ルークの英雄譚(TOA×聖剣伝説LOM)   作:ニコっとテイルズ

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「奈落一丁目へよ~こそ!
 死んでしまった気分はど~だい? ケヒケヒ……」

 


13.「武器防具作成」と「紅き堕帝」前編

 

 

―――カン! カン!

 

 赤く輝く金属を、ルークはひたすら叩き続ける。

 

―――カン! カン!

 

 溶鉱炉の灼熱の液体が、薄暗い工房を深紅に彩る中、

 

「そうだに! その調子だに! 武器作成はハンマーだに!」

 

 ルークのハンマー捌きを傍らでじっと観察するドワーフのワッツが、欠けている歯を見せつけるように笑顔になる。

 

「後何回だよ?」

「1000000回だに。そうすればりっぱな職人になれるだに!」

「んな打てねーっての! 職人になるわけじゃねーからな!」

「むぅ……アンタは筋がいいから残念だに」

 

 時折額を流れる汗を拭いながら、ハンマーで打ち続けるルークの文句に、ワッツはルークの腰ほどしかない体を少し縮めた。

 

「それで、ホントのところあと何回だよ?」

「……実はあと100も打てばいいだに。そうすればアンタ用の武器が完成するだに」

「……まだ、結構あんのな」

「頑張るだに! アンタ一人だけの武器ができるだに。それまでの辛抱だに!」

「わぁってーるよ……ていっ!」

 

―――カン! カン!

 

 より威勢の良い音を響かせながら、しかし単調な作業にやや飽きつつあるルークは武器を自作するまで至った経緯を思い出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 ルークは、ガトの入り口で重々しく黙したまま瑠璃と別れた後、ボイド警部からもらったアーティファクト『瓶詰の精霊』を使った。

 着地した途端、紫光と紫煙を撒き散らし、辺り一面を覆う。

 怪しい光と霧が晴れた後、打ち捨てられてから長い時間経過し、大木が蔓延るまでになった鉱山が口を開いた。

 これこそが、ワッツと出会うきっかけとなった『ウルカン鉱山』の登場である。

 

 

 さっそくチャボと共に、岩石がゴロゴロ転がっている鉱山内部に潜入した。

 入ってすぐに灯りの燈ったワッツの工房を発見したが、あいにくと留守であった。

 机に置いてあった書置きを見ると、『なくしたハンマーを探すためと鉱石採掘のために鉱山の深くにいるだに』とのこと。

 

 このまま店で待機していても退屈だろうと、ルークとチャボも店のランタンをこっそりと拝借して鉱山を探検することにした。

 崩れ落ちそうな石段に気を付け、今にも朽ち落ちそうな橋にひやひやしながら、ルークたちは地下へ地下へと潜って行った。

 そして、地下深くにたどり着いた時、

 

「プッツィ様!」

 

 巨大なゴリラ男ことコンゴが率いる『穴掘り団』のアジトに着いてしまった。

 コンゴは、仰々しい衣装と装飾を施された二足歩行の犬プッツィに、これまた仰々しいまでの祈りを捧げていた。

 

「ぐま!」

 

 そこに、『穴掘り団』の一員である月夜の町ロアでたくさん出会ったアナグマ達が、アジトに入ってくるルークたちを認めた。

 

「ぐ……ぐま……」

 

 反射的に挨拶を返したルークは、コンゴがプッツィに手を合わせた姿勢のままギロリとこちらを見つめてきたので、この場所に来たことをすでに後悔していた。

 

「おい、オマエ!」

「な、なんだよ?」

 

 野太い声とともに、片足を上げて両腕を震わせるというゴリラそのもの振る舞いをしたコンゴを見て、ルークは、咄嗟に踵を返そうかと思った。

 しかし、

 

「アナグマたちが鉱山内でハンマーを見つけたんでな。 

 すまんが、そいつを持ち主まで届けてはくれんか?」

 

 意外にも丁寧な姿勢で、頼みごとを申し出てきた。

 

