ルークの英雄譚(TOA×聖剣伝説LOM)   作:ニコっとテイルズ

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 ぐま!

 草人が群がるマナの木の気持ちがわかった気がするニコっとテイルズです。

 UAとお気に入りの伸びに戦々恐々……投稿した瞬間にどこからともなく一斉に湧き上がりなさる読者様の群れ。そして、その波が2時間くらい経たなければ消えない、えぇ……なここ最近。
 人気が出る要因とは真っ向から反する小説を投稿し、さらに読者様をおちょくり続けている最悪の作者に皆様は何ということを……。
 
 ハーメルン全体で見てみれば全然大したことのない私でさえこうなのですから、上位にいる方は、ものすごく恐ろしいのではないでしょうか。

 インターネットというマナの木のもたらす恵みってやっぱり必要ですかね?
 ごめんなさい、ポキール。草人Nの私は、たくさん群がる同士を受け入れられるほどの準備ができていないです。

 ローレライ? 迷惑だから地核にいないで早く音譜帯に逝ってよ。



5.「ペット牧場」前編

 ルークはドミナの町へと戻って来た。

 モンスターから拾得した小銭を対価に、ひとまず宿屋で休むつもりである。

 ここでもお金が必要だと、別れる前に瑠璃からそう教わった。

 お金ってこんなに使われてるんだ。知らなかった。

 と、ルークの人生経験値は僅かに上がる。

 

 宿で部屋をとってから、ルークはドミナの町の商店街を歩く。

 彷徨する多種多様な生物の姿を見て、いくらルークでも気がついたことがある。

 

 この世界は、普通の“人”が少ないんだ、という事実に。

 

 道行くものは、猿であり、花人であり、草人であり、鳥であり、蝶であり、甲虫(かぶとむし)である。

 その全員が仮装しているという仮説は、残念ながら崩さなければならなかった。

 ならば、純粋な人というのは存外少なくて、生物が人の姿をして歩くのが世界の日常である、とルークは納得していた。

 むしろ、屋敷の中に純然たる人間ばかり集まっていた方が珍しいのだ、と。

 

 屋敷に引きこもっていなければならなかったのが幸いだったかもしれない。

 その分だけ、ルークには常識というのが確固たるものとして形成されていなかった。

 それ故、逆に順応性という点では、ルークは人一倍高いのである。

 下手に元の世界オールドラントでの常識が確立されていたならば、宿屋の主人が恰幅の良いカナリヤであることを受容できない可能性があった。

 

 それは良かったのであるが……

 

「バチカル? 聞いたことないッス」

「バチカル? ごめんね、おばさん地理に疎くってね。ねえねえ! それより聞いて欲しいんだけど~!」

「バチカル? ふぅむ……申し訳ありませんが、存じませんな」

「バチカル? 知らないワヨ。ミーのお仕事の邪魔しないの」

 

 商店街から教会、バザールにまで顔を出したにも関わらず、バチカルを知っている人は誰もいなかった。

 

「くっそーーー!!! 誰か一人くらい知っててもいいだろ!」

 

 未だにルークは、別世界に来たことに気付いていない。

 そんなにもあの王都の存在はちっぽけなものだったのかと思ってしまう。

 

 最初にポキールと会話をした時に、驚愕して思考が凍り、『この世界』という言葉が頭に刻み込まれなかったのがいけなかった。

 それを差し置いても、元の世界は人間中心であることに無知な分だけ、今いる世界は人間以外が中心であるという違和感が、別世界であるというシグナルとして機能していないのである。

 

 それでも諦めずに道行く生物に訊ねて回ったが、無論求める回答が返ってくるはずもなく。

 しまいには、住宅街を抜けて、町の外れまで辿り着いてしまった。

 

 しかし、そこで思いがけない出会いを果たすこととなる。

 

 

 

 

 

 

「あ、あれは鳥ヒナだな。こんな人の多いところにいるなんて珍しい」

 

 手入れも何も行き届いていない未開発の空き地で、小柄なタマネギ人間が、珍しそうにそれを見る。

 ルークからすれば、この町で人間の顔をしていない純粋な植物人間の方が物珍しいと思ったが、足音を感知したのか、タマネギ人間が振り返り、こう訊ねてきた。

 

「あ! キミは……チャボくんだね?」

「……はあ?」

 

 やや硬直して、ルークは、間の抜けた声を上げる。

 そして、「チャボってなんだ?」と首を傾げていると、タマネギ人間の喋りが続く。

 

