意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

12 / 115
2017/9/28誤字訂正


入学編 12

昼休みが終わってしまった。助かった。教えるとか教えないとか返事をする前に時間切れになったからだ。ただ、涼野さんに「続きは、カフェで!」と念押しされた。

 

問題がある。長岡さんは、道を得る六段階を目指している。今六段階である僕には荷が重い。七段階でないと教えるのは困難だ。僕の座禅の先生を紹介するのが本当は良い。しかし、京都まで通ってもらうのは大変だ。

 

涼野さんと朝田さんは互いの思惑が違うようだ。涼野さんは興味はあるが現代魔法の強化に役立つ事を知りたいだけだろうし、朝田さんは、実戦に役立つ事を知りたいのだろう。

 

白石くんは、魔法無しで魔法師を倒した長岡さんの武術を習いたいのだろう。

 

あれこれ考えを巡らせて放課後カフェに臨んだ。

 

カフェの空気が張り詰めていた。

 

原因は司波くんだ。誰かを待っているのだろうがまるで依頼人を待つゴルゴ13のように静かに座っている。別に彼がイライラしているとか、不機嫌な態度で今にも爆発しそうだと言うわけでもない。ただ、彼が静かに座っているだけで周りの空気が変わってしまう。

 

カフェの空気が張り詰めていたのはそれだけではない。彼を監視している連中がいるのだ。彼のファンだとか単なる野次馬の類ではない。下手くそな探偵や警官のように彼を見張っている。

 

昼休みの続きをする雰囲気ではなかった。というわけでも僕も野次馬の一人になってデューク司波の監視に加わった。会話もそれに合わす。

 

「ゴルゴ13っていう漫画知っている?」

どうでも良い話なのだが、4人とも野次馬的司波達也監視団に加わっていたらしく僕のどうでもいい話を興味深げに聴いてくれる風を装ってくれている。

 

達也くんは既に10分くらい待たされているようだ。

 

「ゴルゴ13の漫画の作者はとっくに死んでいるんだ」

「へ〜」

「ところが、出版社とテレビ局と映画会社が最晩年の作者を説得してその著作権をプロダクションに売らせたんだ」

「へ〜」

「著作権を買ったプロダクションは、作者が死んだ後もゴルゴ13の連載を続けたんだ」

 

「ごめん。待ったでしょう?」

剣道小町こと壬生沙耶香さんが現れた。司波くんを待たせていたのは壬生さんだった。しかし、あざといくらいに可愛いモードにしている。今度は作戦を変えて来たのか?

 

「へ〜、で?」

一瞬、どこまで話たか忘れてしまった。すぐに思い出しどうでも良い話を続ける。

「当時は、金の為に無理やり話を伸ばしたとか、ディズニーみたいな真似をするなとか、賛否両論がファンを含めてネット上で交わされたらしい」

「へ〜」

「その騒動が耳目を集めてゴルゴ13人気が再燃したそうだ」

「へ〜」

「多分、ステルスマーケティングだったと僕は思う」

「へ〜」

 

「もう、司波くんって本当はナンパ師なの?」

「魔法師でもありませんね。今のところは、まだ」

何という会話をしているのか?バーかここは?!達也くんにはジゴロの才能があるのをあらたに発見した。あれなら、女子高生(JK)はイチコロだ。

 

やっちまった。司波くんはまるでゴルゴのようだと思っただけで近日公開のゴルゴ13を連想して知っている事をとりあえず喋っただけなので肝心のオチを考えずに始めてしまった。

 

「やあ、達也くん」

あれは、確か風紀委員長の渡辺さんだ。(名前は覚えていない。)もしかして、「何よ。その女?」的展開か!僕を含め皆んなそのような痴話喧嘩的展開を期待して固唾をのんで息を潜めてしまう。

 

「壬生も、すまなかった」

渡辺さんは去って行った。えっ?!それで終わり?みんなズッコケてしまった。僕は、この時間を使ってどうでも良い話の続きを考えた。オチはまだない。

 

「ゴルゴが長く続けられる理由は、時事問題を取り入れているのでネタに困らないからだ。話もパターンがあってゴルゴが誰を狙っているのか最後にわかるパターン。ゴルゴの正体を探るパターン。狙撃の仕方がわからないパターン等がある」

 

「へ〜」

 

「あたしたちは、学校側に待遇改善を要求しようと思うの」

何か、学生運動の話になっている。壬生さん、やはり怪しい団体に属しているらしい。

「改善と言うと、具体的に何を改めて欲しいのですか?」

それにしても達也くんは、落ち着いている。壬生さんの踏み込んだ話に動じる気配が一切ない。

 

「とはいえ、長く連載しているとゴルゴの年齢が連載当初と合わなくなって来る。ゴルゴが50才を過ぎて超人的な体力を発揮する話はおかしい。しかも、魔法の時代になってゴルゴが魔法を使えないままでは話が成り立たない」

「へ〜」

 

「それは、そうかもしれないけれど。じゃあ、司波くんは不満じゃないの?」

壬生さんが必死に訴えている。

「不満ですよ、もちろん」

不満だったのか?司波くんは。

「ですが、俺は別に、学校側に変えてもらいたい点はありません」

どういうこと?

