意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編30

機体が一瞬バランスを失った。

 

「疲れた?」

 

「少し」

 

「じゃあ。帰ろう」

 

二人ともかなり疲れている。会話が無意識のうちにどんどん短くなって行く。あまりに開発期間が短過ぎるこの機体は、結果的にパイロットに負担をかけ過ぎる。

 

その上、燃料も武器も目一杯積み込んで飛びまくっていたのだ。ややこしくなるから書かなかったが、人間ソーサリーブースター役は途中で一回交代している。横浜国際会場にFー35が着陸した時に僕と交代していたのだ。彼は棺桶型武器庫系CADを回収してその場を離脱している(はずだ。引き続きをする段取りだったが、前任者が現れなかった。)

 

それと、

 

ピ————————————!

 

アズビルくんがまた鳴動。

 

敵に発見される様になって来た。さすがに敵もバカではない。光学迷彩+光学系魔法ステレスに慣れ始めている。

 

「大丈夫?」

 

「鉄壁と魔系修羅が揃ったから大丈夫」

 

「そうね」

 

僕等は帰投した。

 

Special thanks!

 

国防軍の皆様

保土ヶ谷駐留部隊の皆様

独立魔装大隊の皆様

鶴見駐留部隊の皆様

藤沢駐留部隊の皆様

警察省の警察官の皆様

日本魔法協会関東支部の義勇軍の皆様

全国高校生魔法学論文コンペティションの九校共同会場警備隊および来場した魔法科高校の学生の皆様

七草家,北山家の皆様

港湾警備隊の皆様

沿岸防衛隊の皆様

 

皆様のおかげでこの戦争の前半を大量リードして終える事が出来ました。

 

後半戦もよろしくお願い申し上げます。

 

◇◇◇

 

今も昔も、女性が軍で出世するのはかなり難しい。体力的に厳しいのもあるが組織特に軍隊組織そのものが男社会を前提として作られているからだ。ちなみに、1996年に女性1期生が防衛大学を卒業している。

 

空軍に女性戦闘機乗りが登場したのは、(その頃空軍は、まだ航空自衛隊と呼ばれていた。)2018年8月24日だ。彼女が戦闘機乗りの伝統になり主任は「中尉」に昇格した。初の女性戦闘機パイロットは二等空尉だったのだ。

 

とういう事で、女性である主任が軍で出世するのはわかる。しかし佐伯さんはどうか?魔法師でもなければ戦場で華々しく活躍したわけでもない。お色気?それも考えにくい。とぼけるのはよそう。十師族に対する危機感は、軍だけでなく我国の中枢にもあるのだ。魔法師の頂点に立つ十師族が本当に日本の為に死ぬ覚悟で戦ってくれるのだろうか?

 

この漠然とした不安は、四葉が私怨で2063年に崑崙方院を滅ぼした時にハッキリした。その頃はまだ十師族制は確立されていなかったが、それ以前から魔法師は我国の危機にあてにならない可能性がかなりあるのはすでにAICO等も計算していた。とはいえ、その対抗策をあからさまにしてしまうと十師族を怒らせてしまうかも知れない。

 

そこに佐伯さんはピッタリはまった。主任や僕もそうだが、彼女が慎重に集めた部下は、それなり理由があってみんな反十師族なのだ。司波くんも。

 

 もちろん、佐伯さんが『銀狐』と呼ばれるほどの才女なのは言うまでもない。反十師族だけでは出世はできない。

 

 かなり消耗が激しかった為、座ってしばらくとりとめのない思考が回る。

 

……

 

『私にできる貴方への最大の贈り物は、誰にも経験できない経験をさせてあげる事です。具体的に言えば、「道を得る」前の状態、「道を得る」直前の状態、「道を得た」時、「道を得た」直後の状態、そしてその後どうなったかを貴方に見せる事です。

素晴らしい文体、洗練された語句を駆使して文章を作りあげたところで読んだ人の人生に何も与えず何の影響もない小説ならば書き続けたいと貴方は思わないはずです』

 

前世で婚約者に伝えた事を思い出した。彼女は上流階級のお嬢様で作家でもあった。一方、私は日々の生活に追われるド平民だった。

 

『時間が欲しい!』

自信家であった私は、時間さえあれば彼女に見合う実力(お金を含め)を身に付ける確信があった。これが、私の本当の本音であり希望だった。

 

彼女と結婚してあげたい。そして奇跡の瞬間を見せてあげたい!世界を更新する小説を書くとする彼女の夢を叶えてあげたい!