「あっ、違ったのか。いや~、会いたかったんだよな。チャボってすげぇからさ」

 

 残念がるタマネギ人間。

 へ~、チャボってすげ~んだ、とオウム返しに思ったルークは、

 

「いや、俺はチャボだ。チャボ様だよ。よく覚えとけ!」 

 

 得意げに自分を指さし、胸を張ってそう言ってしまった。

 

「おお~、キミがチャボくんか! すげぇなあ!!」

 

 喜色満面の笑みで、玉ねぎ人間が握手を求めてきた。

 ルークは、面食らいながらも手を握り、お前の名前は、と辛うじて訊ねる。

 

「オレはドゥエル。見ての通り、タマネギ剣士さ。 

 ……ちょうどいい、チャボくん。あそこにいる鳥ヒナが見えるかい?」

 

 ドゥエルの指す方角に、卵から鼻と羽と足がニョキっと生えているような、膝丈にも及ばないくらいの生物がいた。

 そして、特にあてもなく、あちこち歩き回っている。

 3歩右に行っては、引き返し。2歩左に行っては、何かにビックリして引き返す。

 

 

「……見えっけど、アレなんだ?」

「あれが、モンスターのヒナだ。こんなとこにいるなんて珍しいんだよ。

 ちょうどいいから、捕まえてごらんよ」

「いや、ヒナっつっても、モンスターだろ。捕まえたらヤバいんじゃねえの?」

「いや、そうでもないさ。確かに普通のモンスターは、人間に懐かない。

 けれど、ヒナのうちに育てたモンスターは、野生の本能を失って、人に懐くのさ。

 そしたら、チャボくんの役に立つことがあるかもしれないよ」

「へ~。モンスターを仲間にできるんだ。面白れぇじゃん!」

 

 確かに、メキブの洞窟で襲い掛かってきたマイコニドや、バットムとかが仲間になったら心強いな、とルークは思った。

 

「その意気さ、チャボくん。

 さあ、エサをあげるからさ、捕まえてごらんよ」

 

 ドゥエルが説明する。

 モンスターのヒナは、臆病で警戒心が強く、不用意に人間が近づいたら、すぐに飛び上がって逃げてしまう。

 だから、肉や果実を辺りに置いて食べさせる。満腹になるとすぐに眠ってしまうから、その隙に捕まえてみよう、とのこと。

 

「お~。やるやる!」

 

 ルークは、喜び勇んで、すずぶどう、さいころいちご、イカレモンを受け取った。

 屋敷にはない奇妙な形のものばっかだな~、と思いながら3種類の果実を抱える。

 やはり、ルークの柔軟性は人一倍高いのだ。

 

「じゃ、今言ったことに気を付けて、頑張ってごらん!」

 

 ドゥエルは、励ましの声とともに、ヒナの方に向かって行くルークを見送った。

 

 

 

 

 

 

 ルークはかくれんぼが得意だ。

 屋敷の中はかなり広く、隠れる場所は豊富にあるというのもあったが、鬼が隠れ場所に近づいたら逃げて時間を稼ぐのがセオリーとして確立しているのである。

 そんなズル賢いルークは、こういう手合いに強いのだと自負していた。

 

 まず、ヒナを囲うように、貰った3つの果実をばら撒く。

 そして、果実のないところに自分が立ち、エサのない所へは向かわせないで、エサのある方向に追いやるのだ。

 

「おらぁ! こっち来てもエサねぇぞ。捕まえるぞ、チビドリ!」

 

 エサのない方向に来た鳥ヒナの前にルークは立ちはだかる。

 

 ところが、思った通りに事は運ばない。

 ヒナは、良くも悪くも当たり前のことができなかった。

 なので、

 

「あ、どうして、こっちに来るんだ!? おい、待てって!」

 

 赤くて大きい乱暴な人間にビックリした鳥ヒナは、仁王立ちのルークの足の間を通り抜け、エサのある所とは違う方向へ全速力で駆けていく。 

 反射的にルークがその後を追ってしまうと、今度は素直に逃げて、ますますエサの置いてある所から離れてしまう。

 

(くそっ! さっき俺の方に来なかったら、作戦は完璧だったのに!)

