ルークの英雄譚(TOA×聖剣伝説LOM) 作:ニコっとテイルズ
聖剣伝説LOMは、自由にイベントをこなせるゲーム。
小説としても、コメディとシリアスを交互に入れながら書き進めることができて、メリハリがとても効きやすいです。
さあ、皆さま。ご自身のオリジナル設定で、聖剣伝説LOMの二次創作を書いてみませんか? (宣伝)
それから15日ほど、ルークは鳥ヒナを世話し続けた。
マイホームで、食事をした後(ルークは料理ができないので適当に調味料を振った肉類を焼くか、果実の生かじりだけであったが)、毎日飽きることなく牧場に通った。
通ったと言っても、ほとんど世話をすることなく、じっとヒナを眺めるだけである。
しかし、これがたまらなく楽しいのだ。
ほとんど寝てばかりであるが、たまにちまちまとエサを啄み、ぶらぶらと歩き、最初は怖がっていたルークにも懐き始めた。
5日目になると、羽から体が黄色くなり、足もニョキニョキ伸び始め、薄いながら眼も出てきた。
10日目になると、尾まで完全に黄色に染まり、完全に自立歩行ができ、ルークの身長を完全に越して、くりくりとした目が完全に開ききった。
13日目になると、もうルークを乗せて運ぶことができるようになった。頭を撫でると、忠実にルークについてきてくれる。頼もしくも可愛らしい相棒であった。
ドゥエルから渡されたモンスター図鑑で調べてみると、これは『チョコボ』というモンスターらしい。
そして、あの時、鳥ヒナと出会った空き地で虚勢を張った時に言った『チャボ』という名前を、このチョコボに命名することにした。
……本来の意味は全く真逆であるのだが、無知なルークは響きの良さを気に入ってこう名付けたのである。
ところで、ルークには、日記をつける習慣がある。
この世界に来てからの文章は、不安と不満ばかりであったが、チャボを育ててからは、完全に飼育日誌と化していた。
日記を覗く誰もが驚くほどびっしりと大量の文章が書き込まれている。退屈な文言ばかりを読んでいた屋敷の人間が見たら驚くであろう内容が連なっていた。
そして、2日ほど牧場でチャボと一緒に遊んでいた。
ルークにとって、自分がじっと見てきたチャボが日に日に目に見えて大きくなっていき、ついには自分を運べるほどにまでになったことに感動してしまったのである。
チャボに乗って牧草地を駆けまわり、休憩の際にエサを与え、撫でると嬉しそうに目を細める。
単調ではあるが、しかしルークはこの上ない至福を感じていたのであった。
ところが、飼育開始から15日経った晩にふとルークは思った。
(コイツと一緒に外を回ってみてぇ)
退屈をこじ開ける鍵となった外の世界。
真珠姫からもらったアーティファクトがまだ二つも残っている。
どこかはわからないが、また胸が躍る経験ができるならば、もう一度旅立ってみたいと思うのだ。
(そうと決まったら、とっとと寝るか)
「じゃ、明日から頑張ろうな、チャボ」
チャボは、返事の代わりに頭をゴリゴリとルークの顔に擦りつけた。
ふさふさの毛並みを肌で感じながらルークは、破顔する。
そして、良い人生経験になったな、と思った。
*
ルークは、『車輪』を選んだ。
いつものように目を閉じてイメージをする。
最近ルークが分かったことであるが、アーティファクトの発動には、どんなイメージであろうと構わないようだ。
あくまでイメージをすることが、重要な条件のようであった。
いつものように車輪が手から離れていき、ドミナの町の隣側に落ちる。
車輪が、二度、三度バウンドした後、辺りが急に霧に包みこまれた。
視界を遮られたルークだが、気にせずにそのままその行方を見ていると、地面に着いた車輪から急に天を貫く眩い光が発せられた。
