意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

114 / 115
横浜騒乱編35

「京子。あれできる?」

 

「できるよ」

 

長岡さんに千葉さんが食い下がっている。長岡さん位のレベルだと体全体が「無い」。あの程度の事はできて当たり前だ。しかし彼女の場合は問題がある。手加減がいまひとつなのだ。

 

「ちょっとやってみせてよ」

あ〜あ、やっぱりこうなってしまったか。今日の長岡さんは、いまひとつ自分に余裕がない。千葉さんからこうやって言われればおそらく手加減があまり効いていない技をかけてしまうだろう。

 

ぐっ?

 

千葉さんが店の床に危うく激突しそうになったのを長岡さんがすんでのところで千葉さんの腕を掴んで避けたのだ。

 

「今の何? 」

 

「単換掌(タンファンザン)」

 

この後2人とも黙ってしまった。とにかく千葉さんに怪我なくてよかった。しかし、彼女が受けたあの単換掌は一生彼女の悩みになるだろう。どんなに千葉さんが考えても理解できないからだ。もちろん再現もできない。おそらく、足を引っかけられそうになったまでしかわからないだろう。

 

長岡さんレベルでは自分が「無」になるだけでではなく、技を掛けられる方も「無」になってしまう。だから八卦掌は独特なのだ。初めてこれを経験すると、自分がバランスを失って不覚にも目を瞑ってしまったと勘違いする。千葉さんの様子から、そのような勘違いはしていないようだ。しかし、そうなると自分の感覚を遮断された経験は、彼女にとって余計に鮮烈になるだろう。自分の勘違いで済ませられなくなるからだ。

 

ちなみに、体がないと念ずるだけでは長岡さんの技は少しやりづらい。八卦掌は念じもしないが。普通は中丹田や心に中丹田を鍛えたり心に将軍が入るようにしなければならない。しかし、体の一部を「無」にするだけなら、鄭曼青(腕無名人)や三遊亭円朝(舌無名人)のように太極拳の名人や座禅の名人の元で修行する必要はない。

 

「無」と頻繁に念ずるだけで白隠のように悟りを開くことは可能なのだ。

 

「薄い本に登場する、愛する人を痛めつける、いわゆる加虐被虐性愛系の話は正当化されるケースがある」

 

僕は、柴田さんの疑問に応えた。彼女は、愛情があさっての方向にズレている恋人同士が最後に幸せになれるのか不安なのだ。

 

柴田さん。自分の性欲があさってに向いていると白状している様なものだぞ。一応、僕の書いている微エロ軽妙小説やその二次創作モノに登場するとある恋人達(モデルは例の潜水艦コンビ)についての質問とする形を取ってはいたが。

 

「昔から、難行苦行は危険だから止めるべきだと言われながら、今も修行する者はおる」

 

こう言って、僕は吉田くんをチラ見した。心当たりのある彼は下を向いてしまった。

 

「でも、難行苦行はうまく行けば超速進歩する事もある」

 

柴田さんよりも吉田くんが俄然この話に興味を持ち始めた。この二人は危ない意味でお似合いなのだ。

 

「例えば、尻を叩くとするやろ」

 

「スパンキング!」

誰も聞いてないと思ったら、大間違いだぞ。柴田さん、日頃読んでいる薄い本の内容が透けて見えるよ。

 

「叩かれ続けると最初は痛みを我慢しようとして力を入れ、それも出来なくなると脳からエンドルフィンだの何だの出てそのうち多幸感を得られる話は昔から語られてる」

 

すでに、自分が叩かれ続ける場面を想像して身体が上気し始めた柴田さん。その横で、話の続きに過大な期待と股間を膨らます吉田くん。

 

大丈夫なのか?この二人は。

 

「それでも、叩かれ続けると脳が処理を放棄して叩かれている箇所、尻等を自分の五感から切り離す。これで即席『尻無名人』の出来上がり!」

 

「「はぁ〜?」」

 

「座禅でも『尻無』が出来たら余裕で3時間座れて『道を得』られるで」

 

「師匠!それは、本当なのか?」

 

吉田くんが迫って来た。こういう時に彼は勢い良く前に出られる。だから理想の女性を手に入れられた。ハンゾーくんは、吉田くんを見習うと良い。

 

「ほんまや‼︎‼︎」

 

吉田くんと柴田さんは、店を出て行った。早速、実行するつもりなのだろう。若いって、素晴らしい。

 

「外患誘致罪は、適用されたことがないと聞いているけど大丈夫なの?」

 

『少佐』が小声で尋ねて来た。

 

