ルークの英雄譚(TOA×聖剣伝説LOM) 作:ニコっとテイルズ
おかしいなぁ。
受けないために、古い作品同士のクロスオーバー、硬派(笑)な文章、頓珍漢な場景描写の連発、転生者なし、オリ主なし、主人公無双展開なしと、SSとして人気が出る要素がないない尽くしのオンパレードにしたのに。
お気に入りの数1(自分のみ)になるかも、と予想していたのに……どうしてこうなった?
「緑色のプルプルしたもの」「生命線上を歩くアリの大群」が、波長良く私と合っているとしたら、それは偽物ですよ。今からでも、魔法都市ジオのラベンダーの元を訪ねてはいかがですか? それとも、Dr.ジェイドが必要ですか?
メキブの洞窟を地下へ地下へと降っていく。
下って行くうちに、視覚は闇に適応し、身体は岩盤に適応していった。
瑠璃のアドバイスの下、ルークは戦闘をこなしていった。
デスクラブという、ハサミを飛ばしてくるカニのモンスターには、遠距離から隙を窺い、ルークの巨剣で一刀両断した。
ポトという、眠そうな目をしたカメレオンのモンスターの伸ばしてくる舌を瑠璃が切り裂き、痛みでのたうち回らせている内にとっとと先へと進む。
ルークは、次々襲い掛かるモンスターをばっさばっさと切り捨てることができるという実感を経て、な~んだ、魔物って大したことね―じゃんと思い始めていた。
もっとも、ヴァンという絶対的な師匠がいるために、勝てない存在がいるというのはルークの頭に叩き込まれている。
なので、慢心して、瑠璃の助言を無視するということはない。
瑠璃とは、口を開けば皮肉を言い合うが、たいがいルークが丸め込まれるので、道中は黙々と進んでいる。
しかし、戦闘においては、複数のモンスターが出現した時の連携で、互いの行動を具(つぶさ)に観察することになるので、徐々に呼吸が合い始めていた。
ルークの目から見ても、瑠璃の剣の腕は確かだ。
剣の振りの速さから、日頃の鍛錬を怠っていないことがわかるし、戦いにおいてほとんど呼吸を乱すことなく豊富な知識を以って敵の弱点を突いている。
まだ、いけ好かない蒼い奴という評価は揺るがないが、剣の腕と旅慣れていることは認めても良さそうだと、ルークは思い始めた。
瑠璃にしても、ルークは連れてきて正解であったと判断する。
実戦経験や知識は不足しているものの、大剣の齎す破壊力と、わずかなアドバイスで機転の利いた対処を考案し実践する頭の回転の速さは認めても良い、と思った。
皮肉で流さなければ、紛れもなく自分と衝突してしまう性格なので、あまり長時間一緒には居たくないが、戦力としては及第点であった。
決して口には出さないが、それでも呼吸を合わせて、2人は突き進んで行く。
「もうすぐ着く」
洞窟を大分深くまで歩いたとルークが思った時、瑠璃が短く告げる。
「こんなとこまで来るなんて、お前のツレも大したもんだな」
「いや、アイツは適当に歩いて、モンスターさえもなぜかスルーしながら迷子になっていくんだ。
戦えるわけじゃない」
「ああ!? なんだ、幸運の女神でもついてるのかそいつには?」
「そうかもな。モンスターに関しては、さほど心配ないんだが……」
「ん、なんだよ?」
不自然に言葉を区切る瑠璃にルークは顔を向けて訊ねる。
「……いや、何でもない。お前には関係ない話だ」
その返答に、ルークは、フンと鼻を鳴らす。
「はいはい。真珠姫とやらを見つけたら別れる俺には関係ないですよ」
「……そう思っていてくれ」
ルークは眉をひそめる。
今の言葉には、邪険に扱うというよりは、どこか懇願めいた意思が伝わって来たからであった。
蔑ろにするというよりは、危険だから来てはいけないという警告の調子。
それぐらいの違和感は覚えたが、しかし、訊ける雰囲気でもない。
ま、いいか、どうせ屋敷に帰るついでだし。そう思っていた時、
「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!」
