意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編34

「師匠、チョッといいか?」

 

森崎くんが、僕を四象や死生と呼ばずに師匠と呼んでいる。大きな心境の変化だ。彼の隣には、彼女の滝川さんが付き従っている。

 

「訊きたい事があるんだ…」

 

と言ったままその後が続かない。森崎くん。

 

「悟りを開いたんやな」

 

僕がそういうと、彼は目を丸くした。ただ、すぐに冷静さを装い「ああ」と軽く返事をした。

 

「呆気無かったやろ」

 

「そうだな」

 

なんでもない風を演じているが、彼が喜んでいるのが良くわかる。口元が笑っているぞ!森崎くん。

 

「悟りを開く」や「道を得る」概念は、日本では強く仏教と結びついている。その為、非常に高度で難解な境地であると勘違いされている。実際は、本当の自分の本音が一部わかるだけなのだ。

 

それを本願だの大願だの宿願だの大袈裟な名前をつけて却って分かり難くしている。

 

実際に、熱心に仏教に取り組んでいたとしても「自分は地獄に落ちない」とか「聖徳太子と阿弥陀仏は同じ」とか「自分は仏と同体だ」とか「座禅を続けていれば仏になれる」「南無阿弥陀と唱えていれば極楽浄土に誰でも行ける」とか言葉にしてみるとあまり大したものではない内容に確信を得られるだけなのだ。

もちろん、それは当人の心に常に引っかかっていた問題であるので解決すれば心は以前よりも平安になる。

 

(その後に起こる心に身体を合わせて行く『調整』の方が劇的かも知れないぞ!特に脳が弛むとかなりの変化を体験できる。世間ではクンダリニーと呼んでいる。)

 

「そんなものなのか?」

 

「そんなもんや」

 

さらに言ってしまえば、道教なら「仏」に縛られない為にもっと簡単に「大願」に到達できる。「衆生の救済」も道教の道を得る段階ではほぼ無関係だと言って良い。(「仏」を志向すると「衆生救済」的な大慈悲心が起こり、それに沿った「大願」が出てきはする。しかし、それも仰々しいものではない。自分の好きなことがハッキリするだけと言って良いくらいだ。)

 

「なんかスゲー話してるな」

 

森崎くんが「悟り開いた」確証を得て静かに悦に浸っている隙を突いて桐原さんが割り込んで来た。彼女の壬生さんと服部さんも一緒だ。壬生さんは桐原さんに付き従っている程ではなかった。

 

「大した事ないと思いますよ」

 

「なぁ。師匠、お前の正体明かしてくれねぇか?何でそんな事まで知ってんだ」

 

微エロの軽妙小説を書いている陸軍中尉ですと言っても良かったが彼等はそんな答えを期待していない。そこで少しサービス!サービス‼︎

 

「電験門掌門人 三代目 河原真知」

 

「三代目?ちょっと待て!『河原真知』は本名じゃないのか?」

 

服部さんが詰め寄った。その勢いで七草さんに攻勢をかけたら振り向いてくれるかも知れないよ。ハンゾーくん。

 

「デンケンモン?そりゃ、武術なのか?」

 

桐原さんは、僕の本名に興味はないらしい。

 

>電験門は西暦2018年10月に初代河原真知が勝手に掌門人を名乗り出した学問によって道を得ようとする方法である。本人曰く「孔子が学問によって道を得たのだから、俺にできないはずがない」

しかし、その実態は、座禅と内家拳を学びながら電気主任技術者の資格試験に合格しようとして教科書を熟読するだけである。

 

↑このネット情報は、問題がある。と言うか悪意がある!資格試験に合格するだけが目的ではない。電気工学を極めんとする崇高な目的もあるのだ。(もちろん彼女を作ってリア充になりたいとかも目的の一つだ。笑ってはいけない。自己欲求肯定型の道教に属するから当然の事だ。儒教にも属するから出世するのも目的の一つだ。)

 

それと!学問によって道を得るだけでなく仏になり世の為人の為自分の為に健康的に緩く頑張ろう!とするありがたい門派なのだ。

 

初代河原真知の想いが蘇る。

 

神の仕事をする決意をしなければ神の力を発揮できないし神になっていかないないと私は気づいた。『偽物を本物にしてあげる』私はそれに携われば神になって行ける。

 

初代は、至って真剣だったのだ。記録と記憶を見るとそうでもないが。

 

 

「三代目の自分はそれに現代魔法を取り入れた。いわば、中興の祖や」

 

「わかった。わかった。それなら、俺と五十里に施された例のアノ魔法について教えてくれ!三代目」

 