「ハンマー? それってあの店のヤツか?」

「おお! 持ち主を知っているのか。それならなおさら都合がいい。

 是非ともお願いしたい」

 

 いつものルークなら、ここで渋るかいったん断るのが常であったが、このゴリラ男の威圧感に気圧される形で、

 

「あ、ああ。わかった……」

 

 押し切られた。

 

 

 

 さらに、鉱山を深く降りて行くと、採石場にてワッツと出会った。

 

「こんなキケンなとこに何しに来ただに。

 ここはいい石が採れるが、コワ~イ魔物も出る。

 さっさと帰れだに!」

 

 いきなり邪険に扱ってきたワッツに顔を顰めながらも、

 

「これ、アンタのハンマーか?」

 

 ルークは無視して先ほど受け取ったハンマーを差し出した。

 

「あっ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 わしのハンマー!!!!!!!!!!!!

 よこすだに!!!!!!!!!!!!!!

 まったく、近ごろの若いモンは人様のモンを勝手に……ブツブツ……」

「ちっげーよ! アナグマたちが拾ったんだっつーの」

 

 そうこう言い争いをしている内に、ワッツの誤解が解け、

 

「さっきの暴言、忘れて欲しいだに~~~!!! 

 嫌いにならないで欲しいだに~」

 

 とワッツが泣きついてきた。

 そして、ハンマーのお礼とお詫びに、マイホームの作成小屋に武具作成室をワッツがつくってくれることになったのである。

 なお、この時も、ワッツは武具作成室をつくった理由を途中で忘れ去り、今度は良い金属で大剣をつくるから許して欲しい、とルークに嘆願したのであった。

 

 

 

 

 

―――カン! カン!

 

「よくやっただに。確かに1000000回はウソだに。

 でも、ワシらは若いころ親方からそう言われて修業しただに。

 これでアンタはすべての武器武具をつくれるようになっただに」

「へ~」

 

 ルークとしては、ワッツの回顧よりも今作り上げた輝く刀身の方に目がいった。

 つい最近ロアで購入したミスリル銀製よりも遥かに刃先が鋭いのが、一目でわかる。

 

 試しに軽く振り回してみる。

 手に馴染む心地よい重み。粘ついた空気を切り裂く鋭い音。

 ルークはニヤリとした。

 自分用の剣が、自分の手で作り上げたものが、今確かにそこにあるのだ。

 

 ルークは、ワッツから借りたタオルで気持ちよく最後の汗をごしごしと拭いた。

 以前にペールが庭仕事を終えた後の汗は気持ちいい、と言っていたのがわかる気がする。

 モノづくりの後の汗は誇らしく、そして充実感で滲まれていた。

 

「さぁ、これでワシは帰るだに。これからも精進するだに」

 

 いろいろあったが、何だかんだワッツを気に入ったルークは作成小屋の外まで彼を見送ることにした。

 

 入口の扉を開け放った瞬間、夕方の涼しい風が吹き込んで来た。

 ルークは、大きく息を吸い込んで、肺一杯に満たす。

 労働の後の空気も非常に快い。

 

「じゃあな」

 

 ルークは、充実感そのままに、小さくなっていくワッツの背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、師匠。そろそろまた賢人を探しに行きたいんだけど」

 

 食卓でルークは、バドとコロナと温かいクリームシチュー(ルークはニンジン抜き)に舌鼓をうっていた時、バドからそう切り出された。

 

「ん? ……そっか。でも、次は、俺一人で行くわ」

 

 ルークは、残されたアーティファクトの不気味さを思い起こしながら首を振る。

 

「え~。師匠前もチャボとだけだったじゃん」

「私としては、バドも連れて行ってくれると助かるんですけど……」

 

 バドとコロナは、じろっとした目で睨むが、こればかりは譲れない。

 

「次は連れってやるよ。だから、今回だけは、な。チャボも置いてくから」

 