洞窟の最奥部から、女の子の悲鳴が響いてきた。
「な、なんだ!?」
「真珠!」
瑠璃が駆け出し、一瞬硬直していたルークもその後を追う。
*
女の子は見つからなかった。しかし、悲鳴を上げた原因はわかった。
「でっけぇサル……」
「ドゥ・インクか! こんなところで!」
ルークは身の丈が自分の8倍はありそうな巨大なサルのモンスターに思わず目を見張った。
頭から背中にかけて、ゴワゴワとした獣毛が続き、それが尾まで覆いつくしている。
腹部はでっぷりと出ており、筋肉らしきものは見えない。しかし、その手が握る刃付きの巨大な棍棒から、力強さは言うまでもない。
さらに、その巨体はサンダルを履いているところを見ると、ある程度の知恵があることは窺えた。
しかし―――
「ルーク。ドゥ・インクは、加減を知らない。
人を食べることはしないが、玩具にして遊ぶのが大好きだ。
お灸を据えてやらねば、倒せるものも倒せない。気合を入れろ」
瑠璃の言葉から判断するに、人間にはとても友好的とは言えなさそうである。
むしろ、知恵がある分だけ余計にたちが悪いと言うべきか。
ドゥ・インクがこちらを見つめる目も、明らかに爛々としていて、快活に棍棒を振り回しているあたり、間違いなく無視することはできないだろう。
「わぁった。この部屋はかなり広いから、挟み撃ちで行くぞ」
あれやこれや命令されるのは面白くないが、ルークとしてもこの巨躯を打ち倒すには一筋縄ではいかないことがすぐにわかる。
「ああ、お前は後ろに行け。オレが前に回るから」
瑠璃は自ら危険を冒すつもりであった。
そして、ドゥ・インクの元へと素早く走って行った。
「ったく、ぺしゃんこになるんじゃねぇぞ」
一つ悪態をついて瑠璃を見送り、ルークもドゥ・インクの背中を目指して旋回する。
(硬ぇ!)
剛毛の厚さは想像以上であった。
ブロンズブレードは、確かにそこまで切れ味は良くないが、ルークの強化された力を合わせれば道中の魔物を両断するほどには十分な威力を持っている。
ところが、精一杯切り上げても、せいぜい腰ほどしか剣が届かない上に、分厚い毛がそのダメージすらも吸収してしまう。
ドゥ・インクからすれば、剣を叩きつけられようと、小石を投げられようとあまり変わらないのであろう。全くダメージが通っている様子がない。
ドゥ・インク自体も、ルークではなく、瑠璃の方に集中している。各個撃破のつもりなのだろう。
瑠璃の方を見た。
何とか毛のない腹部に近づこうと隙を窺っているが、蹴りと棍棒の牽制で思うように近づけないようである。
まだ、棍棒の方は隙があるが、頻繁に繰り出される蹴りが厄介であった。距離を詰めてもすぐに離されてしまう。
「ちっ! 奥の手を使うか」
キリがないと判断した瑠璃は、いったん距離を取って、必殺技をお見舞いすることにした。
ニヤニヤしながら距離を詰めるドゥ・インクに、
「レーザーブレード!」
己の刀を雷撃の刃に変え、猛烈な勢いとともに振り下ろした。
「すげぇっ……」
ルークが、その衝撃に思わず感嘆する。
電撃の剣は、余裕の笑みを浮かべていたドゥ・インクの胸から腹部を切り裂き、初めてその表情を苦悶へと変えた。
「ちっ! これでもダメか」
しかし、ドゥ・インクにある程度ダメージは与えられたが、その表情は怒りに満ち満ちたものとなった。
今度は油断なく瑠璃との距離を縮める。
それを見て、瑠璃はとっさに距離をとるために走り出すが、
「ぐわっ!」
その進路を予想したドゥ・インクの棍棒が瑠璃の眼前に打ち下ろされ、衝撃波が起こる。
棍棒の直撃こそ免れたものの、引き起こされた大地の揺れに踏ん張りきることができず、瑠璃は吹き飛ばされてしまう。
「瑠璃!」
ルークが叫び、慌てて救出に赴こうとする。
しかし、その時、足元に瑠璃のレーザーブレードがもたらした緑色の円陣の存在に気が付いた。
(これを使えば!)