 

それらを自覚してそう願った時、私は「道を得る」入口に立った。

 

……

 

僕は、ユックリと目を開けた。短い時間の座禅だったが十二分に回復した。そろそろ出発しないと撤退する敵偽装揚陸艦をおがめない。

 

「主任。時間ですよ」

 

僕は、泥のように眠りこけている彼女を起こし、医務室を出た。

 

◇◇◇

 

……

 

わかるまで考える。『時間が欲しい!』

問題文の理解が足らないのに気付く。しかし、まだ解答の解説がわからない。『時間が欲しい!』

解説の前半部がわかる。しかしまだ完全ではない。『時間が欲しい!』

 

……

 

僕の前世の体験がフラッシュバックする。ベイヒルズタワーの屋上にいるのだが僕は眼前の風景を見ていない。

 

「敵艦は相模灘を時速三十ノットで南下中」

藤林さんが小型モニターを見ている。

 

「房総半島と大島のほぼ中間地点です。撃沈しても問題ないと思われます」

彼女は風間さんに報告した。

 

「サード・アイの封印を解除」

彼は真田さんに命令した。

 

「了解」

真田さんは嬉しそうに命令を実行した。

 

「色即是空、空即是色」

 

『パスワード・認証しました』

デバイスを積んだケースが音声応答した。

 

……

 

虚空蔵菩薩真言は空海や日蓮が挑戦したと聞いて自分もやってみようと思った。一万回も真言を唱えられずにやめた。ちょっとした奇跡的な現象もあったが、あまり気に留めなかった。般若心経を覚えてみようかと思ったが実行さえしなかった。

 

その頃、私は座禅を習っていた。座禅は道教のものだったがなぜか西洋魔術書や仏教関連書を読んでいた。

 

にもかかわらず、立禅の最中に見えるようになったのは天照大神。

 

そのうち千手観音菩薩が見えるようになった。これが自分と一体化すれば武術の技が冴えるのはすぐにわかった。真言を唱えるのは止めた。真言は「〜に帰依します!」とする宣言であるから〜と一体化するには不適切だと感じたからだ。

 

しかし、それと一体化する感覚はそれ以上深まらなかった。

 

本願(ほんがん)とは、仏教において、仏や菩薩が過去において立てた誓願を指す。宿願(しゅくがん)とも言う。菩薩としての修行中に立てたもので、たとえば阿弥陀仏ならば法蔵菩薩としての修行中に立てられたものを言う。

原語の分析から「前の」「あるものに心を寄せる」「切望する」「祈る」などを意味する箇所があり「誓願」(せいがん)とも訳す。

 

原始経典では「天国に生れることを希願する」というように用いられる。仏教の場合は、絶対者などに対して祈るのではなく、自己への祈りであり、願いである。

 

『仏教の場合は、絶対者などに対して祈るのではなく、自己への祈りであり、願いである。』

 

私の本願の一部は「時間が欲しい」だった。そしてこの本願の一部が成就されて行く過程で「本当の自分」に出会え、「仏や菩薩が過去において一切の生あるものを救おうとして立てた誓願」につながって行く。

 

……

 

「マテリアル・バースト、発動 」

 

「敵艦と同じ座標で爆発を確認。同時に発生した水蒸気爆発により状況を確認できませんが、撃沈したものと推定されます」

 

爆発による津波が無いのも確認され作戦は無事終了した。

 

司波くんは、明確な意志を持って、愛する妹を煩わせる存在を消滅させた。彼の本願の一部はこうして成就した。

 

さすがの司波くんでも、躊躇したり、サイオンのガス欠を起こしてマテリアルバーストが発動しない場合に備えて海底に潜んでいる藤掛・渡辺組への攻撃命令は出さずに済んだ。命令は、彼等の上官がするのだが大規模破壊に対する彼等の心の乱れを無くするのは僕の役目になっていたのだ。

 

「あなた方の罪は許される」と言わずに済んだ。

 

まともな神経の持ち主なら、大量破壊や殺人には心理的な抵抗が大きい。しかし、司波くんは躊躇なく大量破壊・殺人を実行した。愛する妹の為に。はたして、それが菩提心や大悲心につながって行くのか?

 

たった今、確信できた。『つながる』と。

 

「中尉、大丈夫ですか?」

僕は、眼前でふらつく主任に声を掛けた。

 

「大丈夫じゃない、かも」

主任はそう言ってから一呼吸置いて付け加えた。

 

「今度の日曜に付き合ってくれたら元気になる、と思う」

 

「了解しました」

 

司波くん以外の隊員の「耳がダンボ」になっていた。

 

 

 

 




浜松 春日
ルーントルーパーズ―自衛隊漂流戦記〈1〉 (アルファライト文庫)

「しかも、環太平洋海軍合同演習において、この〝いぶき〟単艦でアメリカ艦隊を壊滅させたことがあるほど、優秀である。」kindle版22%

秘密は必ず何らかの形で表に出てくる。

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