そして、光が収まったとき、盛り上がった小高い岩の丘が出てきた。そして、花弁が咲くように、パカッと開花する。
『リュオン街道』が、出現した。
「やっぱ、いいよな。アーティファクトって、きれいだよな。
なっ。チャボもそう思う……ダメか」
ルークが感動を共有したくてチャボを見たが、チャボは、地面に蔓延るアリを啄んでいるところであった。
「あ~あ。俺だけなんかな。アーティファクトで感動するのは」
自分が手塩にかけて育てたチャボの悪口は言わない。
けれど、乗り物代わりにするには、割と躊躇しないルークであった。
ひょいっと、チャボの背中に飛び乗る。
そのままチャボに乗ったまま、ドミナの町経由で、リュオン街道に向かった。
*
「ここどこ? 瑠璃くん?」
リュオン街道に入ってすぐに、十数日前に会った少女、真珠姫に遭遇する。
そして、明後日の方を向いて独り言をポツリと呟いていた。
寂寥感漂う街道でのその姿は、絵になるほど妙に様になっている。
「……何してんの、お前?」
その姿を認めたルークは、呆れた視線を真珠姫の背中に向ける。
その後ろでは、チャボが何かしらを啄んでいた。
「あ! ルークおにいさま! あ、あのね……わたし……また、まいごになっちゃった。瑠璃くん、どこかなぁ……」
「知らねぇけど、ドミナの町の酒場とかにいるんじゃねぇの? つーか、なんでホイホイあいつから離れるわけ?」
くるっとルークに振り向いた真珠姫の不安げな問いかけに、やれやれと言った表情で答えるルーク。
何だか、前よりも『ルークおにいさま』にときめかない。
コイツ育てたからかな? とルークは、後ろのチャボを一瞥する。
「え、えっとね。わたし……考え事していると、フラフラってしちゃうっていうか……気がついたら、ヘンなところにいるの……どうしてだろう?」
「知らねぇよ、んなの。頭のことなんざ、複雑すぎてよくわかんねぇみてぇだからな」
「そ、そうなんだ……」
ルークは、結局、記憶喪失の原因が解明されなかったことを想う。
話し方も歩き方も何もかも忘れていたというのに、再発防止のために日記を書きましょうぐらいしか医者は告げなかった。
だから、精神関連の医者をあまり信用していないのである。
「あの……ルークおにいさま」
「ん?」
「ここは……どこなの?」
相変わらず、一歩どころか、十歩ぐらい引いたところから真珠姫は言葉を発する。
周りにこの手の人間がいなかったルークにとっては新鮮であったため、珍しくは思いながらも、邪険には扱わないで答える。
「さあ? 俺も今来たとこだからわかんねー。
そんで、お前これからどうすんだ?」
「う、うん。こ、こっちに……いこうかな……いいのかな……?」
朧げな足取りの真珠姫を見ると、いくら何でも心配になる。
しかも、入り口ではなくて街道の奥の方に向かおうとしているし。
ルークは、溜息を一つ吐いて、
「俺たち、今からドミナの町に戻るから、送ってってやるよ」
そう提案した。
「い……いいの?」
「ああ。このまま放っておいたらどこ行くかわかんねぇ奴を、さすがに無視できねえよ」
「あ……ありがとう……ルークおにいさまは、やさしいのね」
はにかんだ笑顔の真珠姫。
なんだかぶっきらぼうだけど、この人はいい人、と真珠姫は信頼を寄せた。
どことなく瑠璃に似ていると言わなかったのは、彼女にしては、好判断であっただろう。
「ばっ! 勘違いすんじゃねーぞ。ついでだからな。俺たちもたまたまドミナの町に用事があったんだからな!」
ルークが苦手なのは、裏表のない天然タイプの人間である。
こういう相手には、どうもいつもの調子が出てこないのだ。
ガツンとするには、あまりにも儚すぎる感じがして、気後れしてしまう。
「う、うん……それでも……」
「だー! もういいって! 早くチャボに乗れよ!」
ルークは、我慢しきれずチャボを指さす。
