意識が高すぎて魔法科高校に入学したが劣等生だった。   作:嵐電

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横浜騒乱編29

「これはできない」

佐伯さんは、断言した。

 

僕は、敵の拠点を急襲する作戦を提示したのだった。敵主力艦(偽装揚陸艦だった。)をF-35とムーバルスーツ部隊で急襲し制圧する作戦だ。国民を守るのは義勇軍(十師族を中心とした民兵)と武装警察と遅れて到着するであろう我軍主力部隊で頑張ってもらう作戦を提示したのだった。

 

「敵の上陸作戦があるのは否定しないのですね」

 

佐伯さんは否定も肯定もしない。

 

「AICOが起こり得ると判断したのですね」

 

AICOとは、エヴァンゲリオンのマギみたいなすごいコンピューターだ。(笑)その未来予想能力があまりに素晴らしいので「デルフィの神託」と言われたりしている。なので存在自体が国家機密になっている。国家機密なのにどうしてその存在を知っているのかって?それは公然の秘密だからです。

 

ついでに言っとくとあのコンピューターの中身は、・・・・・・だよ。ソーサリーブースターみたいなものは昔からあったのさ。

 

AICOと聞いて佐伯さんの表情が引き締まった。

 

「作戦を練り直して欲しい」

 

彼女はそう言って条件を付けくわえた。

 

僕の作戦は1990年に発生した、イラクがクウェートを侵攻したクウェート侵攻(イラク・クウェート戦争)時にイラク占領軍に対するクウェート市奪還作戦を参考にしている。

 

1990年8月2日午前2時、共和国防衛隊(RG)はクウェート国境を越えて侵攻を開始した。このとき、十分な弾薬・燃料を携行していたのは、RGの戦車2個中隊のみで、他の部隊が有する兵站物資は必要最低限のみであった。しかしクウェート軍は、RGの50分の1の戦力しかなかった上に、奇襲を受けて混乱しており、わずか数時間のうちに制圧され、軍の一部はサウジアラビアやカタールに撤退した。

 

「4時間で奪われたものは4時間で取り返せ!」的な発想の作戦だ。

 

この作戦は、当時却下された。米軍の活躍する見せ場がないのが理由だ。

 

皮肉な事に、その作戦を参考に立てた僕の作戦は同じような理由で却下された。十師族が国軍よりも目立つ活躍をするからだ。

 

佐伯さんの出してきた条件に則して、わざと敵主力艦を攻撃せずに国民保護を最優先にしてF-35と独立魔装大隊を投入する作戦を再提出したのだ。

 

その作戦に対して佐伯さんは何の返事もよこして来なかった。しかし、すぐにF-35とムーバルスーツの開発が急がされるようになったので僕の作戦が採用されたとわかってしまった。おかげで学校を何日休んだことか。

 

「殿下、疲れた?」

 

精神的につながっている主任が、僕の集中力が途切れているのに気付いた。さすがだ。しかし、集中力が途切れてよそ事を考えていたのは七草家と北山家の戦闘ヘリ、輸送ヘリによる人員輸送のお手伝いをしているのが気に食わないからだ。結局十師族が目立っている。北山家は十師族ではないのがせめてもの救いだ。

 

「居心地の良くないコクピットだからかな」

 

「F-35は元々複座がないから改造に無理があったの。今度は元々複座のF-22を調教するね」

 

そうだったのか。それならF-35の操縦訓練はどうしていたのだろう?まさかシュミレーターだけで終了していたのだろうか?だったとしたら恐ろしすぎる。それにしても主任はまだ魔改造するつもりらしい。

 

あ!わかった。

 

「主任。もしかして『鬼』を使ってる?」

 

「殿下は、何でも知っているのね」

 

彼女が笑っているのを感じた。彼女は僕の前に座っているのとフルフェイスのヘルメットを被っているので表情は僕からは見えない。

 

どうやら彼女は、吉田くん達の本当の本家である「陰陽師」の直系らしい。

 

 陰陽師は全ての事象が陰陽と木・火・土・金・水の五行の組み合わせによって成り立っているとする夏、殷(商)王朝時代にはじまり周王朝時代にほぼ完成した中国古代の陰陽五行思想に立脚し、これと密接な関連を持つ天文学、暦学、易学、時計等をも管掌した日本独自の職である。

 

天武天皇が壬申の乱の際に自ら栻(ちょく、占いの道具)を取って占うほど天文(学)や遁甲の達人であり陰陽五行思想にも造詣の深かった事もあり、同天皇4年(676年)に陰陽寮や日本初の占星台を設け、同13年(685年)には「陰陽師」という用語が使い始められるなどしてから陰陽五行思想は更に盛んとなり、養老2年(718年)の養老律令において、中務省の内局である小寮としての陰陽寮が設置された。

