じゃあ、それは置いといて。身体が硬くなってない?」
「バカ」
彼女は、本当は僕に何か未練がましいセリフの一つや二つ言って欲しかったのだろう。でもそこは敢えて無視する。未来思考で突き進んでもらう。彼女にも。僕の「戦略級魔法師育成計画」に協力して頂く。強制的に。
「中学の時に一緒に研究していた練習法では多分エネルギー不足になるよ。あれから、色々実験して効果を確かめた練習法を紹介するよ」
「女の子に色々実験してみたの?」
河村美波さんは元気を取り戻して来た。僕の心を少し読んで、しかも嫌味を言えるくらいに。
「女の子にも、男の子にも実験して確かめたよ?」
「バカ」
きっと、そんな事ないよと嘘でもいいから否定して欲しかったのだろう。
男女の恋愛ゲームみたいな駆け引き、腹の探り合いはこれ以後ありません。
◇◇◇
河村さんは、幼い頃から魔法力らしき能力があったらしい。しかし、あまりにその力は貧弱過ぎて魔法師になったり魔法科高校に入学出来るとは誰も思っていなかった。もちろん本人も。しかし、秘められた野心が彼女にはあった。
「為せば成る。為さねばならぬ。何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」と言って僕は面白半分ネタ作り半分に彼女と一緒に「目指せ!魔法科高校」と公言してたくさんおバカな特訓をやった。「美波。エースを狙え‼︎」昔のスポ根マンガのノリだ。一応、武術や禅を参考にしていたので実際は言うほど的はずれな訓練ではなかったのだが。
結果的に僕を含めて3人の魔法科高校合格者を出してしまい、校長が泣いて喜んでいた。途中色々とあった。魔法師を否定する基地外教員を告訴して結果的に飛ばしたりした。
当時は、正式に禅を教えて良い許可を得てなかったので自分が習った方法をそのまま紹介できなかった。しかし、状況が変わり正式に教えても良い運びになった。
そこで、早速河村さん宅にお邪魔して素直そうな彼女の妹達の前で彼女の背骨を押している。それにしても、僕を見るなり「姉ちゃんの元カレ来たー!」と盛り上がるのはやめて欲しい。
そんな素朴な妹達にも背骨をほぐす方法を教えた。僕がいない時に妹達に彼女の背骨を弛めてもらいたいからだ。
「手の掌をこっちに回して背骨に光が入るようにするんだ。これで美波姉ちゃんは立派な魔法師になるよ!」
「マジで〜!?」
ふざけているようだが妹達は真剣だった。彼女達にとって美波姉ちゃんは誇りなのだ。いや、この地区の住民にとってもそうだ。
喋りながら、河村さんの背骨を弛めて行く。首の根元から施術し始めると段々と際どい部分を触らなければならなくなる。さっきから彼女は無口になっている。僕は彼女の命門穴付近で彼女のウエストをしばらく揺らした後さらに下部に掌を移動させて行った。彼女はおし黙ってしまった。仙骨付近も弛ませた。耳が真っ赤になっている。
妹達もお喋りを止めている。何か未知への領域に突入し始めたのを彼女達なりに感じたのだろう。そのまま僕は河村の背骨弛めを上下に数往復した。
「はい。次は君達の番だよ」
うつ伏せになったまま顔を見せようとしない河村さんをそのままにして妹達を一人づつ横になってもらう。
身体の潤いが収まった河村さんが起き上がって、僕の施術を熱心に見学し始めた。そこで、丁寧に教える。お互いに信頼出来る人達で施術し合って背骨を弛めて行くのが良いのだ。
河村さんは自覚がないようだが妙に女性らしくなっている。もっと単純に表現すると「エロい」だ。この表情と仕草とを彼氏候補に見せたらその男の資質にもよるが惚れるのはほぼ間違いないだろう。
「わっ!見て見て、浮いた!」