「わぁー……おっきい。これ、ルークおにいさまの?」
「そうだよ。とっとと乗れって。この分だと、数人は、大丈夫だからな」
紳士なチャボは、膝を折って、真珠姫が乗りやすいように背中を降ろす。
背中の広いチャボは、乗る分なら、真珠姫とルークが密着する心配はない。
恋人を持っている(その割には、ずいぶん離れ過ぎているような気もするが)人間でも大丈夫だと、ルークは踏んでいた。
「チャボっていうんだね……よしよし、いいこいいこ。これからおねがいね」
背中に乗せた真珠姫のなでなでは、チャボにとっても心地よかったようだ。
キュピッ! っとお礼代わりの鳴き声を上げる。
(うわっ。すっげー破壊力)
ルークは思う。
このお姫様らしいお姫様が、キムラスカの王女だったら、と。
確かに、ガミガミ言われずには済むかもしれない。
でも、頻繁に迷子になって城中、いや、街中大騒ぎになるのなら、さすがに迷惑かな、と。
……やっぱ、ナタリアでいいかも。あいつ、政治に関しては真面目みたいだし。
ルークはそう結論付けた。
チャボに乗った2人は、リュオン街道を後にする。
『寂寞の街道とまいごのプリンセス』の絵画は、こうして無事取り外されたのであった。
*
ドミナの町の酒場の前で、真珠姫を降ろした。
瑠璃とは鉢合わせたくないので、ルークは中には入らない。
「ありがとう……ルークおにいさまとチャボ……くん」
「もう迷子になるなよ」
「うん……がんばる……」
無駄だと思いながらも、別れ際に一応ルークは言っておいた。
その後に、自分が人に注意を飛ばしていることに軽く驚く。
これも、人生経験ってやつかな、と、少し誇らしく思った。
ついでに宿屋に泊まるか~、と気分よく考えて、その入り口のドアベルを鳴らすと、
「あっ!!!」
宿屋の主人のカナリアのユカちゃんが、ルークを見つけて、いきなり羽根で指した。
そして、目を吊り上がらせながらズンズン近寄ってくる。
「な、なんだよ」
ルークは、巨鳥の影が自分を覆い尽くさんばかりに広がっていることに困惑していると、
「アンタ、宿泊料まだ払ってないッス!!」
「なんだ、それ……あ!」
ルークは思い出す。
チャボを拾った時、ここに泊まろうとしていたことを。
そう言えば、後払いだったっけ、とルークは今更ながら気づいた。
「ちゃんと払うっス! 泥棒は許さないッス!!」
「わぁってるよ、ウゼーな。払えばいいんだろ」
ルークは、渋々財布から正規の宿泊料分だけの金を出した。
しかし、ユカちゃんは、
「足りないッス!!!」
「はぁ!? なんでだよ。宿代はこれだけだろ」
「普段ならそうッス。でも、世の中には利息っていうものがあるッス。
2割増しで払ってもらうッス!」
「はぁ~!? んなもん、ぼったくりじゃねぇか!」
「そんなことないッス。これが社会の決まりッス」
「マジかよ……知らねぇよ、んなもん」
「とにかく払うッス!」
ユカちゃんに気圧されて、嫌々財布から出した利子分のお金を見て、ルークは思う。
これも人生経験ってやつかな、と。
ルークは、マイホームに戻ることにした。
このまま宿屋に泊まるのも気が引けて、少し面倒ではあるが、帰宅することにしたのである。
ドミナの町の入り口付近で、白い生物と会話しているタマネギ人間のドゥエルを見かける。
役には立っているが、自分の説明したいこと以外には答えない、なんだか気に食わない奴だ。
そして、八つ当たり気味にこう思う。
(くそっ! あいつを土に埋めりゃ、タマネギたくさん実って大儲けできっかな?)
それをすると、ここまで積み上げてきた人生経験が崩壊するが、ちょっと試したい気もするルークであった。
……すぐに、大量のタマネギ説明魔の増産と収穫の画に眩暈がして、頭(かぶり)を振ったが。
まっ!