 ルークは、シチューを手早く口の中にかきこむ。  

 アーティファクトは、あれしか残っていない。

 非常に嫌な予感がするので、可愛い自分の弟子やペットを連れて行きたくはないのだ。

 

 まずは、師匠として先陣を切り、安全を確かめてから道を示したいのだ。

 

「……わかったよ。今度は頼んだよ、ルーク」

「また、お留守番ですね」

 

 ルークの挙動に、翻意の可能性を感じないことと、一応次に連れて行くことを約したとして、バドは渋々了承する。

 コロナは仕方ないかという溜息をつき、空になったルークのお皿を下げていく。

 体の芯まで温まったルークは、歯磨きをした後、二階の寝室に素早く足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて……とうとうこれを使わなきゃいけねぇとはな)

 

 もはや残されたアーティファクトは、不吉な予感がして一切使ってこなかった銀さじだけである。

 ぎりぎりまで先延ばしにしていたのであるが、これを使わなければ前に進めない。

 いや、どこかの町を探せばまた新たな道が開けるかもしれないが、その不確定さに賭けるよりは、こちらを使った方が良い。必ずしも危険とは限らないのであるから。

 ルークは、そう判断したのであった。

 

 マイホームの外でルークは『震える銀さじ』を手に取る。

 そして、リュオン街道の隣に着地するようにイメージをした。

 

 着陸した途端、銀さじは、名前の通り震えだす。

 ユラユラと妖しく揺れながら4つに分裂しながら、浮上する。

 そして、一瞬のフラッシュバックの後、銀さじが置かれた場所の真上から青い電撃が垂直に叩きつけられた。

 雷が鳴りやんだ後、そこには―――

 

 無秩序に雑草と枯れ木が生い茂る中に、ぽつねんとコウモリの石像を乗せた巨大な墓しかそこには現れなかった。

 そこが『奈落』と呼ばれることを、ルークはまだ知らない。

 

 

 

 

「ふぅ~。さて、忘れ物はねぇよな」

 

 昨日自ら作り上げた『ロリマーブレード』。

 学生の実習で作ったハープとフルート。

 ロアで買ったミスリルの防具。

 そして、ヴァン師匠から教わった剣術。

 

 すべてを確認したルークは、

 

「よし、行くか!」

 

 頬を両手でバシっと叩いて、新たに出現した『奈落』へと一気呵成に向かう。

 

 

 

 

 

 

「……な、なにも出ねぇよな?」

 

 奈落に着いたルークは、まずはコウモリの石像を戴いている巨大な墓の周りを警戒する。

 キョロキョロと。

 また、キョロキョロと。

 ルークは、とりたてて幽霊が怖いわけではないし、また出てきたとしてもモンスターの延長線上で捉えられるが、だからと言ってこの不気味さを帳消しにはできないのである。

 遠くから観察した通り、やはり人の背丈ほどもある雑草と、葉のあった痕跡すら微塵も感じさせない朽ち果てた大木しか残されていない。

 

 何度も入念に見回して、異常がないことを確認した後、ルークは、大きく息を吸い込んで、昨日感じたのとは別の意味で冷たい空気をその身に取り込んだ。

 

「行くぜ!」

 

 一応剣を抜き、引けてしまっている腰を強引に前に突き出しながら、一気にコウモリの台座まで距離を詰める。

 

「……なにもねぇな」

 

 ルークの背丈の5倍はあろうかという墓には、何らかの紋章と風化しきった文字跡しか残されていなかった。

 まじまじと観察しても、埃と雑草に覆われていること以外、何か変わっているという様子もない。

 

「……こりゃ無駄足だったかな?」

 

 乾いた笑みで、ルークは呟く。

 無駄とわかれば、いつもならば不貞腐れるところであるが、今は何事もなくて良かったと心の底から感じる。

 

「……しゃあねえ、な。一旦戻ってドミナの町にでも行くか」

 

 安堵しきって、もとい油断しきって、墓に背を向けた瞬間、

 

