意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
学生運動に成りすましたテロリスト達(殺意があるのだから、過激な学生運動ではなくテロリストである。)の狙う場所はわかった。しかし、学校の図書館を狙う意味がわからない。ということで、図書館に行ってみた。
図書館と言っても、紙書籍はほとんどない。巷の図書館にはまだ紙書籍が置かれているが、規模が大きい図書館はデータをたくさん蓄積している場所、データセンターとなっている。これが、良い事もあるが悪い事もある。画面に映し出された画像では著者の霊を感じるのが困難になるのだ。
遣唐使の時代から、中国大陸からたくさんの経が日本に持ち込まれる様になった。大陸で多少修行しても八段階まで行きその後日本に帰国して弟子を育てた人物はいない。しかし、たくさんの経はその後日本で研究されその意味も解読された。
どの様に解読したのか?意味がわかるまで読んだだけだ。一生かけて解読出来なければ、次の世代の天才にその任を託した。そんな滅茶苦茶な方法でも経が実体として存在していれば解読できる機会に恵まれる。
もちろん、その様な滅茶苦茶な方法では誤解も多く生じる。ただ、その様な誤解に基づく解釈は時代の審査に耐えられず200年もすれば誰も見向きもしなくなる。
実体を持つ書籍から著者の心を感じて解釈する方法で、五段階なら一生に何人かの著者の心を掴むのに成功するだろう。それは、200年の審査に耐え得る。ロマンロランが今だに研究されているのがわかり易いだろう。
しかし、六段階なら必要な人数の著者の心が掴める。なので、道を得て六段階になった人物が1人存在していれば後はそれ以上の境地が記された書物をその人物に研究させて八段階に到達して貰えば良い。実際に、日本の小乗仏教はそうして進歩した。最初に経典を持ち帰った人物達は六段階にさえ到達してなかったのだ。
ここまで、考えながら図書館巡り、というかデータサーフィンをしているとどうやらテロリストが狙いそうな情報がわかった。彼等は間違っても神に至る道が記された聖典のデータを欲しがったりしない。彼等はおそらく日本における最新の現代魔法の研究成果の情報を手に入れようとしているのだろう。
こうも簡単にわかったのは理由がある。図書館データからエガリテやブランシュの調査結果を検索してそのバックを調べたら、大亜が出て来た。今度は、それらの目的を調べたら我国の現代魔法の発展を妨げるや魔法技術を盗み出す等の情報もあったからだ。この学校の図書館頑張り過ぎだろう。
◇◇◇
「ねぇ、師匠くん。今日はどこに行く?」
美少女がデートでこんなセリフを言ってくれたら男子は、嬉しいかも知れない。上機嫌の涼野さんは、凄く可愛い。
1-A(一科生)の女子が部活のようなもの(?)に誘いに来てくれるのは、二科生の男子にとっては舞い上がる事態だと思うが、司波深雪令嬢を見慣れてしまった1-E男子はほとんど反応しない。
贅沢は癖になるとは本当だ。美人は三日であき、ブスは三日で慣れると言うのも当たっている。(誰がブスなのかを詮索してはいけません。)
しかし、テロリストが学校のどこを狙っているのかを調査する為に構内を歩きまわろうとしている時にこんなセリフを言われても嬉しくない。しかも、テロリストの狙っている場所を知りながら彼女達に気付かれないようにその場所を避けなければならないのだ。
朝田さんは、この探偵ごっこに反対している。死人は出そうにないから大丈夫だとは言えなかったので朝田さんが要求してきた3人でなら調査しても良いとする条件に反対できなかった。僕と朝田さんなら、強敵と遭遇しても涼野さんを守れると彼女は判断したのだろう。
図書館にさえ近づかなければ大丈夫だと安心していたのが間違いだった。僕の妖怪アンテナが急に立った!三本は立ったと思うくらいだ。やばい、震度5以上の地震が来る前と同じくらいの嫌な予感だ。
「今日は、あっちに行こうよ」
元気良く、涼野さんは殺気と悪意が強まる方角に歩き出した。無理に彼女を引き留めるわけには行かない。そんなことをすれば、その方向に目的の危険地帯があると気付かれてしまう。
『全校生徒の皆さん!』
ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。
涼野さんは、すぐに走り出した。僕はすぐに後を追いかけた。朝田さんも続く。
『ー失礼しました。全校生徒の皆さん!』
スピーカーからもう一度、今度は少し決まり悪げに、同じセリフが流れ出した。
涼野さんは、放送室に向かっている。それにしても足が速い。追いつけない。彼女は魔法を使ってないと思うが。
『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
廊下でこの放送を耳にした学生の多くはリアクションに困っているようだ。それにしても、まだ涼野さんに追いつけない。彼女は陸上選手なのだろうか?