明治政府は明治3年(1870年)に陰陽寮廃止を強行し、その職掌であった天文・暦算を大学・天文台、または海軍の一部に移管した。旧陰陽頭であった土御門晴栄は大学星学局御用掛に任じられたが同年末にはこの職を解かれ、天文道・陰陽道・暦道は完全に土御門家の手から離れることとなった。同年閏10月17日(1870年12月9日)には天社禁止令が発せられ、陰陽道は迷信であるとして民間に対してもその流布が禁止された。

 

 吉田くんの家は昭和時代に陰陽師の伝統を復活させようとしてある程度の成功をおさめた人達の伝統を引き続いでいる。僕が本当は新しい古式魔法と皮肉ったのはそれが理由だ。ちなみに吉田嬢は明治まで続いていた系統だ。しかし、それでもすでに日本式となっており、大陸の鬼使いとは違ってしまっている。主任侮るべからず。

 

なので、吉田くんが使う「式神」と主任がつかう「鬼」は根本的に違う。

 

ピ━━━━━━━━!

 

鬼が警報を鳴動させてくれる。良い子。良い子。僕が注意散漫になってもよく働いてくれるね。

 

「あれはまずいな」

 

「イナゴの大群みたいね」

 

日本でこの時期にイナゴが大量発生することはない。単なる敵の攻撃魔法だ。

 

さて、困った。この機体に空対空のミサイルやナパーム弾は積んでない。空対地に特化した戦闘計画を立てた為だ。佐伯さん。どうすんの?これ。

 

「機関砲?」

主任が自信なさそうだ。結論から言えば、弾が無限大にあれば機関砲を撃ちまくればよい。イナゴに弾が直撃しなくても風圧で害虫退治がある程度可能だ。

 

人間ソーサリーブースターをあきらめて僕のとっておきの必殺技ともいえる現代魔法を使うか。

 

『ブルーサンダー』

 

昔の映画のタイトルやアイドル歌手のヒットソングではありません。

 

まァどちらにしても、F‐35の戦闘力がガタ落ちとなってしまう。

 

「上昇だ」

 

「了解」

 

小直径爆弾(細長い弾体に展張式の翼を備えた滑空式の誘導爆弾)を使う。滑空式なので、イナゴの大群の上空から発射しなければならないのだ。

 

突然、音の熱線が、蝗の群れを薙いだ。

 

「フォノンメーザー?」

 

「北山雫だよ」

 

焼け死ぬのではなく、燃え尽きたように消えていく蝗の群れ。だがそれは、黒い雲を成す大群のほんの一部だ。次々とフォノンメーザーを発動し、ヘリに近づく蝗を撃ち払っているものの、回り込んだ群れがヘリへ迫る。

 

蝗の群れがヘリに取り付く、と見えた、その時。滅びの風が、吹いた。

 

黒雲を成す大群が、幻の様に輪郭を崩し、色を薄れさせ、消え去った。

 

「ミストディスパージョン?」

 

「大黒特尉だね。グラムディスパージョンだよ」

 

真打登場といったところか。本気で助かった。これで、北山さんと協力して時間稼ぎをする必要もなくなった。司波くんは術式を分解した。つまり、彼は術式の出どころを掴んでいるはずなのだ。

 

「ここは、片付いた。移動する」

 

「いいの?」

 

「構わない。一般人に紛れている敵工作員は毒脚京が始末する」

 

僕らは石川町に向かった。

 

 中華街の手前で義勇軍が戦闘中だ。苦戦しているらしい。無人機やドローンやスパイ衛星の情報がなくても町中の監視カメラの情報等を収集すれば戦闘情報はほとんどわかる。電子の魔女の得意技をパクッ、いやオマージュして新たな情報収集分析方法を確立した。

 

大亜細亜連合が投入した戦力は、全部で戦闘員 800人、装輪式大型装甲車両 20両、直立戦車 60機。あとは低空無人偵察と機偽装揚陸艦と推定されている。今のところ。

 

 現場に到着した途端に、敵ゲリラ兵に機関砲を撃った。直撃した者は少数だが、掠った者や掠めた物はかなりいた。これ充分。敵は戦闘不能に陥るからだ。さいわい、敵は蝗みたいに多くなかった。あとは装輪式大型装甲車両と直立戦車に小直径爆弾をお見舞いした。

 

「ここも、片付いた。移動する」

 

「いいの?」

 

「構わない。もうすぐ一条将輝が到着する」

 

僕らは横浜ベイヒルズタワーに向かった。

 

 

 

 

 




空海「般若心経秘鍵」 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫)
空海の作品。

太極拳の立禅でゆっくり動く時は観自在菩薩を、小刻みに動く時は虚空蔵菩薩を呼ぶと何故かうまく行く。空海もビックリな使い方か?

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