『戦士よ、貴様の力を試させてもらおう!』

「へ? ……うぐぁっ!」

 

 ―――ルークは、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 乾き淀んだ空気を吸い込みながら、ルークは目を開く。

 

「目が覚めたか」

「!?」

 

 己を見下ろす見知らぬ赤い獣人の落ち着き払った低い声で、瞬時に微睡みを吹き飛ばされた。

 そして、仰向けの態勢から反射的に後方に跳躍し、剣を左手にかけながら距離を取った。

 

「誰だ、お前は!?」

「俺はラルク。竜帝ティアマット様のドラグーンだ。

 オマエを力ある戦士と見込んで、奈落へと召喚した」

「ティアマット? ドラグーン? 奈落? お前、何言ってんだよ!?」 

 

 ラルクと名乗った獣人の、聞き馴染みのない言葉と不吉な言葉の連続はルークをパニックに陥れる。

 しかし狼の獣人は、首を振った。

 

「……これ以上知りたければ、一緒に下層まで降りてもらおう」

「……ふざんけんなよ! こんなわけ分かんねぇ所に連れ込みやがって! 早くここから帰せよ!」

 

 ラルクの強引な要求に、ルークも当然素直に呑み込むはずもない。

 

「お前が地上に帰りたいというならば、なおさら俺について来ることだな。

 さもなくば、ここにいるシャドールたちのようになるぞ」

「シャドール?」

「奈落の住人さ。あらゆる存在の影だ。こうなったならばお前は永遠に奈落に縛り付けられることになる。

 ……もっとも、その時には、奈落での生活も快適になっているだろうが」

 

 鷹揚とした獣人の声と目からは虚妄を感じない。

 しかし、言っていることは、無慈悲なまでの脅しでしかない。

 ルークは、周りの不吉な赤い滾りを見渡して、しかし確認だけは怠らない。

 

「……お前について行けば帰れるって保証はあるのかよ?」

「お前が強ければな」

 

 端的過ぎるラルクの回答。

 つまり、弱ければ地上に帰れることはないということをルークははっきりと思い知らされる。

 それに気づき、僅かな間絶句したが、しかし地上に帰らないわけにはいかないということを悟り、

 

「………………ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ」

 

 いきり立っていた肩を一旦下げた。

 

「いい名前だ。奈落の入り口の石碑に刻まれないことだな」

「………………」

 

 好奇心は猫を殺すと言うが、奈落に引きずり込まれてからこの諺が身に染みるとは思わなかった。

 奈落の不気味な石碑を調べたのが、これほどまでの悪手だったとは……。

 しかし、まだ帰れないというわけではない。

 その一縷な望みに縋るには、堅固な鎧をまとう獣人について行く他なさそうである。

 

 なので、ルークはひとまず、己の髪の色と似た風貌のラルクに大人しくついて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱い。寒い。眩しい。暗い。

 ルークの奈落での感想は、端的に言ってこれら4つの形容詞に集約された。

 真っ向から反する2組の対義語同士の連なりが、この奈落においては矛盾していないということが最大の問題であった。

 

 随所に地表(と言って良いのかとにかく床)から口開く粘り気の強い溶岩のそばに近寄ると、灼熱が襲い掛かってくる。

 ところが、溶岩からほんの僅かに距離を置いただけで、溶岩が暖房と成り得なくなる。そして、極寒ともいえる冷え込みが肌を引き裂いて来るのだ。

 武器作成室での溶鉱炉の熱気にあてられて正常に暑かったのが、昨日のことなのに懐かしくさえ思える。

 熱さと寒さのギャップの激しい現象に、ルークは、自らの視力と肌の温点に自信が持てなくなった。

 