ルークはヴァンから習ったことを思い出す。
『ルーク。お前の双牙斬は、風の譜陣の上で使うと技が変化する。
これはFOF(フィールド・オブ・フォニムス)変化と言って、普通の特技がより強力なものとなるのだ。
……見たいか? では、実践してやろう。サンダーブレード!
……見よ、これが風の譜陣だ。強力な風属性の攻撃をした時に発生する。
そして、この上で双牙斬を放ってみると……』
ルークは、譜陣のサークルの中心に立って、瑠璃に近づこうとするドゥ・インクを挑発する。
「おい! お前! こっち来いよ。
そんな倒れちまったヤローじゃなくて、俺が正面から遊んでやるよ!」
ドゥ・インクは、ちらりとルークを見た。
賢いそのモンスターは、言葉の意味は分からずとも、それが挑発行動だと理解した。
なので、痛くも痒くもなかった大剣を繰り出す紅い髪の男よりも、驚異的な攻撃を叩きつけた瑠璃の方を警戒する。
だから、普通の悪口程度では、挑発に乗ることはなかったのであるが。
「あんだ? 怖いのか? そんなでっぷりした運動のできねぇメタボ体質じゃ、動かないおもちゃの方が好きってことか?
はっ! お前にドゥ・インクなんてご大層なお名前はもったいねぇな、それじゃ。
俺が、今から別の名前をくれてやるよ! 『デブザル』ってな!」
言葉の意味は分からない。
けれど、『デブザル』という響きの持つ侮蔑的なニュアンスは、確かにドゥ・インクの頭でも理解できた。理解できてしまった。
もしも忍耐力があれば、なおもルークよりも瑠璃の方を警戒したかもしれない。
しかし、生憎とドゥ・インクはそこまで煽り耐性が強いわけではなかった。
知恵はあれど、忍耐強さは人間に及ぶものではなかったのである。
「ぐぉ~~~~~!!!!」
なので、怒りを爆発させたドゥ・インクは、ズシンズシンと足音を響かせてルークの方へと向かう。
(よし! 予想通り、やっぱ馬鹿だ)
してやったりの表情で笑うルークであったが、自らを軽く踏み潰せそうなほどの巨体が迫ってくることに心の中ではかなり焦っていた。
しかし、口元だけは余裕の笑みを浮かべて、内心の焦燥を押し殺す。これも師匠から習ったことだ。
こんなとこで潰されたりはしない。死ぬつもりはない。
イメージしろ、ルーク。思い浮かべるべきは、師匠の技。
双牙斬が変化したあの強力な一撃。
瞳を閉じ、師匠の技の一挙一動の完全なる動きを今この瞬間できることをルークは、強引に確信した。
そして―――瞳を開ける!
「受けろ、雷撃!」
じっくりと引き付けたドゥ・インクの腹部に初撃の袈裟懸けを入れる。
二撃目の返す刃で切り上げ、地面を強く蹴って跳躍。
そして、記憶の中の師匠の技と、頭の中の己のイメージを合致させた。
「『襲爪雷斬』!」
風の音素(フォニム)を纏った剣とともに、空中をかけ登ったルークは、生み出した雷電とともに、ドゥ・インクの顔から腹まで、縦の真一文字を焼き付ける!
