意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編32

西暦二〇九五年十一月二日。国内は戦勝気分の浮かれたムードに包まれていた。国防軍が秘密兵器により大亜連合艦隊を基地ごと殲滅した、と報道されたのが一昨日の夜のこと。北京がワシントンに講和の仲介を打診した、というスクープがお茶の間に流れたのは昨日の深夜だ。余りに速すぎる展開にスクープの信憑性を疑う意見もあったが、そういう冷静な判断力を保っていたのは国民のごく一部だった。多くの国民が俄か軍事評論家になり、普段は政治に無関心な少年たちが学校で声高に外交と現実的国際政治力学を語り合う。

 

「こんなあからさまなリークが出されるくらい大亜は打つ手なしなんやろうな」

僕がため息をつく。

 

「「「え?リーク!」」」

部員+αが驚く。

 

「どうしてわかるの?」

千葉さんが、すぐに尋ねてきた。

 

それよりも、どうしてお前がここにいるの?ここは一校近くの喫茶店アイネブリーズ。なので金さえ払えば誰でも入れはするが。一校は横浜事変の影響で明治天皇生誕記念日まで休校になったので高ぶって勢いが余っている連中はここに集まったのだ。

 

「ねぇ、京子は知ってたの?」

千葉さんは、僕に質問しておいてすぐに長岡さんにも同じ質問をしている。躾がなってないぞ!司波くん。この場にいないけど。彼は忙しいため、司波組構成員を放置しているようだ。あるいは、愛する妹とのイチャラブで忙しくて手が離せないのかも知れない。

 

吊り橋理論(つりばしりろん)とは、カナダの心理学者であるダットンとアロンによって1974年に発表された「生理・認知説の吊り橋実験」によって実証された感情の生起に関する学説。吊り橋効果、恋の吊り橋理論とも呼ばれる。

 

ダットンとアロンは、感情が認知より先に生じるのなら、間違った認知に誘導できる可能性があると考えて「恋の吊り橋実験」を行った。 実験は、18歳から35歳までの独身男性を集め、バンクーバーにある高さ70メートルの吊り橋と、揺れない橋の2か所で行われた。男性にはそれぞれ橋を渡ってもらい、橋の中央で同じ若い女性が突然アンケートを求め話しかけた。その際「結果などに関心があるなら後日電話を下さい」と電話番号を教えるという事を行った。結果、吊り橋の方の男性18人中9人が電話をかけてきたのに対し、揺れない橋の実験では16人中2人しか電話をかけてこなかった。実験により、揺れる橋を渡ることで生じた緊張感がその女性への恋愛感情と誤認され、結果として電話がかかってきやすくなったと推論された。

 

異性と一緒にドキドキする体験をすれば、そのドキドキは恋愛のそれと認識間違いする場合があるらしい。それよりも、カナダにはいまだにつり橋があるのだろうか?そのほうが僕は気になる。

 

今では眉唾ものの理論とされているが、そうでもないようだ。吉田くんと柴田さんがそうなのは当人達以外皆知っている事実なのだが、千葉さんと西城くんも何かあったのだろう。一方、我が軽妙小説研究部部員はなぜかその様な雰囲気が一切ない。理由はハッキリしているが。白石くんは、本当はバージニア州出身だからね。

 

千葉さん!さっきから西城くんが心配そうに君を見ているぞ。

 

「やっぱり軍関係者から漏れたのかな?」

 

面倒くさいことになりそうなのでさっさとこのリークの話題を終わらせよう。

 

「ただのジャーナリストの取材で、大亜が米に我国との仲介を打診したとわかるはずがないやろ!もしうっかり喋ってもうたら特定秘密保護法違反で一発アウトや」

 

ここまでは、千葉さんだけでなく皆わかったようだ。なので、次に進む。

 

「だから、政府が裏広報なんかを使ってリークしたんやろ」

 

「でも、一体何の為に?」

 

おっ!意外に頭の回転が早いな。千葉さん。さすがは警察関係者。

 

「我国が有利に事を運んでいると国民に間接的に知らしめるのと、大亜へのけん制やな」

 

理解できなかったらしく千葉さんがその場で固まった。

 

「でもよ。師匠。どうしてそれだけで『我国有利』だってなるんだ」

 

西城くん、優しい~。千葉さんが恥をかかないように彼女に代わって質問している。

 

「平和条約なり休戦協定なりを締結したいと先に動いたんは大亜や。困っとるから米国に仲介まで頼んだんや。困ってなかったら三年前みたいに知らん顔しとる」

 

