意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。 作:嵐電
「ねえ。京子は一日どれくらい練習しているの?」
千葉さんが長岡さんにしつこく絡んでいる。
「24時間くらい」
長岡さんは相手をするのが面倒くさくなってきたようだ。僕は吉田嬢(覚えておられますか?『少佐』と呼ばれる吉田さんですよ。)と選定当事者代理人の選定書について話をしながら笑いそうになった。
民事訴訟法第30条
(個別代理)
第30条
1.共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。
2.訴訟の係属の後、前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定したときは、他の当事者は、当然に訴訟から脱退する。
3.係属中の訴訟の原告又は被告と共同の利益を有する者で当事者でないものは、その原告又は被告を自己のためにも原告又は被告となるべき者として選定することができる。
4.第1項又は前項の規定により原告又は被告となるべき者を選定した者(以下「選定者」という。)は、その選定を取り消し、又は選定された当事者(以下「選定当事者」という。)を変更することができる。
5.選定当事者のうち死亡その他の事由によりその資格を喪失した者があるときは、他の選定当事者において全員のために訴訟行為をすることができる。
反魔法師の仮面を被る反日売国奴どもは、相手が子供だと思って名誉棄損等で提訴した。しかし、横浜で有事があった今、さすがにおおっぴらに提訴するわけにいかずに簡易裁判所で55万円の損害賠償請求をしたのだ。おそらく簡裁に反魔法師勢力の仲間がいて示談に持ち込むつもりだったのだろう。所詮は子供、あの手この手で脅したり宥めたりすれば簡単に誘導できると考えたのだろう。
そこで、こちらの対抗策だ。1つの訴訟でたくさんの被告や原告が存在する時は代表者的に1名または複数名を指定し、選定当事者以外は出廷せず、判決書の送達も選定当事者だけが行えるのだ。先程『少佐』と話し合っていた選定書とは選定当事者を選定するための書類だ。
「24時間はないでしょう?寝ている時はどうするの?」
「寝るのも修行!」
僕は、観るに見かねて千葉さんと長岡さんのいるテーブルに移動した。長岡さんが、「本当のこと言って良い?」と僕にアイコンタクトしてきた。
「寝てやる練習は、あるよ。千葉さんもやってみる?ちゅーか、長岡さんに教えたんは俺やけど」
千葉さんは訝し気な顔になった。どうも僕は胡散臭いと思われているらしい。
要は、寝ている間鼻呼吸をし続けるだけだ。最初のうちは苦しくなってあるいは眼が冴えて寝れなくなるだろう。しかし、効果は抜群だ。元気溌剌、サイオンも2倍?!
「なによ。それ!」
千葉さんは、からかわれたと思ったようだ。こちらは至って本気なのだが。
「師匠の言うことは本当。私も一週間もかかってしまった」
僕は、一カ月かかった。ちょっとショックだ。
「それより、本当に訊きたいことを訊いた方がええよ」
僕は、真顔で千葉さんに言った。
千葉さんも、すぐに真剣な表情になった。
「どうして、京子は勝って、あたしは負けたの?」
人喰い虎こと呂剛虎にだ。
「彼は練習方法を間違っている。功夫で彼が私に勝つ見込みは、ネズミが猫に勝つ見込みと同じ」
道に入ったばかりの長岡さんは少しだるそうだ。いつもの明るい少女漫画風ヒロインの面影は全くない。返答がぶっきらぼうなのだ。
練習方法を間違っていると言われた呂剛虎に負けた千葉さんは納得が行かない。聞きようによっては千葉流剣術は間違っていると解釈できてしまうからだ。
「でも、彼は人を殺したり怪我させたりするのは好きだった。あなたは好き?」
千葉さんは意表を突かれた。
もし同じくらいの強さ者同士が本気で戦えば、勝負を決するのは相手を本気で殺そうとしているほうだ。そして、どんなことにも好きこそものの上手なれがあてはまる。
「私が、八卦掌の師から最初に習った技は敵の心臓を止めるものだった」
千葉さんは、大人しくなった。
僕は、元のテーブルに戻った。
◇◇◇
「地裁の判事もろくなのがいなわよ!」
みんな驚いた。このようなセリフが千葉さんの口から飛び出すとは誰も想像しなかったからだ。というか、どうしてこちらのテーブルに移動したの?君はあっちでしょ。
対反魔法勢力法廷闘争は、横浜有事の影響を受けて簡易裁判所から裁判官職権で地方裁判所に移されてた。これで、この裁判は三審となり、最高裁判所まで法廷闘争が継続される見通しとなったと僕が話していたところだった。
良く考えれば、千葉さんは警察関係者に顔が利く。警察関係者には千葉家のお嬢様のファンクラブがあるとまことしやかに言われているくらいなのだから。たぶん、糞判事の反日的な判決で煮え湯を飲まされている警察関係者の話を彼女は耳にしているのだろう。
「ああ、大丈夫!こちらは最初から最高裁まで争うつもりだし、その為の選定当事者代理人だから」
「それより、腕の良い弁護士に依頼した方がいいよ。伝手ならあるけど」
さっきの話で、何か吹っ切れた千葉さんは今まで興味を示さなかった民間防衛の戦いに急に首を突っ込ん出来た。本当に負けず嫌いなんだな。もしかしたら、意外にこちらの方の戦いが得意なのかもしれない。剣術の才能はあまりなさそうだし。
じつは、北山のお父さんからも協力の申し出があった。反魔法勢力のネット工作員は北山さんや光井さんの悪評をたてようとネット工作も仕掛けていたのだ。連中が十師族をこきおろすのを、ネット上でさえ遠慮しているのには笑ってしまう。それほど十師族は恐れられている。一方で、娘とその親友をこき下ろされた北山さんのお父さんの怒りは凄まじかった。どこから聞きつけたのか、僕に連絡をよこしたのだった。
我々は、一人当たり一千万円以上の損害賠償請求を地裁に起こした。おかげで手数料は5万円だ。北山さんのお父さんはポンと一千万円寄付してくれたのだ。おかげで、軍資金は充分となった。その上に弁護士をつけてくれると言ってくれたのだ。代理人を通して。
しかし、こちらはただ法廷闘争に勝つだけが目的ではない。この法廷闘争を通して我々はあらたに魔法にも裁判にも強い魔法師を育成するつもりなのだ。さらに法曹界ひそむ隠れ売国奴の炙り出しも兼ねている。裁判が長引いた方が都合が良いのだ。だから、紹介して頂いた腕利きの弁護士にはブレーンとして参加してもらっている。
九島老人が作った十師族のシステムは、すでに時代遅れとなっている。魔法師は、特別な存在ではなくて魔法と言う特技を持っているただの人間であるべきだ。なので出世したければ出世すればよい。社会のトップに魔法師はならないとする慣習は全くのナンセンスなのだ。むしろこんなことを続けると魔法師の精神の健全性が損なわれる。欲望を抑え続けるとろくなことにならない。
老害となっている九島老人には言いたいことが山ほどあるが、ろくでもない死に方をするとわかっているのでそっとしておいてあげよう。
太極拳譜の理論 超入門編 龍門書院
私とは感覚が違うのであまり参考にならなかった。しかし、似た感覚の方もおられると思うのでとりあえず買っておくと良い。安いし。