 

 結局、ルークは、町はずれの前の住宅街付近まで走り、先回りをしてヒナの逃亡を阻止した。

 無事にヒナは、町はずれの方向にとてとてと戻って行く。

 先ほどの反省を生かして、今度はゼィゼィと息を吐きながらルークは、ドゥエルのそばでヒナがエサに食いつくのをゆっくりと待つことにした。

 

 ところが―――

 

「→」

「↓」

「!」

「→」

「↑」

「!」

「♪」

 

 追い立てられて興奮したヒナは、縦横無尽の、とりとめのない移動を繰り返して、ルークを苛立たせる。

 

(くっそ~! 早く食えっての!)

 

 目が見えないのか、エサのある方向に気付かない。

 あちらこちらに移動して、ちょうどエサとエサの間を通り抜けたり、エサに飛びつくかと思ったら、急に反対方向に引き返したりと、なかなかルークの罠に引っかかってくれない。

 

 そしてしまいには―――

 

「・・・」

「ヒナが疲れているみたいだ。今うとうとしているから、チャンスだよ、チャボくん」

 

 ドゥエルがそっと出してくれた指示を聞いて、ルークは、般若の形相で鳥ヒナに近づき、

 

「おらぁ! もう逃げられねぇぞ、チビ助!」

 

 潰さない程度には弱く、捕まえるには強すぎる力で、鳥ヒナを抱え込んだ。

 鳥ヒナが、怖い人の腕の中でジタバタしていると、

 

「ミーがお届け♪ ヒナをお届け♪ 牧場に~♪」

 

 愉快な声とともに、先ほど聞き込みをした一人のペリカン便が飛来し、ルークの腕の中から、鳥ヒナを収奪していく。

 

「お、おい!」

「だいじょうぶさ。あのペリカンは、アマレットちゃんって言って、こういうペットを牧場に送ってくれるのさ。

 今頃、チャボくんの家の牧場に着いているんじゃないかな」

 

 慌てるルークをドゥエルは宥める。

 

「そ、そうなのか?」

 

 ルークは、自分の拠点に使ってもいいと言われた家をぐるっと一周回った時に、牧場があったことを思い出す。

 確かに、あそこなら育てられるかもしれないが……

 

「さあ、オレたちも行ってみようぜ。チャボくんにペットの育て方を教えるからさ」

 

 ドゥエルがそう言って、町はずれを出ようとする。

 

「あ、おい、待てって」

 

 モンスターのヒナには、エサが必要だろうと、ルークは空き地にばら撒いた3種の果実を回収する。

 拾い上げながら、エサを消費しなくてよかったと思うべきなのか、時間を浪費させられたと思うべきなのか、考えさせられた。

 結局、結論が出ないまま、ふとルークがドゥエルに訊ねる。

 

「そういや、あのペリカン、どうして俺たちがヒナを捕まえるタイミングが分かったんだ?」

「さて! ヒナを育てるのは大変だよ。でも、オレがみっちり教えてやるから、大丈夫。チャボくんは、何も心配しなくていい」

「いや、その前に、あのペリカンについて知りてーんだけど」

「まずは、エサについてだね。エサには、肉と果実があって……」

「おい、タマネギ! 人の話聞けって!」

「このすずぶどうって言うのは……」

 

 ドゥエルは、人の話に耳を傾けない。

 ルークは、世界の不思議について知りたいのに、果実のことばかりを解説する。

 

 ルークは、頭が悪くない。興味を逸らされようと、その説明はちゃんと吸収する。

 なので、果実にも種類によって様々な効果の違いがあるから、いろいろ試してみると良いというのも頭の中に入れた。

 しかし、蔑ろにするなタマネギという、悪感情も引きずってしまう根深さも持ちあわせている。

 だから、懇切丁寧な説明を続けられても、ドゥエルへの評価が上がることはなかった。

 

「……というわけさ。わかったね、チャボくん?」

「………………」

 

 そういや、なんでコイツにチャボって名乗ったんだっけと、ルークは先ほどの虚勢を疑問に思った。

 

 

 

* 

 

 

 

 

 ルークは、『マイホーム』に戻って来た。

 せっかくの自分の家なんだからそう呼ぶといいさ、とはドゥエルの弁である。

 確かに、単に「家」と言うのも芸がないと思っていたルークは素直に従うことにした。

 

 

 

 牧場でドゥエルは、実に手際よく説明を始めた。

 

 ヒナが成長しきるまでは、小屋の中で育てれば良いとのこと。

 エサを切らさなければ、ヒナは勝手に育つらしい。

 成長しきるまでは、小食であるから、一回給餌箱にエサを入れればどんなモンスターであろうと、すぐに育つ。

 そして、そのエサは、無料でペリカン便が入れてくれるとのこと。

 至れり尽くせりの慈善サービスさ、とドゥエルは評し、ルークも頷く。

 