「それは、刑事告発する者がほとんどいなかったからや」

 

僕は資料を表示させた。

 

第81条[外患誘致] 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

 

これだけでは、具体的にどうなれば外患誘致罪に該当するのかわかりづらい。じつはもっと詳しい回答がある。

 

第183回国会 法務委員会 第15号

平成二十五年五月二十九日(水曜日)

○稲田(伸夫)政府参考人(法務省刑事局長) 今御指摘のありました外患誘致罪における「日本国に対し武力を行使させた」ということの意義そのものにつきましては、これも一般に言われているところでございますが、我が国に対して壊滅的打撃を与えた場合に限らず、例えば我が国の領土の一部に外国の軍隊を不法に侵入させたときもこれに当たるというふうに解されているところでございます。

 

第185回国会 外務委員会 第7号

平成二十五年十一月二十七日(水曜日)

○長島(昭)委員 軍隊でなければ武力攻撃を構成するものではないというお答えだというふうに認識をしました。(石井政府参考人「ではない」と呼ぶ)軍隊でなければ武力攻撃に当たらないというわけではない、そういう御理解でしょうか。

○石井(正文)政府参考人(外務省国際法局長) 不明確な答弁で失礼をいたしました。

軍隊でなければ武力攻撃にならないということではないということでございます。

○長島(昭)委員 二重否定だったわけですね。わかりました。

 

(当時の自衛隊)防衛出動に関しては外患の大小軽重が問題となるが、外患誘致罪に関しては外患の大小軽重は問題とならない。そして、「我が国の領土の一部に外国の軍隊を不法に侵入させたときも、外患誘致罪における『日本国に対し武力を行使させた』に当たり、軍隊でなければ武力攻撃にならないということではない。」というのが政府見解である。

 

「今回は、大亜連合が横浜に侵攻したとハッキリしとる。対馬の時とは違って。そやから、大亜の横浜侵攻に手を貸した売国奴はもちろん、大亜の捕虜を庇ったり、我国と大亜との平和条約作成時に大亜に便宜を図ろうとしたり、我国の戦力、特に魔法戦力を削ろうとした奴は全員有事外患誘致罪刑事告発で死刑や!」

 

「「…「「おお〜〜っ!」」…」」

 

多分、被告は死にたくないから司法取引して洗いざらいブチまけて今回の平和条約作成に有益な情報をたくさん提供してくれる。

 

同じことは、70年くらい前にも生じた。当時は竹島だったが。

 

「反魔法師運動推進弁護士達に民事訴訟を仕掛ける件だけど」

 

千葉さんが、元の調子に戻っていた。ただし、今度は横に西城くんがついている。心配で仕方ないようだ。

 

「勝てるように懲戒請求者を脅迫して提訴したテロ弁護士だけを訴える。千葉さんが心配してくれた通り地裁の売国判事は反日判決するかも知れんがそれなら、今度は外患誘致罪でその判事を刑事告発する。そんなんしても、最高裁までいけば、日本国民に認められた懲戒請求申し立てをした人達を、脅かした上に訴えて金を巻き上げようとした弁護士に勝ち目はないで」

 

「そうでもないかもよ。そんな連中なら、法廷で精神干渉系魔法を使って判事や原告を都合の良いようにコントロールしようとするかもしれないし、原告を脅迫して提訴をとりさげさせるかも知れない」

 

「その恐れは、あるな」

 

なかなか痛い所を千葉さんは指摘した。敵も必死だ。法廷を鉄火場にするのを辞さないかも知れない。

 

「でしょう?ねぇ。師匠!あたしも選定当事者代理人にさせてよ」

 

「はぁ?!お前、懲戒請求してへんやろ?」

 

「へへ~っ」

 

千葉さんが端末の画面を見せた。そこには送信済となった懲戒請求申し立て書が表示されていた。

 

ガクッ!

 

と、音が聞こえた思ったくらい千葉さんの隣の西城くんが項垂れた。

 

一方、意気揚々とする千葉さん。

 

「一発目は横浜地裁かぁ。ふ~ん」

 

勝手に『少佐』の端末をのぞいている。

 

『少佐』が、目配せする。「いいの?」と。

 

僕は、にっこりほほ笑みを返す。「結構なことだ」と。

 

やはり、千葉さんは、美少女剣士よりも美人検事が似合っている。「異議あり━━━!」とか。

 

これで、兵士も兵站も整った。さぁ、掃討戦に突入だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法科高校の劣等生27 急転編

魔法科で一番強いのは、無敵のお兄様ではなかった?!そういう意味でも急転回だった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。