第4話
どうぞ
A-RISEのグッズを手に入れてから1週間、あの夢を観ることもなく、あいつと会うこともなかった。
まぁ、あの日たまたま夢に出てきたあいつと会っただけで、あいつがどこの誰かもわからないのだから、当たり前なのだが。
わかっていることといえば、名前が八幡だということ。目が腐ってること。生意気なこと。にこを″先輩″と呼んだということは年下だということくらい。
『チビ先輩』
イラッ
「……やっぱり、1発殴っとくべきだったかしら」
「にこ? ねぇちゃんと聞いてる?」
昼休み、部室でにこの前に座って昼食を食べていた絵里が話を中断する。
「聞いてたわよ。穂乃果を生徒会長に推薦しようと思ったけど断られたんでしょ?」
「ええ。どうしたらいいかしら……」
「そもそも何で穂乃果なのよ。海未ならまだわかるけど」
「だって穂乃果はμ'sのリーダーじゃない」
「……? だから?」
「人前に立つのは得意だと思ったのよ。海未やことりはあまりそういうのは得意じゃなさそうだし」
まぁ、わからないでもない。
「何て言って断られたのよ」
「それさっき言ったわよ? やっぱり聞いてなかったわね。『穂乃果には絵里ちゃんの後を次ぐなんて荷が重いし、細かい作業とかも苦手だから難しいんじゃないかな~』って」
「まぁ、穂乃果の言う通りでしょ」
「うーん、やっぱり諦めるべきなのかしら」
「バカね。それはあくまでも穂乃果にとってってことでしょ? だったら、穂乃果の回りを巻き込んじゃいなさいよ」
「え?」
「荷が重いんならその重荷を分担すればいい。細かい作業が苦手なら得意な奴を入れればいい。幸い、責任感が強い奴も細かい作業が得意な奴も、あいつの近くにいつもいるじゃない」
「……! ハラショー。さすがにこね!」
このくらい簡単に思い付きそうなものだが。そもそも絵里は穂乃果に断られると思ってなかったのだろう。
「ならさっさと行ってきなさい。こういうのはまず回りから固めていくのよ」
「わかったわ! 急いで行ってくる!」
絵里が勢いよく部室を出ていった。仮にも生徒会長があんなに廊下を走っていいのかしら。
「ふふっ」
「……何よ希」
「いやー、流石やなぁと思って」
「はぁ? 何の話よ」
「なーんでもない。気にせんとって」
そう言うと希も部室を出ていった。恐らく絵里の後を追ったのだろう。彼女もあれで生徒会副会長である。
私は弁当の残りを食べきると、机に突っ伏して寝ることにした。昨日はつい遅くまでアイドルニュースを見てしまったためとても眠たいのだ。夜更かしは美容の大敵だというのに。
「ふわぁ~あ。……寝よ」
私はそのまま深い眠りについていった。
「……そろそろ、いいんじゃないのか?」
あ、この感じ。
「ダメよ。まだアイドル引退して3ヶ月よ? 引退したのはそれが理由だって思われるじゃない」
やっぱり、あの夢だ。
ここは、にこの家かな? ん? だとしたら何でこいつが家にいるの? 打ち合わせか何か?
「別にそんなこと気にする奴、あんまいねぇと思うけどな」
「あんまってことは少しはいるんでしょ。じゃあダメよ。せめて1年くらいは経たないと」
「はぁ、1年ね」
何の話してんのよ。まだ早いとか、1年とか。
「それに、引退してまだ結構忙しいじゃない。ある程度落ち着いてからじゃないと」
「なら、お前の引退の話題が収まって、仕事も落ち着いてきたらOKだってことか?」
「ぐっ、そ、それはどうかしら」
OK? ちょっとちゃんと話の主語を言いなさいよ!
「……にこ」
「……な、なによ」
「結婚しよう」
「……っ」
は、
「はああぁぁぁぁぁぁ!?!!!!??」
「うわぁ!! なになに!? 一体何事!? 穂乃果、何か悪いことした!?」
へ? 穂乃果?
「何で穂乃果が?」
「いやー、部室に誰かいるかなぁって思って。それよりにこちゃんどうしたの? いきなり大声出して」
「あー、いや、気にしないで。悪い夢を観ただけよ」
「そっか」
そっちから聞いたくせに何でそんなに適当な返しなのよ。と思ったところで穂乃果に少し違和感を感じた。
「……どうかしたの?」
「へ?」
「もう昼休みも終わるっていうのに誰かいないかって部室まで来て。何か話したいことでもあるんじゃないの? 海未やことりにはあまり言えないこと?」
「…………」
はあ。まぁ何となく予想はつくけど。
「生徒会長」
「……っ」
穂乃果の肩がピクリと動いた。
「……やっぱりね。何がそんなに嫌なのよ。確かに面倒臭そうとは思うけど、あんたがそんなに頑なに嫌がるものでもないでしょ」
「……穂乃果には無理だよ。絵里ちゃんみたいに完璧星人じゃないし、生徒会長ってことは学校の顔だよ? ムリムリ、穂乃果が生徒の代表だなんて無理だよ」
「完璧星人て。言いたいことはわかるけど、でもそれ、今更じゃない?」
「え?」
「学校の顔ってところ。そもそもμ'sだって学校を廃校にしないために始めたんだから、学校の顔になるために始めたようなもんじゃない」
「……確かに」
「だから今更あんたが生徒会長になったところで、皆生徒会長の高坂穂乃果よりもμ'sの高坂穂乃果を見るから平気よ」
「そうなの、かな?」
「そうよ。それに別にあんたが絵里になる必要なんてないんだから。だいたいあんたが絵里みたいになれるわけないじゃない。あんたはμ's三馬鹿トリオの1人なんだから」
「……それはにこちゃんもだよ?」
「……とにかく。あんたは絵里を目指す必要はないの。絵里みたいな生徒会長にならなくても、高坂穂乃果流の生徒会長になればいいんだから。それに、もしあんたが絵里みたいになったとしても、私が全力で辞めさせるから」
「え、なんで?」
「何でって、当たり前でしょ?」
まったく、穂乃果もまだまだね。そんなこともわからないなんて。これはまた教え込まないといけないようね。
「私たちはスクールアイドル。1つのグループに同じキャラは2人もいらないのよ」
姐御なにこっちでした。
次回、再び遭遇!?
お楽しみに
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