意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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入学編 2

担当さんから連絡があった。固有名詞などへの配慮は出版社がしてくれるそうだ。適当に〇〇高校とか××兄妹にしてくれるということだった。

 

 僕の正確な社会的地位はとある保守系出版社のライターだ。小学生の時に、危険思想丸出しのブログを書いて両親とともに学校に呼び出された。

 その時、親父は学校関係者の前で「息子は小説家志望なので、これは単なる空想です」とうそぶいた。ただの嘘ではすぐにばれるので親父は予め、とある出版社に僕の日記を原稿として送り付けていた。もちろん不採用だったが。

 

 ところが、外患誘致罪刑事告訴で赤教員を懲らしめてやった頃から風向きが変わった。(後にそいつは行方不明になっていた。僕はそいつを大亜の成りすまし工作員だと考えている。)とある出版社からおこづかいをあげるから少し真面目に書いてみないかと誘いがあったのだ。

 中学生日記を三年間書いてわかったのは、僕には文才がないということだった。より正確に表現すると文豪の霊(神)は降りて来なかったからだ。

 

 ということで、高校では小説家の神を降ろそうと考えている。ちょうどこの魔法科高校の二科は、担当教官が居ないから放置されている時間が多い。その時間を利用して色々なことを試してみたいのだ。一般の普通科高校で召喚魔法を実践すると魔法不適切使用で刑事告訴されるだろう。その都度、告訴し返すのは面倒だ。

 

 ちなみに召喚魔法に大掛かりな儀式は不要だ。太極拳を例にとれば、基本功や套路を一段まで練習し続けているといづれその門派の神が降りてくる。ただし神が降りている人物から習うのが条件となる。

 太極拳の神は薄く微妙に感じる事が多いそうだ。僕もそのように感じる。知り合いの話によると大成拳では銅鑼等の音がジャンジャン聞こえて驚いたそうだ。あと八卦掌では、身体が勝手に動き出し暴れていると警察に通報された人もいるらしい。

 ちょうど良かった。同じクラスの八卦掌の彼女に本当か訊いてみよう。

 

 などど考えているうちに1年E組のクラスに昨日の初日のホームルームに参加していなかった大胆なクラスメートが登校して来た。なんと、あの司波兄ではないか!双子だったのか?(これは、後にちがうと判明した。)しかも、隣の女子といきなり親しそうに話し始めた。このあと、輝く青春の一コマのような寸劇が繰り広げられ僕はそのすぐ近くで強制鑑賞させられた。

 

こういうときに「リア充爆発しろ!」と使うのだろう。ただ、人を多量に殺している人物がモテるこの学校は僕にとっては都合がいいかも知れない。誤解のないように言っておくがモテたいために大量殺人を目論んだりはしないからな!

 

        ◇◇◇

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

さぁ帰ろうかと思った時に、いきなり聞こえて来た穏やかでないセリフ。これは、是非とも野次馬しにいかなければと現場に急行した。修羅場だった。痴話げんか?

 

「だったら教えてやる!」

と言っているが彼に殺気がない。喧嘩は中学で卒業しろよと思いながらも、僕はわくわくしながら争いが過激化するのを期待していた。警察に通報する準備を整えながら。警察に通報したり、地検に駆け込んだり、公安にたれこんだりするのは僕の得意技だ。

 

事態は僕が期待していたようには進まず警備会社の息子が警察の娘にやられて生徒会長と風紀委員長が登場して司波兄が言い含めてお開きになった。しかし、収穫は大いにあった。

 

生徒会長のあんなやり方で起動中の魔法は無効化されるのか!偽物の遠当てと同じじゃないか!あんなことしてたら早死に確実だ。魔法が現象に現れる前に叩いた警察娘のほうがまだマシだろう。

 

「・・・・駅までご一緒してもいいですか?」

僕は殺意や悪意も読めるが好意もよめる。先ほどの生徒会長もあやしかったがこの女子も司波兄に好意をいだいている。「あいつは人殺しではなくて、女殺ししやな」と下種な独り言をして速やかにその場を離脱した。

 

 

        ◇◇◇

 

 

帰宅すると担当さんから連絡が来ていた。「無理に面白くする必要はないから好きなように書いて構わない」というものだった。地味にショックだった。「頑張ってもどうせ面白いものは書けないとわかっているから自由に書いてね」と言われているのと同じだろう。これは。

 

話は変わるが、百年前に流行った士郎正宗の「攻殻機動隊」は、望月三起也の「ワイルド7」の影響を多分に受けていると思う。荒巻は草波、少佐は飛葉、馬頭はヘボピー、トグサはデカ、何の話をしているかって?古典漫画の比較研究だ。ちなみに公安9課のメンバーは7人だ。

売れっ子ライターになれなかったり一発屋で終わったクリエイターが評論家や研究家で飯を食うのは良くある事だ。今からその準備をするのは当然なのだ。僕はこう見えて慎重派なのだから。

 

冗談抜きで、魔法が使えないまま小説も全く売れないまま魔法科高校を卒業したらシャレにならない。出版社の用意してくれたこの住処から追い出されるだろう。地元に戻っても僕は受験勉強は好きではないから京都大学どころか大阪大学にさえ行けないだろう。いかんいかん、考えが暗くなって来た。取り敢えず身体を動かそう。先ずは、太極拳の霊を呼んで。

 

        ◇◇◇

 

 

昨晩、落ち込んだような書き込みをしたためか担当さんから連絡が来ていた。僕の日記はカルト的な人気があって今でもそこそこ売れているそうだ。「中学生日記」と題して書いていたエッセイは大人の事情で「中学一年時事日記」「中学二年時事日記」「中学三年時事日記」と無理矢理三部作にして出版されているらしい。皆、良かったら買ってね!こういうのをステルスマーケティングと言うのだろうか?(担当より:言いません。)

 

「達也く~ん」と甘えたような声が僕の後ろから聞こえて来た。振り返らなくてもわかる。昨日の司波兄に気のある生徒会長だ。彼女はもののみごとに僕を無視して小走りで追い抜いて行った。

 僕は登校中、駅で偶然にも、仲良し五人組、スクールカースト上位のイケている五人組、通称「クールファイブ」に出会ったのだが、挨拶もしてもらえず一人ささくれ立っていたところだ。

そのため、自然と彼らと少し距離をおいて歩き彼等の会話を聴いていたのだ。良い子のみんなは決して真似をしてはダメだよ。魔法師*にそんな麻薬Gメンのような捜査をしたら酷いお返しをされる可能性が高いからね。

 

*魔法師:「魔法使い」と「魔法使えない人」は、読者様よりヘイトスピーチ法に引っかかる恐れがあるとご指摘がありました。これより「魔法師」と「一般人」と表現することに致します。ご指摘ありがとうございました。

 

今日はやる気がなくなった。本当は「賢者の石」についてあすの早朝5時まで語ろうと思っていたのに!

 

 読者に期待を持たせる上手い引きだ。我ながらよく出来たと思う。

 

 

 

 


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