河村さんの妹達が、盛り上がっている。背骨が弛んでサイオン過剰になっているのだろう。バランスボールを少し浮かせて喜んでいるのだ。それは一瞬の事だったがCADなしで起きた。再現はしなかったが、妹達も着実に魔法師に近付いている。いや、「戦略級魔法師」にだ。
ちなみにこの後、えっちな展開は全くありません。御了承下さい。
◇◇◇
ゴールデンウィークが過ぎると、雨期の前の日照りの時期になった。とは言え、一高の設備はとても贅沢なので外気の状態がどうであろうと構内はとても過ごしやすい。それは、「軽妙小説部」の部室にも当てはまる。
僕は、形式的に部長になっているのでほぼ毎日部室に来て備え付けの端末(学校の図書館に接続可能。ただしバックドア付き)を閲覧している。
戦略級魔法師について調べていたところ、面白い記事を見つけた。
『沖縄海戦(おきなわかいせん)とは、2092年8月11日に大亜細亜連合が日本の沖縄へ侵攻した戦争である。日本では沖縄防衛戦とも呼ばれている。この戦争では日本が勝利した。 ただし、戦後、捕虜の交換は行われたが、講和条約も休戦協定も結ばれていない。』
講和条約も休戦協定も結ばれてないのに日本が勝利したと言えるのはとても不思議だ。おそらく、裏で賠償金的なものを大亜は日本から課されているのだろう。同じようなことが以前あったのだ。
第二次世界大戦は日本の無条件降伏で終了したことにされていたが天皇陛下と天皇家を守る為に裏で莫大な賠償金を米国に払わされた。のちにM資金と呼ばれている。(これが日本の大逆転になると偽ユダヤは気付けなかったらしい。日本と天皇家の力を侮り過ぎだ。)
沖縄海戦の経過も面白い。
『2092年8月11日朝より宣戦布告無しに戦端が開かれたことから始まった。慶良間諸島近海は早々に制海権を握られ、軍内部の反逆者を含むゲリラなどの妨害により沖縄県名護市に大亜細亜連合の上陸を許した。』
しかも!
『粟国島北方より大亜細亜連合の艦隊(高速巡洋艦2隻、駆逐艦4隻)が進軍し、20kmまで近寄り艦砲射撃を開始した。』
とある。これ完全に負け戦だ。強力な援軍でも来ない限り逆転の可能性はない。そのような記録はもちろんない。しかし、『日本の国防軍恩納空挺部隊の活躍等により大亜細亜連合の上陸部隊は壊滅、投降した。』となっている。
何じゃこりゃーーー‼︎
何でこれで納得できんねん。アフォか?
普通に考えれば国軍が起死回生の逆転技を繰り出したとしか思えないだろ。平たく言えば、戦略級魔法師の投入だ。しかし、五輪澪は、(『日本が公表している唯一の戦略級魔法師で十三使徒の一人である。』)投入された記録は見られない。世界には、非公認を含めると戦略級魔法師は50人程度とされている。おそらく我国の非公認戦略級魔法師が投入されて大逆劇を演じたのだろう。
でなければ、敵艦隊をどうやって全滅させたのだ。しかも、その記述がない。更に、『戦闘後の捕虜交換の際「摩醯首羅」(まけいしゅら)という言葉が大亜細亜連合に伝わっている。』とする記述があった。
「摩醯首羅」とはシヴァ神の事らしい。ちなみにシヴァ神とは、
『トリムルティ(ヒンドゥーの理論の1つ)ではシヴァは「破壊/再生」を司る様相であり、ブラフマー、ヴィシュヌとともに3柱の重要な神の中の1人として扱われている。また、シヴァ派では世界の創造、維持、再生を司る最高神として位置づけられている。デーヴィ(ヒンドゥーの女神)らを重視するシャクティ派では女神らが最高神として位置づけられている一方で、シヴァもヴィシュヌ、ブラフマーとともに崇拝の対象となっている。このシャクティ派では女神らがシヴァやそれぞれの神の根源であると考えられており、パールヴァティー(女神)がシヴァに対応する相互補完的なパートナーであるとされている…』
『シヴァ神は「破壊/再生」を司る』か。
『シヴァは、「破壊/再生」を…』
んっ?
あれれれ〜?おかしいゾ〜!