 溶岩は、紅く(どうにも己の髪の色と一致するのが気に入らないが)、それ自体は煌めき、先の道を照らす松明の役割を果たしていると言えなくもない。

 ただ、どれほどの温度か測るのも愚かしいほどの溶岩から放射される熱線は、槍のように網膜に突き刺さってくる。

 逆に、溶岩が見えなくなると、あっという間に光源がなくなってしまい、冥(くら)い深淵が視界を覆ってしまう。

 一応、そこかしこにある不気味な骸骨の彫刻が持つ瞳が、緑色の光を放ってはいる。

 とはいえ、その昏い照らしぶりは腕時計の夜光塗料にも及ばないのに、禍々しい骸骨の輪郭だけは恩着せがましくルークの目に主張してくるのであった。

 

 奈落とは、地獄とは、『熱い』と『寒い』の両極の間の、『温かい』とか『涼しい』といった中間領域の快感を取り除いた状態のことではないか、とルークは思い始めた。

 さらに、『眩しさ』と『暗さ』の中間点である、常には困ることのない『当然の』視覚の順応すら、代えがたいほどに貴重な感覚であると実感させられる。

 

 おまけに、奈落の、溶岩の粘ついた濁りに濁り切った空気の澱みからは、どこにいても逃れられない。

 喉がカラカラに渇いて仕方ないが、「水などない」とはラルクの弁。

 生命の循環を司る『水』が存在しないということは……この辺りで、ルークは考えるのを止めた。

 

「……早く帰りてぇぜ」

 

 そうポツリと呟いたルークを誰が責められようか。

 武器作成部屋で吹き出た心地好い汗とは正反対のそれを拭い、夕暮れの涼しい風を恋しく思い出す。

 出立前に食べたコロナの温かいクリームシチューも恋しくてたまらない。

 

 ルークは、早く己の正常な感覚を取り戻したくて、トボトボとではあるが、前に進んで行く。

 渇望しつつある正常な世界に戻るには、前に進む他ないのだ。

 

 

 

 

 

「よぉ~、死にたてさん。奈落1丁目へようこそ~」

「ケヒケヒケヒ……そいつには気を付けなよ」

 

 薄紅色と白色、薄青色と白色の縞々模様の2体のシャドールが、ぷかぷか浮かびながら所々でルークを歓迎した。嘲笑かもしれない。

 その声を疎まし気に聞きながらも、しかし過酷とも言って良いこの環境は、彼らにとってはとても快適そうにであった。

 

「……ああなりたくないならば、とっとと下に降りるのだな」

「………………あいつら、狂ってんのか? ここに長く居過ぎて……」

「そうとも言える。住めば都なのさ」

「………………」

 

 人と呼ぶにはあまりにもかけ離れたその姿に、それでも狂喜の中で生きていられる人間の順応力の高さに慄くべきところであろうか?

 あるいは、奈落から出られなくて気が触れてしまった愚か者と嘲り返せばよいのだろうか?

 

 そこまで考えてからルークはかぶりを振った。

 

 とにもかくも、シャドールのようにならないためにも、とっとと前に進もう。 

 あいつらのことを考えていると、自分もシャドールになってしまいそうだから。

 

 

 

 

 

 

 

「奈落を深くまで下って行くには、オールボンから洗礼を受けなければならん。

 アイツは七賢人の一人だ。死者が奈落で暴れ出さないようにするために、ニラミを効かせているわけだな」

「へ~、こんなとこにまで七賢人がいるのかよ」

 

 バドよ。お前に望みを果たすためには、どうやら死ななくてはならないらしい、と家にいる弟子のことをルークは思い出した。

 もっとも、まず自分が生還する必要があるが。

 

「まずは、オールボンの部屋に向かうぞ。ここからすぐだ」

「………………」

 

 先導するラルクに、奈落の雰囲気に呑まれていたルークは出会って以来初めて注意が向いた。

 自信と決意に支えられて醸される声からは、どことなくヴァン師匠を彷彿させるが、やっていることは恐ろしく違う。

 師匠なら、絶対にこんな脅すような真似はしない! と、ルークは紅い狼の尻尾を引きずりながら歩んでいる獣人の背中を、賢人にニラまれる前に睨み付けた。




「速く立派なシャドールになることに専念するだな。ケヒケヒ」

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