 成長したら、一緒にパートナーとして戦うことができるのは先ほど言った通り。

 しかし、モンスターによって当たり外れがあるから、ダメだと思ったら、ドミナの町のジェニファーにお願いすればよい。

 彼女なら、どんなモンスターでもカワイイらしく、必ず相場通りの値段で引き取ってくれるそうだ。

 そして、結びとしてモンスター図鑑を渡してくれた。

 

「これで説明は終了だ。元気なモンスターを育ててくれよ。

 したらな!」

 

 ドゥエルが叱るような声で別れの挨拶をするものだから、ルークは一瞬体がビクッとしてしまった。

 そして、タマネギ頭が立ち去って行くのを見送る。

 

 完全にその姿が見えなくなった後、ルークは、早速ヒナの様子を見た。

 小屋の中の藁にくるまりながらスヤスヤと眠っている。

 先ほどまで憎たらしく追いかけまわさなければならなかったのが嘘のように大人しくなっていた。

 

「………………」

 

 動物の赤ん坊の可愛さに惹かれてしまうのは、老若男女誰しもがそうである。

 そして、ルークとて、それは例外ではない。

 小憎たらしく自分の周りに付きまとわれるならばともかく、ここまで無防備な姿をさらけ出されると、気合を入れて育ててみたくなる。

 いや、先ほど余計なことはしなくてよいと言われたから、成長過程を見守りたいという意味であるが。

 まして、今はルーク一人。屋敷でペールの土いじりを手伝ったら身分違いだからやめろと叱られたが、ここでは何をしても構わないのだ。

 

 

 

 何をしても構わない?

 

 

 

 心の中のアヤしい響きにルークは引っかかった。

 もともと活発なルークのこと。屋敷での退屈な生活に飽きて、常々自由が欲しいと思っていたところに、これ以上ないほどの機会が得られたのだ。

 それを今、実感する。実感してしまった。

 

「ふふふ……」

 

 ルークは、不敵に笑い、小屋の中に流れる空気が一変する。

 この匂いが好きになったのだ。これは、自由の空気。自由の香り。

 

 記憶喪失で帰ってきて以来、「屋敷から出るな!」「勉強しろ!」「アイツとは話しかけるな!」と、種々様々な束縛を他者から受けてきた。

 そして、常に命令される内に、自分でも、骨の髄どころか細胞の一つ一つまでをも拘束してきたのである。

 

 ところが、今はどうだ。

 牧場(ここ)の空気は人を自由にする。ルークは、歴史の教科書の格言を捩(もじ)って、こう表現した。

 

 ルークは、大きく深呼吸をする。

 自由の空気が呼吸器官を通して体内に入り込み、細胞の一つ一つに掛けられている拘束具を猛烈な勢いで駆逐していく。  

 戒めから解放された細胞は、群をつくり、器官をつくり、そして、体全体を構成していく。

 終いには、心身合一し、総司令官の頭脳が、『自由』という方針を決定した。

 

 そして――――

 

「いよっしゃ! しばらくは帰らねぇぞ! 俺には、コイツを育てる義務があるんだからな!」

 

 ここに屋敷嫌いのルークが爆誕してしまったのである。

 一応、名目を用意するあたり、王族の立場を忘れていないというべきか。

 何はともあれ、積極的に屋敷に帰る道を探し回ることはなくなりそうである。

 

(今なら、あのティアとか言う女にも感謝していいかもしれない) 

   

 ついには、元凶となった襲撃者を讃えたい気分になった。

 あのまま屋敷にいたら、こんな気分を味わうまで、あと3年はかかったであろうから、沸き立つものを止められないのである。

 

 ワクワクする。ドキドキする。自由サイコー!

 興奮し過ぎて小躍りでもしようかと思っていると、

 

「ピー、ピー!」

 

 藁の中で鳥ヒナが泣き出した。

 ルークの大声に、ビックリしてしまったようである。

 

「おっと、ついはしゃぎ過ぎたか」

 

 満面の笑みでルークは、ヒナを撫でる。

 ゆで卵のような感触で、しかしそのツルツルとした撫で心地が、愛おしくてたまらなかった。

 自由に気付いたルークは、その表象として、この鳥ヒナを選んだのであるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まっ!

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