 

「そこで、プロダクションは大きな決断をしたんだ」

「へ~」

 

「残念ながら先輩とは、主義主張を共有できないようです」

そう言って、司波くんは席を立った。すげ~、あんな可愛い子を袖にした。

「待って、待って!」

低予算の恋愛映画の破局シーンのようになった。ヒロインが振られるシーンだ。

 

ゴルゴの話なんて誰も聴いてないが、とりあえず喋りは続行する。

「スターウォーズ方式の採用だ。二代目ゴルゴ、三代目ゴルゴを登場させて別々のシリーズを並行して作った」

 

「俺は、重力制御型熱核融合炉を実現したいと思っています。魔法学を学んでいるのは、そのための手段に過ぎません」

司波くんは、壮大な野望を抱いてここに来たらしい。

 

「三代目ゴルゴは明らかに魔法師と設定されている。初代ゴルゴは超人的な能力でテレパシーをもつ古式魔法師と闘っているけど、それ以上魔法に突っ込んだ話はない」

「へ~」

 

司波くんはそのまま、カフェから出て行った。ヒロイン壬生は置いてきぼり!映画なら戻って来るのに彼は本当に行ったままだった。

 

カフェにいる皆が、壬生さんを見て見ぬふりをした。彼女は、落ち込んでいるいたようだった。だが、しばらくして自力でカフェを出て行った。見た目ほど落ち込んではいなかったのかも知れない。

 

カフェの空気がなごやかになった。

 

涼野さんが一言。

「ゴルゴって何?」

長岡さんは、

「座禅とどう関係あるの?」

 

本当に無駄なおしゃべりをしただけになった。涼野さんが無駄話のオチを付けてくれたので良しとしよう。

 

◇◇◇

 

加重系魔法の技術的三大難問 は、以下の3つである。

 

重力制御型熱核融合炉の実現

汎用的飛行魔法の実現

慣性無限大化による疑似永久機関の実現

 

これを、解決するのは難しいのかも知れない。ただ、僕は真面目にこれらを考えた事がないから何とも言えない。司波くんがその解決をライフワークにしている程度の問題なのだろう。

 

これは、僕の黒歴史なのだがここに書いておこう。

 

僕は中二の頃、中二病全開だった。古式魔法に興味があった為、古典的名著を読み漁っていた。その中にエリファス・レヴィの『高等魔術の教理と儀式』があった。単なる儀式魔術の著作で降霊にはアストラル体を感じる事が基礎になると言っているだけのたわいもない内容だったが、ギリシャ三大難問の一つ円積問題が取り上げられており、それを解くと何か凄い事になるとあったものだから僕は寝食を忘れてその問題を解こうとした。

 

3日後にアッサリ解けた。小学生でも理解できる解法だ。勢い余って他の問題も考えた。2時間で解けた。これも、小学生にも理解できる解法だ。

解けた時は、それなりに嬉しくて自分は天才だと思った。少し冷静になってネットで調べると100年くらい前に同じ解法を思いつき公開している人がいた。俺スゲェェェー!と思えたのは1日で終了した。

 

読者の皆様にもどうでも良い問題だと思われるだろうが、単なるとんちクイズとして問題とその解答を紹介する。

 

1番説明しやすい任意の角の三等分をコンパスや定規等を使って(要は計算しないで)描けというものだ。

 

早速、解答。

 

まずは、紙に任意の角を描く。鋭角より鈍角の方が都合が良い。作図し易いからだ。

 

その扇型を切り抜く。それを、円錐状にする。

 

これとは別に円錐の底面の円より、少し小さ目の円を描く。コンパスを使ってこの円周を三等分する。印を付けておこう。

 

印の付いた円を切り取る。切り抜いた円を使う場合は、円錐の中に円を入れる。円を切り取った残りを使う場合は、空いた円穴に円錐を入れる。

 

あとは、円錐に三等分された円周の印を写し、円錐を展開すれば出来上がり。

 

昔の事を懐かしんで角三等分の解答を書いてみた。しかし、昨日から始まった漠然とした悪意と殺意はまだ続いている。僕を狙っているようなものではないが気になる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。