なるほど~と納得顔になったのは西城くんではなくて千葉さんだった。ただ、感情的何か納得し切れてないようだ。

 

「師匠。本当は、軍から何か聞いているんじゃないの?」

 

彼氏のフォローを台無しにしかねない千葉さんだった。西城くんが焦っている。

 

「少尉では、そんなん知らされへん。最低でも少佐やな」

 

「エリカちゃん。師匠さんは、社会人だからいろんなことをご存知なのよ。きっと」

 

見るに見かねた柴田さんが説得力が有るのか無いのかわからないフォローをした。

 

「社会人といっても、エッチな小説を書いているだけでしょ!」

 

「エリカちゃん!」

柴田さんが、怒っている。彼女は怒ったり本気になると目の色が変わるのですぐにわかるのだ。日頃から柴田さんに薄い本を融通している効果か?

 

事情を把握していない司波組構成員は、指揮官の司波くんが構成員を放ったらかしなので本当に飢えている。

 

このままでは本題に入らないまま時間を浪費しかねない。ということで、僕は本題に強引に入って行こうとした。

 

また、過去世の体験が蘇ってきた。

 

……私は、「道を得る」のは何らかの劇的な体験をするものだと思っていた。モーゼとエリアが現れて励ましてくれるとか、明けの明星が天から降りて自分の口に入るとかだ。

 

道を得る入口に立った時、自分の大願がわかった。その後しばらくすると劇的な体験があると構えていたのだ。とある武術家のように公園で練習中に先代の名人の霊が降りて来て暴れ回っているのを近所の人に通報されて大騒ぎになったりするのは不味いと考えていたからだ。

 

ところが、自己内対話をしている時に何気に「道を得た?」と尋ねると「得たよ」と返事が返って来る。釈然としない。しかし、座禅の師が当初から言っていた「座禅の後にすごく元気が出る」ようにはなった。

私は、孔子や白隠のように道を得てもそれを自覚するだけで劇的な現象は起きないパターンだったのだ。

 

少し、拍子抜けした。

 

……

 

司波くんが、道を得る入口に立ったのはわかったが、それは司波くんだけではなかった。自分の為だけでなく国を守る為に初めて戦った長岡さんも入口に立った。

 

どうりで、いつも必要以上に少女漫画的ヒロインのオーラを出しまくっている長岡さんが今日は全然目立たないただの二科生している。おそらく心が落ち着いて必要以上に頑張る気が無くなったのだろう。道を得ると人にもよるが内精の動きも自覚できるようになり、頑張らなくても相手を吹っ飛ばせる技が出来るようになったりするからだ。具体的には、敵が我に触った途端に敵の踵が浮いてしまい、簡単に敵の平衡感覚を狂わせて吹っ飛ばせるようになる。

 

「武力衝突は終わった。我国の圧勝や。次は非武力衝突の戦いや!いわゆる民間防衛や」

 

呂剛虎に負けた千葉さんが、呂剛虎を瞬殺した長岡さんに絡んでいた。千葉さんが試合をしてくれと言い出す前に『民間防衛」の話を切り出せた。

 

千葉さんには、座禅をして道を得れば呂剛虎なんて簡単に勝てるようになると後で伝えてあげよう。長岡さんみたいに鉄沙掌とか激烈な練功をしなくても。

 

           ◇◇◇

 

 武力衝突では圧勝したが、国内の大亜勢あるいは大亜の息がかかった連中を一掃あるいは黙らさなければこれからの我国と大亜の関係が平和条約締結前に戻ってしまう恐れがあるのだ。

 

そのために、我々は種を撒いてきた。

 

 反魔法師を標榜する勢力は、たいてい大亜とつながりがある。とは言え、あからさまにスパイ行為をしている連中はさすがに少数だ。そんな連中は、公安や外事にまかせれば良い。資金援助を受けて反魔法師運動を起こしている所謂プロ市民や彼等を支える連中も度が過ぎれば財務省によって資産凍結となる。裁判さえ行われないでだ。

 

 では、残りの直接的にテロ活動やスパイ行為をしたり、彼等と共謀して彼等の行動を支援する第一協力者以外の者達をどうやって今後だまらせるかだ。

 

じつは、国内法で可能なのだ。

 




日本人のこころの言葉 栄西 創元社

禅を興すことは国を守ることになるとする栄西の主著『興禅護国論』の解説がある。


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