服部さんは、キョトンとしている。桐原さんは、親友の服部さんに「再生」体験を喋ってないようだ。

 

「個人のデータを全部読み取って、元に戻しただけ」

 

二人とも言葉を失った。壬生さんは、最初から言葉を発してなかったが。それよりも、その場にいなかった僕に司波くんの『再生』について尋ねた理由と二人のそれについての情報源をこっちが聞きたい。

 

服部さんが訝しげにしている。桐原さんが言った「アノ魔法」が気になるようだ。そこで、僕は話題を強引に変えることにした。

 

「我が身既に鉄なり、我が心既に空なり、天魔覆滅」

 

僕は独り言のように呟いた。服部さんは反応した。ある意味予想通りだ。服部さんは服部半蔵影の軍団と彼は何のつながりもないと思うのだが、隠れサニー千葉ファンなのかも知れない。

 

「道を得ると自分を『無極』にできるようになりますよ」

 

森崎くん、桐原さん、服部さんが興味を示した。

 

「無極って、無極、太極、両儀、三才の無極か?」

 

森崎くん、勉強家だなぁ〜。

 

「太極拳とかの起式のことか?」

 

桐原さん、武術好きだね〜。

 

「自分を無にすれば、肉体を鉄のように強靭なものに変えられるのか?」

 

服部さん、映画やドラマの見過ぎだよ。

 

「無極ができると「発勁」もやり易くなりますよ」

 

3人とも興味津々だ。

 

「打ってもらったらいいじゃない!」

 

後ろから、千葉さんが割り込んで来た。悪戯っ子のような笑みを浮かべている。この子は面白そうな事、やばそうな事に首を突っ込んで来る。欲求が不満しているのだろう。西城くん、何とかしてあげて!

 

西城くんが、何ともしてくれないので実際に人体実験を行う運びになった。そういう流れに持って行った千葉さんはアジテーターとしても才能がある。

 

「100年くらい前の太極拳の名人に鄭曼青と言う人がおった。その人は夢で両手を折られて太極拳のコツを悟ったそうや。なので『腕無し名人』と後世の人に言われたりするそうや。と言うことで『腕無し』をやる」

 

と僕は言ってヤル気満々の桐原さんではなく、いつの間にか煽るだけ煽って人混みに紛れている千葉さんに目を向けた。

 

「チッ!」

千葉さんが小さく舌打ちしたのがわかる。自分の蒔いた種は自分で刈り取ってもらおう。

 

「太極拳の立禅で、先ず何も考えない状態にしてから『腕が無い』と念ずる。そしたら自然と上半身が左右に回転するんや」

 

部活では、部員達にもっと時間をかけて丁寧に練習してもらった。なので部員達は簡単に自動運動する。桐原さんは、真剣に取り組んでいるが上半身が回転し始めない。丁寧な指導を受けてないのだから仕方ない。先ず、何も考え無い状態にしてから「腕が無い」と念じなければならない。普通に「腕が無い」と思ったり、「腕が無い」イメージをしても脳は緊張しそれは身体の緊張となる。

 

「千葉さん、腕を前に出してみ。今から握って引っ張るから」

 

いやそうな顔で渋々右腕を前に出す彼女。絶対に引っ張られないないぞと言わんばかりに下半身に意識を巡らせている。力まないのはさすがだ。力んでしまうと引っ張られるタイミングや角度を少し工夫されると簡単に身体を持って行かれるくらいは知っているしその対抗策もわかっているのだ。

 

千葉さんがこちらの思う通りにしてくれた。ありがたい事だ。ギャラリーの中には武術の心得が多少ある人がいる。その人達もこれでわかってくれるだろう。彼等も千葉さんと同じ構え方をするだろうから。

 

僕は千葉さんの右手首を掴んで引っ張った。

 

「????」

 

彼女はほとんど抵抗出来ないまま腕を引っ張られ、前方に倒れた。

 

「ちょっと今のは油断してて…もう一回!」

 

千葉さんは、おかわりした。やはりこの子は武術の才能がない。自分の踵が浮かされた、つまり根を抜かれたのを自覚できなかったのだ。ただ、才能が無い人には才能を作る練習もある。それが本物の武術なのだ。

 

 




お久しぶりです。私生活が忙しくなってしまい話のネタは困らなくなりましたが、話を考えたり書く時間はなくなりました。それでも何とかしようと対策を考えています。では書籍紹介。

魔法科高校のBLACK LAGOON?

魔法科高校の劣等生 司波達也暗殺計画①

ネタに困れば男の娘を登場させるのは定番!それよりもイラストの石田可奈氏の画風が変わった事だ。


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