電光石火の名にふさわしいルークの強力な一撃。無防備な顔から腹までに刻み込まれた紫電の一閃に、いかなドゥ・インクの巨体とて、耐えきれるものではなかった。
「ゴォォォォォオオオオオオオ!!!」
ドゥ・インクの巨体は、その一撃に耐えきれず、悲鳴を轟かせながら仰向けに倒れ込む。
ドシン!!! と辺りに鳴り響くその巨体の転倒の衝撃は、脆くなっていた洞窟の天井からの落盤を引き起こす。
そして、鍾乳洞の巨石が、暴れまわっていた巨体の息の根を完全に封じるがごとく、夥しい量降り注ぐ。
ドゥ・インクの姿は、もう見えなくなった。
*
「ちょっと、サービスが過ぎたな」
ルークは、雷撃の一撃の思わぬ副産物を見て、喜ぶ前に慄いた。
倒すつもりではあったが、ここまでの岩石の崩落を齎すつもりはなかったのである。
一歩間違えれば、自分も瑠璃も巻き込まれていた。
落盤が降り注いだ後の土埃が漂う中で、冷や汗を隠せない。
「お前に救われるとはな……」
瑠璃は、ゆっくりと体を起こす。
悪態をつくも、ルークの力には心の中で感嘆していた。
剣技と状況判断の良さは認めていたが、これほどの魔力を纏った一撃を生み出せるとは思ってもみなかったのである。
「へっ! もう奴隷商人だろうと、大したことねぇぜ」
「……フン、あんな戯言をまだ信じていたとはな。やっぱり、馬鹿であることには変わりないな」
「あぁ!? あれ、嘘だったってのか!?」
ルークは、割と本気で信じていた。
王族で攫われた経験(記憶にはないが)があるからこそ、警戒していたというのに。
さらに、馬鹿にするだしにまで使われて、やはり瑠璃に対しては立腹しきりのルークであった。
「だぁ~~~~! もういい! とっとと探し人を見つけろっての! 蒼男が!」
「お前に言われずとも、もう見つけた。……出て来いよ、真珠」
瑠璃は物陰になっている石筍の方を見る。
むくれたルークもそちらを向くと、
「瑠璃くん?」
鈴のような声が響いた。件の真珠姫の声のようだ。
金髪で、瑠璃が言っていたように編み込んでいる。首周りは、大量のパールで覆いつくされ、心臓に当たる部分の巨大な真珠を囲っていた。
白く可憐なドレス姿と、華奢な体つき、純真無垢そうな顔つきからは、なるほど確かに危うさを感じられるほどの庇護欲をそそられる。
「核は傷ついていないか?」
瑠璃が真珠姫に近づきながら、心配げに訊ねる。
「ええ」
そして、コクリと頷いた真珠姫の返答に安堵の息を漏らした後、
「一人でウロツクなとあれほど言ったじゃないか。
どうしてこんなところに?」
目を釣りあがらせて、咎める口調になった。
「考え事をしていたの……いろいろ……」
不安げな声で真珠姫は怒れる瑠璃にたどたどしく言葉を紡ぐ。
「今は考えなくていい。
今はおとなしく、俺に守られていればいい……」
ルークには、瑠璃の言葉は、頼れる王子様の声というより、どこか縋るような声に思われた。
「でも……」
「いい加減にしろ!」
鍾乳洞に瑠璃の怒鳴り声が、壁に反響しながら劈(つんざ)く。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
しょんぼりと繰り返し謝る真珠姫に、
「おい。そいつ謝ってんだろ。許してやれよ」
ルークは、助け舟を出した。
「お前は黙ってろ」
「んだと!」
売り言葉に買い言葉。
しかし、今回は不毛な喧嘩には至らない。
「このひとは……?」
おずおずとした声で、真珠姫が瑠璃に問うたからである。
「オマエを探すのを手伝ってくれた」
「ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ。
そいつに剣だの防具だのを奢られてここまで手伝わされたってわけ」
「そ、そうなんだ……」
真珠姫は、ビックリしたような、けれどちょっと怯えた目でルークを見る。
「そろそろ行こう……じゃあな」
瑠璃は、素っ気なくこの場を後にしようとする。
一方、真珠姫は、おそるおそるルークの方に近づいて来た。
「あの……あ、ありがとう……」
そのはにかんだお礼の言葉に、
「お、おう」
感謝の言葉に慣れていないルークも戸惑って、気の利いた言葉が出てこない。
そして、照れてしまう。ルークの頬の紅潮が伝染したのか、真珠姫の頬もまた赤く染まる。
しばらく、こそばゆい時間の流れが一帯を支配した。
「行くぞ」
そんな妙な雰囲気を、瑠璃の無機質な声が停止する。
「ごめんなさい。いま、いくわ」