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
放送室が見えたところで、涼野さんが速度を緩めた。それで、僕と朝田さんはやっと追いつけた。涼野さんは平然としている。僕と朝田さんは息が上がっている。
放送室の前には人が集まり始めていた。僕は、野次馬ベストポジションを見つけ彼女達とそこに移動した。
放送室まえには、すぐに風紀委員会と部活連のメンバーが集まってきた。どうみても、楽しく話し合いをする雰囲気ではない。
「どんな、様子~?」
いきなり、背後から長岡さんが現れた。心臓に悪い。今回は、呼吸が整い切ってなかったので全く気配を感じれなかった。彼女は、司波くんの後をつけてきたそうだ。何か、危ない気がするので止めたほうがいいと思う。
司波くんを含めて何やら相談している。何を言っているのか正確に把握はできないが、生徒会役員や風紀委員長や部活連会頭を前に司波くんは堂々としている。大した胆力だ。
と感心している場合ではない。そんなことより、さっさと踏み込め!予備の鍵がなければマスターキーやフロアマスターキーがあるだろう。相手は、器物破損や不法侵入をいとわないテロリストだぞ!そのうち、もっと・・・・
あれっ?放送が止まっている?そうか!放送室の電源を切ったんだ。中央監視か防災センターで。だったら、放送室の扉も開けられる。
ところが、扉は開かない。何やってんだ学校は?僕のイライラが頂点に達しようとした時、司波くんが携帯端末で誰かと話し始めた。
「壬生紗耶香と通話している」
朝田さん、凄い特技をお持ちなのですね。どうやって、盗聴しているのだろう。機器も魔法も使わずに。
「交渉がまとまったみたい。テロリストは出てくる」
あの短い時間で司波くんは話をつけたのか!なんてネゴシエーター。それにしても、朝田さんはどうやって会話を聞き取っているのだろう。
『中の奴らを拘束する態勢ですよ』
朝田さんは、司波くんが今喋ったことを再現してみせた。わかった。読唇術か!この距離で。
それにしても、テロリストを騙して出てこらせ拘束するとは司波くん対テロの訓練を受けているのか実践経験でもあるのか。何時の間にか殺気や悪意も薄くなっている。連中はおとなしく騙されて出てくるだろう。
それにしても、学校側が何もしないのは一体どういうことか?
全員拘束して厳しく罰せられると思ったのだが、遅れて駆けつけて来た生徒会長が放送室を占拠したテロリストの拘束を解き、彼等と交渉するとまで約束した。
あほか?あの女。テロリストに甘い顔を見せると次はもっと過激なテロを実行する。元々、人殺しや破壊が好きな連中なのだ。理由があれば喜んで破壊活動をする。
「師匠。落ち着いて」
長岡さんに、たしなめられた。僕は相当頭に血が上っていたようだ。
◇◇◇
とにかく納得出来ない。放送室を占拠したテロリストをそのまま放置した学校の態度。しかも放送は電源を落としたらしくやめさせている。それが出来るなら放送室の扉のロックも解除出来るはずだ。生徒会長が学校と交渉していたとしても明らかな犯罪者集団の扱いを生徒会に任せるか?普通。
僕がイライラするのは、学校の対応だけでない。感じる悪意と殺気がより鮮明になったからだ。
「奴ら、またやる。今度はもっと過激になる」
久しぶりに寝付けない。仕方ないので座禅をして寝た。
「あっ!」
わかった。学校は不祥事を恐れて何もしなかったわけではない。わざとだ。
これで、過熱化過激化している部活の新人勧誘週間の放置や実質的に決闘を模擬戦と称して容認していることとも繋がった。
そのように意図的にしているのだ。この学校は。
その後、すぐに寝た。