そう言ってなおも真珠姫は、ルークの元へと向かい、
「ルークおにいさま。あの……これ、お礼です……」
恥ずかし気に俯きながら、真珠姫は、2つのアーティファクトを取り出す。
一つは『車輪』。
当然ながら、本物ではなく、手の平に収まるほどの玩具のようなものだ。
しかしながら、車輪に蔓延る無数の赤錆は、本当に何十年も人々の重みに耐え、その足を支えてきたように見受けられた。
行商人の山のような商品を運搬したか、あるいは辻馬車として旅人の足となったのか、とにもかくにも歴史がその車輪に刻み込まれているかのように思われるのである。
その重みの伴う絶え間ない回転は、大地を均し、轍をつくり、その役目を終えた歴史の証人として今この場に現存するようであった。
もう一つは『炎』
鉄の円筒に湛えている紅く凍れる炎は、厳しさの象徴のように見えた。
炎は、三対の鎖が円筒と結節し、束ねられた持ち手の部分があることから、闇を照らす紅い道標として使われているのであろう。
しかし、その炎は決して休息を求めない。常に一定の調子で役目を果たし続ける。
小規模ながらもどこか威厳に満ち満ちた炎は、厳格な道を歩む者のみを持ち手として選ぶ、そう思えてならなかった。
しかしながら、ルークは、そんな2つのアーティファクトよりも魅了されたことがあった。
『ルークおにいさま』
真珠姫から発せられたその響きのなんと蠱惑的なことか。
ルークは、その言葉の衝撃で、全身の血という血の流れが止まってしまったかのように思った。
今までルークは、『おにいさま』などと呼ばれたことはない。
当然だ。屋敷に仕えるメイドというのは、経験豊富な熟練の年配者が多く、優秀で若いキレイなメイドでさえも、齢十七のルークより年下というのはあり得ない。
その呼称も、『ルーク様』である。自分に傅く年上全員から呼ばれるのは、一切の例外なく『ルーク様』でしかないのだ。
屋敷の外から子供が紛れ込むというのもあり得ない。もしも客人として連れて来られたとしても、王族のルークは、『ルーク様』としか呼ばれないであろう。
ところがどうだ! 『ルークおにいさま』とは。こんな呼ばれ方があるのか!
一人っ子かつ王族のルークがこのように呼ばれるとは……呼ばれ方ひとつで、こんなにも自分の体が高揚するとは、記憶喪失から帰ってきて以来初めての経験であった。
「あ、あの、ルークおにいさま?」
差し出したアーティファクトを受け取らずに硬直しているルークに、ビクビクしながら真珠姫は声をかける。
それによって、ルークの意識は、天界から下界へと引き戻された。
「へ? あ、ああ。お礼の言葉なんて言われ慣れてないからな」
ルークは、そう誤魔化して、顔を伏せながら真珠姫の小さな手からアーティファクト2つを貰い受け、ポケットにしまった。
付言すると、お礼の言葉を言われ慣れていないこともそうであるが、ルークはお礼の言葉を言ったことすらない。
「そ……そうですか……」
「さて、行こうぜ。またあのヤローからどやされちまう」
「はい……」
ルークはわかった。
なるほど、これは瑠璃が匂いを追いかけて探しに来るほどのかわいい女の子である、と。
こんな少女がいるなら、確かに命を懸けてでも探しに行きたくもなる。
恋人か。屋敷にずっといたから想像したことすらなかったぜ。
ああ、そういえば自分にも婚約者がいたような気もする。でも、『プロポーズの言葉を早く思い出してくださいませ』という催促がウザイったらない。
記憶喪失前に、婚姻が確定し、ガミガミと説教の鬱陶しい人間よりは、清純なこういう少女の方が良いな、とルークは密かに思う。
とはいえ、先約がある人間から寝取るほど、ルークは不道徳ではない。
それが、あのいけ好かない奴であるっていうのは、少々気に食わないが、恋人ができるほどの女の子は人気が高いだろうし。
母上だって、年とってもキレーだし、昔はモテたって聞いてるから、まあ、こういうものか。
ルークは納得した。
この2人は、恋人同士などではなく、ある意味それ以上に密接な関係であるのだが、そのことはまだ知らない。
そして、瑠璃と真珠姫とともに、メキブの洞窟を上へ上へと昇って行く。
やがて青い空から日光の降り注ぐ地上に出たところで、2人と別れた。
真珠姫は重ね重ねお礼を言ったが、瑠璃は相変わらずの素っ気なさであった。
ルークは、出てきたばかりのメキブの洞窟の中を振り返る。
やっぱり、蒼い。この洞窟と同化しなくてよかった。
初めての冒険を終えてそう思った。
まっ!